障害等級男女差事件
第一審判決

障害補償給付支給処分取消請求事件
京都地方裁判所 平成20年(行ウ)第39号
平成22年5月27日 第3民事部 判決

口頭弁論終結日 平成22年3月11日

■ 主 文
■ 事 実 及び 理 由


1 A労働基準監督署長が原告に対して平成16年4月21日付けでした労働者災害補償保険法による障害補償給付の支給に関する処分を取り消す。
2 訴訟費用は被告の負担とする。

 主文1項同旨 [1] 本件は,業務上の災害によって火傷を負った原告が,原告の後遺障害について,A労働基準監督署長(処分行政庁)が労働者災害補償保険法施行規則別表第1に定める障害等級表(以下「障害等級表」という。)併合第11級に該当すると認定する旨の処分をしたことを不服として,同処分の取消しを求めた事案である。
(1) 業務上の災害等
[2] 原告は,昭和49年6月20日に出生した男性である。
[3] 原告は,平成7年11月1日,B府C市所在の当時の勤務先会社の作業場で金属の溶解作業中,炉の溶解物の表面に浮いてくる不純物を除去するため柄杓を炉に入れたところ,柄杓に水が付着していたため,これが高温の溶解物(溶解した金属材料)と接触した瞬間に水蒸気爆発が生じ,溶解物が吹き上がって飛散し,原告に降りかかって作業服が燃え上がるなどし,これによって原告は火傷(熱傷)を負った(以下,「本件災害」という。)。(甲1,審乙B2)
[4] 原告は,同日から治療を受け,後記(2))の障害補償給付の支給請求までの間に15回の手術を受けた。上記火傷(熱傷)については,平成16年2月29日に症状固定した(以下「本件障害」という。)。(甲3,7,審乙B3)
[5] 平成17年4〜5月ころの時点で,原告には,右頬から顎部にかけて,頸部,胸部・腹部の全域,右背部,右上肢の肘関節以下,右下肢の膝関節以下等に瘢痕があり,現在も,特に夏は瘢痕の部位から汗が出ず,かゆみを伴う状態にある。(甲8,9,40,原告本人尋問)

(2) 本件処分
[6] 原告は,平成16年4月1日,A労働基準監督署長(処分行政庁)に対し,労働者災害補償保険法(以下「法」という。)15条1項の障害補償給付(以下,単に「障害補償給付」という。)の支給を請求したところ,処分行政庁は,平成16年4月21日付けで,原告の上肢及び下肢の醜状障害と露出面以外の醜状障害について準用第12級とし,これと外ぼうの著しい醜状障害(第12級の13)を併合して,原告は障害等級表第11級に該当すると認定する旨の処分をした(以下「本件処分」という。)。(甲4,審乙B1,2)

(3) 不服申立て等
[7] 原告は,本件処分を不服として,同年6月14日付けでB労働者災害補償保険審査官に対して審査請求をしたところ,同審査官は同年9月30日付けでこれを棄却したため,原告は,同年10月18日付けで,労働保険審査会会長に対して再審査請求をしたが,労働保険審査会は,平成20年3月28日付けで再審査請求を棄却し,原告は,同月31日,その裁決書の送付を受けた。(甲5,6,乙4,審乙A1,審乙C2,3)
[8] そして,原告は,同年9月9日,本件処分の取消しを求めて,本件訴訟を提起した。

