病院開設中止勧告事件
差戻後控訴審判決

勧告取消等請求控訴事件
名古屋高等裁判所金沢支部 平成19年(行コ)第18号
平成20年7月23日 判決

控訴人 (被告)   富山県知事
同訴訟代理人弁護士  林晃司
同訴訟復代理人弁護士 大石貴之
同指定代理人     荒見信一 石浦登 岩城隆純 八坂和明 松下愛里

被控訴人(原告)   X
同訴訟代理人弁護士  濱秀和 宇佐見方宏 宮崎良夫 熊谷吏夏 菅沼真 重隆憲

■ 主 文
■ 事 実 及び 理 由


1 本件控訴を棄却する。
2 控訴費用は控訴人の負担とする。

1 控訴人
(1) 原判決を取り消す。
(2) 被控訴人の請求を棄却する。

2 被控訴人
 主文第1項と同旨
[1] 本件は、被控訴人が、富山県高岡市内に病院の開設を計画し、平成9年3月6日付けで病院開設に係る医療法(平成9年法律第125号による改正前のもの。以下同じ。)7条1項の許可の申請(以下「本件申請」という。)を控訴人に対してしたところ、控訴人から、同年10月1日付けで、同法30条の7に基づき、本件申請に係る病院開設を中止するよう勧告(以下「本件勧告」という。)を受けたため、本件勧告は同条に反するもので違法である旨主張して、控訴人に対し、本件勧告の取消しを求めた訴訟の控訴審である。
[2] 原審は、被控訴人の請求を認容したため、これを不服とする控訴人が本件控訴を提起した。
[3] なお、同年12月16日付けで、控訴人が、本件申請について許可する旨の処分をすると共に、同日付けで、富山県厚生部長名で、「中止勧告にもかかわらず病院を開設した場合には、保険医療機関の指定の拒否をすることとされているので、念のため申し添える」旨の記載(以下「本件通告部分」という。)がされた文書が被控訴人に送付されたものであるところ、被控訴人は、当初、本件勧告の取消しと共に、本件通告部分の取消しも求めた。差戻前の1審(富山地方裁判所平成10年(行ウ)第3号)及び控訴審(名古屋高等裁判所金沢支部平成13年(行コ)第18号)は、本件勧告及び本件通告部分は、いずれも行政処分に当たらないとして、訴えを却下すべきものとしたところ、上告審(最高裁判所平成14年(行ヒ)第207号)は、本件通告部分の取消しを求める訴えは却下すべきとしたが、本件勧告には行政処分性が認められるとして、本件勧告の取消請求に関する部分につき、控訴審判決を破棄し、1審判決を取消して、富山地方裁判所に差し戻した。したがって、本件審理の対象となるのは、本件勧告の取消請求のみである。
[4] 略語は、原判決に準ずるものとする。
[5] 次のとおり補正するほか、原判決の「事実及び理由」欄の第2の2に記載のとおりであるから、これを引用する。
[6] 原判決7頁6ないし11行目を次のとおり改め、同頁12行目冒頭の「オ」を「カ」と改める。
[7] 同年5月30日に高岡地域医療推進対策協議会が開催され、同協議会において、被控訴人に病床を配分しないものとされた。

[8] 被控訴人は、同年6月8日、本件病院開設の許可申請書(病床数100床)を高岡保健所長宛に郵送した(4回目)。
[9] 富山県厚生部医務課長B(以下「B」という。)は、同申請書を被控訴人に返戻した。」
[10] 4項のとおり当審における当事者の補充主張を付加するほか、原判決の「事実及び理由」欄の第2の3及び4に記載のとおりであるから、これを引用する。
ア 申請書の返戻について
[11] 控訴人は、1回目の申請書が提出された時点から、申請について応答すべき義務があると理解しており、実際に申請に対する審査をしていた。控訴人は、上記審査を行う一方で、行政指導として、申請書の不備を指摘して申請書の返戻という事実行為を行っていたものであり、申請に対する審査・応答を拒否したわけではない。
[12] 具体的には、申請書の不備の指摘は、申請書を審査しなければできないことであるが、控訴人は、申請書の返戻に際し、一貫してその不備を書面で指摘しており、控訴人が申請書の受付や審査を拒否していないことが明らかである。なお、控訴人は、被控訴人から提出された申請書を複写して写しを保管しており、いつでもその内容を確認できる状況であった。

