議員定数不均衡訴訟 参議院合憲判決(昭和39年)
第一審判決

選挙無効請求事件
東京高等裁判所
昭和38年1月30日 第11民事部 判決

原告 越山康
被告 東京都選挙管理委員会委員長

■ 主 文
■ 事 実
■ 理 由

■ 原告の準備書面


 原告の請求を棄却する。
 訴訟費用は原告の負担とする。

原告は、
「昭和37年7月1日に行われた参議院東京都選挙区選出議員選挙を無効とする。訴訟費用は被告の負担とする。」
との判決を求め、
被告代理人は、本案前の申立として訴却下の判決を求め、本案については主文同旨の判決を求めた。
[1] 原告は請求原因として次のとおり述べた。

[2](一)、原告は、昭和37年7月1日に行われた参議院東京都選挙区選出議員選挙における選挙人である。

[3](二)、右選挙は、つぎの理由によつて無効である。すなわち、
[4](1)、公職選挙法第14条は「参議院(地方選出)議員の選挙区および各選挙区において選挙すべき議員の数は別表第2で定める。」と規定している。
[5] 原告提出にかかる別紙記載の表の各欄は、右別表第2にもとづいて、選挙区の名称(A欄)、および当該選挙区において選挙すべき議員の数(C欄)、右選挙当時の選挙人の数(B欄)――ただし、自治省の発表したところによる――B欄記載の数をC欄記載のそれで除した数(D欄)を、それぞれ記入したものである。
[6](2)、日本国憲法は、その第14条において、一般に、法の下の平等を規定するほか、とくに選挙について第15条第3項および第44条を置いて、平等選挙を強く保障している。
[7] 思うに、平等選挙においては、いずれの選挙人の1票も他のそれと均等の価値を与えられていなければならないと解すべきである。けだし、「法の下の平等」原則は、人格の価値がすべての人間について平等であるとする思想を根幹とするものであつて、民主制、とりわけ代表民主制の最肝要事である選挙における平等は、たんに、「投票の数」の平等にとどまらず、さらに、「投票の価値」の平等をも当然に要請するものと解されるからである。
[8](3)、昭和37年7月1日に行われた参議院地方選出議員選挙について、「投票の価値」を考察すると、そこには明らかに不平等が看取される。すなわち、別紙記載の表によつて鳥取県選挙区と東京都選挙区を比較すると、前者における1票の価値は後者におけるそれの4.088倍に該当する。
[9] なるほど、現実の制度としての選挙においては、「投票の価値」の絶対的均等性は論議の埓外にある。しかしながら、右にみたとおり1対4の数値で示される「投票の価値」の不均等は、平等選挙において制度上当然に許容されるべき限度をはるかに超え、したがつて何らの合理的根拠にもとづくことなく国民の一部を不平等に取扱つたことを示すものにほかならない。
[10](4)、要するに、公職選挙法別表第2は、何らの合理的根拠にもとづくことなく、住所(選挙区)のいかんという社会的関係において、国民を不平等に取扱うものであつて明らかに日本国憲法第14条の規定に違反するから、右別表にもとづいて行われた昭和37年7月1日の参議院地方選出議員選挙は無効のものである。

[11](三)、よつて原告は、公職選挙法第204条の規定によつて、昭和37年7月1日に行われた参議院東京都選挙区選出議員選挙を無効とする旨の判決を求めるため本訴に及んだ次第である。
[12] 被告代理人は次のとおり述べた。

