岩沼市議会出席停止事件
控訴審判決

出席停止処分取消等請求控訴事件
仙台高等裁判所 平成30年(行コ)第10号
平成30年8月29日 第3民事部 判決

口頭弁論終結日 平成30年6月27日

控訴人 (原告) 大友健
同訴訟代理人弁護士 十河弘 畠山裕太 渡部雄介 下大澤優

被控訴人(被告) 岩沼市
(出席停止処分取消しの訴えにつき)
  処分行政庁 岩沼市議会
  被控訴人代表者兼処分行政庁代表者 岩沼市議会議長 B
(議員報酬等の支払を求める訴えにつき)
  被控訴人代表者市長 C
被控訴人訴訟代理人弁護士 阿部長 佐藤裕一 伊藤敬文 三橋要一郎 赤石圭裕 白戸祐丞

■ 主 文
■ 事 実 及び 理 由


1 原判決を取り消す。
2 本件を仙台地方裁判所に差し戻す。

 主文と同旨
[1] 本件は,岩沼市議会が,同市議会議員である控訴人の議会運営委員会における発言を理由として,平成28年第4回(同年に開催された定例会及び臨時会の通算回数を示す。以下同様)定例会(以下「9月定例会」という。)において,平成28年9月6日付けで同日から同月28日までの23日間の出席停止処分(以下「本件処分」という。)を行ったところ,控訴人において,本件処分が違憲,違法であると主張して,被控訴人(岩沼市)に対し,その取消しを求めるとともに,地方自治法203条並びに岩沼市における議会議員の議員報酬,費用弁償及び期末手当に関する条例(平成28年条例第39号による改正前のもの。以下「本件条例」という。)に基づき,本件処分によって減額された議員報酬27万8300円及びこれに対する支払期限の日の翌日である平成28年9月22日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求めた事案である。
[2] 原審が,本件処分の適否は司法審査の対象にならないとして本件各訴えをいずれも却下したため,これを不服とする控訴人が控訴した。
[3](1) 控訴人は,平成27年12月20日に実施された岩沼市議会議員選挙で当選した同市議会議員であり,同市議会の議員定数は,岩沼市議会議員の定数に関する条例(平成13年条例第14号)により18人と定められているところ,控訴人は,須藤功同市議会議員,植田美枝子同市議会議員(以下「植田議員」という。)とともに,同市議会において,「いわぬまアシスト」(以下「アシスト」という。)という会派を構成している。なお,岩沼市議会は,アシストに属する上記3名のほか,最大会派である「岩沼政策フォーラム」に属する議員11名と,会派に属しない議員4名とで構成されている。(甲1,8,弁論の全趣旨)
[4] 岩沼市議会の定例会は,岩沼市議会定例会の回数に関する条例(昭和31年条例第78号)により,毎年4回招集されることとされており(2条),会期は,会議規則(平成7年議会規則第1号,以下「会議規則」という。)により,毎会期の初めに議決で定めることとされている(4条1項)。平成28年第3回定例会(以下「6月定例会」という。)の会期は同年6月14日から同月23日までの10日間,9月定例会の会期は同年9月6日から同月28日までの23日間とそれぞれ決定された。その他,同年2月に招集された定例会及び同年12月に招集された定例会の会期は,それぞれ20日前後と10日前後であった。(甲2,6,8,12,弁論の全趣旨)
[5] 岩沼市議会では,地方自治法135条1項が定める4種類の懲罰のうち,一定期間の出席停止(同項3号)につき,会議規則により,出席停止期間は原則として会期を超えることができないと定められている(同規則154条)。
[6] 本件条例によって,岩沼市議会議員の報酬は月額36万3000円とされ(2条),出席停止の懲罰を受けた議員に係る議員報酬は,その出席停止の日数分を日割計算して出された額が減額されることになる(6条の2,3条3項)。

(2) 本件処分に至る経緯
[7] 植田議員は,海外渡航のため,平成28年4月25日に行われた岩沼市議会の教育民生常任委員会を欠席した。(甲2【5ないし7頁】)
[8] 岩沼市議会は,平成28年6月14日,6月定例会において,植田議員に対し,上記アの教育民生常任委員会の欠席について議決により陳謝の懲罰処分をし,植田議員は,懲罰特別委員会が作成した陳謝文を読み上げた。(甲2【14,15,20頁】)
[9] 控訴人は,6月定例会の会期中である平成28年6月21日,議会運営委員会(委員は控訴人を含む6名)において,上記イの植田議員が陳謝文を読み上げた行為に関し,「読み上げたのは,事実です。しかし,読み上げられた中身に書いてあることは,事実とは限りません。それから,仮に読み上げなければ,次の懲罰があります。こういうのを,政治的妥協といいます。政治的に妥協したんです。」との発言(以下「本件発言」という。)をした。(甲2【165頁】,3【12頁】)
s [10] 岩沼市議会は,6月定例会の最終日である平成28年6月23日,本件発言を問題として同月22日に提出された控訴人に対する懲罰動議を閉会中の継続審査とすることとし,閉会中である同年8月4日及び同月23日の2回にわたり岩沼市議会から付託を受けた懲罰特別委員会での会議を経た上,平成28年9月6日,同日招集された9月定例会において,控訴人に対し,本件発言について議決により23日間(9月定例会の全会期である,平成28年9月6日から同月28日までの間)の出席停止の懲罰処分をした(本件処分)。(甲2【165頁から167頁まで】,4から7まで,12,24)