イ 病床配分について
[13] 控訴人は、従前から、すべての申請者に対して事前協議を求めていたため、被控訴人以外の病院開設等予定者は、上記運用に従って、申請を控えていた。控訴人が、申請を行っている被控訴人と正式な申請をしていない他の病院開設等予定者とを公平に扱って病床配分したのは、上記事情によるものであり、相当である。
[14] 病床配分に当たり、被控訴人の意見聴取等の機会がなかったのは、被控訴人による申請書の提出後、控訴人と被控訴人とが何度も協議を重ねていたことから、他の病院のように、病床数の調整のためのヒアリングを実施する必要性がなかったためであり、相当である。
[15] 厚生部医務課の担当者が他の病院開設等予定者に連絡して計画書の提出を促したのは、控訴人が、従前からの上記運用に従い、他の病院開設等予定者に申請を自粛してもらい、不足病床数が生じた場合は別途連絡する旨伝えていたためである。
[16] 控訴人は、病床配分についていわゆる先願主義的な運用を行っておらず、地域において必要な医療を確保するという観点から病床を配分しているから、被控訴人が他の病院開設等予定者よりも先に協議や申請をしたにもかかわらず病床配分を受けなかったからといって、被控訴人を不公平・不利益に扱ったものではない。
[17] 医療法は、同法に適合する病院の開設許可申請に対する許可を義務づける一方で、医療計画の達成のため申請の翻意を促す勧告を行うことを求めるという相反する行為を都道府県知事に課している。このため、控訴人は、病床数の調整を図る場として事前協議という手法を採用していたものである。

ウ 手続的瑕疵が本件勧告の取消原因にならないことについて
[18] 病床調整、病床配分は、医療法30条の7に基づく勧告を回避するために行われる行政指導にすぎず、その結果も事実上のものにすぎず、それ自体が、当然に医療法30条の7に基づく勧告のための手続要件をなすものではない。また、病床調整、病床配分の手続に瑕疵があったとしても、それが、医療法上定められた富山県医療審議会の意見形成に影響を及ぼしたということもない。したがって、病床調整、病床配分の手続的瑕疵は、本件勧告の取消原因とはならない。
[19] 本件申請についての審査が完了した平成9年8月時点においては、本件申請に係る病院の開設により必要病床数を超えることになるのは確実であったため、病床調整等の行政指導が必要であり、この行政指導に協力が得られない場合は、医療法30条の7に基づく勧告を行う必要があり、さらに、他の病院開設等予定者に連絡して計画書の提出を促すなどの必要があった。したがって、本件申請についての審査が完了したからといって、直ちに本件申請に対する許可をすることができたわけではない。なお、申請から許可までには、少なくとも約11か月間の期間を要すると考えるべきである。
[20] 本件において、被控訴人が病床削減の行政指導に対する不協力意思を真摯かつ明確に表明した時点は、本件勧告が行われた後である平成9年10月3日と考えるべきであるから、それまでの間の行政指導を理由とする応答の留保は違法ではない。また、仮に、不協力意思の表明が上記時点よりも前にされていたとしても、医療法特有の事情を考慮すれば、本件勧告が行われるまでの間、行政指導を理由とする応答の留保が許される特段の事情があるというべきである。
[21] 仮に、申請書の返戻が行われなかったとしても、第1回協議会及び第2回協議会の病床調整の内容に影響を与えることはなかったから、本件勧告と異なる判断が行われたとは考えられない。

エ 本件申請とそれ以前の申請の関係について
[22] 病床数を400とする本件申請とそれ以前に提出されていた病床数を100とする5回の各申請とは、申請の経過や申請内容の性質を考慮すれば、全く別個のものであり、被控訴人は、控訴人の行政指導に従い、100床の申請を取り下げた上で、改めて400床で本件申請を行ったと考えるほかない。しかるところ、本件勧告は、本件申請に対して行われたものであるから、本件申請以前の申請がされた時点からの審査期間を基準として、本件勧告の違法性を判断すべきではない。
[23] 控訴人は、執拗に被控訴人の申請を拒もうとしており、感情的なまでに申請書の受取りそのものを拒んでいたのであるから、控訴人が被控訴人の申請について実質審査など全くしていなかったことは明らかである。

[24] 本件において控訴人が行ったのは、事前協議であり、病床調整ではない。本来、申請がされた後に、透明、公正な手続で、病床配分の合理性を考慮しながら病床調整をすべきであって、事前協議という不透明、不公正な手法は許されない。

