NHK受信料訴訟
控訴審判決

受信契約締結承諾等請求控訴事件
東京高等裁判所 平成25年(ネ)第6245号
平成26年4月23日 第11民事部 判決

口頭弁論終結日 平成26年3月3日

控訴人兼被控訴人 日本放送協会(以下「第1審原告」という。)
代表者会長 A
訴訟代理人弁護士 永野剛志
       同 中村繁史
       同 上村剛
       同 梅田康宏
       同 秀桜子
被控訴人兼控訴人 B(以下「第1審被告」という。)
訴訟代理人弁護士 高池勝彦
       同 尾崎幸廣
       同 荒木田修
       同 山口達視

■ 主 文
■ 事 実 及び 理 由


1 第1審原告の控訴及び当審における請求の拡張に基づき,原判決主文第1項ないし第3項を次のとおり変更する。
(1) 第1審原告の主位的請求(当審における拡張請求を含む。)及び予備的請求1(当審における拡張請求を含む。)をいずれも棄却する。
(2) 第1審被告は,第1審原告に対し,第1審被告肩書住所地に所在する第1審被告住居に設置した受信設備について,放送受信契約者を第1審被告,契約種別を衛星契約とする放送受信契約の申込みを承諾せよ。
(3) 第1審被告は,第1審原告に対し,21万5640円を支払え。
2 第1審被告の控訴を棄却する。
3 訴訟費用は,第1,2審を通じて,第1審被告の負担とする。

1 第1審原告
 原判決を次のとおり変更する。
(1) (主位的請求,予備的請求1及び予備的請求3)
ア 第1審被告は,第1審原告に対し,21万5640円を支払え(当審における拡張請求を含む。)。
イ 訴訟費用は,第1,2審とも,第1審被告の負担とする。
(2) (予備的請求2)
ア 第1審被告は,第1審原告に対し,第1審被告肩書住所地に所在する第1審被告住居に設置した受信設備について,放送受信契約者を第1審被告,契約種別を衛星契約とする放送受信契約の申込みを承諾せよ。
イ 第1審被告は,第1審原告に対し,21万5640円を支払え(当審における拡張請求を含む。)。
ウ 訴訟費用は,第1,2審とも,第1審被告の負担とする。

2 第1審被告
(1) 原判決中,第1審被告の敗訴部分を取り消す。
(2) 前項の取消しに係る第1審原告の請求をいずれも棄却する。
(3) 第1審原告の予備的請求3を棄却する。
(4) 第1審原告の当審における拡張請求を棄却する。
(5) 訴訟費用は,第1,2審を通じて,第1審原告の負担とする。
[1] 本件は,放送法に基づいて設立された法人である第1審原告が,第1審被告に対し,第1審被告が第1審原告のテレビジョン放送を受信することのできる受信設備(以下「受信機」という。)を設置したにもかかわらず日本放送協会放送受信規約を内容とする放送受信契約を締結せず放送受信料を支払わないと主張して,放送法64条1項(平成22年法律第65号による改正前の放送法32条1項。以下では,同改正後の条文のみを挙げる。)等に基づき,主位的には,第1審原告からの放送受信契約締結の申込みが第1審被告に到達した時点で放送受信契約が成立したと主張して,同契約に基づき受信機を設置した日の属する月の翌月である平成18年4月分から平成26年1月分までの未払受信料合計21万5640円の支払を求め(主位的請求),予備的には,同契約が成立していないことを前提に,第1審被告が放送受信契約締結義務の履行を遅滞していると主張して,債務不履行に基づく損害賠償として上記未払受信料相当額21万5640円の支払を求め(予備的請求1),第1審被告には第1審原告からの放送受信契約締結の申込みに対してこれを承諾する意思表示をする義務があると主張して,この承諾の意思表示を求めるとともに,これによって成立する放送受信契約に基づく上記未払受信料合計21万5640円の支払を求め(予備的請求2),第1審被告が法律上の原因なく受信料相当額を利得していると主張して,不当利得に基づく利得金として上記未払受信料相当額21万5640円の支払を求める(予備的請求3)事案である。第1審原告は,上記の主位的請求及び予備的請求1から3の順序で判断することを求めている。
[2] なお,第1審原告は,原審においては,第1審被告が受信機を設置した日の属する月である平成18年3月分から平成25年5月分までの未払受信料合計20万0220円又は未払受信料相当額20万0220円の支払等を求めていたが,当審においては,第1審被告が受信機を設置した日の属する月の翌月である平成18年4月分から平成26年1月分までの未払受信料合計21万5640円又は未払受信料相当額21万5640円の支払等を求めるとの請求に変更した。

[3] 原判決は,第1審原告の主位的請求及び予備的請求1をいずれも棄却し,予備的請求2を認容したところ,第1審原告及び第1審被告の双方がこれを不服として控訴するとともに,第1審原告が当審において前記1のとおり請求を変更した。

