待命処分事件
控訴審判決

待命処分無効確認判定取消等請求事件
名古屋高等裁判所金沢支部
昭和37年10月17日 第1部 判決

控訴人 (原告) A
被控訴人(被告) 立山町長 外1名

■ 主 文
■ 事 実
■ 理 由


 本件控訴を棄却する。
 控訴費用は控訴人の負担とする。


 控訴代理人は、
原判決を取消す、
被控訴人町長に対し、第一次的に同町長が昭和30年6月1日なした控訴人に対する待命処分は無効であることを確認する、
予備的に同町長がなした右待命処分を取消す、
被控訴人公平委員会に対し、同委員会が昭和31年6月15日なした判定を取消す、
訴訟費用は第一、二審とも被控訴人等の負担とする
との判決を求め、
被控訴人等代理人は控訴棄却の判決を求めた。

[1] 当事者双方の事実上及び法律上の主張並びに証拠の提出援用認否は、次に記載するものの外原判決事実摘示のとおりであるからこれを引用する。
[2](一) 原判決事実摘示八の(二)のうち「同年4月6日国民健康保険業務再開のため採用された被告ら主張のC外7名」とあるを「同年4月6日国民健康保険業務再開のため採用されたという被告ら主張のC外7名」と訂正する。すなわち控訴人はC外7名が国民健康保険業務再開のため採用されたという被控訴人等の主張事実を否認する。右C外7名は国民健康保険業務拡張のため採用されたものではない。

[3](二) 被控訴人町長がなした本件待命処分の違法事由として次の主張を新たに附加する。
[4](イ) 控訴人は恩給受給権者でないのにかかわらず被控訴人町長は控訴人を恩給受給権者であるとして取扱つたのは違法である。
[5](ロ) 立山町条例第64号「立山町職員定数条例」によれば、町長の事務機関の職員は吏員98人、その他の職員12人計110人と限定されているのであるから、右定数を欠くときに始めて職員を採用することができるもので、条例を改正せずしては如何なる理由があつても定数を超過して吏員を新たに採用することができない。而して昭和30年4月6日立山町の吏員実在員は98名であるから、被控訴人町長はこれを超えてCを技術吏員に採用することができないわけである。またF外6名が雇に採用されたのは右条例第1条に規定するとおり雇は職員より除かれているものであるから採用し得たものであるが、右7名の者は欠員の生じない限り雇より事務吏員に新たに採用(被控訴人等は昇任なる言葉を用いている)することは絶体にできない。従つて吏員として採用しても無効である。仮に無効でなく違法なものであるとすればなおさら違法な人員超過を理由として控訴人に待命処分を命じても斯る処分は無効である。仮に無効でないとしても、C外7名を条例で定める定数を超えて違法に採用し、それがため立山町の吏員の定数を控訴人等が在職するがため超過することを理由として、すなわち違法なるC外7名の採用を前提として控訴人等10名が定数を超過すると称してなした本件待命処分もまた違法であるからその処分は当然取消さるべきである。若し取消さるべきものでないとすれば町長は自己の気に入らぬ者があるときは何時にても定数を超えて違法に新たに吏員を採用しその上で定数を超過するとの理由で自己の好まぬ吏員を待命に処することが容易にできることになり、この様なことは絶体に容認せらるべきものではない。

[6](三) 従つて本件待命処分並びに判定処分はいずれも違法であるから取消さるべきである。
[7](一) 控訴人の右(二)の(イ)の主張について、控訴人が恩給受給権者でないことは認める。しかし被控訴人町長は控訴人が恩給受給権者であることを理由として本件待命処分を行なつたものではない。

[8](二) 同(ロ)の主張事実中被控訴人等の従前の主張に反する部分は否認する。

[1] 当裁判所は原審が認定したとおり控訴人の被控訴人町長に対する本訴請求は理由なく、被控訴人公平委員会に対する訴を却下すべきものと判断する。そしてその理由は左記のとおり訂正附加する外は、原判決がその「理由」の部において説示するところと同様であるから、ここにこれを引用する。

[2](一) 原判決17枚目裏11、2行目に「原告主張の108名」とあるを「被告主張の108名」と訂正し、同24枚目裏末行から同25枚目表1行目に亘り「及び原告が恩給受給権者であること」とある記載部分を削除する。そして同18枚目表(3)の(イ)の部分(原判決理由欄第一の二の(二)、(3)の(イ)の部分)を
「被控訴人町長が昭和30年4月6日Cを技術吏員として、F、G、H、I、J、K及びL(以下F外6名という。)を雇として、それぞれ新規採用したことは当事者間に争がなく、原審(第1、2回)及び当審における証人Vの証言並びに原審における被控訴人町長Y本人尋問の結果によれば、右C及びF外6名は、立山町において昭和30年4月1日から同町全管内に国民健康保険事業を施行拡大するため、その要員として新規採用されたものであることが認められる。控訴人は右C外7名は国民健康保険業務拡張のため採用されたものでないと主張するが、右認定を動かすに足る証拠はない。」
と訂正する。

[3](二) 控訴人は恩給受給権者でないのにかかわらず被控訴人町長が控訴人を恩給受給権者であるとして取扱つたのは違法であると主張するが、被控訴人町長が本件待命処分を行なうに当り、控訴人を恩給受給権者であるとして取扱つたという事実はこれを認めるに足る証拠はない。成立に争のない甲第2号証の2(処分事実説明書)によれば、その第三「臨時待命発令の理由」中に「1、高令者(55才以上)のもの、2、恩給受給権者であること、その他を加味し、」云々と記載してあるが、これは本件待命の対象となつた控訴人を含む10名の者を選定した基準を記載したのであつて、控訴人を恩給受給権者と認めこれを理由としたものでないことは右記載につづき「その者が退職しても他の者を以て補い得るという立山町職員定数条例による過剰人員10名に対し」云々と記載してあること並びに当審における証人Yのこの点に関する証言に徴し窺い知ることができる。それ故控訴人の右違法の主張は理由がない。

