日蓮正宗管長事件
上告審判決

代表役員等地位不存在確認請求事件
最高裁判所 昭和61年(オ)第531号
平成5年9月7日 第三小法廷 判決

上告人  久保川法章 外155名
被上告人 日蓮正宗  外1名

■ 主 文
■ 理 由

■ 裁判官大野正男の反対意見


 本件上告を棄却する。
 上告費用は上告人らの負担とする。

[1] 特定の者が宗教団体の宗教活動上の地位にあることに基づいて宗教法人である当該宗教団体の代表役員の地位にあることが争われている場合には、裁判所は、原則として、右の者が宗教活動上の地位にあるか否かを審理、判断すべきものであるが、他方、宗教上の教義ないし信仰の内容にかかわる事項についてまで裁判所の審判権が及ぶものではない(最高裁昭和52年(オ)第177号同55年4月10日第1小法廷判決・裁判集民事129号439頁参照)。したがって、特定の者の宗教活動上の地位の存否を審理、判断するにつき、当該宗教団体の教義ないし信仰の内容に立ち入って審理、判断することが必要不可欠である場合には、裁判所は、その者が宗教活動上の地位にあるか否かを審理、判断することができず、その結果、宗教法人の代表役員の地位の存否についても審理、判断することができないことになるが、この場合には、特定の者の宗教法人の代表役員の地位の存否の確認を求める訴えは、裁判所が法令の適用によって終局的な解決を図ることができない訴訟として、裁判所法3条にいう「法律上の争訟」に当たらないというほかない。
[2] これを本件についてみるのに、上告人らの請求は、被上告人阿部日顕(以下「日顕」という。)が被上告人日蓮正宗(以下「日蓮正宗」という。)の代表役員及び管長の地位にないことの確認を求めるものであるが、原審の判示するところによれば、日蓮正宗においては、代表役員は、管長の職にある者をもって充て、管長は、法主の職にある者をもって充てるものとされているところ、代表役員は、宗教法人法に基づき設立された宗教法人である日蓮正宗を代表する地位であり、法主は、日蓮正宗の宗教上の最高権威者の呼称であって、宗教活動上の地位であるというのである。原審の右認定判断は、記録に照らして首肯するに足り、右事実関係によれば、日顕が代表役員及び管長の地位にあるか否かを審理、判断するには、日顕が法主の地位にあるか否かを審理、判断する必要があるところ、記録によれば、日蓮正宗においては、法主は、宗祖以来の唯授一人の血脈を相承する者であるとされているから、日顕が法主の地位にあるか否かを審理、判断するには、血脈相承の意義を明らかにした上で、同人が血脈を相承したものということができるかどうかを審理しなければならない。そのためには、日蓮正宗の教義ないし信仰の内容に立ち入って審理、判断することが避けられないことは、明らかである。そうであるとすると、本件訴えは、結局、いずれも法律上の争訟性を欠き、不適法として却下を免れない。したがって、本件訴えを却下すべきものとした第一審判決は相当であるから、上告人らの控訴を棄却すべきものとした原判決は、その結論において是認することができる。論旨は、原審の判断の違憲、違法をいうが、原判決の結論に影響を及ぼさない部分を論難するものにすぎず、採用することができない。
[3] よって、民訴法401条、95条、89条、93条に従い、裁判官大野正男の反対意見があるほか、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。


 裁判官大野正男の反対意見は、次のとおりである。

[1] 多数意見は、日顕が代表役員及び管長の地位にあるか否かを審理、判断するには、日顕が法主の地位にあるか否かを審理、判断する必要があるところ、日顕が法主の地位にあるか否かを審理、判断するには、日蓮正宗における血脈相承の意義を明らかにした上で、同人が血脈を相承したものということができるかどうかを審理しなければならず、そのためには、日蓮正宗の教義ないし信仰の内容に立ち入って審理、判断することが避けられないことは明らかであるとし、本件訴えは、結局、法律上の争訟性を欠き、不適法として却下を免れないとして、これと同旨の第一審判決は相当であるから、上告人らの控訴を棄却した原審の結論は是認することができるとするのであるが,私は、本件に法律上の争訟性が欠けるとすることに同意することができない。その理由は、次のとおりである。

[2] 本件において、裁判を求められていることは、日顕が日蓮正宗における代表役員及び管長の地位を有するか否かである。
[3] そして、日蓮正宗にあっては、代表役員は管長の職にある者をもって充てる(宗教法人法所定の規則である日蓮正宗宗制5条、6条1項)とし、管長は、法主の職にある者をもって充てる(宗教団体としての規則である日蓮正宗宗規13条2項)とし、更に法主の選任手続としては、「法主は、必要と認めたときは、能化のうちから次期の法主を選定できる。但し緊急やむを得ない場合は大僧都のうちから選定することもできる。」(宗規14条2項)と定めている。
[4] 本件の争点は、まさに日顕が右宗規の条項に適合して法主に「選定」されたか否かである。

