新潟県公安条例事件
第一審判決

昭和24年新潟県条例第4号違反被告事件
新潟地方裁判所高田支部
昭和24年12月6日 判決

被告人 甲野一郎(仮名)・乙某

■ 主 文
■ 理 由

■ 参照条文


 被告人甲野一郎を懲役3月、被告人乙某を懲役4月に各処する。
 未決勾留日数中各20日を右本刑に算入する。
 訴訟費用は全部被告人等の負担とする。


 被告人甲野一郎は共産党上越地区委員会の書記、被告人乙某は元在日朝鮮人民主青年連盟長野支部の副委員長をしていたものであるが昭和24年4月8日午後3時頃高田市大手町所在の国家地方警察新潟県中頸城地区警察署庁舎正面の空地及び同署向側小島医院前道路の附近に於て曩に同月7日朝行はれた中頸城郡新井町と同郡中郷村在住の朝鮮人などに対する密造酒被疑事件の一斉検挙に逮捕された被疑者30数名の全部即時釈放要求を大衆の威力により貫徹せんとして同月8日午後2時頃から前記場所に蝟集していた朝鮮人など約2、3百名位と共に高田市公安委員会の許可を受けないで同日午後6時頃まで公衆の自由に交通することができる場所である同署前の空地及び同署前の幅員約6間位の県道の一部を占拠しその間に於て
第一、被告人甲野一郎は右群衆に対し敗戦後何等職も与へずにおいて生活の本拠である密造を何故検挙したのか、それは吉田反動資本内閣の民族分離政策であるなどと暗に右検挙を非難するような演説をなし又「赤旗」の歌を合唱して気勢を挙げるなど群衆を指導し
第二、又被告人乙某は衆に率先して団結を強調し又大衆を指揮してスクラムを組ませ或は朝鮮開放歌の合唱を指導して気勢を挙げるなど群衆を指導し
以て公衆の集団示威運動を行つたものである。
 昭和24年新潟県条例第4号第5条第1号第1条第1項及び刑法第21条刑事訴訟法第181条第1項
第1条 行列行進又は公衆の集団示威運動(徒歩又は車両で道路公園その他公衆の自由に交通することができる場所を行進し又は占拠しようとするもの以下同じ)はその地域を管轄する公安委員会の許可を受けないで行つてはならない。
 学生、生徒、児童のみが参加し且つ教科課程に定められた教育の為学校の責任者の指導によつて行う行列行進は許可を要しない。

第2条 前条第1項の許可を受けようとするときは、主催者又は主催団体の代表者は行列行進集団示威運動開始の日時の72時間前迄にその地域を管理する公安委員会に申請書を提出しなければならない。

第3条 前条の申請書には左に掲げる事項を記載しなければならない。
 一、行列又は示威運動の日時
 二、主催者の住所、職業、氏名、生年月日(団体にあつてはその名、事務所の所在地、代表者の住所、氏名、生年月日)
 三、行列又は示威運動の目的及種類
 四、行列の順路及示威運動の場所
 五、参加団体名及び各団体の参加予定人員並びに車両数

第4条 公安委員会はその行列又は示威運動が公安を害する虞がないと認める場合は開始日時の24時間前迄に許可を与えなければならない。
 前項の許可には公安委員会が集団の無秩序又は暴力行為に対し公衆を保護する為必要と認める条件を附することができる。
 公安委員会は第1項の規定による許可を与えなかつたときはすみやかにその理由を詳細に公安員会の所属する自治体の議会に報告しなければならない。
 第2条の申請書を受理した公安委員会が当該行列行進集団示威運動開始日時の24時間前迄に条件を附し又は許可を与えない旨の意思表示をしない時は許可のあつたものとして行動することができる。

第5条 左の各号の一に該当する者は一年以下の懲役又は5万円以下の罰金に処する。
 一、第1条第1項の規定に違反した者
 二、第2条の許可申請書に虚偽の事項を記載した者
 三、第4条第2項の規定により公安委員会の附した条件に違反した者

第6条 この条例は行列行進又は集団示威運動以外のいかなる公の集会をいかなる方法においても禁止し若しくは制限し、又は公の集会、政治運動、プラカード、出版物その他の文書図画等の監督、検閲の権限を公安委員会、警察官、警察吏その他の公務員に与えるものと解釈してはならない。

第7条 この条例は公務員の選挙に関する法令に違反し又は選挙運動中における集会若しくは演説は許可を要するものと解釈してはならない。

    附則
 この条例は公布の日から施行する。
第2条 〔第1項省略〕
 普通地方公共団体は、その公共事務並びに従来法令により及び将来法律又は政令により普通地方公共団体に属するものの外、その区域内におけるその他の行政事務で国の事務に属しないものを処理する。
 前項の事務を例示すると、概ね次の通りである。但し、法令に特別の定があるときは、この限りでない。
 一 地方公共の秩序を維持し、住民及び滞在者の安全、健康及び福祉を保持すること。
〔以下省略〕

第14条 普通地方公共団体は、法令に違反しない限りにおいて第2条第2項の事務に関し、条例を制定することができる。
 普通地方公共団体は、行政事務の処理に関しては、法令に特別の定があるものを除く外、条例でこれを定めなければならない。
 都道府県は、市町村の行政事務に関し、法令に特別の定があるものを除く外、条例で必要な規定を設けることができる。
 行政事務に関する市町村の条例が前項の規定による都道府県の条例に違反するときは、当該市町村の条例は、これを無効とする。
 普通地方公共団体は、法令に特別の定があるものを除く外、その条例中に、条例に違反した者に対し、2年以下の懲役若しくは禁錮、10万円以下の罰金、拘留、科料又は没収の刑を科する旨の規定を設けることができる。
 前項の罪に関する事件は、国の裁判所がこれを管轄する。

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