(4) 法令の定め等
[9] 法における障害補償給付は,労働者の業務上の負傷,疾病,障害又は死亡に関する保険給付として,労働基準法77条等に規定する災害補償の事由が生じた場合,すなわち,業務上の負傷又は疾病が治った後に身体に障害が存する場合に行うこととされている(法12条の8第1項3号・2項,労働基準法77条)。
[10] 障害補償給付は,厚生労働省令で定める障害等級に応じ,障害補償年金又は障害補償一時金として支給され,その額は,法別表第1及び第2に定められている(法15条1項・2項)。
[11] 上記の厚生労働省令の定めとして,労働者災害補償保険法施行規則(以下「規則」という。)14条がある。同条は,障害等級について,以下のように規定している。
(ア) 障害補償給付を支給すべき身体障害の障害等級は,別表第1(障害等級表)に定めるところによる(同条1項)。
(イ) 障害等級表に掲げる身体障害が2以上ある場合には,重い方の身体障害の該当する障害等級による(同条2項)。
(ウ) 障害等級表の第13級以上に該当する身体障害が2以上あるときは,重い方の等級を1級,第8級以上に該当する身体障害が2以上あるときは,重い方の等級を2級,第5級以上に該当する身体障害が2以上あるときは,重い方の等級を3級,それぞれ繰り上げた障害等級による(これらを「併合」という。乙3)が,繰り上げた結果が第8級以下である場合には,各身体障害の該当する障害等級に応ずる障害補償給付額の合算額が繰り上げた障害等級に応ずる障害補償給付の額に満たないときは,障害補償給付は当該合算額による(同条3項)。
(エ) 障害等級表に掲げるもの以外の身体障害については,その障害の程度に応じ,同表に掲げる身体障害に準じてその障害等級を定める(これを「準用」という。乙3)(同条4項)。
[12] 障害等級表は,各身体障害を,第1級から第14級までの14段階に区分し,障害の序列を定めているところ,そのうち,本件に関係する部分の内容は,以下のとおりである。
(ア) 第7級(当該障害の存する期間1年につき給付基礎日額の131日分の障害補償年金が支給される。法15条,別表第1)
 12 女性の外ぼうに著しい醜状を残すもの
(イ) 第12級(給付基礎日額の156日分の障害補償一時金が支給される。法15条,別表第2)
 13 男性の外ぼうに著しい醜状を残すもの
 14 女性の外ぼうに醜状を残すもの
(ウ) 第14級(給付基礎日額の56日分の障害補償一時金が支給される。法15条,別表第2)
 3 上肢の露出面にてのひらの大きさの醜いあとを残すもの
 4 下肢の露出面にてのひらの大きさの醜いあとを残すもの
 10 男性の外ぼうに醜状を残すもの
[13] 障害等級の行政上の認定は,労働省労働基準局長通達昭和50年9月30日付け基発第565号「障害等級認定基準について」(乙1)の別冊「障害等級認定基準」(乙3。以下「認定基準」という。)に従って行われるが,そのうち醜状障害に関係する部分の内容はおおむね以下のとおりである。
(ア) 外ぼうの醜状障害
a 「外ぼう」とは,頭部,顔面部,頸部のごとく,上肢及び下肢以外の日常露出する部分をいう。
b 外ぼうにおける「著しい醜状を残すもの」とは,原則として,次のいずれかに該当する場合で,人目につく程度以上のものをいう。
[1] 頭部にあっては,てのひら大(指の部分は含まない。以下同じ。)以上の瘢痕又は頭蓋骨のてのひら大以上の欠損
[2] 顔面部にあっては,鶏卵大面以上の瘢痕,長さ5cm以上の線状痕又は10円銅貨大以上の組織陥凹
[3] 頸部にあっては,てのひら大以上の瘢痕
c 外ぼうにおける単なる「醜状」とは,原則として,次のいずれかに該当する場合で,人目につく程度以上のものをいう。
[1] 頭部にあっては,鶏卵大面以上の瘢痕又は頭蓋骨の鶏卵大面以上の欠損
[2] 顔面部にあっては,10円銅貨大以上の瘢痕又は長さ3cm以上の線状痕
[3] 頸部にあっては,鶏卵大面以上の瘢痕
d 障害補償の対象となる外ぼうの醜状とは,人目につく程度以上のものでなければならないから,瘢痕,線状痕及び組織陥凹であって,眉毛,頭髪等に隠れる部分については,醜状として取り扱わない。
e 2個以上の瘢痕又は線状痕が相隣接し,又は相まって1個の瘢痕又は線状痕と同程度以上の醜状を呈する場合は,それらの面積,長さ等を合算して等級を認定する。
f 火傷治ゆ後の黒褐色変色又は色素脱失による白斑等であって,永久的に残ると認められ,かつ,人目につく程度以上のものは,単なる「醜状」として取り扱う。この場合,その範囲は当然前記cに該当する。
(イ) 露出面の醜状障害
a 上肢又は下肢の「露出面」とは,上肢にあっては,肘関節以下(手部を含む。),下肢にあっては,膝関節以下(足背部を含む。)をいう。
b 「2個以上の瘢痕又は線状痕」及び「火傷治ゆ後の黒褐色変色又は色素脱失による白斑等」に係る取扱いについては,外ぼうの場合と同様である。
(ウ) 醜状障害に関する併合
 次に掲げる場合においては,規則14条2項・3項により併合して等級を認定する。
a 外ぼうの醜状障害と露出面の醜状障害が存する場合
b 外ぼうの醜状障害と露出面以外の醜状障害が存する場合
c 上肢の露出面の醜状障害と下肢の露出面の醜状障害が存する場合
d 外傷,火傷等のための眼球亡失により,眼部周囲及び顔面の組織陥凹,瘢痕等を生じた場合は,眼球亡失に係る等級と瘢痕等の醜状障害に係る等級を併合して,等級を認定する。
(エ) 醜状障害に関する準用
 次に掲げる場合においては,規則14条4項により準用して等級を認定する。
a 男子のほとんど顔面全域にわたる瘢痕で人に嫌悪の感を抱かせる程度のものについては,第7級の12を準用する。
b 露出面以外の醜状障害については,次により準用等級を定める。
[1] 上腕又は大腿にあっては,ほとんどその全域,胸部又は腹部にあっては,それぞれ各部の2分の1程度,背部及び臀部にあっては,その全面積の4分の1程度を超えるものは,単なる「醜状」として第14級とする。
[2] 両上腕のほとんど全域,両大腿のほとんど全域,胸部又は腹部にあっては,各々その全域,背部及び臀部にあっては,その全面積の2分の1程度を超えるものは,「著しい醜状」として第12級とする。
(オ) その他
 上肢又は下肢の露出面の醜状障害と露出面以外の醜状障害が存する場合若しくは2以上の露出面以外の醜状障害が存する場合(例えば胸部全域と上腕全域にわたる瘢痕)については,各々該当する等級のうち,いずれか上位の等級により認定する。
[14] 本件の争点は,本件処分の違法性の有無であり,具体的には以下のとおりである。
(原告の主張)
ア 判断基準等について
[15](ア) 外ぼうの醜状障害の等級について,男女に差を設けることは,憲法14条1項で明示的に禁止されている性別による差別的取扱いに当たる。
[16](イ) 憲法14条1項は,事柄の性質に即応した合理的な根拠に基づくものでない限り,法的な差別的取扱いを禁止する趣旨と解すべきであるところ,性別を理由とする差別的取扱いは,個人の意思や努力によってはいかんともしがたい性質のもので,憲法13条,24条2項の規定の趣旨にもかんがみ,原則として不合理なものであるから,平等原則との適合性は厳格な基準で審査されなければならず,合憲と主張する側がその理由を論証する責任を負うべきである。
[17](ウ) また,障害等級表の合理性の有無の審査に当たっては,立法の目的が重要なものであること及びその目的と規制手段との間に事実上の実質的関連性があることを,合憲と主張する被告の側が論証しなければならないと解すべきである。
[18](エ) 被告は,障害等級表に男女の差を設けることについて行政庁には広い裁量が認められている旨主張するが,憲法14条が求める基本的人権である男女平等に反する取扱いを行う場合には,およそ広い裁量があるはずがない。
イ 障害等級表の合憲性について
[19] 被告は,外ぼうの醜状障害により受ける精神的苦痛や第三者の受ける嫌悪感,就労機会の制約の程度について,その程度が男性に比べ女性の方が大きいという事実的・実質的差異があることをもって,障害等級表における男女の差別的取扱いに合理性があるとするが,その合理性の根拠,すなわち,醜状障害により受ける精神的苦痛や第三者の受ける嫌悪感が男性に比して女性の方が大きく,それらによる就労機会の制約の程度が男性に比して女性の方が大きいことを示す根拠は,後記ウのとおり,示されていない。したがって,障害等級表は,合理的な理由がないにもかかわらず性別による差別をするものであって,憲法14条1項に違反している。
[20] しかも,外ぼうに著しい醜状を残した場合に認められる等級が,女性は第7級,男性は第12級とされ,5級もの差を設ける取扱いがされていることは,醜状障害により受ける精神的苦痛の大きさを理由として設けられた差としては,あまりに不合理である。
ウ 被告の主張への具体的反論
(ア) 総務省統計局の労働力調査(以下,単に「労働力調査」という。)及び国勢調査(以下,単に「国勢調査」という。)について
[21] 被告は,労働力調査を根拠に,女性の就労実態と男性との差異について縷々主張するが,労働力調査における産業分類では,接客等の応接を要することの少ないと考えられる産業が「サービス業」の中に含まれている。また,「産業」は,そもそも,調査対象者の勤め先・業主の主な事業の種類についての分類であって,当該労働者がどのような職業に従事していたかを基準にしたものではない。
[22] むしろ,国勢調査に基づく職業小分類別で男女それぞれの多い職業を比較すると,昭和60年当時も平成17年当時も男女ともに一般事務員が1位であるなど,おおむね同じ職業が上位を占め,男性でも,被告のいうところの接客等の応接を要する職種が多い。なお,被告は,雇用者総数に占める男女比率の差異を根拠とする主張もしているが,そのような差異が生ずる原因や事情等を考慮した上でその差異をどのように評価すべきかが重要であるところ,職種によっては,被告の主張する男女比率の差異が,外ぼうと無関係な歴史的経緯やこれを踏まえた法制度等によって生じていると考えられるものもある。
[23] そもそも,いかなる職業にあっても人と接することは不可避的に存在し,建設業でも営業社員や受付業務を行う従業員は人と接するし,飲食店・宿泊業でも,厨房で調理を担当する従業員が接客をする頻度は極めて低いのであって,被告のいう接客等の応接を要することが多いかどうかというのは,結局,主観的で流動的なものにすぎない。
(イ) 裁判例について
[24] 被告の主張する交通事故の裁判例も,男女間の外ぼうの醜状障害に関する差異についての社会通念の存在の根拠とはならない。障害等級表の前身となる工場法施行令7条別表が昭和11年に新設されてから70年以上が経過した今日において,男性の外見に対する社会の認識も大きく変化してきている。外ぼうに性差などみられず,性差に関する社会的評価や国際的情勢が大きく転換した現在,外ぼうの醜状障害に関する障害等級表の規定は社会通念からは大きく乖離しており,もはやその合理性は全く認められない。
(ウ) 精神的苦痛について
[25] 被告は,女性が男性に比して自己の外ぼう等に高い関心を持つ傾向があるから,外ぼうの醜状障害による精神的苦痛の程度について男女に差異がある旨主張するが,外ぼうを装うことに関心の低い人が,その関心の高い人に比べて,外ぼうに醜状障害を受けた場合に感じる精神的苦痛の程度が低いとは必ずしもいえない。
[26](エ) 結局,被告の主張には何の根拠も裏付け資料もなく,単なる推測・憶測によるものである。男女に差を設ける合理的な基準は全く見いだせず,差別は明らかに不合理であって,憲法14条1項に違反する。
エ その他の事情について
[27] 女子に対するあらゆる形態の差別の撤廃に関する条約1条は,女性の人権を害する効果を有するものについても差別であるとしている。外ぼうの醜状障害により受ける精神的苦痛や第三者に対する嫌悪感,就労機会の制約の程度について女性の方がその程度が大きいことを理由に,障害等級表で差別的取扱いをすることは,女性が就労の機会において男性に比べて制約されることを是認し,女性を外ぼうで差別することを助長する結果をもたらすから,障害等級表は同条の差別に該当する。そして,同条約5条(a)は,締約国に男女の定型化された役割に基づく偏見の撤廃を実現するため,男女の社会的及び文化的な行動様式を修正すべきことを規定しているのに,被告は,このような修正のための措置をとる義務を果たしていない。このように,障害等級表は,同条約にも違反している。

