NHK受信料訴訟
第一審判決

受信契約締結承諾等請求事件
東京地方裁判所 平成24年(ワ)第3922号
平成25年10月10日 民事第44部 判決

口頭弁論終結日 平成25年7月4日

原告 日本放送協会
同代表者会長 A
同訴訟代理人弁護士 永野剛志
        同 中村繁史
        同 上村剛
        同 高木志伸
        同 梅田康宏
        同 秀桜子
被告 B
同訴訟代理人弁護士 高池勝彦
        同 尾崎幸廣
        同 荒木田修
        同 勝俣幸洋
        同 溝呂木雄浩
        同 山口達視

■ 主 文
■ 事 実 及び 理 由


1 原告の主位的請求及び予備的請求1をいずれも棄却する。
2 被告は,原告に対し,被告肩書き住所地に所在する被告住居に設置した受信設備について,放送受信契約者を被告,契約種別を衛星契約とする放送受信契約の申込みを承諾せよ。
3 被告は,原告に対し,20万0220円を支払え。
4 訴訟費用は,被告の負担とする。

1 主位的請求,予備的請求1及び予備的請求3
(1) 被告は,原告に対し,20万0220円を支払え。
(2) 訴訟費用は,被告の負担とする。
2 予備的請求2
 主文第2項ないし第4項と同旨
[1] 本件は,原告が,原告のテレビジョン放送を受信することのできる受信設備(以下「受信機」という。)を設置したが,放送受信契約を締結しない被告に対し,主位的には,放送法64条1項(平成22年法律第65号による改正前の放送法32条1項。以下では,同改正後の条文のみを挙げる。)等によって原告と被告との間で放送受信契約が成立していると主張して,放送受信契約に基づき,上記受信機を設置した月から現在までの受信料の支払を求め(主位的請求),予備的には,上記放送受信契約が成立していないことを前提として,被告は放送受信契約締結義務の履行を遅滞していると主張して,債務不履行に基づく損害賠償として上記受信料相当額の支払を求め(予備的請求1),被告は放送受信契約締結義務を負うと主張して,原告からの上記申込みに対する承諾の意思表示と,上記申込み及び承諾の意思表示によって成立する放送受信契約に基づき,上記受信料の支払を求め(予備的請求2),被告は上記受信料相当額を不当に利得していると主張して,不当利得に基づく利得金として上記受信料相当額の返還を求める(予備的請求3)事案である(原告は,主位的請求,予備的請求1から3の順番で判断することを求めている。)。
[2](1) 原告は,放送法に基づいて設立された法人である。

[3](2) 被告は,平成18年3月22日から現在まで,衛星系によるテレビジョン放送を受信することのできるカラーテレビジョン受信機(以下「本件衛星受信機」という。)を被告肩書き住所地に所在する被告住居に設置している。

[4](3) 原告は,被告に対し,放送法64条1項に基づき放送受信契約(衛星契約)の締結を申し込む旨の通知書(以下「本件通知」という。)を送付し,本件通知は平成23年9月21日に被告に到達した。(甲4の1・2)