(一) 本案前の抗弁
[13](1) 選挙に関する訴訟は、いわゆる民衆訴訟に属し、法律に特別の規定がある場合に限り許されるのである。しかして公職選挙法第205条第1項によれば、選挙無効の訴訟を提起し得るのは、選挙が選挙の規定に違反して行われ、かつその違反が選挙の結果に異動を及ぼす虞がある場合に限られているのであり、しかも同条にいわゆる「選挙の規定に違反する」とは、選挙の管理機関が「選挙の管理執行の手続に関する規定に違反」した場合を意味するに外ならない。ところで本訴において原告が本件選挙の無効原因として主張するところは、要するに、本件選挙の基礎となつた公職選挙法別表第2は憲法第14条に違反しているというに帰著するのであるが、この主張は、なんら右の場合に該当しないものである。けだし、仮りに原告主張の如く公職選挙法別表第2が憲法に違反するとしても、行政機関たる被告は国会の制定した法律を誠実に執行すべき義務を負つているのであり、したがつて被告が、選挙についての直接かつ具体的準拠法たる公職選挙法に従つて本件選挙を管理執行したものである以上、それは、なんら「選挙の管理執行の手続に関する規定に違反」したことにはなり得ないからである。しかして、原告は他に、選挙無効の訴訟を提起し得べき事由をなんら主張していないのであるから、本訴は不適法として却下さるべきものである。
[14](2) 仮りに右主張が採用されず、本件選挙は選挙の規定に違反したものであるというべきであるとしても、本件においては、右規定の違反が選挙の結果に異動を及ぼす虞がある場合に該当するものとは認められない。すなわち、今、仮りに本件選挙を無効とし、あらためてその選挙をやり直すとしても、国会において公職選挙法の別表第2の議員定数の規定を改正しない限り、その結果は前回の選挙と同一の結果になることは必然である。されば原告の本訴請求は訴の利益を欠き、到底却下を免れないものである。

(二) 本案に対する答弁および主張
[15](1) 原告主張の請求原因中、(一)および(二)の(1)記載の事実、並びに(二)の(3)のうち、鳥取県と東京都の間における選挙人1人に対する議員定数の割合が原告主張の比率であることは、いずれもこれを認める。
[16] しかし憲法および法律に関する原告の見解については、これを争う。
[17](2) そもそも議員定数を選挙区別に如何なる割合で配分すべきかは高度の政治問題であつて、その当否は司法審査権の範囲外に属するものであるから、かかる政治問題に関する規定が違憲であるということを前提とする原告の請求は到底失当として棄却を免れないものである。しかのみならず憲法14条は法の下の平等について規定しているが、選挙に関しては、同法第44条但書において人種、信条、性別、社会的身分、門地、教育、財産又は収入による差別を禁止しているだけであり、各選挙区における議員定数を人口に比例して定めなければならないというような憲法上の明文は存在しない。憲法は、議員の定数、選挙区その他国会議員の選挙に関する事項をすべて法律に一任しているのであつて、(同法第43条第2項、第47条参照)、これは憲法が、選挙区別議員定数を定めるについては、単に当該選挙区の人口数のみに依拠することなく、適宜立法において選挙区域の大小、歴史的沿革、行政区画別議員数の振合等の歴史的社会的事情をも参酌し時代に適応した妥当な措置を採ることを期待し、これを立法に委ねたものに外ならない。尤も、立法においても、或る選挙区の議員の数が零となるような、換言すれば個々の選挙人の権利を奪うに等しいような規定をするのは違憲となるであろうが、本件公職選挙法第14条および別表第2の定めには、かかる違憲の点は毫もなく、右規定は憲法が前記の如く立法に委ねた正当な範囲に属するもので、もとより合憲というべきである。それ故、右別表第2の規定が違憲であることを前提とする原告の本訴請求は理由がなく、棄却を免れないものである。
[18] 原告は、被告の主張に対し、末尾添付別紙準備書面記載のとおり陳述し、要するに「本訴請求は公職選挙法所定の争訟に属し、いわゆる事件性を帯有する適法な訴であること、および公職選挙法別表第2が違憲の法律であることは、明らかである。」と述べた。

