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経済データ処理実習 第12講「経済波及効果を調べてみよう(1)」

本日の内容:産業連関表の見方と投入係数の計算


T.産業連関表の見方
U.投入係数行列の計算
V.自給率行列の計算
W.逆行列係数表の計算

さて,ちょっと退屈でややこしい行列の計算練習が終わったので,今回と次回では,いよいよ産業連関表を使った経済波及効果の分析をしてみることにしましょう.
とは言っても,今回はまだ準備段階です.料理に例えれば,調理をする前に食材や調理器具を揃えているところです.(じゃぁ,前回は...包丁やミキサーを使う練習だったってところですかね)


T.産業連関表の見方

まず,私のレポートフォルダから,「産業連関表.xls」を自分のPCにダウンロードして,開いてみてください.食材(?)である産業連関表は,その読み方が分からないと数字がたくさん並んでいる単なる表にしか見えません.そこで,産業連関表を使うに際して最低限必要となる程度の知識を身に付けておきましょう.
(ただし,今回使用する産業連関表は,政府が公表しているものを,余分な項目の削除など私が若干手を加えて見やすくものです)
PCのモニター上では,産業連関表全体を見ようとするとスクロールしなければならず面倒です.見づらいようであれば,授業中に配ったプリントを使ってください.

@ 産業連関表を「タテ」に読んでみると...
産業連関表は,上から下に向かってタテに読んだ場合と,左から右に向かってヨコに読んだ場合とで別々の意味を持ちます.
まず,タテに読んだ場合,各産業が「生産のために何をどれだけ用いたか」ということを意味します.
産業連関表は金額表示なので,より正確には「用いたものにいくら支払ったか」と言えます.
例えば,農林水産業の場合で言えば,金額にして14兆3696億8900万円の生産のために,同じ農林水産業から1兆5584億6900万円分,鉱業から2億900万円分,製造業から2兆4627億4000万円分,....(以下同様)の原材料を仕入れたということが分かります.黄色く表示してある「中間投入」の部分はすべてこの原材料に当たります.
更に下へ降りていくと,水色で表示された「粗付加価値」という項目がありますが,ここは原材料以外の生産要素(例えば労働など)を金額にしていくら分,生産のために用いたかを示しています.


A 産業連関表を「ヨコ」に読んでみると...

次に,産業連関表をヨコに読んだ場合の意味を考えてみましょう.
表の一番右端に「国内生産額」として,表の一番下と同じ数字が並んでいることに着目してください.
ヨコに読んだ場合,各産業の「生産物がどこにどれだけ用いられたか」ということを意味します.
同じく農林水産業の例で見てみると,金額にして14兆3696億8900万円の生産物は,同じ農林水産業に1兆5584億6900万円分,鉱業に5億2300万円分,製造業に8兆4271億7000万円分,....(以下同様),原材料として用いられたことが分かります.黄色の部分,「中間需要」の所は,各産業に原材料として中間的に需要されたことを意味します.
更に右へ読み進めていくとピンク色の「最終需要」という部分がありますが,これは,最終生産物としてどのように需要されたかを示します.


B 国民経済計算との関連
最後に,マクロ経済学の授業に登場する国民経済計算との関連を見ておきましょう.
国民経済計算に出てくるGDP(国内総生産)とは,「付加価値の合計」でした.そして,国民経済計算においては,「国内総生産=国内総所得=国内総支出」という三面等価が成り立っていることを学習しましたね.この関係が産業連関表にも表れています.(ただし,計算方法が違うので,産業連関表に出てくる数字と国民経済計算の数字とは一致していません)



U.投入係数行列の計算

以降,経済波及効果を見るための準備をしていきます.
最初に求めておくのは投入係数です.投入係数は以下のように定義されます.

ここで,は産業jの生産額を示します.は産業jの生産のためにi産業から仕入れた中間投入物を示します.したがって,投入係数は,「産業jの生産物1単位を生産するのに必要な産業iの生産物の投入量」を意味します.

農林水産業−農林水産業の投入係数を求めましょう.
(1)Sheetタブで「投入係数行列」を選び,農林水産業(行)−農林水産業(列)のセルに「=」を入力します.

(2)Sheetタブで「産業連関表」に戻り,分子である農林水産業の中間投入額1558469を選択したあと「/」を入力.

(3)次に分母となる国内生産額14369689を選択し,後でオートフィル機能を使うことを踏まえて絶対参照を設定しておきます.

最後にEnterキーを押して計算された投入係数は,0.108455と出てきますね.
つまり,これは「農林水産業では10億円の生産のために同じ農林水産業から約1億円分の中間投入物を仕入れている」ことを意味しています.

1つのセルでの計算ができたら,あとはオートフィル機能を使って他の総ての産業の投入係数を計算し,投入係数行列を完成させましょう.



V.自給率行列の計算

この行列の計算は,既に求めてある単位行列と輸入係数行列を使います.
ここで,輸入係数の直感的な意味は,「ある産業についての需要に占める輸入財の割合」です.例えば,農林水産業であれば,同じ農林水産業から1兆5584億6900万円分の原材料を仕入れているわけですが,正確には「その一定割合は,海外の農林水産物である」と考えられます.この「一定割合」が輸入係数なわけです.

(自給率行列)=(単位行列)‐(輸入係数行列)

で求めます.計算の仕方は,前回の行列の引き算を参照してください.



W.逆行列係数表の計算

最後に,上で求めた投入係数行列と自給率行列を使って,逆行列係数表を求めます.
逆行列係数表は以下のようにして求められます.

ここで,は先に求めた投入係数行列です.計算の仕方は,
@投入係数行列と自給率行列の掛け算
A上の掛け算によって計算された行列と単位行列を使って行列の引き算
B上の引き算によって計算された行列の逆行列を計算

という3つのステップを踏まなければなりません.@,Bについては,前回の行列の積および逆行列の計算を参照してください.

この逆行列は,2次以降の経済波及効果を示しています.例えば,下図を使って,「民間消費が増加して農林水産業の生産物の需要が1兆円増えた」と想定すると,原材料調達という2次以降の波及効果によって,同じ農林水産業の生産を約1.1兆円,鉱業の生産を約11億円,製造業の生産を約3000億円,...(以下同様)誘発する,というように解釈できます.



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