(被告の主張)
ア 判断基準について
[28](ア) 法は,障害等級ごとの支給額のみを定め,具体的な障害の程度を分類,格付けする障害等級表の策定については,厚生労働省令の定めにゆだねている。その趣旨は,客観的かつ適正な障害等級表を策定するためには,身体の様々な部位における様々な障害について,解剖学的,生理学的観点から整理した上で,労働能力の喪失の程度という観点に基づいて分類するとともに,これらを,法別表第1及び第2が定める給付額の序列に応じて格付けするという複雑な作業が必要とされるから,様々な障害の程度等を医学的知見に基づいて適切に分析する能力を有し,かつ労働環境や労働市場等の動向を適時的確に把握でき,さらには,保険料の徴収等といった労働保険事業を管掌する立場にある行政庁の専門技術的な裁量にゆだねるのが妥当と解されるところにある。
[29](イ) このように,障害等級表において様々な障害をどのように区別し,序列を定めるかについては,行政庁に広い裁量が認められるところ,醜状障害については,そもそも,障害補償給付の対象となる障害に含めるか否かについてさえも判断が分かれ得るところであり,その判断自体が,行政庁の裁量の範囲内にあるというべきである。すなわち,外ぼうの醜状障害以外の障害等級表に定められている様々な部位の障害は,専ら労働能力の喪失という観点から,当該障害による身体的,機能的な毀損の程度を考慮して障害等級の序列が定められているが,外ぼうの醜状障害は,それ自体は機能の毀損に該当しないので,これが障害等級表記載の障害に含められているのは,外ぼうの醜状が,日常生活において,第三者に対して嫌悪感を与えることがあり,同時に障害を負った本人においても様々な精神的負担を負い,そのために生活範囲が狭まったり就労機会の制約が生じたりすることを斟酌したものであるが,そのような意味での就労機会の制約の程度を認めるか否か,また,その程度をどのくらいと評価するかについては,医学的観点にとどまらず,労働環境や労働市場等の社会における諸事情を総合的に考慮して決定すべきものである。以上のような,外ぼうの醜状障害が障害等級表に加えられた趣旨等に照らせば,そもそも外ぼうの醜状障害を後遺障害として障害等級表に含めるか否か,外ぼうの醜状障害を障害等級表に含めた上で,男女の外ぼうの醜状障害の等級を障害等級表上でどのように位置づけるかについては,行政庁に特に広い裁量が認められているというべきである。
[30](ウ) 以上によれば,外ぼうの醜状障害の扱いについて,違憲・違法の問題が生じるのは,その設定が著しく合理性を欠き,裁量の逸脱・濫用と認められる場合に限られると解すべきである。
イ 障害等級表の合憲性について
[31] 外ぼうに醜状障害を残した場合には,日常生活において,第三者に対して嫌悪感を与えることがあり,同時に障害を負った本人においても様々な精神的負担を負い,そのために生活範囲が狭まったり就労機会の制約が生じたりすることは,容易に予想されるところであり,このような精神的苦痛や第三者に対する嫌悪感ひいては就労機会の制約の程度について,男女間に,それらの程度が男性に比べ女性の方が大きいという事実的・実質的な差異があることは,後記ウのとおり明らかである。
[32] したがって,上記のような男女間における事実的・実質的差異に着目して,障害等級の取扱いに本件程度の差を設けることには,障害補償給付制度の趣旨・目的に照らして十分に合理的な理由があるから,その設定が著しく合理性を欠き,裁量の逸脱・濫用と認められる余地はない。
ウ 男女間の事実的・実質的差異について
(ア) 就労機会の制約について
a 労働力調査
[33] 労働力調査によれば,平成19年度の雇用者における産業別女性比率(雇用者総数に占める女性の割合)の高いものは、「医療,福祉」(78.4%),「飲食店,宿泊業」(60.5%),「教育,学習支援業」(51.7%),「卸売・小売業」(51.3%),低いものは,「電気・ガス・熱供給・水道業」(9.1%),「建設業」(15.4%),「運輸業」(17.6%)となっている。女性比率が5割を超えるものは,一般的に,接客等の応接を要することが多い職種ということができ,女性比率が2割を下回るものは,接客等の応接を要することは少ない職種である。そして,産業別雇用者数については,昭和60年及び平成9年(労働力調査が用いる日本標準産業分類は平成14年3月に改訂されているが,その改訂前)の「サービス業」の産業別雇用者数と,平成19年(同改訂後)の「医療,福祉」,「教育,学習支援業」,「サービス業(他に分類されないもの)」(いずれも,改訂前の「サービス業」に分類されていた産業)の産業別雇用者数を比較した場合,女性については大きく増加し続けているのに対し,男性は女性と比べると増加幅が小さい。
b 国勢調査
[34] 国勢調査においては,合計274項目の職業小分類別に男女の雇用者数が明らかにされているところ,これらの小分類のうち,「医療,福祉」,「飲食店,宿泊業」,「教育,学習支援業」,「卸売・小売業」の産業にそれぞれ対応すると考えられる職業小分類について,従事する男女の雇用者数の平成17年のデータを整理すると,別紙のとおりとなる。これによると,「専門的・技術的職業従事者」のうち,「保健医療従事者」及び「社会福祉専門職業従事者」に含まれる小分類すべてが「医療,福祉」産業に対応すると考えられるところ,これらに従事する雇用者数について,男女総数に占める女性の割合は,81.5%である。同様に,「飲食店,宿泊業」産業に対応すると考えられる職業小分類「飲食店主」,「接客・給仕職業従事者」に従事する雇用者総数のうち,女性が占める割合は,69.5%である。「教育,学習支援業」産業及び「卸売・小売業」産業については,それぞれ,48.1%,41.9%となるが,「医療,福祉」産業及び「飲食店,宿泊業」産業についていえば,男性よりも女性の方がより多く就労しているといえる。「教育,学習支援業」産業及び「卸売・小売業」産業についても,より新しい平成19年度の労働力調査をみる限り,女性の就労が多くなっているといえる。
[35] また,接客等の応接を要すると考えられる職業小分類について,女性雇用者数が総雇用者数に占める割合を算出すると,別紙のとおり56.7%(ただし「自動車運転者」を加えると51.3%)であり,さらに,男女別に,接客等の応接を要すると考えられる職業小分類の雇用者数が,男女の各雇用者総数に占める割合を算出すると,別紙のとおり,女性は38.5%であるのに対し,男性は22.6%(ただし「自動車運転者」を加えると女性が38.8%,男性が28.2%)である。
[36]c 以上によれば,女性の就労実態としては,男性と比較して,一般的に応接を要する職種への従事割合が高いということができ,また,今後も,応接を要する職種を中心に,女性の就労の場が広がっていくことが予測される。そして,応接を要する職種の方が,一般的に,その職業の選択,就職・転職の機会,あるいは就業の継続にとって,外ぼうの醜状障害がより不利益な要因として作用し,就労機会の制約がより大きくなる傾向があると考えられる。
[37] 以上のように,男性と女性の現在の就労実態や就労構造には明らかな違いがあり,外ぼうの醜状障害による就労機会の制約の程度等について,男性と女性との間に,事実的・実質的な差異があることは明らかである。
(イ) 精神的苦痛について
[38] 化粧品の売上げに関する統計や,広告費に関する統計からは,女性が男性に比して自己の外ぼう等に高い関心を持つ傾向があることが窺われ,一般に,外ぼう等に関する関心が高い者にとっては,外ぼうの醜状障害が及ぼす精神的苦痛の程度が大きいと考えられるから,外ぼうの醜状障害による精神的苦痛の程度について,男女の間に明らかな差異があることは明らかで,そのような社会通念は現在においても存在する。
(ウ) 裁判例について
[39] 外ぼうの醜状障害に関する逸失利益等が問題となった交通事故に関する裁判例をみると,現在の就労実態や就労構造の変化などを踏まえ,男女の間に外ぼうの醜状障害により受ける影響について事実的・実質的な差異があることを当然の前提とした上で,個別の事案において,男性あるいは女性の外ぼうの醜状障害による労働能力喪失の程度等を判示したものがあり,その判断の背景には,外ぼうの醜状障害により受ける影響について,男女間に事実的・実質的な差異があるとの判断があるといえ,これは,外ぼうの醜状障害により受ける影響について男女間に事実的・実質的な差異があるという社会通念の存在を根拠付ける。
(被告の主張)
[40] 仮に障害等級表が憲法14条1項に反するとしても,そこから論理的に帰結されるのは,障害等級表において男女の取扱いを同一にしなければならないということだけであって,「男性の等級を女性と同等の等級に引上げなければならない」との結論が直ちに導かれるわけではない。むしろ,原告の主張によれば,「従前,女性について手厚くされていた補償は,女性の社会進出等によって,もはや合理性を失ったのであるから,男性と同等とすべき(引き下げるべき)である」との結論は導けても,原告に適用された障害等級が違法であるとの結論は導けないというべきである。