[25] 控訴人が行政手続法に従って公平、公正に被控訴人の病院開設許可申請に応じていたならば、既存病床数が必要病床数を超えるという、医療法30条の7所定の勧告の実体的要件が充足されることはなかったから、行政手続法7条違反という手続の瑕疵が、まさに勧告の実体的要件に影響を及ぼすことは明らかである。
[26] 後記エのとおり、本件における6回の申請は、実質的に同一であるから、本件申請の審査期間としては、1か月間もあれば十分である。
[27] 控訴人は、申請書を受け取らず、受付を拒み、全く申請内容の実質審査を行っていないのであるから、そもそも、行政指導を理由とする応答の留保が問題となる場面ではない。

[28] 本件における6回の申請は、その実質的内容が同一のものであり、申請の実体は1つであると考えるべきである。病院開設許可申請は、許可申請者、病院開設場所により特定されるものであり、この点で6回の申請に相違はない。申請病床数については、6回目の申請(本件申請)は400床であるものの、病床数を100床とする従前の申請書でも、本件申請書でも,病院の建物は同じであるから、この点からも、上記のように考えるべきである。
[29] 当裁判所も、被控訴人の請求を認容すべきであると判断する。その理由は、次のとおり原判決を補正し、2項のとおり当審における控訴人の補充主張に対する判断を付加するほかは、原判決の「事実及び理由」欄の第3に記載のとおりであるから、これを引用する。
[30](1) 原判決30頁23行目の「10月3日」を「10月1日」と改める。

[31](2) 原判決32頁1行目から33頁18行目までを次のとおり改める。
イ 違法な返戻行為の本件勧告への影響
[32](ア) 前記認定のとおり、控訴人の申請書の各返戻行為はいずれも行政手続法7条に違反するものであり、控訴人は、被控訴人から1回目申請書が提出された時点から、申請について審査し、応答すべき義務があったものである(そのような義務が存すること自体は、被控訴人も当審において自認している。)。
[33] そして、1回目申請書ないし5回目申請書は、許可申請者(開設者)、病院の名称、病院開設場所、診療を行おうとする科目、開設の目的及び維持の方法、申請病床種別及び病床数(100床)がすべて同一であるし、本件申請に係る6回目申請書も、申請病床数(400床)が異なるものの、その他の上記各事項は、1回目申請書ないし5回目申請書と同一であるところ(〔証拠略〕、弁論の全趣旨)、6回目申請書において病床数を400としたのは、これまで新設病床はおおむね100床とする富山県の許可指針に従って100床としていたが、上記基準に法的根拠がないことを濱弁護士らから教示されたためであることは、前記認定のとおりであるから、以上の事情によれば、1回目申請書ないし6回目申請書は、実質的には同一の内容のものと認められ、単に、控訴人が違法な返戻行為を繰り返したことに対応して6回の申請が繰り返されたものにすぎないものというべきである(控訴人は、被控訴人が控訴人の行政指導に従って100床の申請を取り下げて改めて本件申請を行ったと考えるべきである旨主張するが、上記判示に照らし採用できない。)。
[34] しかるところ、高岡医療圏においては、1回目申請書が提出された平成8年2月2日より約半年後の平成8年8月時点でも、271床の不足病床数があり、同年10月時点になっても、252床の不足病床数があったのであり、高岡医療圏の既存病床数が必要病床数に達し、不足病床数が0床となったのは、平成9年9月30日に至ってからなのである。
[35] そうすると、本件申請と実質的に同一の申請である1回目ないし5回目申請書の提出に対し、控訴人が行政手続法7条に従って遅滞なく審査、応答していれば、少なくとも本件勧告のように病院開設の中止を勧告されることはなかったというべきである。
[36](イ) 本件申請の具体的な審査手続についてみても、控訴人が、被控訴人から1回目申請書が提出された平成8年2月2日時点(本件申請がされるより1年1月以上も前である。)以降、1回目申請書ないし5回目申請書に係る各申請について審査義務を果たしていれば、上記各申請と実質的に同一の内容である本件申請についても、実際の審査よりも大幅に短かい期間で審査を完了し、応答できたことは明らかである。
[37] また、控訴人は、平成9年3月7日に、本件申請に係る6回目申請書が提出された後も、同年4月9日に違法な返戻を繰り返し、実質的な審査を行わなかったものであり、同月11日に被控訴人から、本件申請に対して処分をしないことが違法であるとの確認を求める訴訟(別件違法確認訴訟)を提起された後である同年5月16日になって初めて、被控訴人に対し、行政手続法7条に基づき補正を求める書面を送付し、その後、確認事項についての照会、第1回ヒアリング及び第2回ヒアリング等の具体的な審査手続を開始したものである。したがって、控訴人が、本件申請について、違法な返戻を行うことなく、当初から、別件違法確認訴訟が提起された後のような対応を行っていれば、少なくとも、本件申請時(平成9年3月7日)から別件違法確認訴訟提起時(同年4月11日)までの1か月以上の期間が無駄に費やされることはなかったはずである。
[38] 高岡医療圏の既存病床数が必要病床数に達し、不足病床数が0床となったのは、平成9年9月30日であり(それ以前の時点では、103床の不足病床数があった。)、本件申請がされた平成9年3月7日から7か月近くが経過しているが、上記の事情を考慮すれば、控訴人の違法な返戻行為がなければ、本件申請について、このように審査が遅延することは考えられないから、そうすると、病床を400床とする本件申請に対し、申請病床数の削減を勧告されることはあっても、病院開設の中止を勧告する本件勧告がされることはなかったものというべきである。
[39] なお、前記に認定・説示したとおり、高岡地域医療推進対策協議会を開催して行った病床調整、病床配分は飽くまで行政指導にすぎないから、同協議会において既に病床配分が行われていたとしても、そのことが医療法30条の7の規定に基づく勧告の要件に影響を与えるものではない。

