福間町公害防止協定事件
上告審判決

産業廃棄物最終処分場使用差止請求事件
最高裁判所 平成19年(受)第1163号
平成21年7月10日 第二小法廷 判決

■ 主 文
■ 理 由


 原判決を破棄する。
 本件を福岡高等裁判所に差し戻す。

[1] 本件は,旧福間町(以下「福間町」という。)の地位を合併により承継した上告人が,福間町の区域内にあった第1審判決別紙物件目録記載の各土地(以下「本件土地」と総称する。)に産業廃棄物の最終処分場(以下「本件処分場」という。)を設置している被上告人に対し,福間町と被上告人との間の公害防止協定で定められた本件処分場の使用期限が経過したと主張し,同協定に基づく義務の履行として,本件土地を本件処分場として使用することの差止めを求める事案である。
[2] 被上告人は,(a)上記協定中の本件処分場の使用期限に関する定めは,被上告人の自由な意思に基づくものではなく,また,その事業活動等を著しく制限するものであって,公序良俗に反する,(b)上記の定めは,強行法規である廃棄物の処理及び清掃に関する法律(以下「廃棄物処理法」という。)に違反するなどと主張して,これを争っている。

[3] 原審の確定した事実関係等の概要は,次のとおりである。
[4](1)ア 被上告人は,福岡県知事から廃棄物処理法に基づく産業廃棄物処分業の許可を受けている者である。
[5] 福岡県内にあった福間町と旧津屋崎町は,平成17年1月24日に合併して上告人となり,上告人が福間町の地位を承継した。
[6](2) 被上告人は,平成元年1月ころ,廃棄物処理法(平成3年法律第95号による改正前のもの)15条1項に従い,同法にいう産業廃棄物処理施設(以下「処理施設」という。)である本件処分場を設置する旨を福岡県知事に届け出て,これを設置し,その使用を開始した。同項は,平成3年法律第95号により,処理施設の設置については知事の許可を要するものと改正され,被上告人は,平成3年法律第95号附則5条1項により,本件処分場の設置について福岡県知事の許可を受けたものとみなされた。
[7](3)ア 被上告人は,平成7年7月26日,福間町との間で,本件処分場についての公害防止協定(以下「旧協定」という。)を締結した。
[8] 旧協定は,前文において,処理施設の概要として,本件処分場の設置場所を本件土地と定め,施設の規模(面積,容量)等を定めるとともに,その使用期限を「平成15年12月31日まで。ただし,それ以前に…埋立て容量…に達した場合にはその期日までとする。」と定め,12条において,被上告人は上記期限を超えて産業廃棄物の処分を行ってはならない旨を定めていた(以下,上記前文中の本件処分場の使用期限を定める部分と12条の定めを併せて「旧期限条項」という。)。
[9] 被上告人は,平成7年9月13日,福岡県知事に対し,本件処分場につき,施設の規模を従来よりも拡張する旨の処理施設の変更許可申請をし,同年10月13日付けでその許可を受けた。
[10](4)ア 被上告人は,平成10年1月9日,福岡県知事に対し,本件処分場につき,施設の規模を更に拡張する旨の処理施設の変更許可申請をし,同年3月9日付けでその許可を受けた。
[11] 上記許可に係る施設の規模が,旧協定において定められていたそれを上回るものであったことから,被上告人は,平成10年9月22日,福間町との間で,本件処分場につき,改めて公害防止協定(以下「本件協定」という。)を締結した。本件協定は,前文中の施設の規模の定めを上記許可に沿うように改めたものであり,その内容は,付随的な事項に関する若干の条項が加えられた以外は,旧協定と異なるところはない(以下,本件協定中の旧期限条項と同内容の定めを「本件期限条項」という。)。
[12](5) 被上告人は,現在も,本件土地に設置した本件処分場を使用している。
[13](6) 旧協定が締結された当時の福岡県産業廃棄物処理施設の設置に係る紛争の予防及び調整に関する条例(平成2年福岡県条例第20号。平成7年福岡県条例第47号による改正前のもの。以下,この改正の前後を通じて「本件条例」という。)は,処理施設の設置に関する紛争の予防に係る手続等を定めるために制定されたものであり,その15条は,住民又は市町村の長が,処理施設の設置者との間において,生活環境の保全のために必要な事項を内容とする協定を締結しようとするときは,知事がその内容について必要な助言を行うものとする旨定めている。本件条例の上記のような趣旨,内容は,上記の平成7年の改正後においても変更されていない。

