非嫡出子相続分規定違憲決定
第一審審判

遺産分割申立事件
東京家庭裁判所 平成22年(家)第3942号
平成24年3月26日 家事第5部 審判

申立人 a
申立人 b
    同代理人弁護士 近藤弘
申立人 c
申立人 d
    上記2名代理人弁護士 坂本正幸

相手方 e
相手方 f
    同代理人弁護士 小田原昌行 鹿田昌 柳生由紀子

被相続人 g(平成13年7月25日死亡)

■ 主 文
■ 理 由

■ 参照条文


1 被相続人の遺産を次のとおり分割する。
(1) 別紙遺産目録記載1(1)ないし(10)の各土地及び同2(1)ないし(4)の各建物は,いずれも申立人a及び同b各3分の1,同c及び同d各6分の1の割合で,申立人らの共有取得とする。
(2) 別紙遺産目録記載3の現金は,申立人aの取得とする。
2 相手方eは,別紙遺産目録記載1(7),(8)の各土地及び同2(4)の建物について,申立人a及び同bに対し持分各48分の1,同c及び同dに対し持分各96分の1の遺産分割を原因とする各持分移転登記手続をせよ。
3 相手方fは,別紙遺産目録記載1(7),(8)の各土地及び同2(4)の建物について,申立人a及び同bに対し持分各48分の1,同c及び同dに対し持分各96分の1の遺産分割を原因とする各持分移転登記手続をせよ。
4 申立人aは,第1項(2)の遺産を取得した代償として,申立人bに対し9万8956円を,同c及び同dに対し各4万9478円を本審判確定の日から1か月以内に支払え。
5 本件手続費用中,鑑定人hに支払った鑑定費用202万2000円はこれを48分し,その14ずつを申立人a及び同bの,その7ずつを同c及び同dの,その3ずつを相手方e及び同fの各負担とし,その余の費用は各自の負担とする。
6 手続費用の償還として,申立人bは58万9750円を,同c及び同dは各29万4875円を,相手方eは12万6375円を,申立人aに対し,それぞれ支払え。


