公衆浴場法合憲旧判決
第一審判決

公衆浴場法違反被告事件
福岡地方裁判所吉井支部
昭和28年6月1日 判決

被告人 甲野一郎(仮名)

■ 主 文
■ 理 由

■ 参照条文


 被告人を罰金5000円に処する。
 右罰金を完納することのできないときは金50円を1日に換算した期間被告人を労役場に留置する。
 訴訟費用は被告人の負担とする。


[1] 被告人は、福岡県知事の認可を受けず、昭和27年1月8日から同年3月16日迄の間、前後16回に亘り、其の肩書住所に自ら設備した浴場において、大人1人金8円小人1人金5円の料金で、乙山花子外一般公衆を入浴させて、計金24,633円を徴収し、以て公衆浴場を経営したものである。

(証拠説明省略)

[2] 依て公衆浴場法第2条第1項第8条第1号、罰金等臨時措置法第2条第1項、刑法第18条、刑事訴訟法第181条第1項を適用し主文の通り判決する。

[3] 弁護人諫山博は、本件公訴の根拠となつた公衆浴場法第2条並びに福岡県条例第54号第3条は、憲法第22条の職業選択自由の規定に反し無効である。故に起訴状記載の事実が真実であつても、何らの罪となるべき事実を包含していないので、刑事訴訟法第339条第1項第1号により公訴棄却の決定あるべく、又被告事件が罪とならないときに該当するので、被告人は無罪である旨主張するけれども、憲法第22条は、国民の権利として職業選択の自由を「公共の福祉」の要請がある限り制限されうることを認めている。従つて公衆浴場法が許可主義をとり、無許可営業を処罰することが「公共の福祉」を維持するために必要であるならば、その制限は何等憲法第22条に違反するものではない。而して公衆浴場法第2条第2項に謂ゆる「公衆浴場の設置場所若しくは其の構造設備が公衆衛生上不適当である」こと、又は「其の設置の場所が配置の適正を欠く」ことは、憲法第22条に謂ゆる「公共の福祉」に反するものと認めるのが相当である。故に公衆浴場法第2条は憲法第22条に違反するものと云うことはできない。然らば被告人が公衆浴場法第2条第1項の許可を得ず公衆浴場を経営した以上、当然同法違反の犯罪を構成するものと謂わねばならない。尚前示福岡県条例は同法第2条第3項に基き公衆浴場設置の場所の配置の基準を定めたもので、此の規定も亦「公共の福祉」を維持するのに必要なものであり、憲法に反するものとは云えないのである。叙上の理由により弁護人の主張は何れも採用しない。
第2条 業として公衆浴場を経営しようとする者は、政令の定める手数料を納めて、都道府県知事の許可を受けなければならない。
 都道府県知事は、公衆浴場の設置の場所若しくはその構造設備が、公衆衛生上不適当であると認めるとき又はその設置の場所が配置の適正を欠くと認めるときは、前項の許可を与えないことができる。但し、この場合においては、都道府県知事は、理由を附した書面をもつて、その旨を通知しなければならない。
 前項の設置の場所の配置の基準については、都道府県が条例で、これを定める。
第1条 公衆浴場法第2条並びに第3条の規定に基き、公衆浴場の設置の場所、衛生及び風紀の措置については、他の法令に特別の定めあるものを除く外、この条例の定めるところによる。
第2条 この条例の施行に関し知事の諮問に応ずるため、県に福岡県公衆浴場設置審議会(以下審議会という。)を置く。
 審議会に関し必要な事項は知事が別に定める。
第3条 公衆浴場の設置の場所の配置の基準は、既に許可を受けた公衆浴場から市部にあつては250米以上、郡部にあつては300米以上の距離とする。
 前項の距離は、直線とし、公衆浴場家屋相互間の最短距離とする。
第4条 公衆浴場の構造、設備の基準は、次のとおりとする。
 一 出入口は男女別に区画し、これを表示すること。
 二 浴室及び脱衣室は、外部から見透されないような構造とすること。
 三 浴室及び脱衣室は、男女別に設け、その境界には、高さ2メートル以上の壁をもつて相互に見透されないような構造とすること。
 四 浴室及び脱衣室は、有効床面積の5分の1以上の採光、換気用の窓又は、これに代る採光面を有すること。
 五 番台は、男女出入口の中間に設け、男女各室とも監視できる位置とすること。
 六 各脱衣室の広さは、20.6平方メートル以上、天井の高さは3メートル以上とすること。
 七乃至十四(省略)
第5条 知事は地形、人口密度、その他特別の事情があると認めるときは、前2条の基準によらないで営業の許可を与えることができる。
 前項の許可を与えるに当つては、審議会に諮問し、その意見を徴しなければならない。

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