研究内容

近年の成果
年報 2013年 2012年 2011年 2010年
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■神経特異的なムチン型糖鎖の合成反応と,糖鎖の機能解析

GalNAc-T遺伝子ファミリーと高い相同性を持つが,酵素活性が検出されていないWBSCR17の生化学的な性質を調べました.WBSCR17の細胞内局在性を,ヒトWBSCR17とGFPの融合タンパク質をHeLa細胞,Cos7細胞で発現させて調べたところ,融合タンパク質は他のGalNAc-Tと同様にcis-Golgiを中心とした細胞内膜系に多く発現していました.このことは,WBSCR17が糖転移酵素として機能する可能性を示唆しています.次に,Tn抗原,T抗原などを認識するレクチンを用いて,細胞染色,レクチンブロット解析,およびN-アジドアセチルガラクトサミン(GalNAz)を用いた糖鎖の代謝標識法を用いて糖鎖の解析を行いました.レクチンを用いた解析では,WBSCR17発現細胞とコントロール細胞間での違いは見られませんでしたが,代謝標識した糖タンパク質糖鎖をシュタウディンガー連結反応によりプローブを結合させて検出する実験では,WBSCR17発現細胞で発現が増加するバンドを検出しました.この結果は,WBSCR17が糖転移活性を持つことを示唆しています.

ゼブラフィッシュを用いた実験系では,WBSCR17の発現を抑制したときに見られる後脳領域での発生異常の原因を調べるために,WBSCR17発現抑制胚における後脳のマーカー分子の発現を分析しました.その結果,wnt1,rfngなどの後脳の境界の形成に関わる分子の発現パターンが消失あるいは乱れていることを見いだしました.さらに,特異的なアンチセンスモルホリノオリゴを用いてwnt1, rfngの発現抑制胚を作製したところ,WBSCR17抑制胚とよく似た表現型の異常を示したことから,WBSCR17はwnt1, rfngなどのシグナル系に関連している可能性が考えられました.

■α-dystroglycanのムチン型,およびO−Man型糖鎖に関する研究

この実験ではゼブラフィッシュの初期胚にFLAGタグを有するαDGを発現させます.その際,アンチセンスモルホリノオリゴを用いて特定のGalNAc-Tの発現を抑制して,どのアイソザイムがαDGのムチン型糖鎖生合成に関わっているかをスクリーニングします.現在は,組換αDGのコンストラクトを作製しました.これから本格的にこのテーマに取りかかります.

■細胞膜輸送におけるムチン型糖鎖合成酵素の機能解析

macropinocytosis

近年, HEK293T培養細胞を用いたゲノミクス解析により, WBSCR17がエンドサイトーシス経路を調節している可能性が報告されました. そこで新たに細胞生物学的手法を用いてWBSCR17の機能解析を行いました. その結果, (i)細胞内栄養状態の指標であるN-acetylglucosamineの濃度依存的にWBSCR17の発現量が増加すること, (ii) WBSCR17が液相エンドサイトーシスの一種であるマクロピノサイトーシス経路を負に制御していること, (iii)その調節メカニズムの破綻は膜タンパク質の輸送異常によるライソゾーム病様の症状を引き起こすという新たな知見を得ることができました. これらの結果はWBSCR17により形成されるムチン型糖鎖が, マクロピノサイトーシスを通じた細胞外分子の取り込みを制御することにより, 細胞内栄養状態のホメオスタシスの維持に関与することを示唆しています.