ウ 不公平・不公正な取扱いの本件勧告への影響
[40] 前記認定のとおり、控訴人は、平成9年9月11日に開催された高岡地域医療推進対策協議会(第2回協議会)に先立ち、厚生部医務課の担当者が被控訴人以外の他の病院開設等予定者らに連絡して計画書の提出を促した上、これらの者から正式な申請がされていないにもかかわらず、第2回協議会を経て、残された不足病床数すべてをこれらの者に配分することとする一方、被控訴人に対しては、その意見聴取等の機会もないまま、病床配分をしないこととするなど、被控訴人に対する不公平・不公正な取扱いを行ったものであり、その後、控訴人は、上記病床配分を受けて、同月22日、富山県医療審議会に対し、本件申請について医療法30条の7に基づく中止勧告をすることにつき諮問し、同月26日開催された同審議会により中止勧告が適当である旨の答申を受けて、同年10月1日、本件勧告を行ったものである。
[41] 上記経過によれば、控訴人の被控訴人に対する上記不公平・不公正な取扱いが本件勧告の直接の前提となっていることは明らかであり、上記不公平・不公正な取扱いがなければ、本件勧告もなされなかったものというべきである。
[42] なお、前記認定のとおり、高岡地域医療推進対策協議会における病床調整、病床配分には、法的根拠はなく、厚生部医務課による被控訴人に対する行政指導として行われたものであるが、このことは、上記認定を何ら左右しない。