(原告の主張)
[41] 男性の外ぼうの重要性はかつてよりも高まっており,外ぼうの醜状障害による就労機会の制約や精神的苦痛の程度について,男性を女性に比して低く評価し,その等級を低く規定しているということに合理性が認められないがゆえに,障害等級表は違憲となるのであって,違憲無効となるのは,男性の外ぼうの醜状障害の等級が女性のそれより低く定められている部分に限られる。
[42] したがって,男性の外ぼうの著しい醜状障害に対しては,女性と同様の等級が認定されるべきであり,その意味で本件処分は違法である。
(原告の主張)
[43] 仮に障害等級表自体が合憲であるとしても,原告の後遺障害については,障害等級表第7級の12を準用すべきである。
[44] 認定基準によれば,男子のほとんど顔面全域にわたる瘢痕で人に嫌悪感を抱かせる程度のものについては,第7級の12を準用するとされている。この「ほとんど顔面全域にわたる瘢痕で,人に嫌悪感を抱かせる程度」というのは例示にすぎず,本件障害の程度,すなわち原告の醜状の程度は,極めて広範囲にわたる重大なものであり,それによって原告の受けた精神的苦痛も,ほとんど顔面全域にわたる瘢痕を生じた場合と何ら変わるところはないから,本件処分の認定は,本件障害の程度に照らしてあまりに低すぎる。本件障害には,少なくとも,女性の場合と同等の第7級の12を準用すべきである。
[45] よって,上記のような準用をしていない本件処分は違法である。