[5](4) 原告が定め,放送法64条3項に基づき総務大臣の認可を受けた放送受信規約(以下「規約」という。)の内容は,要旨以下のとおりである。(甲1,6の1ないし3,甲25ないし29)
ア 第1条(放送受信契約の種別)
(ア) 平成17年4月1日から平成19年9月30日まで
 受信機のうち,衛星系によるテレビジョン放送を受信できるカラーテレビジョン受信機を設置した者は衛星カラー契約(衛星系及び地上系によるテレビジョン放送のカラー受信を含む放送受信契約)を締結しなければならない。
(イ) 平成19年10月1日から現在まで
 受信機のうち,衛星系によるテレビジョン放送を受信できるテレビジョン受信機を設置した者は衛星契約(衛星系及び地上系によるテレビジョン放送の受信についての放送受信契約)を締結しなければならない。
イ 第2条(放送受信契約の単位)
 放送受信契約は,世帯ごとに行なうものとする。ただし,同一の世帯に属する2以上の住居に設置する受信機については,その受信機を設置する住居ごととする。
ウ 第3条(放送受信契約書の提出)
 受信機を設置した者は,遅滞なく,その氏名及び住所,受信機の設置の日等を記載した放送受信契約書を原告の放送局に提出しなければならない。
エ 第4条(放送受信契約の成立)
 放送受信契約は,受信機の設置の日に成立するものとする。
オ 第5条(放送受信料支払の義務)
 放送受信契約者は,受信機の設置の月から,1の放送受信契約につき,以下の額の放送受信料(消費税及び地方消費税を含む。)を支払わなければならない。
(ア) 平成17年4月1日から平成19年9月30日まで
 衛星カラー契約については,訪問集金(口座振替等以外の方法による支払)では月額2340円。
(イ) 平成19年10月1日から平成20年9月30日まで
 衛星契約については,訪問集金(口座振替等以外の方法による支払)では月額2340円。
(ウ) 平成20年10月1日から平成24年9月30日まで
 衛星契約については,月額2290円。
(エ) 平成24年10月1日から現在まで
 衛星契約については,継続振込その他の方法による支払(口座振替又はクレジットカード等継続払を除く。)では月額2220円。
カ 第6条(放送受信料の支払方法)
 放送受信料の支払は,次の各期に,当該期分を一括して行なわなければならない。
 第1期 (4月及び5月)
 第2期 (6月及び7月)
 第3期 (8月及び9月)
 第4期 (10月及び11月)
 第5期 (12月及び1月)
 第6期 (2月及び3月)
(原告の主張)
ア 主位的請求
[6](ア) 受信機を設置した者(以下「受信機設置者」という。)は,放送法64条1項に基づき放送受信契約を締結する義務を負うのであり,原告による放送受信契約締結の申込みを拒絶することは許容されていないから,受信機設置者が放送受信契約締結の申込みを承諾せず,又はこれを拒絶したからといって,放送受信契約の成立を否定すべき理由はなく,原告による放送受信契約締結の申込みが受信機設置者に到達した時点で,放送受信契約が成立したものと解すべきである。
[7] したがって,本件通知が被告に到達した平成23年9月21日に,原告と被告との間で,契約種別を衛星契約とする,規約に規定された内容の放送受信契約が成立したというべきである。
[8](イ) 放送法施行規則及び規約では,公平の観点から,放送受信契約者は,受信機を設置した日の属する月から受信料の支払義務を負うものと規定されている。
[9](ウ) よって,原告は,被告に対し,以下のとおり,放送受信契約に基づき,本件衛星受信機を設置した日の属する月である平成18年3月分から平成25年5月分までの受信料計20万0220円の支払を求める。
 a 平成18年3月分から平成20年9月分まで
   2340円×31か月=7万2540円
 b 平成20年10月分から平成24年9月分まで
   2290円×48か月=10万9920円
 c 平成24年10月分から平成25年5月分まで
   2220円×8か月=1万7760円
イ 予備的請求1
[10] 受信機設置者は,放送法64条1項に基づき,放送受信契約を締結する義務を負う。放送法64条1項は,受信料の公平負担を担保する趣旨から,原告の放送を現実に視聴したか否かを問わず,受信機設置者に対して放送受信契約の締結義務を課したものであり,これが法的義務であることは,上記趣旨,放送法64条1項の文言及び立法経緯に照らして明らかであるし,放送受信契約の内容については,適正な手続を経て制定されることにより合理性が担保されている。
[11] そして,規約3条において,受信機設置者は「遅滞なく」放送受信契約書を原告に提出すべきことを定めていること及び放送法64条1項の文言からすれば,受信機設置後,放送受信契約書の提出に必要な合理的期間(受信料の支払方法の検討や契約書作成に要する時間を考慮しても,7日間を超えるものではない。)が経過した時点で,放送受信契約締結義務の履行期限が到来すると解すべきであり,被告の上記義務の履行期限は遅くとも平成18年3月29日には到来しているから,被告の債務不履行(履行遅滞)により,原告は平成18年3月分から平成25年5月分までの受信料相当額計20万0220円(前記ア(ウ))を受領することができないという損害を被った。受信料の公平負担の見地からは,かかる放送法64条1項に違反する状態に対する制裁として,当該違反期間に係る受信料相当額が損害として認められるべきである。
[12] よって,原告は,被告に対し,上記債務不履行に基づく損害賠償として20万0220円の支払を求める。
ウ 予備的請求2
[13](ア) 受信機設置者は,放送法64条1項に基づき,放送受信契約を締結する義務を負うから,被告は,本件通知が到達した平成23年9月21日以降,本件衛星受信機について,契約種別を衛星契約とする放送受信契約締結の申込みを承諾する義務を負っている。
[14](イ) 規約上,放送受信契約者は,受信機を設置した日の属する月から受信料の支払義務を負うから,被告に対して上記放送受信契約の締結の承諾を命じる判決が確定し,これによって放送受信契約が成立した場合,被告は,原告に対し,前記ア(ウ)の受信料の支払義務を負う。
[15](ウ) よって,原告は,被告に対し,放送法64条1項に基づき,上記放送受信契約の締結の申込みを承諾することを求めるとともに,本件通知による申込み及び上記承諾によって成立する放送受信契約に基づき,受信料計20万0220円の支払を求める。
エ 予備的請求3
[16] 被告は,本件衛星受信機を設置したにもかかわらず,放送受信契約を締結せずに放置したことにより,受信料の支払を免れたという「利益」(前記ア(ウ)の放送受信料相当額計20万0220円)を得ており,他方,原告は同額の受信料の支払を受けることができないという「損失」を被った。被告は放送法64条1項に違反して放送受信契約を締結せず,不当に受信料の支払義務を免れたのであって,被告の「利益」に「法律上の原因」がないことは明白である。
[17] よって,原告は,被告に対し,不当利得に基づく利得金として20万0220円の返還を求める。