[1] 原告が昭和37年7月1日に行われた参議院東京都選挙区選出議員選挙における選挙人であつたことは、当事者間に争がなく、原告が右選挙の日から30日以内である同年同月19日当裁判所に本訴を提起したものであることは、本件記録に照らし明白である。
[2] ところで被告は、
(1)「選挙の効力を争う訴訟は、公職選挙法第205条にいわゆる『選挙の規定に違反する』という事由がある場合に限り提起し得るものであるところ、原告主張の本訴請求原因事実はなんら右事由に該当しないから、本訴は不適法たるを免れない」
旨主張する。しかし選挙訴訟の適法な請求原因としては、当該選挙が、選挙の規定に違反する違法なものであることを主張すれば足りるのであり、被告主張の如き「選挙の規定に違反する」という事由に当る個々の具体的事実は、専らその請求を理由あらしめるための要件であつて、なんら訴の適法要件ではないと解するのが相当である。このことは、公職選挙法第204条、第205条第1項の文理解釈、並びに右各規定の立法趣旨に照らし、自ら明白というべきである。しかして原告は、本訴の請求原因として、本件選挙が選挙の規定に違反する違法なものであることを主張しているのであるから、仮りにその主張が、公職選挙法第205条の解釈上、同条にいわゆる「選挙の規定に違反する」場合に当るものと認められないとしても、その結果は、単に、本訴請求に理由がないということになるだけであつて、なんら本訴が不適法となるべきいわれはない。それ故、被告の前記主張は採用できないものである。
[3] 次に被告は、
(2)「仮りに原告主張の如く、公職選挙法別表第2が憲法に違反し、そのため右別表に基いて行われた本件選挙は『選挙の規定に違反する』ことを免れないとしても、国会において右別表を改正しない限り、たとえ選挙をやり直してみても、その結果は前回の選挙と同一になることは必然であるから、原告の本訴請求は利益を欠く不適法な訴である」
旨主張する。しかし、(イ)もし公職選挙法別表第2が全面的に違憲無効でありしたがつて本件選挙は違法たるを免れない旨の原告の主張を正当であるとする以上は、かかる別表に基づき行われる再選挙も違法を免れないものであり、これについても無効の問題が起り得ることは当然の筋合というべきである。されば被告の前記主張は、結局、もしあらためて選挙をやり直してみても、前回と同様違法な選挙が行われることが事実上必然である以上、たとえ現在行われた選挙が如何に違法なものであろうとも、もはや訴をもつてその効力を争うことは許されないというに帰著するわけであるが、かかる議論は、公職選挙法第204条および第205条が、選挙の公正を担保する趣旨で特に明文をもつて、当該選挙の選挙人および候補者に対し、具体的利害関係の有無如何を問わず、選挙の効力を争うために出訴し得ることを認めた法意を没却するものであつて、到底是認し難いものといわなければならぬ。のみならず、(ロ)被告は前記主張において、たとえあらためて選挙をやり直してみても、国会が公職選挙法別表第2を改正しない限り、再選挙の結果は前回の選挙と同一になることは必然であるというけれども、しかし、もし選挙をやり直した場合、すべての選挙人が必ずしも前回自己の投票した候補者と同一人物に投票するとは限らないから、再選挙の結果が前回の選挙と同一の結果になることが必然であるというのは、根拠のない独断であつて、この点からするも被告の前記主張は採用し得ないものである。
[4] 以上のとおり、被告の主張する本案前の抗弁はすべて採用し難いものであり、他に本件訴訟を不適法とすべきなんらの事情も認められないから、原告の本訴は適法であるといわなければならぬ。
[5] 参議院(地方選出)議員の選挙区および各選挙区において選挙すべき議員の数は、公職選挙法別表第2で定められていることは、原告主張のとおりである(同法第14条参照)。しかして、本件選挙が行われた当時の各選挙区における選挙人の人口並びに各選挙区における選挙人の人口と議員定数との比率が、それぞれ末尾添付にかかる原告提出の表記載のとおりであることは、当事者間に争がない。
[6] ところで原告は、
「右公職選挙法別表第2の定めた議員定数の配分は、人口に比例しない極めて不平等なものであるから、憲法第14条第1項、第15条第3項および第44条但書の規定に違反し無効というべく、したがつて右別表に基づいて行われた本件選挙は違法たるを免れない」
旨主張する。
[7] 先ず原告が援用する憲法諸規定のうち、第15条第3項は、単に、選挙権付与の要件に関し、一定の財産、税納等を要件としない普通選挙を保障した規定であつて本件の問題には直接の関係があるものとはいい難い。また公職選挙法別表第2の定めた議員定数が人口の割合に比し不均衡であるからといつて、それは憲法第14条第1項後段および第44条所定の「人種、信条、性別、社会的身分、門地、教育、財産又は収入」のいずれかによつて国民を差別したものといい得ないことも明白である。問題として残るところは、人口に比例しない議員定数の配分は憲法第14条第1項前段に牴触するかどうかの一点である。
[8] ところで憲法第14条第1項は法の下の平等について規定しているが、選挙に関しては、同法第44条但書において、人種、信条、性別、社会的身分、門地、教育、財産又は収入による選挙人資格の差別を禁止しているだけで、議員定数を選挙区別の人口に比例して配分することを命ずるような規定は設けていないのであり、かえつて、憲法第43条第2項および第47条によれば、議員の定数、選挙区、その他両院の選挙に関する事項は、法律でこれを定める旨規定しているのである。
[9] 以上の点から判断すれば、議員定数を如何なる割合で選挙区別に配分するかの問題は、原則として立法の裁量に委ねられているところであつて、憲法は必ずしも議員定数を選挙区別の人口に比例して配分することを要請しているものではないと解するのが相当である。尤も、議員定数の配分は右の如く立法の裁量に委ねられているといつても、右裁量の範囲には自ら限界が存するものというべく、したがつて、もし法律の定めた議員定数の配分が、選挙区別人口の割合に比し著しく不均衡であり、その不均衡が一般国民の正義観念に照らし到底その存在を容認することを得ないと認められる程度に至れば、かかる法律はまさに憲法によつて委ねられた裁量の限界を逸脱するもので、憲法第14条第1項に反し、違憲の限度においては当然無効たるを免れないものと解すべきである。(したがつて、この点に関し、被告の主張するが如き「議員定数を選挙区別に如何なる割合で配分すべきかは高度の政治問題であつて、その当否は司法審査権の範囲外に属する」という見解は、当裁判所の採らないところである。)
[10] さて末尾添付の原告提出にかかる表によれば、(右表のうちに記載されている事実は当事者間に争がない)公職選挙法別表第2の定めた選挙区別の議員定数の配分は、各選挙区の人口に比べ、不均衡なものであることは否定できないが、右の不均衡は、未だ一般国民の正義観念に照らし、到底その存在を容認することを得ないと認められるほど甚しいものとは考えられないから、公職選挙法別表第2は、未だ憲法第14条第1項に違反するものとは解されない。
[11] その他本件にあらわれたすべての事情によるも、未だ右別表第2が違憲無効であると解すべき根拠は認められないから、右別表が違憲無効であることを前提とする原告の請求は失当という外ない。