(被告の主張)
[46] 認定基準によれば,外ぼうの醜状障害の準用等級の取扱いについては,男子のほとんど顔面全域にわたる瘢痕で人に嫌悪の感を抱かせる程度のものについては第7級の12を準用するとされているが,原告の外ぼうの醜状障害の状態は,ほとんど顔面全域と評価されるまでには至っておらず,外ぼうの醜状障害としては第12級の13にとどまる。
[47] したがって,本件障害は,第12級の外ぼう醜状障害と露出面及び露出面以外の醜状障害から認定される準用第12級の障害とを併合することによって得られる併合第11級に該当し,これより上位の等級になることはない。
(1) 本件における憲法判断の対象等
[48] 前記第2の1(4)エのように,障害等級表は,外ぼうの著しい醜状障害については女性を第7級,男性を第12級と,外ぼうの醜状障害については女性を第12級,男性を第14級としており,男女に等級の差を設けている。もっとも,労働省労働基準局長通達である認定基準(乙3)によって,男性のほとんど顔面全域にわたる瘢痕で人に嫌悪の感を抱かせる程度のものについては,第7級の12を準用することとされており,これは,同じ省内での判断として,厚生労働省令における障害等級表の定めを補完し,障害等級表と一体となって,その内容に従った運用をもたらすものといえるから,上記の認定基準によって,上記の程度の外ぼうの醜状障害についての障害補償給付に関しては,男女の差はないといえる。
[49] したがって,本件では,厚生労働大臣が,障害等級表において,ほとんど顔面全域にわたる瘢痕で人に嫌悪の感を抱かせる程度に達しない外ぼうの醜状障害について,男女に差を設け,差別的取扱いをしていること(以下,「本件差別的取扱い」という。)が,憲法判断の対象となる。