(被告の主張)
[18] 放送法64条1項は訓示規定であり,原告と被告との間では放送受信契約は成立しておらず,受信料,損害賠償及び不当利得のいずれの請求についても理由はない。
ア 主位的請求
[19] 放送受信契約は申込みと承諾によって成立するのであって,被告が承諾していない以上,原告と被告との間では放送受信契約は成立しない。
[20] 放送法は,立法過程において放送受信契約の強制性が徐々に緩和されて現行の規定になったのであり,契約拒否に対する罰則規定や,契約締結を強制する規定はないから,放送受信契約の締結については受信機設置者の任意の意思に委ねられていると解すべきである。
[21] また,放送法64条1項では,「契約をしなければならない。」と規定しているにすぎず,受信料の支払義務は規定していないのであり,法律よりも下位の規範である放送法施行規則や規約によって,受信機の設置の月まで遡って放送受信契約が成立するものと解することはできない。
イ 予備的請求1
[22] 原告に損害が発生したことは否認する。原告が放送受信契約に基づく受信料収入を得られなかったことは事実であるが,それは放送受信契約が締結されていないことの当然の結果にすぎない。
ウ 予備的請求2
[23] 放送法は行政法規であり,放送受信契約は私法上の契約であるから,行政法規違反の行為があっても当然に契約の締結を強制できるわけではない。契約の自由を制限するためには特別の理由が必要となるものと解すべきところ,放送受信契約の締結を強制する特別の理由は見当たらないから,原告は受信機設置者に対して契約の締結を強制することはできない。原告の放送は,我が国の歴史や祖先の事績に対し著しく公平公正を欠き,到底公共放送として容認できない域に達しており,被告は,放送法に適合しない放送をしている原告に対して受信料支払債務を負わない。
[24] 仮に原告が受信機設置者に対して放送受信契約締結の承諾の意思表示を求めることができるとしても,本件においては,本件通知が到達した後である平成23年10月時点での被告の承諾が擬制され,原告はそれ以降の受信料の支払を求めることができるにすぎない。
エ 予備的請求3
[25] 被告は,反日的な放送をする原告を嫌悪して,原告の放送は全く見ていないのであって,何ら利得はない。
(被告の主張)
[26] 放送法64条1項が,受信機設置者に放送受信契約の締結を強制するものであるとすれば,以下の憲法各条に違反するために無効である。
ア 契約の自由
[27] 契約の自由は,憲法13条,19条,21条,29条などの規定の根本にある大原則であるところ,放送法64条1項は,契約の自由を特別の理由なしに制限するものであるから,憲法の上記各条に違反する。
[28] 受益者負担という趣旨を達成するためであれば,原告の放送の受信を希望する者に対して,受信時間又は番組ごとに課金する方式(ペイ・パー・ビュー方式。以下「有料放送方式」という。)を採用することが技術的に可能であるし,有料放送方式によれば,視聴者が望む,豊かで良い番組が作成されるのであって,有料放送方式を採用せずに放送受信契約の締結を強制することは憲法に違反する。
イ 知る権利
[29] 受信機の設置は国民の知る権利の行使に当たり,公共の福祉のためではなく,一企業である原告を維持するために受信機設置者に放送受信契約の締結を強制することは,憲法13条,31条に違反する。
ウ 平等原則,国会の権能等
[30] 放送事業者一般ではなく,国家機関等でもない一企業である原告に対してのみ契約締結の強制という負担を課すことは,憲法14条に違反するほか,一般性に欠け,実質的には行政権の行使であり,立法機関である国会の権能に属しないから,憲法41条に違反する。また,放送受信契約は,契約ではなく立法というべきであるし,規約は,規約を定める原告及び規約を認可する総務大臣による実質的な立法であるから,いずれも国会を唯一の立法機関とする憲法前文,41条に違反し,憲法73条6号の範囲を超えるものである。
エ 正当な補償等
[31] 受信料は,税金又は公共の福祉に対する負担ではなく,一企業である原告のための負担であって,正当な補償もされていないから,放送法64条1項は憲法29条3項,84条に違反する。

(原告の主張)
[32] 放送法64条1項は,以下のとおり,憲法に違反しない。
ア 契約の自由
[33] 放送法64条1項は,国民一般ではなく,受信機設置者に放送受信契約の締結義務を課しており,受信機を設置しなければ放送受信契約の締結は不要であり,所定の手続を経て放送受信契約を解約することも自由にできるから,受信機設置者の契約の自由は何ら制約されていない。
[34] 受信料は,原告の国家からの独立と表現の自由を確保するために,独自の財政基盤として認められたものであること,受信料の額については国会による間接的なコントロールを受け,規約の制定等について総務大臣の認可を要し,規約の内容の合理性が担保されていることから,放送受信契約の締結義務を課すことは,公共の福祉の観点からの合理的な制約として是認されるべきである。放送法は,原告について,「公共の福祉のために,あまねく日本全国において受信できるように豊かで,かつ,良い放送番組による」放送を行うことを目的としており(15条),有料放送方式による「有料放送」は原告の業務として定められていない(20条,147条)。仮に原告の放送を有料放送方式による放送とし,主たる財源をその視聴料金により賄うものとした場合,[1]経済環境の変化等により収入が常時変動し続けるため,公共放送の安定的な財源たり得ないこと,[2]放送番組の内容が視聴者の関心を引く分野に偏らざるを得ず,視聴率は低くとも公共の福祉のために必要な番組を継続することができず,ひいては,原告の目的である「豊かで,かつ,良い放送番組」を提供していくこと自体が困難になること,[3]原告に課せられた必須業務である国際放送や放送技術の研究等の財源を確保することもできなくなることといった重大な問題がある。
イ 知る権利
[35] 放送法64条1項は,視聴する番組の選択を制限したり,放送以外の方法による情報の取得を妨げたりするものではないから,知る権利を制限するものではない。
ウ 平等原則,国会の権能等
[36] 原告に放送受信契約の締結義務が課されるわけではないから,憲法14条違反についての被告の主張は失当であり,公共放送と民間放送とを併立させる二元体制を採用していることからすれば,原告にのみ放送受信契約の締結に関する規定が設けられて他の放送事業者には同様の規定が設けられていない点についても,憲法14条に違反しない。
[37] 放送法64条1項は,不特定多数の人に対して適用され,一般性・抽象性を有する法規範であるから,憲法41条が規定する「立法」に含まれる。放送受信契約及び規約は「立法」ではないから,憲法41条違反の問題は生じない。
エ 正当な補償等
[38] 放送受信契約の締結義務を課すことは,公共の福祉による制約として憲法29条に違反せず,受信料は租税とは全く異質なものであるから,憲法84条にも違反しない。
[39](1) 放送法は,「放送が国民に最大限に普及されて,その効用をもたらすことを保障すること」,「放送の不偏不党,真実及び自律を保障することによって,放送による表現の自由を確保すること」,「放送に携わる者の職責を明らかにすることによって,放送が健全な民主主義の発達に資するようにすること」という原則に従って,「放送を公共の福祉に適合するように規律し,その健全な発達を図ること」を目的としている(1条)。
[40] そして,放送法は,「公共の福祉のために,あまねく日本全国において受信できるように豊かで,かつ,良い放送番組による国内基幹放送(国内放送である基幹放送をいう。以下同じ。)を行うとともに,放送及びその受信の進歩発達に必要な業務を行い,あわせて国際放送及び協会国際衛星放送を行うこと」を目的(以下「原告の設立目的」という。)として,原告を放送法の規定に基づいて設立される公共的な企業体(特殊法人)としているのであって(15条,16条),原告が,全国に放送局を設置し,全国民にその要望を満たすことができる放送を行い,他方で,個人の創意工夫により闊達に放送文化を建設する自由な事業としての民間放送事業者(平成22年法律第65号による改正後の「基幹放送事業者」。2条23号)が放送を行うことで,基幹放送について,公共放送と民間放送の二元体制を確立し,これを併立させることにより,我が国の放送事業が全体として公共の福祉に適合する健全な発達を促す総合的な体制を確保しようとしたものである。