[12](三) 以上説示のとおりであるから、原告の本訴請求を棄却すべきものとし、訴訟費用につき民事訴訟法第89条、第95条本文を適用し主文のとおり判決する。

(昭和38年1月30日 東京高等裁判所第11民事部)
■ 原告の準備書面
[1] 選挙の無効原因について、公職選挙法第205条第1項は、「選挙の規定に違反すること」および「選挙の結果に異動をおよぼす虞があること」の2つの要件を規定している。

[2]、右にいう「選挙の規定に違反すること」とは、一般に、選挙が違法である場合を指称するものであつて、憲法の条項に違反する議員選出数配分方法に基づいて選挙が行われた場合をも当然に包含するものと解すべきである。
[3] この点について、従来、ややもすると、選挙の管理に当る機関が選挙管理執行の「手続に関する」規定に違反した場合のみを指すかのごとくに説かれていたが、本要件をことさらそのように狭く解すべき理由は全く存在しない。
[4] けだし、形式的には、同条項は「選挙の規定」とのみ定めているのであつて、それが憲法の選挙に関する規定を含まないと解することは文理上不合理であるのみならず、実質的にも、いかに忠実な管理執行がなされようとも、その基盤となつた議員選出数配分方法に関する法律の規定が上位の法たる憲法の条項に違背するものであるならば、その選挙は、また憲法の趣旨に副うものたり得ないのであつて、これを無効と解すべきは当然だからである。(憲法第98条第1項)