エ まとめ
[43] したがって、本件においては、前記認定の手続的瑕疵が結果に影響を及ぼすことが明らかであるから、上記手続的瑕疵は本件勧告の取消原因となるものというべきである。」
[44] 控訴人は、1回目の申請書が提出された時点から、申請に対する審査を実際に行っており、具体的には、申請書の返戻に際し、一貫してその不備を書面で指摘しているから、控訴人が申請書の受付や審査を拒否していないことが明らかである旨主張する。
[45] しかしながら、前記1で補正して引用した原判決の認定説示によれば、控訴人は、6回にわたって被控訴人から提出された申請書の返戻行為を執拗に繰り返しており、1回目から5回目までの申請時には、返戻の理由として、地元自治体及び郡市医師会の意見書の添付がないことが明示されているほか、厚生部医務課担当者が、1回目の申請後には、「地元の医師会・自治体の了解を得る、という前提ならば、相談に応じたい。」、「(医師会・自治体が)反対意見で許可した事例はない。」などと述べ、3回目の申請後には、「(申請書を)もう郵送しないでもらいたい。書類の問題ではなく事前協議をしてもらいたい。」と述べ、4回目の申請後には、「今までの流れ、状況から見て、保健・医療・福祉の連携に不安があるので、先生のところの計画はやめてほしいとお願い申し上げたい。」、「電話した矢先に、申請書を送付してきたということは不愉快な話である。配達証明で保健所に送りつけるというのは憤慨である。本当に、富山の医療を支えるという気ならば、何回も何十回でも話合いをするべきで、申請書を送りつけてくるのは、道義上、納得できない。今後はやめてほしい。今回の申請書は持ち帰ってほしい。」、「最終的に同意書が取れればよい。ただし、これは重要なポイントである。病院の計画を持ってくる時には、事前に市町村や医師会に行って、感触をみるのが普通だろう。」などと述べるなどしているのである。
[46] そして、控訴人は、平成9年3月7日に、本件申請に係る6回目申請書が提出された後も、返戻を繰り返し、同年4月11日に被控訴人から、本件申請に対して処分をしないことが違法であるとの確認を求める訴訟(別件違法確認訴訟)を提起された後である同年5月16日になって初めて、被控訴人に対し、行政手続法7条に基づき補正を求める書面を送付し、その後、確認事項についての照会、第1回ヒアリング、第2回ヒアリング等の具体的な審査手続を開始したものである。
[47] 上記事実に鑑みれば、控訴人は、地元の医師会・自治体の同意の存在が申請の必要不可欠な前提となるとの、自らの法的根拠のない見解に固執し、被控訴人からの申請書の受理さえ執拗に拒んでいたのであり、ごく形式的な記載の不備の指摘を除いては、平成9年4月11日に別件違法確認訴訟を提起されるまでは、被控訴人からの各申請の実質的な審査を拒否していたことは明らかである。したがって、控訴人の上記主張は採用できない。
[48] 控訴人は、① 申請を行っている被控訴人と正式な申請をしていない他の病院開設等予定者とを公平に扱って病床配分したのは、正式な申請をしていない他の病院開設等予定者が控訴人の従前の運用に従って申請を控えていたためであるから、上記取扱いは相当である、② 病床配分に当たり、被控訴人の意見聴取等の機会がなかったのは、被控訴人による申請書の提出後、控訴人と被控訴人とが何度も協議を重ねていたため、ヒアリングを実施する必要性がなかったためである、③ 担当者が他の病院開設等予定者に連絡して計画書の提出を促したのは、従前の運用に従って申請を自粛していた他の病院開設等予定者に、不足病床数が生じた場合は別途連絡する旨伝えていたためである、④ 病床配分についてはいわゆる先願主義的な運用を行っていないから、被控訴人が他の病院開設等予定者よりも先に協議や申請をしたにもかかわらず病床配分を受けなかったからといって、被控訴人を不公平・不利益に扱ったものではない旨を主張する。
[49] しかしながら、前記1で補正して引用した原判決の説示及び上記(1)の説示のとおり、控訴人は、被控訴人については、被控訴人から申請書の提出を6回にわたって受けながら、地元の医師会・自治体の同意の存在が申請の必要不可欠な前提となるとの、自らの法的根拠のない見解に固執し、被控訴人からの申請書の受理さえ拒んで執拗に返戻行為を繰り返し、ごく形式的な記載の不備の指摘を除いては、平成9年4月11日に別件違法確認訴訟を提起されるまでは、被控訴人からの各申請の実質的な審査を拒否し、2回にわたる高岡地域医療推進対策協議会において、被控訴人の意見聴取等の機会もないまま、被控訴人に対して病床配分をしないこととする一方、他の病院開設等予定者については、厚生部医務課の担当者が自ら連絡して計画書の提出を促すなどし、いまだ開設許可等の正式な申請がされていないにもかかわらず、2回にわたる高岡地域医療推進対策協議会において、それぞれ当時の不足病床数全てを配分することとしたものであり、このような経緯に照らせば、控訴人が被控訴人を他の病院開設等予定者と比較して不公平・不公正に取り扱ったことは明らかである。したがって、控訴人の上記主張も採用できない。
[50] 控訴人は、病床調整、病床配分は行政指導にすぎず、医療法30条の7に基づく勧告のための手続要件でもなく、その手続に瑕疵があったとしてもそれが富山県医療審議会の意見形成に影響を及ぼしたこともないから、病床調整、病床配分の手続的瑕疵は、本件勧告の取消原因とはならない旨主張する。
[51] しかしながら、前記1で補正して引用した原判決の説示のとおり、控訴人は、平成9年9月11日に開催された高岡地域医療推進対策協議会(第2回協議会)に際して、被控訴人を不公平・不公正に取り扱って、被控訴人に病床配分をしないこととしたものであり、その後、控訴人は、上記病床配分を受けて、同月22日、富山県医療審議会に対し、本件申請について医療法30条の7に基づく中止勧告をすることにつき諮問し、同月26日開催された同審議会により中止勧告が適当である旨の答申を受けて、同年10月1日、本件勧告を行ったものであるから、上記経過に照らせば、特に第2回協議会に際しての控訴人の被控訴人に対する不公平・不公正な取扱いが本件勧告の直接の前提となっていることは明らかであり、上記不公平・不公正な取扱いがなければ、本件勧告もなされなかったものというべきである。したがって、控訴人の上記主張も採用できない。