[41](2) 原告は,放送法に基づき,原告の設立目的を達成するため,国内基幹放送,放送及びその受信の進歩発達に必要な調査研究並びに国際放送等を行うこととされ(20条1項),他の民間放送事業者とは異なり,国内基幹放送の放送番組の編集及び放送に当たっては,「豊かで,かつ,良い放送番組の放送を行うことによって公衆の要望を満たすとともに文化水準の向上に寄与するように,最大の努力を払うこと」,「全国向けの放送番組のほか,地方向けの放送番組を有するようにすること」,「我が国の過去の優れた文化の保存並びに新たな文化の育成及び普及に役立つようにすること」が求められ(81条1項),「公衆の要望を知るため,定期的に,科学的な世論調査を行い,かつ,その結果を公表しなければならない。」と規定され(81条2項),あまねく日本全国に放送することが求められることから,総務大臣の認可を受けなければ,業務の廃止又は放送を12時間以上休止することができない(86条1項)。また,原告の設立目的を実現するための財源を確保するとともに,国や広告主等の影響をできるだけ避けて自律的に番組編集を行えるようにする必要があることから、営利目的の業務及び広告放送が禁止され(20条4項,83条1項),「協会の放送を受信することのできる受信設備を設置した者は,協会とその放送の受信についての契約をしなければならない。」として,受信料の制度が設けられている(64条1項)。

[42](3) そして,放送法は,原告が,国から独立した特殊な法人格を有する企業としつつも,公共性を確保して適正に運営されるとともに受信料の適正な設定やその使途についても適正な監督ができるような仕組みを整備している。すなわち,原告には,両議院の同意を得て内閣総理大臣によって任命される委員12名によって構成される経営委員会が設置され(28条,30条,31条),原告の経営に関する基本方針や番組基準及び放送番組の編集に関する基本計画など原告の業務の適正を確保するために必要な体制の整備,放送受信契約の条項及び受信料の免除の基準等について議決をすることになっている(29条1項)。原告の役員としては,経営委員とは別に,経営委員会により任命される会長と,会長が経営委員会の同意を得て任命する副会長,理事がおり,これらの者で理事会が構成される(49条,50条,52条)。理事会において,原告の重要業務の執行について審議し,会長が原告を代表して,経営委員会の定めるところに従い,業務を総理する(50条2項,51条1項)ほか,原告の毎事業年度の収支予算,事業計画,資金計画,業務報告書及び財務諸表は,総務大臣に提出され(70条1項,72条1項,74条1項),総務大臣は,これについて意見を付して内閣を経て国会に提出し,毎事業年度の収支予算,事業計画及び資金計画については国会の承認事項とされ,契約締結者から徴収する受信料の月額についても収支予算の承認によって定めるものとされている(70条2項,4項)。業務報告書については国会の報告事項とされ,財務諸表についても会計検査院の検査を経て国会に提出される(72条2項,74条2項,3項)ことになっている。
(1) 主位的請求
[43] 原告は,受信機設置者間の公平の観点や原告側での画一的処理の要請,放送法上,受信機設置者には原告からの放送受信契約締結の申込みを拒絶する自由が認められていないことから,原告による放送受信契約締結の申込みが受信機設置者に到達した時点で,放送受信契約が成立するものと解すべきである旨主張する。
[44] しかし,民法上,契約は,申込みと承諾の意思表示の合致によって成立するのであって(民法521条以下),放送法において,放送受信契約についてこれに反する仕組みが採用されたものと解する根拠は見いだせない。放送法の制定過程をみると,[1]昭和23年6月18日に第2回国会に提出された放送法案において,「協会は,その提供する方法を受信することのできる受信設備を設置した者から,受信料を徴収することができる。」(39条1項)と規定され,[2]昭和24年3月1日に策定された放送法案において,「協会の放送を受信することのできる受信設備を設置した者は,協会とその放送の受信についての契約を締結したものとみなす。」(38条1項)と規定されるなど,受信機の設置によって当然に受信料の支払債務が発生し,又は放送受信契約の締結を擬制する法案が作成されたものの,実際に制定された放送法64条1項では,「協会の放送を受信することのできる受信設備を設置した者は,協会とその放送の受信についての契約をしなければならない。」と規定されており,受信機の設置によって当然に受信料の支払債務が発生し,又は放送受信契約の締結を擬制する上記のような仕組みが採用されていないことからすれば,同項が,受信機設置者による承諾の意思表示なしに放送受信契約が成立することを規定したものと解することはできない。
[45] したがって,被告による承諾の意思表示がない以上,原告と被告との間で放送受信契約が締結されたものとは認められないから,その余の点を検討するまでもなく,原告の主位的請求は理由がない。

