Galileo

ガリレオ通信

第4号

(April 1997)



【天文対話】
シカゴの韓国系アメリカ人
1995年の夏にわたしはアメリカへ資料収集に行ったが,ちょうど韓国の大統領 Kim Young Sam の訪米と重なった。中西部最大の日刊紙『シカゴ・トリビューン』(7月25日火曜日)は Kim 大統領のシカゴ訪問を写真いりで報じ,小さな説明文をつけていた (p. 3)。そこにはこうある。"Kim Young Sam, president of South Korea, arrived at O'Hare International Airport Monday, greeted by some in Chicago's 100,000-strong Korean-American community. Kim's two-day visit marks the first Chicago trip for a leader of that country." シカゴに10万人もの韓国系アメリカ人・コミュニティーがあるとは,これまで知らなかった。思えば,イリノイ大学にはたくさんの韓国人がいるし,街の料理屋にも韓国系の経営者が多い。旅に出ると発見することが多い。韓国人の日本人嫌いには,いささか辟易したが,よい友人も作ってきた。(う)

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【星界の報告】
★《1995年3月卒業》◆K.S.さん。帯広の測候所で「自然」と楽しくおつきあいしているようです。  ★《1996年3月卒業》◆大樹くんから年始状を頂きました。会計事務所を辞して,おとうさんの会社で春から働く予定とのこと。今度,経営戦略についてゼミナールで発表したいとの希望を寄せてくれました。  ◆ニュージーランドに遊学していた達郎くんの消息:その後どうなったのか案じておりましたが,3月17日のゼミナール卒業生の追い出しコンパに高橋君と一緒に出席してくれました。元気そのもので,英語も上達したようです。東京圏での就職を考えており,4月には東京のどこかに住んでいるはずです。  ◆由起さんから年賀状・近況報告を頂きました。昨年9月に前の仕事を辞めて,日本語教師になるべく現在頑張っているとのこと。「現実はなかなか厳しい世界です。経験がなければ仕事などないので,実際どうなるかわかりませんが,とても充実しています。……またかわったことがあったらご報告します。」 ◆K.さんから4月1日に葉書を頂き,驚いてしまいました。「前に御報告したとおり学校へ通っているのですが,今月でカリキュラムを終え,4月からはミャンマーへ行くことになりました。半年間ですが日本語教師として働いてきます。希望地での採用が決まり大変喜んでいるのですが,授業とその準備に追われる日々を考えると不安でもあり,また憂鬱でもあります。とりあえず全力で頑張るのみです。」どうぞ元気で。励ましの手紙を出して上げて下さい。ミャンマーでの勤務先:Myanmar Logos International Institute, No. 213/215 3F, Btahtaurg Pagoda Road, Pazundaung Towrship, Yangon, MYANMAR.

★《1997年3月卒業:上野ゼミナール学位授与者一覧》◆倫弘 「今西自然学と現代文明――生物全体社会の弁証法――」山本は,本論文を執筆するにあたり,みずから山登りやアウシュヴィッツ写真展の見学を重ねるなど,自己の経験を何よりも重んじ,そのような日々の経験の水位から今西自然学のエッセンスを細部に至るまで味わいつくし,かつ追体験しようと誠実に努力している。文章表現ならびに論文構成に苦しんだようだが,力作である。  ◆堀「日本の卸売業の現状と海外の動向 ―― 中央卸売市場を中心に――」 家業の中卸業について理論的にも認識を深めたいとの意図から本論文は執筆されている。原資料にアクセスできる立場にありながら実証性に乏しいのが悔やまれるが,手際よくまとめている。  ◆良介「日本人の集団性と産業資本主義社会における集団化」エーリッヒ・フロム『自由からの逃走』の議論にヒントを得て,日本人の集団心性を明らかにし,その点から産業資本主義の特徴に迫ろうとしている。さらなる研究が期待される。目下,大学院を目指して勉強中。  ◆良行「日本的経営における人事制度の新しい動向」自己の就職活動の体験から,日本企業の人事管理システムに関心を持ったという。この分野の広範な書籍を読破して,最新の動向について具体的に観察しようと務めている点を評価したい。  ◆なお,問題点として全員にいえることは,使用文献・資料が総じて月並みで準備不足が目立つことと,自説と引用との区別が明瞭でないことである。卒業論文はこれからさらに学ぶための一里塚であり,そのことを肝に銘じて,卒業とともに書を捨ててしまうことのないよう切に願う。