(2) 本件における合憲性の判断基準等
ア 憲法14条1項
[50] 憲法14条1項は,法の下の平等を定めた規定であり,事柄の性質に即応した合理的な根拠に基づくものでない限り,差別的な取扱いをすることを禁止する趣旨と解される(最高裁判所昭和39年5月27日大法廷判決・民集18巻4号676頁,最高裁判所昭和48年4月4日大法廷判決・刑集27巻3号265頁参照)。
イ 障害等級表の策定に関する裁量と憲法14条1項
[51] 法は,障害補償給付について,厚生労働省令で定める障害等級に応じて支給する旨を規定しているから(法15条1項),障害等級表の策定については厚生労働省令の定め(規則の定め)にゆだねられており,厚生労働大臣には,障害等級表の策定についての裁量権が与えられているが,上記アの憲法14条1項の趣旨に照らせば,そのような裁量権を考慮してもなお当該差別的取扱いに合理的根拠が認められなかったり,合理的な程度を超えた差別的取扱いがされているなど,当該差別的取扱いが裁量判断の限界を超えている場合には,合理的理由のない差別として,同項に違反するものと解される。
ウ 障害補償給付についての裁量権の範囲
[52] 次に,厚生労働大臣の裁量の範囲に関し,法による障害補償給付の性質について検討する。
[53] そもそも,労働者災害補償は,安全配慮義務違反を根拠に使用者に損害賠償を求める場合と異なり,使用者の帰責事由を要せず,被災労働者の過失にかかわらず,また,個別の損害の立証を要せず,定型的,定率的な損害のてん補がされるという性質を有する。もとより,被災労働者は,安全配慮義務違反の要件を立証して使用者に民事上の請求をすることも可能である。
[54] このような性質から考えると,被災者にどの程度の損失をてん補するかは,その時々の労働環境や労働市場等の動向などの経済的・社会的条件,国の財政事情等の不確定要素を総合考量した上での専門的技術的考察及びそれに基づいた政策的判断を要するという面がある。とりわけ,障害等級表の策定については,解剖学的,生理学的観点から労働能力の喪失の程度を分類し,格付けを行う必要があり,複雑多様な高度の専門的技術的考察が必要であるといえる。そうすると,障害補償給付を受ける権利への制約に関する厚生労働大臣の裁量は,表現行為や経済活動などの人権への制約場面に比し,比較的広範であると解される。
エ 判断基準と立証責任
[55] 以上によれば,本件においては,障害等級表の策定に関する厚生労働大臣の比較的広範な裁量権の存在を前提に,本件差別的取扱いについて,その策定理由に合理的根拠があり,かつ,その差別が策定理由との関連で著しく不合理なものではなく,厚生労働大臣に与えられた合理的な裁量判断の限界を超えていないと認められる場合には合憲であるということができる。
[56] 他方,行政処分の取消訴訟において,処分の適法性を立証する責任は,基本的に,処分をした行政庁の側にあると解され,本件では,被告が本件処分の適法性を立証しなければならないところ,本件処分が本件差別的取扱いを内容とする障害等級表の定めに基づいてされていることは明らかであるから,本件処分の適法性の前提として,本件差別的取扱いが憲法に違反しないことが必要であり,したがって,被告は,本件差別的取扱いの合憲性について立証しなければならないものと解される。
[57] よって,以下(3)では,この立証責任の配分に従い,基本的には,本件差別的取扱いの合憲性に関する被告の主張の当否を検討していくこととする。