[1] 一件記録に基づく当裁判所の事実認定及び法律判断は,以下のとおりである。
[2](1) 被相続人は,平成13年7月25日に死亡し,相続が開始した。
[3] 相続人は,被相続人の妻である亡i(以下「亡i」という。),被相続人と亡iとの間の子である申立人b(以下「申立人b」という。),同a(以下「申立人a」という。),亡j(平成12年1月11日死亡。以下「亡j」という。)の代襲相続人である申立人c(以下「申立人c」という。)及び同d(以下「申立人d」という。)並びに被相続人と申立外k(以下「k」という。)との間の子である相手方e(以下「相手方e」という。)及び同f(以下「相手方f」という。)であったところ,亡iが平成16年11月5日に死亡し,その子である申立人b及び同a並びに亡jの代襲相続人である申立人c及び同dが相続した。その結果,法定相続分は,申立人b,同aが各48分の14,申立人c及び同dが各48分の7,相手方e及び同fが各48分の3となった。
[4](2) 相手方らは,被相続人と亡iとの婚姻中に,被相続人とkとの間で出生した非嫡出子であるところ,非嫡出子の法定相続分が嫡出子の法定相続分の2分の1とされている民法900条4号ただし書前段の規定は,憲法14条1項に反し無効であると主張する。
[5] 本件規定の立法理由は,法律上の配偶者との間に出生した嫡出子の立場を尊重するとともに,他方,被相続人の子である非嫡出子の立場にも配慮して,非嫡出子に嫡出子の2分の1の法定相続分を認めることにより,非嫡出子を保護しようとしたものであり,法律婚の尊重と非嫡出子の保護との調整を図ったものと解されるところ,民法900条4号ただし書前段の規定は,その立法理由に合理的な根拠があり,かつ,非嫡出子の法定相続分を嫡出子の2分の1としたことが右立法理由との関連において著しく不合理であり,立法府に与えられた合理的な裁量判断の限界を超えたものということはできないのであって,同規定は,合理的理由のない差別とはいえず,憲法14条1項に反するものとはいえない(最高裁平成7年7月5日大法廷決定・民集49巻7号1789頁参照)。
[6] よって,相手方らの主張を採用することはできない。
[7](1) 被相続人の未分割遺産は,別紙遺産目録(以下「遺産目録」といい,遺産目録記載の財産を「本件遺産」という。)記載のとおりであることは,申立人ら及び相手方fの間では合意があり(第1回審判期日調書),一件記録によってこれを認めることができる。
[8](2) 本件遺産のうち不動産の評価額は,以下のとおりであると認めることができる(鑑定人hの鑑定書及び鑑定補充書)。
 ア 遺産目録記載1(1)の土地及び同2(1)の建物(合計額)
     相続開始時 3982万円
     分割時   3520万円
 イ 遺産目録記載1(2)の土地及び同2(2)の建物(合計額)
     相続開始時 1億3206万円
     分割時   1億1796万円
 ウ 遺産目録記載1(3)ないし(6)の各土地及び同2(3)の建物(合計額)
     相続開始時 1億724万円
     分割時   9020万円
 エ 遺産目録記載1(7)、(8)の各土地及び同2(4)の建物(合計額)
     相続開始時 299万2500円
     分割時   245万5000円
 オ 遺産目録記載1(9)土地
     相続開始時,分割時とも 7万4912円
 カ 遺産目録記載1(10)の土地
     相続開始時,分割時とも 3万3373円
[9] 遺産目録記載1(9)及び(10)の各土地については,固定資産評価証明書の評価額とすることについて申立人ら及び相手方fの間では合意があり(第1回審判期日調書),相手方eは,本件遺産の評価について,家庭裁判所調査官からの照会に対して何らの回答をしていない(家庭裁判所調査官の平成24年1月4日付調査報告書)。これらの事情に加え,遺産目録記載1(9)及び(10)の各土地の所在,地目,固定資産評価証明書の評価額等からすれば,同各土地は,固定資産評価証明書の評価額によって評価をすることが相当である(甲62の1及び2,63の1及び2)。
[10](1) 申立人らは,平成14年ころ,被相続人が相手方らに対し別紙物件目録記載の各土地(以下「αの土地」という。)を遺贈したことが特別受益に該当すると主張し,相手方fはこれを認める。なお,相手方eは,特別受益についても,家庭裁判所調査官からの照会に対して何らの回答をしていない(家庭裁判所調査官の平成24年1月4日付調査報告書)。
[11] 一件記録によれば,申立人らと相手方らとの間の民事訴訟(原審・東京地方裁判所平成16年(ワ)第21875号建物明渡等請求事件,控訴審・東京高等裁判所平成18年(ネ)第1878号,同2506号)の控訴審において,αの土地が被相続人から相手方らに遺贈されたものであることを確認する,申立人らは相手方らに対し,平成13年7月25日付遺贈を原因とし,相手方ら持分を2分の1ずつとする所有権移転登記手続をすることを合意する旨の和解が成立していること,同和解に基づいて,αの土地につき,相手方らに遺贈を原因とする所有権移転登記がなされていることが認められる(甲10,11,24,乙5)。
[12] よって,被相続人は,αの土地の持分2分の1ずつを相手方らに遺贈したことが認められ,これは被相続人から相手方らに対する特別受益であるということができる。
[13](2) 相手方らに遺贈されたαの土地の持分2分の2の相続開始時の評価額は,各2440万円であると認められる(前記鑑定書)。
[14] 相続開始時の遺産総額は2億8251万7653円であり,特別受益と認められる,相手方らに対して遺贈されたαの土地(持分各2分の1)の相続開始時の評価額は前記のとおり各2440万円である。
[15] したがって,みなし相続財産の額は3億3131万7653円(2億8251万7653円+2440万円+2440万円)となる。
[16] 各相続人の法定相続分は,前記のとおり申立人a及び同bが48分の14,同c及び同dが48分の7,相手方e及び同fが48分の3であるから,具体的相続分を算定すると,以下のとおりとなる。
 申立人a及び同b
  3億3131万7653円×14/48=9663万4315円
 申立人c及び同d
  3億3131万7653円×7/48=4831万7157円
 相手方e及び同f
  3億3131万7653円×3/48-2440万円=-369万2646円
(1円未満切捨て)
[17] 相手方らは,特別受益の額が具体的相続分を上回っているため,結局,具体的相続分は0となる。
[18](1) 申立人らは,本件遺産の不動産全てを法定相続分に従って共有で取得することを希望し,これについて申立人ら間において合意がある。
[19] 相手方fは,本件遺産である不動産の取得は希望しておらず,自己の相続分を金銭で取得することを希望している。
[20] なお,相手方eは,本件遺産の分割禁止の審判を求める旨主張し,その理由として,申立人aが,被相続人を連帯保証人として平成12年9月19日,東京三菱銀行より2億3300万円,同年8月25日,国民生活金融公庫より4500万円の融資を受けており,未だ残債務があると述べるが,他の相続人がいずれも本件遺産の分割を求めている本件において,被相続人の連帯保証債務の存在は,遺産の分割を禁止する特別の事由にあたるとはいえないから,相手方eの主張は採用できない。
[21](2) 前記4のとおり,相手方らの具体的相続分はいずれも0であるから,相手方らは被相続人の本件遺産を取得することはできない。
[22] 申立人ら間における本件遺産である不動産の分割についての合意は不合理であるとは認められないから,申立人らの希望どおり,本件遺産の不動産を全て申立人らが法定相続分で共有取得することが相当である。
[23] また,遺産目録記載3の現金は,保管している申立人aが取得し,同b,同c及び同dに対し,法定相続分に応じた代償金を支払うことが相当である。
[24] 以上のとおり,前記5で認めた分割方法により,本件遺産を分割することとする。
[25] なお,鑑定人hに支払った鑑定費用202万2000円は,相手方fが16分の1にあたる12万6375円を,申立人aがその余の189万5625円を裁判所に予納しているところ,遺産分割における受益の程度等を考慮すれば,主文第5項のとおり,当事者全員が法定相続分の割合で負担するのが相当である。
[26] よって,主文のとおり審判する。