[4] 前提事実,争点及びこれに関する当事者双方の主張は,次の4のとおり原判決を補正し,次の5のとおり第1審被告が当審において敷衍又は追加した主張を付け加え,次の6のとおり第1審原告が当審において敷衍又は追加した主張を付け加えるほか,原判決「事実及び理由」中の第2の1及び2に記載のとおりであるから,これを引用する。
[5](1) 5頁19行目の「よって」から6頁1行目の末尾までを次のとおり改める。
「よって、第1審原告は,第1審被告に対し,以下のとおり,放送受信契約に基づき,本件衛星受信機を設置した日の属する月の翌月である平成18年4月分から平成26年1月分までの受信料計21万5640円の支払を求める。
 a 平成18年4月分から平成20年9月分まで
   2340円×30か月=7万0200円
 b 平成20年10月分から平成24年9月分まで
   2290円×48か月=10万9920円
 c 平成24年10月分から平成26年1月分まで
   2220円×16か月=3万5520円」
[6](2) 6頁17行目から18行目にかけての「平成18年3月分から平成25年5月分までの受信料相当額計20万0220円」を「平成18年4月分から平成26年1月分までの受信料相当額計21万5640円」に改め,23行目の「20万0220円」を「21万5640円」に改める。

[7](3) 7頁10行目,14行目及び19行目から20行目にかけての各「20万0220円」をいずれも「21万5640円」に改める。

[8](4) 7頁22行目の「訓示規定であり」の次に「,第1審被告は私法上の放送受信契約締結義務を負うものではなく」を加える。
(1) 請求可能な受信料債権の範囲について
[9] 仮に,第1審被告に対して放送受信契約締結の申込みに対する承諾の意思表示を命ずる判決が確定することによって,放送受信契約が成立するとしても,第1審原告は,この契約成立以降の受信料の支払を求めることができるに過ぎない。

(2) 受信料債権の消滅時効について
[10] そうでないとしても,受信料債権は,民法169条所定の債権に当たるから,消滅時効期間は5年である。そして,平成18年4月分から10月分までの受信料債権は,平成23年11月16日の本訴提起までに5年が経過している。
[11] 第1審被告は,本訴請求に係る第1審原告の第1審被告に対する受信料債権につき,原審の平成24年7月5日の本件口頭弁論期日において上記消滅時効を援用するとの意思表示をしたところであるが,あらためて,当審の平成26年1月29日の本件口頭弁論期日において上記消滅時効を援用するとの意思表示をした。

(3) 放送法64条の憲法適合性について
[12] 第1審原告は,公共的放送に従事するとはいえ,受信機設置者とは権力関係になく,法的に対等であるにもかかわらず,第1審原告のために便宜を図った放送法によって国民が受信料の負担という不利益を被ることは,憲法14条(平等原則)に違反する。
[13] その他,放送法64条は,財産権の保障(憲法29条ないし31条,84条),知る権利(憲法13条),実質上の課税に係る立法権(憲法前文,13条,14条,29条ないし31条,41条,65条,73条,84条)を不当に侵害するものであって,憲法に違反する。
[14] 第1審被告の受信料債権(主位的請求及び予備的請求2の関連)についての消滅時効の主張は,以下の理由により失当である。

[15](1) 受信料の公平負担の必要性や民法169条の立法趣旨等に鑑みれば,受信料債権には同条は適用されないから,消滅時効期間は10年である。

[16](2) 第1審原告は,放送受信契約成立前に受信料債権を行使することはできないのであるから,受信料債権の消滅時効の起算点は,放送受信契約の成立時である。

[17](3) そうでないとしても,受信料債権の消滅時効は,第1審原告から第1審被告に対する本件通知の到達(平成23年9月21日)及びそれから6か月以内の本訴提起(同年11月16日)によって中断している。
[18] 当裁判所も,第1審原告の主位的請求(当審における拡張請求を含む。以下同じ。)及び予備的請求1(当審における拡張請求を含む。以下同じ。)はいずれも理由がなく,予備的請求2(当審における拡張請求を含む。以下同じ。)は理由があるものと判断する。その理由は,次の2のとおり原判決を補正するほか,原判決「事実及び理由」中の第3の1ないし3に記載のとおりであるから,これを引用する。
[19](1) 13頁11行目の「設けられている(64条1項)」を「設けられ(64条1項),第1審原告が放送受信契約を締結した受信者から受信料を徴収することを予定した規定を置いている(同条2項)」に改める。

[20](2) 14頁1行目から2行目にかけての「総務大臣は,これについて意見を付して内閣を経て国会に提出し,毎事業年度の収支予算,事業計画及び資金計画については」を「毎事業年度の収支予算,事業計画及び資金計画については,総務大臣が意見を付して内閣を経て国会に提出し,」に改め,5行目の「国会の報告事項」を「国会への報告事項」に改める。

[21](3) 14頁18行目の「方法」を「放送」に改める。

[22](4) 15頁2行目から3行目にかけての「仕組みが採用されていないことからすれば」を「仕組みは採用されなかった。したがって,受信機設置者間の公平や画一的処理の要請等を考慮しても,立法の経緯や条文の文言に照らすと」に改める。

