公衆浴場法合憲旧判決
控訴審判決

公衆浴場法違反被告事件
福岡高等裁判所 昭28(う)第1782号
昭和28年9月29日 第2刑事部 判決

被告人 甲野一郎(仮名)

■ 主 文
■ 理 由


 本件控訴を棄却する。


 弁護人諫山博の控訴趣意は同弁護人提出の控訴趣意書記載のとおりであるからこれを引用する。
[1] 公衆浴場法第2条は、第1項で業として公衆浴場を経営しようとする者は都道府県知事の許可を受けなければならない。第2項で知事はその設置場所若しくはその構造設備が公衆衛生上不適当であると認めるとき又はその設置の場所が配置の適正を欠くと認めるときは前項の許可を与えないことができる。第3項で前項の設置の場所の配置の基準については都道府県知事が条例で定める等規定している。弁護人は、右第2条特にその第2項後段の部分は憲法第22条違反(福岡県条例のことについては第2点で述べる)だと主張する。
[2] 憲法第22条は職業選択の自由を認めている。然しその自由も公共の福祉に反しない限りにおいて保障されていることは同条の明示するところである。公衆浴場法第2条第1項で公衆浴場業が許可を得てのみなし得ると定めている職業選択についての制限は、衛生等の警察的立場による政策的考慮からなされたものと解すべきであり、その限りにおいては、同法条は憲法第22条に違反するものではない。
[3] 問題は同浴場法第2条第2項後段である。然し公衆浴場の偏在を避け、配置の適正をはかることによつて、出き得る限り多数の者に浴場を利用させる便宜を与えるとともに、その経営を健全ならしめ、ひいては、衛生的設備を充実せしめることは公衆衛生上きわめて必要であり、その濫立に委すときは多くはその経営に経済的行詰りを来たし、ために浴場の衛生的設備なども低下し、不衛生になるのは、健全なる社会常識上考えられるところである。それ等の意味からして、公衆浴場の設置の場所の適正をはかることは、公共の福祉に副うものというべきである。論旨は採用し難い。
[4] 公衆浴場法第2条に規定する基準条例である本件福岡県条例第54号が、公共の福祉に反しないのに職業選択の自由を不当に制限しているとの第一点の論旨を援用しての(一)の主張に対しては、右第一点についての説明をここに援用する。所論(二)について説明しよう。公衆浴場法第2条第1項で、その職業を許可制とし、第2項でその許可を与えないことができる場合を規定していることは前記の通りである。福岡県条例第3条第1項は公衆浴場の設置の場所の配置の基準は、既に許可を受けた公衆浴場から、市部にあつては250米以上、郡部にあつては300米以上の距離とすると、浴場の配置基準を規定しており、第5条第1項で知事は、地形又は人口密度その他特別の事情があると認めるときは、前2条の基準によらないで営業の詐可ができると定めている。即ち右条例は、公衆浴場法の委任に基いて配置の適正による許可基準を一応定め、この基準に及ばない場合でも、右のような特別の事情があると認めるときは、更に許可ができるとの特別許可の基準を示している。而して浴場の配置の適正を欠くときは、許可を与えないことができるとの公衆浴場法第2条の規定が憲法違反でないことは第一点説明の通りであり、従つてその委任に基く右のような配置基準を定めた本条例が所論のように憲法違反になるとはいえない。所論(三)は、右説明の通り、右県条例が基本法たる公衆浴場法の委任範囲を逸脱しているものでないから、右県条例が所論のように無効とはいえない。
[5] 仮に公衆浴場法第2条第2項後段及び福岡県条例第3条が、憲法に違反して無効であるとしても、公衆浴場業が都道府県知事の許可を受けない限りこれを経営することができないことは、第一点説明の通り、動かすことの能わないところである。従つて被告人に本件公衆浴場経営を許可しなかつた行政処分が違憲違法で無効であるとしても、それがために、被告人が福岡県知事の許可を受けないまま本件公衆浴場を経営した刑責は、到底免れることができない。論旨はいずれにしても理由がない。
[6] 仍て刑事訴訟法第396条によつて主文の通り判決する。

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