[5] ところで、日蓮正宗においては、右「選定」は、「血脈相承」という宗教的儀式によってされるものである。そして本件では、日顕が昭和53年4月15日当時法主の地位にあった日達上人から「血脈相承」を受けたか否かが直接の争点事実となっている。しかし「血脈相承」は日蓮正宗の教義ないし信仰の内容にかかわる宗教的儀式であって、その意義及び存否は、裁判所の判断の対象とはならない。その点は多数意見のいうとおりである。
[6] しかし、そのことから直ちに法主の「選定」の有無が裁判所によって判断できない非法律的な宗教的事項になるわけではない。法主の「選定」があったか否かは、「血脈相承」それ自体を判断しないでも、「選定」を推認させる間接事実(例えば、就任の公表、披露、就任儀式の挙行など)の存否、あるいは選任に対する日蓮正宗内の自律的決定ないしこれと同視し得るような間接事実(例えば、責任役員らによる承認、新法主による儀式の挙行と列席者の承認など)の存否を主張立証させることによって判断することが可能である。「選定」の直接事実は「血脈相承」であり、それは裁判所の判断すべき事項ではないが、右例示の間接事実は、教義、教理の内容にわたるものではなく、裁判所にとって判断可能な社会的事実であり、これらの事実の存否によって、裁判所は日顕が宗教法人たる日蓮正宗の代表役員であるか否かを判定することが可能であり、また必要である。
[7] けだし、裁判所は、宗教団体の教義、教理ないし信仰の内容に介入することはできず、また、介入してはならないが、日蓮正宗は宗教団体であると同時に、国家法である宗教法人法によって設立されている法人であることにも留意しなければならない。すなわち、日蓮正宗は、その財産を所有し、維持運用し、業務及び事業を運営することに資するため宗教法人法により法人格を取得し法律上の能力が与えられているのであり(宗教法人法1条)、その限りにおいて法律的世俗的存在でもあって、所轄庁の認証を受けた規則(代表役員の任免は必要的記載事項である(同法12条1項5号)。)によって代表役員が選定されたか否かは、まさに法律的事項である。したがって、その選定の直接事実が教義、教理にかかわる宗教的儀式であるからといって、直ちに本件紛争そのものが法律上の争訟性を欠くとすることは適当ではない。第一審判決のように、本件を法律的事項でないとして司法権が及ばないとすると、宗教法人たる日蓮正宗は、代表役員の地位が司法上確定できないことになり、本来は法律的事項に関する紛争についても司法権による法の実現ができず、法人の財産の維持、運用、その業務及び事業の運営が困難になるであろう。それは、およそ裁判所が宗教団体の自主性を尊重することとは、全く反対の結果となる。そのような結果になることは、日顕が正当な代表役員であることを主張する者にとっても、それを否定する者にとっても不利益である。

[8] 以上のように、私は、多数意見が教義、整理や信仰の内容に干渉してはならないとする点にはもとより賛成であるが、そのことから直ちに本件を法律上の争訟でないとして第一審判決を支持したことに反対である。

[9] なお、本件につき、原審は、団体の構成員は、理事等の役員の任免に関与し得るものとされている場合には、特定の者の役員たる地位の存否を争う適格と法律上の利益とを有するが、役員等の任免に関与し得ない場合には、自己の権利義務又は直接自己にかかわる具体的法律関係の存否の問題を離れて、一般的に、特定の者につき、その役員たる地位の存否を争う適格及び法律上の利益を当然には有しないと解すべきであるとし、日蓮正宗の末寺の代表役員等である上告人らは、法主の任免に関与する機会を有しないから、日顕が日蓮正宗の代表役員及び管長たる地位にあるか否かを争う適格及び法律上の利益を有しないとして、本件訴えを却下している。
[10] しかしながら、上告人らは、原審の判示するとおり日蓮正宗の末寺の代表役員等の地位にある者であるところ、その地位の存否が日蓮正宗の管長の任免によることなどを考慮すれば、日顕が日蓮正宗の管長たる地位にあるか否かにつき、上告人らが法的にも重大な利害関係を有することは否定できない。したがって、上告人らは、日顕の管長たる地位の存否ひいては管長をもって充てられる日蓮正宗の代表役員たる地位の存否を争う適格及び法律上の利益を有するというべきである。これと異なる原審の判断を是認することはできない。

[11] 以上説示したところによれば、本件訴えは、これを不適法として却下すべきものではなく、日顕の代表役員及び管長の地位の存否について進んで本案判断をすべきものであるから、原判決を破棄し、第一審判決を取消して、本件を第一審に差し戻すのが相当であると考える。

(裁判長裁判官 佐藤庄市郎  裁判官 貞家克己  裁判官 園部逸夫  裁判官 可部恒雄  裁判官 大野正男)

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