[23](5) 15頁25行目の冒頭から16頁2行目の「しかし」までを次のとおり改める。
 しかしながら,放送法64条1項や規約3条の趣旨を考慮しても,(第1審原告からの契約締結の申込みがなくても)受信機設置後一定期間の経過により当然に放送受信契約締結義務の履行期限が到来するとまでは解されないから,第1審原告の予備的請求1は,この点において理由がないというべきである。また」
[24](6) 19頁25行目の「(漁業協同組合」から20頁21行目の「いえない」までを削る。

[25](7) 22頁16行目の「本件衛星受信機」から24行目の末尾までを「少なくとも本件衛星受信機を設置した日の属する月の翌月である平成18年4月分以降の受信料支払債務が具体的に発生したことになる。」に改め,さらに行を改めて次のとおり加える。
キ 受信料債権の消滅時効について
(ア) 第1審被告は,受信料債権は民法169条所定の債権に当たるから消滅時効期間は5年であると主張して,消滅時効を援用するのに対し,第1審原告は,[1]受信料債権には民法169条は適用されないから消滅時効期間は10年である,[2]第1審原告は放送受信契約成立前に受信料債権を行使することはできないのであるから,受信料債権の消滅時効の起算点は放送受信契約の成立時である,[3]受信料債権の消滅時効は第1審原告から第1審被告に対する本件通知の到達(平成23年9月21日)及びそれから6か月以内の本訴提起(同11月16日)によって中断していると主張する。
(イ) そこで検討するに,受信料債権は,放送受信契約という基本契約に基づいて発生する支分権であり,規約のとおり,月額が定められ,2か月ごとに支払期が到来するものと定められた金銭債権であるから,民法169条所定の定期給付債権に該当し,その消滅時効期間は5年と解するのが相当である。第1審原告は,受信料の公平負担の必要性や民法169条の立法趣旨等に鑑みれば受信料債権に同条は適用されないと主張するが,採用できない。
(ウ) しかしながら,消滅時効は「権利を行使することができる時」から進行するところ,第1審原告と第1審被告との間で放送受信契約が成立してこの契約に基づく受信料支払債務が具体的に発生するのは本判決の確定の日であるから,第1審原告の第1審被告に対する受信料債権の消滅時効も,この日から進行を開始するものと解するのが相当である。
(エ) そうすると,第1審原告の第1審被告に対する受信料債権の消滅時効期間が満了していないことは明らかであって,第1審被告の消滅時効の主張は理由がない。」
[26](8) 24頁20行目の「制限を定めたものであって」の次に「,契約の自由を違法に制限するものとはいえないし」を加え,26行目の「経済的負担を課すものにすぎず」の次に「,それ以上に,第1審原告の放送の視聴を強制したり」を加える。

[27](9) 25頁23行目の末尾に行を改めて次のとおり加える。
「また,第1審被告は,当審において,第1審原告が公共的放送に従事するとはいえ受信機設置者とは権力関係になく法的に対等であるにもかかわらず,第1審原告のために便宜を図った放送法によって国民が受信料の負担という不利益を被ることは,憲法14条(平等原則)に違反すると主張する。
 しかしながら,第1審原告は,全国に放送局を設置し,全国民にその要望を満たすことができる放送番組を放送する公共的な企業体として放送法に基づいて設立された法人であり,第1審原告と第1審被告はそのような公共放送を行う者の立場と受信機を設置した者の立場にあるから,その限度において対等な立場に立つとはいえない。そして,放送法64条が,受信機を設置した者に対して第1審原告との放送受信契約の締結及び受信料の支払を義務付けることは,放送法の定める目的を実現するための合理的な方法というべきであるから,憲法14条の趣旨に反するものではない。」
[28](10) 26頁7行目の「受信機設置者」の前に「放送法64条1項が公共の福祉に適合する制限を定めたものであって憲法29条に違反するものではないことは,前記(1)のとおりである。また,」を加える。

[29](11) 27頁3行目の末尾に行を改めて次のとおり加える。
(6) その他,第1審被告は,放送法64条が財産権の保障(憲法29条ないし31条,84条),知る権利(憲法13条),実質上の課税に係る立法権(憲法前文,13条,14条,29条ないし31条,41条,65条,73条,84条)を不当に侵害するものであって憲法に違反する旨縷々主張するが,いずれも採用できない。」
[30] 以上によれば,第1審原告の主位的請求及び予備的請求1はいずれも理由がないから棄却し,予備的請求2は理由があるから認容すべきところ,これと一部異なる原判決を本判決のとおり変更し,第1審被告の控訴を棄却し,訴訟費用の負担につき民事訴訟法67条2項,61条を適用して,主文のとおり判決する。

  東京高等裁判所第11民事部
  裁判長裁判官 瀧澤泉  裁判官 寺本昌広
  裁判官梶智紀は,転補につき,署名押印することができない。
    裁判長裁判官 瀧澤泉

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