(2) 予備的請求1
[46] 放送法が,受信料制度を設け,原告の財政的基礎を受信料収入に委ねる仕組みを採用したのは,あまねく日本全国に放送するという目的を達成するための財源を確保すること,放送の不偏不党,真実及び自律を保障するためには国や広告主等の影響をできるだけ避けて自律的に番組編集を行えるものとする必要があることを考慮して,税や広告収入という方法で財源を確保するのではなく,受信機設置者に対して広く公平に,上記のような放送が行われるための費用を分担させることを目的としたものと解される。放送法が,同時に,受信料はあらかじめ総務大臣の認可を受けた基準によるのでなければ免除してはならないと規定していること(64条2項)も,上記のような放送法が採用した受信料制度の依って立つ基盤の一つである公平負担の確保という観点からの規定と解することができる。
[47] 以上の趣旨からすれば,「協会の放送を受信することのできる受信設備を設置した者は,協会とその放送の受信についての契約をしなければならない。」と規定する放送法64条1項は,受信機設置者に対して,実際に原告の放送を受信し視聴しているか否かにかかわらず,原告と放送受信契約を締結すべき私法上の義務を課したものと解するのが相当である。
[48] 原告は,被告による放送受信契約締結義務の不履行により,原告は平成18年3月分から平成25年5月分までの受信料相当額計20万0220円を受領することができないという損害を被ったと主張する。
[49] しかし,前記(1)のとおり,受信機設置者による承諾の意思表示がない以上,放送受信契約が締結されたものと認めることはできないし,後記(3)のとおり,放送受信契約の締結前には受信料の支払に係る潜在的かつ抽象的な債権債務関係しか成立していないことからすれば,受信機設置者が,放送法64条1項の定める原告との間で放送受信契約を締結すべき私法上の義務に違反していることから,直ちに,原告が,受信料相当額の損害を被ったものとは認められず(放送受信契約の締結によって受信料の支払に係る具体的な債権債務関係が確定し,その時点で初めて受信機設置者が支払うべき受信料の金額が確定するのであり,それ以前の段階で原告には具体的な受信料相当額の損害は認められない。),その他,原告が被った損害についての主張立証はない。
[50] したがって,原告の予備的請求1は理由がない。