[11](3) 被控訴人は,本件処分によって控訴人の議会への出席が停止されたことを受け,本件条例6条の2,同3条3項に基づき,平成28年9月21日,控訴人に対し,同月6日から同月28日までの23日間に相当する議員報酬27万8300円を減額し,住民税を控除した上で,議員報酬として7万1900円を支払った。なお,控訴人は,岩沼市議会議員を専業にしており,基本的に議員報酬により生計を立てている。(甲10の4,15,弁論の全趣旨)

[12](4) 控訴人は,平成28年12月12日,本件訴訟を提起した。(裁判所に顕著な事実)

[13] 争点及びこれに関する当事者の主張は,次のとおり補正するほかは,原判決の「事実及び理由」中の「第2 事案の概要」2に記載のとおりであるから,これを引用する。 [14] 原判決3頁26行目「出席停止処分について,」の後に「本件処分のように,」を加える。
[15](1) 裁判所は,憲法に特別の定めがある場合を除いて一切の法律上の争訟を裁判する権限を有するが(裁判所法3条1項),自律的な法規範をもつ社会ないし団体において,当該規範の実現を内部規律の問題として自治的措置に任せるのが相当である場合には,法律上の争訟に当たらず,司法審査の対象とはならないものと解される。
[16] そして,普通地方公共団体の議会は,憲法93条1項によってその設置が定められ,地方自治法によって,会議規則を設けなければならないことや(120条),同法及び会議規則等に違反した議員に対して,公開の議場における戒告及び陳謝,一定期間の出席停止並びに除名の各懲罰を科することができること(134条1項,135条1項)などが定められている自律的な法規範をもつ団体であるから,そこにおける法律上の係争については,一般市民法秩序と直接の関係を有しない内部的な問題にとどまる限り,その自主的,自律的な解決に委ねるのを適当とし,裁判所の司法審査の対象とはならないというべきである(最高裁昭和35年10月19日大法廷判決・民集14巻12号2633頁参照)。

[17](2) 本件各訴えは,いずれも,普通地方公共団体の議会による議員に対する出席停止の懲罰が違法であることを前提として主張するものであるところ,出席停止は,議員の身分の喪失に関する重大事項というべき除名と異なり,議会への出席を一定期間停止されるだけであって,議員としての活動そのものが制限されたり身分を奪われたりするものではないから,原則として,その適法性は一般市民法秩序と直接の関係を有しない内部的な問題にとどまるものといわなければならない。
[18] もっとも,地方自治法によれば,普通地方公共団体の議員は,当該地方公共団体の住民の選挙により選出され(11条,17条,18条),条例により定められた定数により普通地方公共団体の議会を構成し(89条,91条1項),条例で定められた回数招集される定例会及び必要がある場合にその事件に限り招集される臨時会において(102条),議案を提出したり,議決に加わったりすることで(112条,116条),条例を設け又は改廃したり,予算を定めたり,決算を認定するなどの事件を議決しなければならないとされているところ(96条),このような仕組みは,憲法が,地方公共団体の組織及び運営に関する事項は,地方自治の本旨に基づいて,法律でこれを定めるものとした上(92条),地方公共団体には法律の定めるところによりその議事機関として議会を設置し,地方公共団体の議会の議員等はその地方公共団体の住民が直接これを選挙するものとしていること(93条)を受けて定められた地方自治の根幹部分をなすものであり,これを担う議員の活動を実効あるものとするため,地方自治法は,普通地方公共団体はその議会の議員に対して議員報酬を支給しなければならないこととしているのであるから(203条1項),普通地方公共団体の議員は,少なくとも,議会の違法な手続によっては減額されることのない報酬請求権を有しているというべきである。そうすると,出席停止といえども,それにより議員報酬の減額につながるような場合には、その懲罰の適否の問題は,憲法及び法律が想定する一般市民法秩序と直接の関係を有するものとして裁判所の司法審査の対象となるというべきである。

[19](3) これを本件における出席停止の懲罰(本件処分)についてみると,前記前提事実のとおり,本件条例によって,岩沼市議会議員の報酬は月額36万3000円とされ,出席停止の懲罰を受けた議員に係る議員報酬は,その出席停止の日数分に相当する額が減額されることになっており,現に,控訴人に対する議員報酬も,本件処分を受けて,23日間に相当する27万8300円が減額されていることからすれば,本件処分の適法性という法律上の係争は,もはや議会の内部的な問題にとどまらず,一般市民法秩序と直接の関係を有するものであって,法律上の争訟に当たり,裁判所の司法審査の対象となるといわなければならない。

[20] 以上によると,本件各訴えについては,控訴人が主張する本件処分の違法性(本案の争点)について判断すべきであるところ,そのためには更に弁論を尽くす必要があると認められる(民訴法307条)。
[21] よって,本件各訴えを却下した原判決は不当であり,控訴人の控訴は理由があるから,原判決を取消し,本件を仙台地方裁判所に差し戻すこととして(民訴法307条本文),主文のとおり判決する。

  裁判長裁判官 市村弘  裁判官 島田英一郎  裁判官 大黒淳子

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