  家事審判官 高取真理子
1 土地
 (1) 所在 江戸川区β×丁目
   地番 ××××番×
   地目 宅地
   地積 132.23平方メートル
 (2) 所在 江戸川区γ×丁目
   地番 ×××番
   地目 宅地
   地積 389.61平方メートル
 (3) 所在 江戸川区δ×丁目
   地番 ×××番×
   地目 宅地
   地積 83.21平方メートル
 (4) 所在 江戸川区δ×丁目
   地番 ×××番×
   地目 宅地
   地積 119.49平方メートル
 (5) 所在 江戸川区δ×丁目
   地番 ×××番×
   地目 雑種地
   地積 145平方メートル
 (6) 所在 江戸川区δ×丁目
   地番 ×××番×
   地目 雑種地
   地積 56平方メートル
 (7) 所在 市川市ε×丁目
   地番 ××××番×
   地目 宅地
   地積 38.41平方メートル
   被相続人の持分 8分の1
 (8) 所在 市川市ε×丁目
   地番 ××××番×
   地目 宅地
   地積 84.95平方メートル
   被相続人の持分 8分の1
 (9) 所在 鉾田市ζ字η
   地番 ××××番×
   地目 山林
   地積 2341平方メートル
 (10)所在 伊那市θ
   地番 ××××番××
   地目 原野
   地積 6410平方メートル
2 建物
 (1) 所在   江戸川区β×丁目××××番地×
   家屋番号 ××××番×
   種類   工場 居宅
   構造   木造亜鉛メッキ鋼板葺平家建
   床面積  79.31平方メートル
 (2) 所在   江戸川区γ×丁目×××番地
   家屋番号 ×××番の×
   種類   工場 居宅
   構造   鉄骨造陸屋根2階建
   床面積  1階 226.04平方メートル
        2階  44.90平方メートル
 (3) 所在   江戸川区δ×丁目×××番地×
   家屋番号 ×××番×の×
   種類   工場 居宅
   構造   軽量鉄骨造・鉄骨造・木造陸屋根瓦葺2階建
   床面積  1階 249.08平方メートル
        2階 189.78平方メートル
 (4) 所在   市川市ε×丁目××××番地×,××××番地×
   家屋番号 ××××番×
   種類   共同住宅
   構造   木造瓦葺2階建
   床面積  1階 66.10平方メートル
        2階 72.71平方メートル
   被相続人の持分8分の1
3 現金
   29万6868円(申立人a保管)
以上
1 所在 江戸川区α×丁目
  地番 ×××番×
  地目 宅地
  地積 83.70平方メートル
  (相手方e及び同f持分各2分の1)
2 所在 江戸川区α×丁目
  地番 ×××番×
  地目 宅地
  地積 94.80平方メートル
  (相手方e及び同f持分各2分の1)
以上
(法定相続分)
第900条 同順位の相続人が数人あるときは、その相続分は、次の各号の定めるところによる。
 一 子及び配偶者が相続人であるときは、子の相続分及び配偶者の相続分は、各2分の1とする。
 二 配偶者及び直系尊属が相続人であるときは、配偶者の相続分は、3分の2とし、直系尊属の相続分は、3分の1とする。
 三 配偶者及び兄弟姉妹が相続人であるときは、配偶者の相続分は、4分の3とし、兄弟姉妹の相続分は、4分の1とする。
 四 子、直系尊属又は兄弟姉妹が数人あるときは、各自の相続分は、相等しいものとする。ただし、嫡出でない子の相続分は、嫡出である子の相続分の2分の1とし、父母の一方のみを同じくする兄弟姉妹の相続分は、父母の双方を同じくする兄弟姉妹の相続分の2分の1とする。

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