(3) 予備的請求2
[51] 放送法64条1項が定める受信機設置者に対する放送受信契約を締結すべき私法上の義務につき,原告が民法414条2項ただし書に基づき,放送受信契約の締結の承諾の意思表示を命じることを求めることができるか否かについて検討する。
[52] 契約は,申込みと承諾の意思表示の合致によって成立し,申込み及び承諾の意思表示を行うかどうかは各人の自由に委ねられているのが原則である。しかし,法規に基づいて契約を締結すべき私法上の義務が課せられる場合があり,そのような場合に契約を拒否する者に対して,契約を締結すべき私法上の義務違反に基づく責任を負わせるにとどまるのか,意思表示に代わるべき裁判をもって契約を成立させ得るのかについては,個々の契約を締結すべき義務を定める規定の趣旨を踏まえて検討すべきであり,当該規定の義務付けの強弱や当該規定の目的が契約を締結することによる効果を期待するものなのか,契約を締結しないことを禁止するにとどまるのかといった点を総合考慮して解釈すべきものと考えられる。
[53] そこで,前記1の放送法の規定及び構造に照らして,放送法64条の規定の趣旨を検討する。
[54] 放送は,不特定多数に対し同時に同じ情報を安価に提供することが可能であり,かつ,家庭において容易に受信することが可能であるという物理的特性から大きな社会的影響力を有し,特に無線放送は,有限希少な国民的資源である電波の一定の帯域を排他的かつ独占的に占有している。近時,通信技術の進展等に伴い,コンテンツ配信を行う多種多様な通信サービスが出現しつつある中で,平成22年法律第65号による放送法の改正においても,放送の社会的な機能・役割は従来から変わるものではないという理解の下に,放送の社会的な役割の実現を確実かつ適正に図る無線の放送として「基幹放送」を,柔軟な周波数利用等を可能とすることによりその実現を市場原理に委ねる無線及び有線の放送として「一般放送」をそれぞれ規定しているのであって(2条2号,3号),基幹放送については依然として大きな社会的影響力を有していることを前提とした規律をしているものと解される。そして,証拠(甲7)及び弁論の全趣旨によれば,[1]各家庭に受信機が広く設置されておらず,人口の少ない地域において,広告等による収入によって運営される民間放送事業者が放送を行う前提が形成されていなかった放送法制定当時は,原告が全国各地に放送局を開設し,全国において放送を受信できる体制を整備することが必要とされていたところ,現在においては,民間放送事業者による放送が格段に整備され,制定当時と同様の必要性は失われているものの,原告は全国に53の放送局を設置し,現在においても,なお地方向けの放送番組や災害報道等において重要な役割を果たしていること(原告は,災害対策基本法に基づく指定公共機関として指定され,国等による防災計画の作成及び実施が円滑に行われるように協力する責務を負っている(災害対策基本法2条5号,6条,昭和37年8月6日総理府告示第26号)。),[2]原告は,放送技術研究所及び放送文化研究所を設置し,民間放送事業者等との共同での放送技術の研究や,放送番組に関する研究等を行っていること,[3]原告は,外国人及び在外邦人向けの放送を行っていることが認められる。このように,放送法制定後現在までのメディアの多様化,現在の社会情勢や放送に関する技術的進歩といった社会変動を踏まえても,公共の福祉のために,あまねく日本全国において受信できるように豊かで,かつ,良い放送番組による国内基幹放送を行うとともに,放送及びその受信の進歩発達に必要な業務を行い,あわせて国際放送及び協会国際衛星放送を行うという放送法15条が規定する原告の設立目的は,現在もなお極めて重要な意義を有しているといえる。
[55] 放送法の規定に基づいて設立される公共的な企業体(特殊法人)である原告の財政的基盤を確保する方法としては,様々な手法が考えられようが,前記のとおり,放送法64条1項は,あまねく日本全国に放送するという目的を達成するための財源を確保することと,放送の不偏不党,真実及び自律を保障するためには国や広告主等の影響をできるだけ避けて自律的に番組編集を行えるものとする必要があることを考慮して,税や広告収入という方法で財源を確保するものではなく,受信機設置者に対して広く公平に,上記のように,放送,その中でも,とりわけ大きな社会的影響力を有する基幹放送等が行われるための費用を分担させることを目的としたものと考えられる。そして,時の政府や政権におもねることなく不偏不党を貫き,真実を放送し,視聴率を追求することや一方的な視点からの放送を排し,視聴率にとらわれない多角的視点を踏まえた真に「豊かで,かつ,良い放送番組」(放送法4条1項,81条1項)を放送していくために,放送視聴との対価性を緩やかなものとし,国民から,その内心の意図や思想信条にかかわらず,広く公平に受信料を徴収して財源を確保することは,一つの合理的な方法と考えられるのであって,前記(1)の放送法64条1項の制定過程をも勘案すれば,同項の規定は,受信料を上記のようなものとして性格付け,受信機設置者に対して,単に放送受信契約を締結しないことを禁止するにとどまるものではなく,実際に放送受信契約を締結させ,基幹放送等が行われるための費用を分担させる効果を期待したものと解することができる。また,放送受信契約の締結を拒否された原告が被る不利益は,放送受信契約締結の直接の効果としての受信料の支払を受けられず財政的基盤を確保できないという不利益(ひいては原告の財政的基盤を危うくするおそれが生じる。)であって,放送受信契約締結の効果を生じさせることが最も端的かつ必要十分なその不利益を解消するための方法であると解される。
[56] 以上のような,放送法64条1項の趣旨や放送法の構造等を総合考慮すれば,前記のとおり,受信機設置者が原告の間で放送受信契約を締結すべき私法上の義務を負うことを定める同項の規定は,放送受信契約締結義務の履行について特別の担保手段を規定しておらず,放送受信契約を締結しない場合の過料等の制裁も定めていないことを考慮しても,原告が,放送法の定める放送受信契約締結を拒否する受信機設置者に対して放送受信契約締結の申込みをしたとして受信機設置者に承諾の意思表示を求める場合においては,受信機設置者に対して私法上の義務違反に基づく責任を負わせるにとどまるのではなく,同項が定める受信機設置者に対する放送受信契約を締結すべき私法上の義務につき,民法414条2項ただし書に基づき,放送受信契約の締結の承諾の意思表示を命じることができ,承諾の意思表示に代わるべき裁判をもって放送受信契約を成立させることができると解するのが相当である(漁業協同組合の組合員たる資格を有する者が同組合に加入するときは,同組合は,正当な理由がないのに,その加入を拒んではならない旨の水産業協同組合法25条の規定につき,組合は,正当な理由がない限り,申込みを承諾しなければならない私法上の義務を負い,組合員たる資格を有する者は,組合に対して承諾の意思表示に代わるべき裁判をもって契約(同組合への加入)を成立させることができると解すべきとした最高裁昭和55年(オ)第493号同年12月11日第一小法廷判決・民集34巻7号872頁参照。)。なお,水道,ガス,電気のように独占的性格を有し,公益的色彩の強い企業に対して,法は,事業者に対して供給を拒否してはならない旨の規定を置き,サービス提供を受けようとする者に対する事業者の承諾の自由を制約する定め方をしており(水道法15条,電気事業法18条,ガス事業法16条等),水産業協同組合法においても加入を拒んではならない旨規定されているのに対し,放送法64条1項は,受信機設置者を主語として,「契約をしなければならない」と定めており,規定の仕方に違いがある。しかし,このような規定の仕方の違いは,放送事業の場合には,旧来の技術の下では,受信機を設置することのみで放送された電波を受信し番組を視聴することができ,事業者のサービス提供を受ける者に対する個別の行為を介在することなく,専らサービス提供を受ける者の行為のみによってサービス提供を受けることができることから,事業者の承諾の自由を制限する形の規定を置くことが困難であったことに起因するものと考えられ,上記の規定の仕方の違いは,放送法64条1項の解釈において,上記最高裁判例と同様の解釈をすることを妨げるものとはいえない。