[5]、そもそも裁判所は、法令が憲法に適合するか否かを決定するいわゆる違憲法令審査の権限と職責を与えられており、(憲法第81条)他方、行政機関は、国会が制定した法律の内容がたとえ憲法に違反すると認める場合においても、その誠実な執行を拒み得ない立場に置かれている。(憲法第73条第1号)
[6] しかして、司法権と行政権の、違憲法令に関する差異は、正に、ここに存する。この分野においてはいわゆる職務執行命令または差止命令を求めることが認められていないわが法制下、違憲法令の執行としての行政機関の行為を事前に阻止する途はなく、ただ裁判所が当該法令の違憲性を理由にそれを無効と宣言する事後的是正のみが許され、さらにそれも選挙に関する限り公職選挙法所定の争訟によつてのみ許されているのである。
[7] 原告は、本件において、法令の違憲性を理由に、それに基づく執行行為としての選挙の無効宣言を、公職選挙法所定の手続によつて求めているのである。
[8] なお、公職選挙法第205条第1項の「選挙の結果に異動をおよぼす虞」については、本件のごとく議員選出数配分の無効を争つている場合には、多く論ずる要なしと考える。
[9]、憲法は第14条において基本的に法の下の平等を宣明している。この規定は、民主主義的、個人主義的理念に照らし合理性のない差別は、たんに「法の適用」の面においてのみでなく「法の定立」の面においても、また、本条に例示されている「人種、信条、性別、社会的身分または門地」以外の事由であつても、これを一切禁ずる趣旨である。
[10] 公務員の選挙に関する第15条第3項の普通選挙の保障の規定、国会議員の選挙に関する第44条但書の平等選挙の規定は、いずれも、代表民主制の最肝要事である選挙についてとくに「法の下の平等」の趣旨を敷衍したものである。

[11]、さて、憲法は前文第1文中で「正当に選挙された代表者を通じて」と宣言して、少くとも国政に関しては代表民主制を採用している。従つて主権の保持者たる国民の国政参与の場は、国政に関する最高機関である国会の構成員たる国会議員の選挙において最も端的に与えられているものというべく、日本国民は、とくに代表民主制の理念に照らし合理的と認められる場合を除き、全く差別なく平等の立場で選挙権を行使し得べきものであることは論をまたない。
[12] ところで、憲法第47条は選挙区の存在を予定しているので、右のことは、どの選挙区もその選挙人の数と選出される議員の数の割合が等しく定められなければならないことを意味する。勿論、選挙人の数が選挙区ごとに異なることなどの事由から、この割合を完全に等しくすることは技術上困難であり、この限度においては選挙区を予定する代表民主制の制度上許容された差別ともいえよう。
[13] しかしながら、本来、立法府はその均等化のために真摯な努力を払うべきであり、人口の変動・移動に対処するため選挙区ごとにその議員選出数を改めるなどして、右割合を可能なかぎり均等化する処置をとるべきである。
[14] 公職選挙法別表第2は、選挙区とその選出議員数を固定的に定めて、選挙区内の選挙人の数の変動・移動に対処する何らの措置をも考慮しておらず、しかも同法の施行以来一度も改正されていないため、選挙区ごとの選挙人の数とそこから選出される議員の数の割合が非常に大幅に相違し、制度上やむを得ない程度をはるかに超えたものとなつている。

[15]、昭和37年7月1日に行われた参議院地方選出議員選挙についてこれをみると、東京都選挙区では、その選挙人の数が5,922,100人で、議員選出数が4(但し、現実には補充1名の選挙が同一機会に行われたため当選者5名が生じた)であるのに対し、鳥取県選挙区では、その選挙人の数が362,182人で、議員選出数が1であり、従つて、両選挙区の選挙人の数に対する議員選出数の割合は、実に、東京の1に対し鳥取の4.088であつた。これは東京都選挙区の選挙人は、鳥取県選挙区のそれに比較して、国政に対する参与が約4分の1にすぎないこと、換言すれば、東京都選挙区の選挙人には1票、鳥取県選挙区のそれには、実質上、4票の投票権を与えたと同様の事実を示すものである。と同時に、一定の地域(選挙区)に居住していたというだけの理由で、選挙権の行使という重大な事項について償うことのできない不利益な差別取扱をしたことを意味する。
[16] よつて、右別表第2は、右時点において、法の下の平等を規定する憲法第14条、第44条但書の各規定に違反するばかりでなく、普通選挙を保障する同第15条第3項の規定にも、実質的に違背する違憲の法令であつたことは明白である。
[17] 以上要するに、公職選挙法別表第2に基づいて行われた昭和37年7月1日の参議院地方選出議員選挙は、憲法に反する無効のものであるから、原告は、東京都選挙区選出議員選挙を無効とする旨の判決を求める次第である。

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