(3) 被告の主張の検討
[58] 被告は,外ぼうの醜状障害が第三者に対して与える嫌悪感,障害を負った本人が受ける精神的苦痛,これらによる就労機会の制約の程度について,男性に比べ女性の方が大きいという事実的・実質的な差異があり,これが本件差別的取扱いの合理的根拠となる旨主張し,上記差異の根拠として,以下の点を挙げているので,これらについて検討する。
ア 労働力調査についての主張
(ア) 被告の主張の概要
[59] 被告は,労働力調査における産業別女性比率や産業別雇用者数によると(乙6,7),女性の就労実態として,接客等の応接を要する職種への従事割合が男性に比して高いといえる旨主張している。
(イ) 産業と職業の相違について
[60] しかし,上記の産業別女性比率や産業別雇用者数における「産業」とは,調査期間中に就業者が実際に仕事をしていた勤め先・業主の主な事業の種類を日本標準産業分類に基づいて分類したものであり(甲13の2),労働力調査において当該就業者が実際にしていた仕事の種類であるとされる「職業」とは異なるものである。
[61] したがって,上記のような産業別女性比率や産業別雇用者数から,女性の職種,ひいては女性の就労実態を直ちには導き出せないし,接客等の応接を要する職種に女性が多く従事していることも導き出せないと解される。例えば,被告の挙げる「医療・福祉」について,当該産業に従事する者の中に,接客を要することのない一般事務に従事する者も一定の割合で存在すると考えられること,「教育,学習支援業」について,産業別女性比率は51.7%であるが(乙7),その中に含まれると考えられる職業としての「教員」及び「個人教師(学習指導)」についての雇用者数の女性比率は48.1%で(乙14),男女比率がほぼ逆転していることなどからも,産業別の数値が職業の実態に必ずしもつながらないことを示しているといえる。なお,被告は,事業の種類からでも接客等の応接を要することが多い従業員の割合の大小などをおおむね把握できるなどとも主張しているが,何ら具体的な根拠が示されておらず,上記の判断は左右されない。
(ウ) 産業別雇用者数の関係
[62] 被告は,産業別雇用者数に関し,サービス業全体についての女性の雇用者数の増加が男性より大きく,これが接客等の応接を要する職業に女性が多く従事していることの根拠となる旨主張しているが,労働力調査におけるサービス業全体の中には,「サービス業(他に分類されないもの)」として,専門サービス業としての土木建築サービス業,学術・開発研究機関,廃棄物処理業,自動車整備業,機械等修理業などが含まれている(甲13の1)。したがって,上記(イ)のようにそもそも産業別の数値から職業の実態を直ちに導き出せないことをひとまずおき,被告の主張に沿って考えたとしてもなお,サービス業全体についての女性の雇用者数の増加が男性よりも多いことが,接客等の応接を要する職種に女性が男性より多く従事していることの根拠となるとはいえない。
イ 国勢調査についての主張
(ア) 被告の主張の概要等
[63] 被告は,国勢調査における職業小分類別の雇用者数のデータを整理した別紙(被告指定代理人作成の乙14)を分析すると,女性の就労実態として,接客等の応接を要する職種への従事割合が男性に比して高いといえる旨主張している。
[64] 確かに,被告の主張するとおり,「保健医療従事者」及び「社会福祉専門職業従事者」に占める女性の割合は81.5%,「飲食店主」及び「接客・給仕職業従事者」に占める女性の割合は69.5%であり,男性よりも女性の方が多い。他方,被告も認めるとおり,被告が接客等の応接を要する職業として主張する産業である「教育,学習支援業」及び「卸売・小売業」について,被告がこれら産業に該当する職業として別紙で整理した職業(前者について「教員」及び「個人教師(学習指導)」,後者について「小売店主」,「卸売店主」,「販売店員」,「商品訪問・移動販売従事者」,「再生資源卸売・回収従事者」,「商品販売外交員」及び「商品仲立人」)における女性の割合は,それぞれ,48.1%,41.9%であり,男性よりも低くなっている。
[65] また,被告の主張する接客等の応接を要すると考えられる職業小分類について,女性雇用者数が総雇用者数に占める割合は別紙のとおり56.7%(「自動車運転者」を加えると51.3%),同職業小分類の雇用者数が男女の各雇用者総数に占める割合は別紙のとおり女性が38.5%,男性が22.6%(「自動車運転者」を加えると女性38.8%,男性28.2%)である。
(イ) 分析
[66] まず,本件差別的取扱いの合理性を根拠付けるべき男女の職業に関する差異というのは,外ぼうの醜状障害によって生じる第三者の嫌悪感及び障害を受けた本人の精神的苦痛により就労機会が制約され,損失てん補が必要であると一般的にいえるような職業についての差異である必要がある。
[67] そうすると,被告の主張する「接客等の応接を要する職業」のみならず,本人の精神的苦痛による就労機会の制約の面からは,多くの不特定の他人と接する,あるいはそのような不特定の他人の目に触れる機会の多い職業も含めて考えるのが相当である。
[68] 別紙に記載されているその他の職業でも,少なくとも,「法務従事者」,「経営専門職業従事者」,「音楽家,舞台芸術家」,「販売類似職業従事者」(不動産仲介・売買人,保険代理人・外交員,外交員(商品,保険,不動産を除く)など),「生活衛生サービス職業従事者」(理容師(助手を含む),美容師(助手を含む),浴場従事者,クリーニング職,洗張職)は,上記の職業に含めて考えるべきであるし,「その他のサービス職業従事者」,「保安職業従事者」の中にも,上記の職業に含まれるものがあると考えられる。
[69] そこで,被告の主張する「接客等の応接を要する職業」に,上記の「法務従事者」,「経営専門職業従事者」,「音楽家,舞台芸術家」,「販売類似職業従事者」,「生活衛生サービス職業従事者」を加えた職業に従事する女性と男性の数(別紙記載のもの)を合計すると,女性は695万1000人,男性は593万5100人で,女性雇用者数が総雇用者数に占める割合は53.9%,同職業小分類の雇用者数が男女の各雇用者総数に占める割合は女性が33.5%,男性が22.0%である。
[70] さらに,これに「その他のサービス職業従事者」,「保安職業従事者」を加えた職業に従事する女性と男性の数(別紙記載のもの)を合計すると,女性は778万8200人,男性は716万2100人で,女性雇用者数が総雇用者数に占める割合は52.1%,同職業小分類の雇用者数が男女の各雇用者総数に占める割合は女性が37.6%,男性が26.5%である。
(ウ) 検討
[71] 以上のように,国勢調査の結果を分析すると,外ぼうの醜状障害により損失てん補が必要であると一般的にいえるような職業について,女性雇用者数が総雇用者数に占める割合も,同職業小分類の雇用者数が男女の各雇用者総数に占める各割合も,男性に比べ女性の方が大きいということができるが,採用する職業小分類に応じてその差の程度は区々であるということができる。
[72] そうすると,国勢調査の結果は,事実的・実質的な差異の根拠になり得るとはいえるものの,その根拠としては顕著なものであるともいい難いところである。
ウ 精神的苦痛自体の差異についての主張
[73] 被告は,化粧品の売上げや広告費に関する統計から,女性が男性に比して自己の外ぼう等に高い関心を持つ傾向があることが窺われ,外ぼう等に関する関心が高い者の方が醜状の及ぼす精神的苦痛の程度が大きいと考えられるから,外ぼうの醜状障害による精神的苦痛の程度について男女の間に明らかな差異があると主張している。
[74] 確かに,証拠(乙15〜17)を検討するまでもなく,皮膚用化粧品や仕上用化粧品の需要が男性に比して圧倒的に女性に多いこと,女性用の化粧品やファッション,アクセサリーについてのマスコミにおける広告費が大きな数を占めていることは明らかであり,近年男性の自己の外ぼうに対する関心が高まってきているとの証拠(甲17〜38)があることを考慮しても,なお,一般的に,女性の自己の外ぼうに対する関心が男性に比して高いということができる。そうすると,外ぼうの醜状障害による精神的苦痛の程度について,男女の間に差異があるとの社会通念があることに結びつくとはいえるし,当裁判所の認識もこれを否定するものではない。
[75] 他方,外ぼうへの関心が低い人でも,男性であっても,実際に外ぼうに醜状障害を受けた場合に大きな精神的苦痛を感じることもあり得ると考えられる。実際に,原告が,外ぼうの醜状障害によって大きな精神的苦痛を感じていることも,同人の陳述書(甲40)及び本人尋問の結果等から明らかである。
[76] したがって,外ぼうへの関心の有無・程度や男女の性別が,外ぼうの醜状障害による精神的苦痛の程度と強い相関関係に立っているとまではいえない。
エ 裁判例に関する主張
[77] 被告は,外ぼうの醜状障害に関する逸失利益等が問題となった交通事故に関する裁判例により,外ぼうの醜状障害により受ける影響について男女間に事実的・実質的な差異があるという社会通念の存在が根拠付けられている旨主張している。
[78] 確かに,被告の指摘する裁判例(乙8〜12)において,外ぼうの醜状障害により受ける影響について男女間に差異があることを前提とするような記述が見受けられるが,その記述自体の合理的根拠は必ずしも明らかではなく,これらの記述が,上記のような差異に関する社会通念の存在の強い根拠となるものとはいえない。
オ まとめ
[79] 以上のとおり,国勢調査の結果は,外ぼうの醜状障害が第三者に対して与える嫌悪感,障害を負った本人が受ける精神的苦痛,これらによる就労機会の制約,ひいてはそれに基づく損失てん補の必要性について,男性に比べ女性の方が大きいという事実的・実質的な差異につき,顕著ではないものの根拠になり得るといえるものである。また,外ぼうの醜状障害により受ける影響について男女間に事実的・実質的な差異があるという社会通念があるといえなくはない。そうすると,本件差別的取扱いについて,その策定理由に根拠がないとはいえない。
[80] しかし,本件差別的取扱いの程度は,男女の性別によって著しい外ぼうの醜状障害について5級の差があり、給付については,女性であれば1年につき給付基礎日額の131日分の障害補償年金が支給されるのに対し,男性では給付基礎日額の156日分の障害補償一時金しか支給されないという差がある。これに関連して,障害等級表では,年齢,職種,利き腕,知識,経験等の職業能力的条件について,障害の程度を決定する要素となっていないところ(認定基準。乙3),性別というものが上記の職業能力的条件と質的に大きく異なるものとはいい難く,現に,外ぼうの点以外では,両側の睾丸を失ったもの(第7級の13)以外には性別による差が定められていない。そうすると,著しい外ぼうの醜状障害についてだけ,男女の性別によって上記のように大きな差が設けられていることの不合理さは著しいものというほかない。また,そもそも統計的数値に基づく就労実態の差異のみで男女の差別的取扱いの合理性を十分に説明しきれるか自体根拠が弱いところであるうえ,前記社会通念の根拠も必ずしも明確ではないものである。その他,本件全証拠や弁論の全趣旨を省みても,上記の大きな差をいささかでも合理的に説明できる根拠は見当たらず,結局,本件差別的取扱いの程度については,上記策定理由との関連で著しく不合理なものであるといわざるを得ない。