[57] 被告は,原告の放送が,我が国の歴史や祖先の事績に対し著しく公平公正を欠き,到底公共放送として容認できない域に達しており,放送法に適合しない放送をしている原告に対して受信料支払債務を負わない旨主張する。
[58] 放送法が,受信料制度を設けたのは,前記のとおり,放送の不偏不党,真実及び自律を保障するためには国や広告主等の影響をできるだけ避けて自律的に番組編集を行えるものとする必要があることからであり,多くの受信機設置者が,時の政府や政権におもねることなく不偏不党を貫き,真実を放送し,視聴率を追求することや一方的な視点からの放送を排し,視聴率にとらわれない多角的視点を踏まえた真に「豊かで,かつ,良い放送番組」が放送されていないと認識するに至った場合には,受信料制度を支える基盤の一つが失われることは明らかというべきであるが,原告の放送する番組の内容が放送法の理念に適合しているかどうかは,個々の受信機設置者との関係で,放送受信契約に基づく受信料支払債務の発生の有無に影響を与える事実ではなく,被告の上記主張は失当である。
[59] 次に,被告に対する放送受信契約の締結の承諾の意思表示を命じる判決によって成立する放送受信契約に基づく受信料支払債務の成立時期(受信料の起算点)について検討する。
[60] 民事執行法174条1項によって,上記判決が確定した時に,被告が上記承諾の意思表示をしたものとみなされ,原告と被告との間で放送受信契約が成立するところ,放送法の規定に受信料支払債務の成立時期を明記したものはないが,受信機設置者は,受信機設置の時点から事実上原告の放送を受信できるようになるのであるから,受信機設置者が実際に放送受信契約を締結した時期によって受信料支払債務の成立時期が異なると解するのは,実際には原告の放送を受信可能であったにもかかわらず,専ら受信機設置者の意思のみによって受信料支払債務の成立時期が左右されることになり合理的に欠け,放送法が,そのような事態を予定しているものと解することは困難である。そして,放送法が放送受信契約締結義務の履行について特別の担保手段を規定していないことも考慮すれば,放送法64条1項は,受信料の支払に係る潜在的かつ抽象的な債権債務関係は受信機設置の時点で成立することとした上で,放送受信契約の現実の締結(成立)によって放送受信契約関係を具体的に確定し,受信料の支払に係る具体的な債権債務関係もまた受信機設置の時点に遡って確定することを前提とした規定であると解するのが相当である。放送法施行規則23条7号において,規約に定めるべき事項の一つとして「受信契約の締結を怠った場合及び受信料の支払を延滞した場合における受信料の追徴方法」を規定しているのも,放送法上,受信機設置者が放送受信契約の締結を怠った場合にも,受信機設置に遡って放送受信契約に基づく受信料を徴収できることを前提として,その技術的な事項について規約で定めることを認めたものと解されるのであり,また,「放送受信契約は,受信機の設置の日に成立するものとする。」と規定した規約4条1項は,受信機設置の日に遡って受信機設置者に受信料支払債務を負わせる限度において,放送法64条1項の授権の範囲内の規定というべきである。
[61] そうすると,受信機設置者は,放送受信契約の現実の締結によって,受信機設置の時に遡って規約所定の受信料支払債務を負うものというべきであるから,上記承諾の意思表示を命じる判決の確定によって成立する放送受信契約に基づき,本件衛星受信機を設置した日の属する月である平成18年3月分から平成25年5月分までの受信料計20万0220円の支払を求める原告の予備的請求2は理由がある。もちろん,放送受信契約の現実の締結によって,受信機設置の時に遡って受信料支払債務が具体的に確定されても,既に潜在的に進行していた消滅時効の効果を妨げるものではないと解されるが,本件において,消滅時効の援用の主張はないので,判断しない。
[62] そして,予備的請求2には理由があるから,予備的請求3については判断しない。
(1) 契約の自由について
[63] 契約の自由とは,契約締結の自由,相手方選択の自由,契約内容決定の自由及び契約方式の自由を包含するところ,前記のとおり,放送法64条1項は,契約締結の自由(契約を締結するか否かについての自由)を制約するものである。
[64] 憲法29条は財産権を保障しており,個人は,その一貫として契約締結の自由を有するものと解される(経済活動の一環としてする契約については,憲法22条により,契約締結の自由が認められる。)。そして,財産権は,それ自体に内在する制約がある外,その性質上社会全体の利益を図るために立法府によって加えられる規制により制約を受けるものであることからすれば,財産権に対する規制が憲法29条2項にいう公共の福祉に適合するものとして是認されるべきものであるかどうかは,規制の目的,必要性,内容,その規制によって制限される財産権の種類,性質及び制限の程度等を比較考量して判断すべきものと解するのが相当である。
[65] 放送法64条1項の目的は,前記2(3)イのとおりであって,その目的は正当性を有し,公共の福祉に適合するものというべきである。
[66] 次に,規制の内容等についてみると,前記した原告の公共的な性格やその放送が行われていること自体が,民間放送事業者の番組編成等に対しても一定の影響を与えていること,すなわち,二系列の事業システムの併立体制が全国における放送事業の健全な発達を保持しているものであって,その意味で,民間放送事業者による放送は,原告による放送から一定の影響を受けていることが認められるが,それは,民間放送事業者による放送だけが単に一方的に間接的な恩恵を受けるにとどまらず,上記の二系列の事業システムの併立体制により全国的に良い放送を実現していこうとする点において互恵的な関係にあるともいえ,総体的には積極的な効果が存することも否定できないのであるから,受信機設置者が原告の放送を視聴するか否かにかかわらず放送受信契約の締結義務を負うものとすることについては必要性が認められ,合理性を有するというべきである。また,前記認定のとおり,原告は,国から独立した企業としつつも,公共性を確保して適正に運営されるための仕組みのほか,放送受信契約者からの受信料の適正な設定やその使途についても国会を通じて適正に監督がされるような仕組みが備わっているといえ,国会の承認を得て定められる受信料の負担も是認することができるというべきである。
[67] これに対し,被告は,有料放送方式においても原告の設立目的は達成でき,有料放送方式を採用せずに放送受信契約の締結を強制することは憲法に違反する旨主張する。弁論の全趣旨によれば,有料放送方式を採用することが現在の技術の下では可能となっていると認められるものの,原告の放送を有料放送方式による放送とし,主たる財源をその視聴料金により賄うものとした場合,放送視聴との対価性が強くなり,放送番組の内容が視聴者の関心を引く分野に偏り,視聴率にとらわれずに必要な番組を継続することが困難になり,ひいては,前記の二系列の事業システムの併立体制の意義自体が危うくなる可能性があると考えられるのであって,現在の技術の下で可能となっている有料放送方式を採用しないことから直ちに合理性を欠くものということはできない。
[68] 以上のとおり,放送法64条1項の規制目的には正当性があり,規制手段にも必要性及び合理性が認められるから,同項は,公共の福祉に適合する制限を定めたものであって,憲法29条に違反するものではない。