[4](三) 次に控訴人は昭和30年4月6日立山町の技術吏員として採用されたCは同日現在における同町の吏員実在員98名を超えて採用した違法無効のものであり、また同日立山町の雇として採用されたF外6名の者は欠員の生じない限り雇より事務吏員に新たに採用することは絶体にできないのであるから、吏員として採用しても無効である旨主張するが、右Cの採用については、控訴人の右主張が地方公務員法第17条第1項違反の主張であろうと、はたまた「立山町職員定数条例」に定める職員の定数の範囲を超えるという意味で欠員がないのに採用したという違法の主張であろうと、いずれにしてもその理由がなく、右Cの採用については何等違法の点がないことは原判決においてすでに説示しているとおりである。そしてまた被控訴人町長が昭和30年4月6日立山町の雇として採用したF外6名を同年5月20日事務吏員に任用したこと、そして右任用が地方公務員法第17条第1項にいう昇任として同法条の適用を受ける関係上欠員のないのに職員を任命した点において、更にまた右任用(昇任)に当り競争試験又は選考の方法によらなかつたという点においてそれぞれ同法条第1、第4項に違背するものであるけれども、右違法の故をもつて右任用(昇任)が当然無効のものとは解し難いことも原判決の説示するとおりである。当審における控訴人援用の全証拠によるも右の判断を動かすに足りない。それ故控訴人のこの点に関する前示無効の主張は採用しない。(なお控訴人は被控訴人町長が昭和30年4月6日雇として採用したF外6名を同年5月20日事務吏員に任用したことを新たな採用であると主張しているが、仮に右任用が地方公務員法第17条第1項にいう採用の方法による任命であるとしても、同法条第1、第4項に違背し違法ではあるが当然無効のものとは解し難いとの前示判断に変りはない。)

[5](四) ところで、控訴人は仮にF外6名に対する昭和30年5月20日の前記任命(控訴人はF外6名の外Cの採用を加えて主張しているが、Cの採用については違法の点のないことは前示のとおりであるから以下F外6名の者の任命について判断する。)が無効でなく違法であるとすれば、違法な人員超過を理由として控訴人に待命処分を命じても斯る処分は無効である。仮に無効でないとしてもF外6名を条例で定める定数を超えて違法に任命し、これがため立山町の吏員の定数を控訴人等が在職するため超過することを理由として、すなわち違法なるF外6名の任命を前提として控訴人等10名が定数を超過すると称してなした本件待命処分もまた違法であり、その処分は当然取消さるべきものである旨主張する。然しながら任命権者のなす任命行為と臨時待命処分とは関連はあるとしても別個の目的ないし見地から別個の手続をもつて行なわれる別個の行政処分であるから、任命行為に違法の点があるとしても、臨時待命処分自体に違法がなければこれを無効とし、又は取消すことはできないものと解するを相当する。ところで被控訴人町長が昭和30年5月20日になした前記F外6名に対する任命行為は任命権者である同町長がその正当の権限に基いてなしたものであるから、その任命行為に違法の点があるとしてもそれが当然無効であるか又は違法を理由として取消されない限り、その任命行為は依然として有効のものとして取扱わなければならない。そうであるとすれば右F外6名の任命行為については前示のとおり違法の点はあるけれども当然無効のものではなく、又右違法を理由として取消されたという事実のない本件においては右F外6名の任命行為は依然として有効であつて,右7名の者は本件待命処分当時の立山町吏員の在職者といわなければならない。そうすれば本件待命処分のなされた昭和30年6月1日現在立山町における町長の事務機関の吏員として在職した者は右F外6名及び前記C並びに原判決説示のD及びBの10名を加え99名(同年5月31日付をもつて退職したU及び同日の臨時待命申出承認によつて同年6月1日から待命となつたM、N、O、P、Q、R、S、T以上9名を除く)であつて、職員定数条例に定める吏員の定数98名より結局1名の過員があることになるから、これを理由として被控訴人町長のなした本件待命処分自体には何等違法の点はないわけである。
[6] 尤も控訴人も主張するように任命権者である町長が特定の職員をその職から排除する目的で職員定数条例に定める定数を超えて違法に職員を採用し、定員超過の状態を作為した上でこれを前提として臨時待命条例に基きその特定の職員を臨時待命処分にしたような場合は、任命権者の正当な権限を越脱した違法な任命行為により故意に定員超過の状態を作為しこれを前提としてなした臨時待命処分であるから、このような待命処分は違法といわなければならないであろう。然し本件では被控訴人町長が特に控訴人をその職から排除する目的でF外6名の者若しくはCを昇任ないしは採用して定員超過の状態を作為したという事実は、これに添う原審及び当審での控訴本人の供述を除いては他にこれを肯認するに足る証拠はなく、そして控訴本人の右供述は前記証人Vの証言及び被控訴人町長Y本人尋問の結果に照らしにわかに措信採用することができない。それ故本件待命処分が前示の場合に当るものとしてこれを違法ということはできない。

[7] 以上の次第で、本件待命処分が無効であり、仮に無効でなくとも取消すべき違法があるとの控訴人の前示主張もまた理由なく採用することはできない。
[8] さすれば原判決は結局相当であり、本件控訴は理由がないからこれを棄却することとし、民事訴訟法第384条、第95条、第89条を適用して主文のとおり判決する。

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