[52] 控訴人は、被控訴人が病床削減の行政指導に対する不協力意思を真摯かつ明確に表明した時点は、本件勧告が行われた後である平成9年10月3日であるから、それまでの間の行政指導を理由とする応答の留保は違法ではないし、また、仮に不協力意思の表明が上記時点より前であったとしても、医療法特有の事情を考慮すれば、本件勧告が行われるまでの間、行政指導を理由とする応答の留保が許される特段の事情があるというべきである旨主張する。
[53] しかしながら、そもそも、控訴人が上記主張に関して引用する最高裁判決(最高裁昭和60年7月16日第3小法廷判決・民集39巻5号989頁)は、建築確認申請をした建築主が、同申請に関わる建築物の建築計画をめぐって生じた付近住民との紛争につき関係機関から話合いによって解決するようにとの行政指導を受け、これに応じて住民と協議を始めた場合でも、その後、建築主事に対し上記申請に対する処分が留保されたままでは行政指導に協力できない旨の意思を真摯かつ明確に表明して当該申請に対し直ちに応答すべきことを求めたときは、行政指導に対する建築主の不協力が社会通念上正義の観念に反するといえるような特段の事情が存在しない限り、行政指導が行われているとの理由だけで上記申請に対する処分を留保することは、国家賠償法1条1項所定の違法な行為となる旨判示したものであって、本件のように、行政庁において申請書の受理さえ拒否して申請書の返戻行為を執拗に繰り返したような事案ではないから、本件とは事案を異にするものであり、控訴人の上記主張はその前提を欠く。
[54] なお、本件においては、遅くとも、被控訴人が別件違法確認訴訟を提起した平成9年4月11日の時点において、被控訴人が、申請に対する処分が留保されたままでは行政指導に協力できない旨の意思を真摯かつ明確に表明していることは明らかである。また,本件において、行政指導に対する被控訴人の不協力が社会通念上正義の観念に反するといえるような特段の事情が存在するとも到底認められない。
[55] したがって、控訴人の上記主張も採用できない。

[56] 控訴人は、仮に申請書の返戻が行われなかったとしても、第1回協議会及び第2回協議会の病床調整の内容に影響を与えることはなかったから、本件勧告と異なる判断が行われたとは考えられない旨主張する。
[57] しかしながら、控訴人自身が自認するとおり、第1回協議会及び第2回協議会における病床調整は、厚生部医務課による被控訴人に対する行政指導として行われたものであるから、申請書の返戻が結果に影響を与えるか否かを検討するに当たっては、上記病床調整への影響を独立に検討するのではなく、本件勧告への影響を検討すべきである。しかるところ、前記1で補正して引用した原判決の説示のとおり、高岡医療圏においては、1回目申請書が提出された平成8年2月2日より約半年後の平成8年8月時点でも、271床の不足病床数があり、同年10月時点になっても、252床の不足病床数があったのであり、高岡医療圏の既存病床数が必要病床数に達し、不足病床数が0床となったのは、平成9年9月30日に至ってからであるため、本件申請と実質的に同一の申請である1回目ないし5回目申請書の提出に対し、控訴人が行政手続法7条に従って遅滞なく審査、応答していれば、少なくとも本件勧告のように病院開設の中止が勧告されることはなかったというべきであるから、控訴人による申請書の返戻が本件勧告に影響するものであることは明らかである。したがって、控訴人の上記主張も採用できない。
[58] なお、第1回協議会及び第2回協議会の病床調整が被控訴人を不公平・不公正に取り扱ってされたものであり、このことが本件勧告に影響を与えていることは、上記アのとおりである。
[59] 以上によれば、原判決は相当であり、本件控訴は理由がないから、これを棄却することとし、主文のとおり判決する。

  裁判長裁判官 渡辺修明  裁判官 沖中康人  裁判官 桃崎剛

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