【青年海外協力隊】
 エティオピア滞在中の杉村寛さんから,アフリカの最高峰キリマンジャロ(5895m)に登頂したとのお手紙をいただきました。現地報告が添えられていましたので,紹介しましょう。
★昨年の12月14日より1月3日まで,任国外研修旅行でケニア,タンザニアを訪問していました。
 ケニア,タンザニアは,長い植民地時代の置きみやげでヨーロッパ文化が,エティオピアと比較してかなり発達しています。そして,以前にアフリカ各国を支配していた列強の国々は,過去に自分たちの蒔いた種を適当に刈り取りながら,合法的な形でのビジネスチャンスをうかがっています。
 ところで,エティオピア人の自慢話のひとつに「エティオピアはイタリアに侵略されたが,侵略されたのは短期間で,しかも敵の支配下にあったのは,アディスアベバと僅かな都市だけであった。そして,エティオピアは最終的に独立戦争でイタリアに勝って侵略者を追放した。だから私たちの国は実質的には侵略されておらず,独立を守りとうしたのだ」というのがあります。
 しかし,エティオピアは独立を勝ち取った故に,現在これほど貧しいのではないかと思えたりもします。貧しいながらも独自の文化や政治機構を維持して,それなりに円滑に社会生活を営んでいるのならよいのですが,決してそうではありません。内戦に継ぐ内戦で国は弱体化しており,森林破壊や国土の荒廃も,諸外国の影響というよりは,8割方はエティオピア自身の問題です。前の手紙で,エティオピア人は非常にプライドが高いと書きましたが,現在のエティオピア政府の状況は,プライドが高いだけの乞食です。
エティオピア在住の日本大使館職員に聞いた話ですが,エティオピア政府に対して「予算があるので,なにか買ってやるぞ」という言い方をすると,プイッと膨れて「そんなもんはいらん」と答えるそうです。ですから日本側は「私どものお金をあなたの国のために使わせて下さい」という言い方をしなければならないそうです。
 それでは,エティオピア人に,プライドの高さに見合った独立心があるかといえば,それは皆無です。エティオピアの組織で予算を組む仕事をしている日本人がよくこぼしています。「ドネーションばかり当てにしていて,何とか自分たちで赤字を減らそうとか,独立採算にしていこうとする気持ちが全然ない」と。これは私も職場の人を観察していて思うことです。
 エティオピア政府が,ドネーションばかり当てにするようになったことには,先進諸国の責任もあると思います。しかし,私が以前訪問したネパール,タイなどと比較して,エティオピア国民の依存心ははるかに高いように思われます。比較的アジア圏の人たちの方が,貧しいながらも,自分たちの力で何とかしようという心意気があるような気がしています。

【地球は回っている(1)】
 これから何回かにわたって,書物を紹介していく。とにかく読んでみればわかると思うが,これらの書物から必ずなんらかの知見を得るはずである。多くはわたしが大学生の頃に読んだものである。いずれも説明を要しないほど著名な書物ばかりなので,ほんの簡単な紹介にとどめる。★第一回目は,ルドルフ・イェーリング『権利のための闘争』(岩波文庫)★勇ましいのは表題だけではない。一般には法律学の古典と考えられているが,解釈法学的な形式論理・無駄話とは無縁である。個人の権利が侵害されるとは一体いかなることなのか,近代的人権論の基礎理論のさらに基礎を展開していると言ってもよい。しかし読者のほとんどは(わたしもそうなのだが)冒頭のシェイクスピア論の方に興味を引かれ,著者の議論に思わず引き込まれてしまうことであろう。なぜ,イェーリングは『ベニスの商人』のユダヤ人シャイロックの肩を持ち,美貌(に違いないと思うのだが)の裁判官ポーシャを批判するのか。一読あれ。 ★『ガリレオ通信』は住所のわかるゼミナール卒業生全員に送りました。諸君の近況をお伝えください。お身体大切に。「山登り日記」の続きは次号に掲載の予定です。


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