(4) 小括
[81] 以上によれば,本件では,本件差別的取扱いの合憲性,すなわち,差別的取扱いの程度の合理性,厚生労働大臣の裁量権行使の合理性は,立証されていないから,前記(2)ウのように裁量権の範囲が比較的広範であることを前提としても,なお,障害等級表の本件差別的取扱いを定める部分は,合理的理由なく性別による差別的取扱いをするものとして,憲法14条1項に違反するものと判断せざるを得ない。
[82] そして,本件処分は,上記の憲法14条1項に違反する障害等級表の部分を前提に,これに従ってされたものである以上,原告の主張する条約違反の点(前記第2の2(1)(原告の主張)エ)を検討するまでもなく,本件処分は原則として違法であるといわざるを得ない。
[83](1) 前記1のように,本件差別的取扱いは憲法14条1項に違反しているとしても,男女に差が設けられていること自体が直ちに違憲であるともいえないし,男女を同一の等級とするにせよ,異なった等級とするにせよ,外ぼうの醜状という障害の性質上,現在の障害等級表で定められている他の障害との比較から,第7級と第12級のいずれかが基準となるとも,その中間に基準を設定すべきであるとも,本件の証拠から直ちに判断することは困難である。

[84](2) このように,「従前,女性について手厚くされていた補償は,女性の社会進出等によって,もはや合理性を失ったのであるから,男性と同等とすべき(引き下げるべき)である」との被告が主張するような結論が単純に導けない以上,違憲である障害等級表に基づいて原告に適用された障害等級(第12級)は,違法であると判断せざるを得ず,本件処分も,前記1の原則どおり違法であるといわざるを得ない。
[85] 前記1,2のとおり,本件処分が違法であることは明らかであるから,争点(3)は判断する必要がない。
[86] 以上のとおり,本件処分は障害等級表の憲法14条1項に違反する部分に基づいてされたもので,違法である。したがって,本件処分は取り消されるべきであり,原告の請求は理由があるから,主文のとおり判決する。

  京都地方裁判所第3民事部
  裁判長裁判官 瀧華聡之  裁判官 梶山太郎
  裁判官佐野義孝は転補のため署名押印することができない。
    裁判長裁判官 瀧華聡之

別紙 職業分類別雇用者数(平成17年)
職業分類別雇用者数
■第一審判決(確定)       ■判決一覧に戻る