(2) 知る権利について
[69] 被告は,受信機の設置は国民の知る権利の行使に当たり,受信機設置者に放送受信契約の締結を強制することは憲法13条,31条に違反する旨主張するが,放送法64条1項は,原告の放送を受信できる受信機を設置した場合に放送受信契約の締結を義務付けるだけであって,受信機設置者に放送受信契約の締結という経済的負担を課すものにすぎず,原告以外の民間放送事業者による放送の視聴自体を直接制限するものではない上,前記のとおり同項の規定に合理性が認められるのであって,国民が放送を視聴することを不当に制約するものといえない。以上からすれば,同項が憲法13条,憲法31条に違反する旨の被告の主張は理由がない。

(3) 平等原則について
[70] 被告は,放送法64条1項が,原告についてのみ放送受信契約を強制的に締結することを認め,受信料の徴収による利益を与えることが,他の民間放送事業者との関係で憲法14条(平等原則)に違反する旨主張するものと解される。
[71] 前記のとおり,放送法は,全国に放送局を設置し,全国民にその要望を満たすことができる放送番組を放送する公共的な企業体として設立された原告(15条、16条)による放送と,個人の創意工夫により闊達に放送文化を確立する自由な事業としての民間放送事業者による放送という公共放送と民間放送の二元体制を確立し,これを併立させることにより,我が国の放送事業が全体として公共の福祉に適合する健全な発達を促す総合的な体制を確保しようとし,上記目的を達成するための財源を確保するとともに,放送の不偏不党,真実及び自律を保障するためには国や広告主等の影響をできるだけ避けて自律的に番組編集を行えるものとする必要があることを考慮して,税や広告収入という方法で財源を確保するものではなく,受信機設置者に対して広く公平に,上記のような放送が行われるための財源を負担させることとして,他の民間放送事業者とは異なり,原告に放送受信契約による受信料の徴収を認めたものであって,放送体制の構築に関する立法府の合理的な裁量判断に含まれ,その区別には合理的な根拠が認められるというべきである。
[72] したがって,放送法64条1項は憲法14条に違反しない。

(4) 国会の権能等について
[73] 放送法は,受信機設置者等の不特定多数に適用され得る一般的・抽象的な法規範であり,そこで原告が徴収する受信料について規定することは国会の「立法」(憲法41条)の権能に属するというべきであるし,規約及び規約を内容とする放送受信契約が「立法」に当たらないことは明らかであるから,放送法,規約又は放送受信契約は憲法前文,41条に違反せず,憲法73条6号に違反すると解する余地もない。

(5) 正当な補償等について
[74] 受信機設置者に放送受信契約の締結義務を課し,受信料の支払を負担させることは,受信機設置者が当然に受忍すべき制限の範囲にとどまり,特別の犠牲を課したものとみることはできず,憲法29条3項による補償が必要とされるものとはいえない。
[75] 受信料は,国又は地方公共団体が課税権に基づき課する金銭給付ではないから,放送法64条1項に憲法84条が直接適用されないことは明らかである。
[76] 国,地方公共団体が賦課徴収する租税以外の公課であっても,賦課徴収の強制の度合い等の点において租税に類似する性質を有するものについては,憲法84条の趣旨が及ぶと解すべきであるが,その場合であっても,租税以外の公課は,租税とその性質が共通する点や異なる点があり,また,賦課徴収の目的に応じて多種多様であるから,賦課要件が法律又は条例にどの程度明確に定められるべきかなどその規律の在り方については,当該公課の性質,賦課徴収の目的,その強制の度合い等を総合考慮して判断すべきものと解するのが相当である。原告は,放送法の規定に基づいて設立される公共的な企業体(特殊法人)であり,受信機設置者は,放送法の規定によって一律に放送受信契約の締結義務が課されるものであるから,受信料は,国,地方公共団体が賦課徴収する租税に類似する性質を有するものの,受信料について租税と同様の強制徴収を認める規定はなく,受信料を含む原告の収支予算の内容については国会の承認を得る必要があるのであり,その賦課に関する規律として合理性を有するものということができるから,同条の趣旨に反しないというべきであり,放送法64条1項が憲法84条に反する旨の被告の主張は理由がない。
[77] よって,原告の主位的請求及び予備的請求1は,いずれも理由がないからこれを棄却し,被告に対して放送受信契約締結の承諾の意思表示を命じ,この判決の確定によって成立する放送受信契約に基づき平成18年3月分から平成25年5月分までの受信料の支払を求める予備的請求2には理由があるからこれを認容することとし,主文のとおり判決する。

  東京地方裁判所民事第44部
  裁判官 平城恭子  裁判官 百瀬玲
  裁判長裁判官中村愼は、転補のため署名押印することができない。
    裁判官 平城恭子

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