[14] 原審は,上記事実関係等の下において,次のとおり判断し,上告人の請求を棄却した。
[15](1) 廃棄物処理法は,産業廃棄物の処分業等の許可並びに処理施設の設置及び変更の許可の権限や,処理施設に対する監視権限等を知事にゆだねている。旧期限条項が法的拘束力を有するとすれば,本件処分場に係る福岡県知事の許可に期限を付するか,その取消しの時期を予定するに等しいこととなるが,そのような事柄は知事の専権というべきであり,旧期限条項は,同法の趣旨に沿わない。
[16](2) また,旧協定に旧期限条項のような知事の許可の本質的な部分にかかわる条項が盛り込まれ,それによって上記許可を変容させるというようなことは,本件条例15条が予定する協定の基本的な性格及び目的から逸脱するというべきである。したがって,旧期限条項は,同条が予定する協定の内容としてふさわしくない。
[17](3) 以上からすれば,旧期限条項及びこれと同旨の定めである本件期限条項に法的拘束力を認めることはできない。

[18] しかしながら,原審の上記判断は,是認することができない。その理由は,次のとおりである。
[19](1) 旧協定が締結された当時の廃棄物処理法(平成9年法律第85号による改正前のもの。以下,単に「廃棄物処理法」というときは,同改正前のものをいう。)は,廃棄物の排出の抑制,適正な再生,処分等を行い,生活環境を清潔にすることによって,生活環境の保全及び公衆衛生の向上を図ることを目的とし(1条),その目的を達成するために廃棄物の処理に関する規制等を定めるものである。そして,同法は,産業廃棄物の処分を業として行おうとする者は,当該業を行おうとする区域を管轄する都道府県知事の許可を受けなければならないと定めるとともに(14条4項),知事は,所定の要件に適合していると認めるときでなければ同許可をしてはならず(14条6項),また,同許可を受けた者(以下「処分業者」という。)が同法に違反する行為をしたときなどには,同許可を取り消し,又は期間を定めてその事業の全部若しくは一部の停止を命ずることができると定めている(14条の3において準用する7条の3)。さらに,同法は,処理施設を設置しようとする者は,当該施設を設置しようとする地を管轄する都道府県知事の許可を受けなければならないと定めるとともに(15条1項),知事は,所定の要件に適合していると認めるときでなければ同許可をしてはならず(15条2項),また,同許可に係る処理施設の構造又はその維持管理が同法の規定する技術上の基準に適合していないと認めるときは,同許可を取消し,又はその設置者に対し,期限を定めて当該施設につき必要な改善を命じ,若しくは期間を定めて当該施設の使用の停止を命ずることができると定めている(15条の3)。
[20] これらの規定は,知事が,処分業者としての適格性や処理施設の要件適合性を判断し,産業廃棄物の処分事業が廃棄物処理法の目的に沿うものとなるように適切に規制できるようにするために設けられたものであり,上記の知事の許可が,処分業者に対し,許可が効力を有する限り事業や処理施設の使用を継続すべき義務を課すものではないことは明らかである。そして,同法には,処分業者にそのような義務を課す条文は存せず,かえって,処分業者による事業の全部又は一部の廃止,処理施設の廃止については,知事に対する届出で足りる旨規定されているのであるから(14条の3において準用する7条の2第3項,15条の2第3項において準用する9条3項)、処分業者が,公害防止協定において,協定の相手方に対し,その事業や処理施設を将来廃止する旨を約束することは,処分業者自身の自由な判断で行えることであり,その結果,許可が効力を有する期間内に事業や処理施設が廃止されることがあったとしても,同法に何ら抵触するものではない。したがって,旧期限条項が同法の趣旨に反するということはできないし,同法の上記のような趣旨,内容は,その後の改正によっても,変更されていないので,本件期限条項が本件協定が締結された当時の廃棄物処理法の趣旨に反するということもできない。
[21] そして,旧期限条項及び本件期限条項が知事の許可の本質的な部分にかかわるものではないことは,以上の説示により明らかであるから,旧期限条項及び本件期限条項は,本件条例15条が予定する協定の基本的な性格及び目的から逸脱するものでもない。
[22](2) 以上によれば,福間町の地位を承継した上告人と被上告人との間において,原審の判示するような理由によって本件期限条項の法的拘束力を否定することはできないものというべきである。

[23] 上記と異なる原審の判断には,判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反がある。論旨は理由があり,原判決は,破棄を免れない。そして,本件期限条項が公序良俗に違反するものであるか否か等につき更に審理を尽くさせるため,本件を原審に差し戻すこととする。

[24] よって,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 中川了滋  裁判官 今井功  裁判官 古田佑紀  裁判官 竹内行夫)

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