サーベル登録拒否事件
控訴審判決

刀剣登録拒否処分取消請求控訴事件
東京高等裁判所 昭和62年(行コ)第38号
昭和63年8月17日 第3民事部 判決

控訴人 (原告) 西岡文博
被控訴人(被告) 東京都教育委員会

■ 主 文
■ 事 実
■ 理 由


 本件控訴を棄却する。
 控訴費用は控訴人の負担とする。


 控訴人は、
「原判決を取り消す。被控訴人が控訴人に対し昭和57年11月1日付けでした原判決添付目録記載のサーベル2本の刀剣登録拒否処分を取り消す。訴訟費用は、第一、第二審とも被控訴人の負担とする。」
との判決を求め、被控訴人は控訴棄却の判決を求めた。

[1] 当事者双方の主張及び証拠関係は、次のとおり付加するほかは、原判決事実摘示及び当審記録中の書証目録記載のとおりであるから、これを引用する。
[2]一1 銃刀法14条の「刀剣類」の意義は、同法2条2項の定義規定に従って解釈されるべきであり、登録制度の歴史的経緯から偶然的に日本刀を対象に発展してきたにすぎないのに、外国刀剣が当然にその対象外であると解釈することには何ら合理性は認められない。また,現行登録制度が日本刀を中心として確立したとの立法事実は尊重に値するとしても、それをもって外国刀剣の登録を認めないことの合理性は何ら説明されていないのであり、被控訴人が原審で外国刀剣の登録を認めないことの合理的理由として主張した事実はいずれも根拠に乏しい。
[3] そして、銃刀法14条5項の委任により同条3項の鑑定の基準を定めた登録規則4条2項が登録対象である「刀剣類」ないし「美術品として価値のある刀剣類」を日本刀に限定したのは明らかに委任立法の限界を越えた違法な行政立法である。
[4] なお、右登録規則4条2項は、日本刀についてのみの鑑定基準を定めたものであれば、委任立法の限界を越えたことにはならないが、外国刀剣について鑑定基準が定められていないとの理由で登録拒否処分はなしえない。

[5] 控訴人は本件登録拒否処分により本件サーベルを日本国内で所持することを禁止され、その所有権放棄を余儀なくされるのであり、かかる不利益は財産的価値の点からみれば財産権の侵害であり(憲法29条)、研究資料及び美術品として所持したいとの欲求を妨げられるとの点からは幸福追求の権利の侵害である(憲法13条)。また、登録対象が日本刀か外国刀剣類かによってその取扱に差別を設けるとの点では、憲法14条の平等原則に抵触する。
[6] そして、これらの権利が公共の福祉による制約を受けるのは当然としても、その制約は合理的な必要最小限のものでなければならないのであり、外国刀剣類を一律に登録対象外とすることが公共の福祉による合理的な制限であることは何ら論証されていない。
[7] 刀剣類についての登録制度は、一貫して文化財として価値のある日本刀の保護を目的としてきたのであり、銃刀法14条が登録対象として保護すべきものとした「美術品として価値のある刀剣類」も、「文化財として価値のある日本刀」と同義に解すべきである。
[8] なお、被控訴人は銃刀法2条の「刀剣類」と同法14条の「刀剣類」とを別異に解釈しているのではなく、同条の「美術品として価値のある刀剣類」とは、登録制度の趣旨、銃刀法全体の体系に照らし「美術品として価値のある日本刀である刀剣類」を意味する旨主張しているのであり、したがって、また登録規則4条2項は何ら銃刀法14条の委任の範囲を越えたものではない。

[9] 控訴人主張のように外国刀剣を所持することが憲法13条所定の幸福追求の権利に含まれるとの点には疑義がある。そして、銃刀法は、危害予防という公共の福祉の観点から、原則として何人も銃砲、刀剣類を所持することを禁止し、その禁止解除の規定の一つとして同法14条の登録制度があり、わが国の文化財保護と危害予防のため必要な規制との調和を図っているのであり、原則的禁止を解除して銃砲刀剣類の所持をいかなる方法、範囲で認めるのかはあくまでも立法政策の問題であるから、右登録制度についても憲法違背の問題が生じる余地はない。


[1] 当裁判所も、控訴人の本件請求は理由がなく棄却すべきであると判断するものであるが、その理由は、次のとおり付加、訂正するほかは、原判決理由説示と同一であるから、これを引用する。

[2] 原判決18枚目裏9行目の「日本民間人所有の武器に関する指令」を「日本民間人所有の武器引渡に関する指令」と改める。

[3] 原判決19枚目裏1行目の次に行を改めて、次のとおり加える。
「右7条5項の委任に基づき同年12月1日文化財保護委員会は同委員会規則第6号を公布したが、その7条は鑑定の基準として、原判決事実欄五1(四)(原判決8枚目表15行目から同裏12行目まで)記載のとおりの規定をした。」
[4] 原判決20枚目裏2行目の「文化財保護委員会は」を「文化財保護委員会の登録による規制は」と改める。

[5] 原判決21枚目表8行目の「これらには」の次に「刀剣類で美術品として価値のあるものについては所持を許可するとしながら、これにより」を加え、同9行目の「審査規定」を「各号に該当するものは美術品として価値のあるものと認め審査に合格させることとした審査規定の4号後段」と改める。

[6] 原判決21枚目裏5行目の「保持してきた」を「保持して鑑賞の対象としてきた」と、同5行目の「その理由」を「それが一般の武器と同一視されて接収されるのは不当であるとの理由」と、同8行目の「鑑定基準」から同9行目の「認められる」までを
「鑑賞基準に順次引き継がれ、銃刀砲14条も従来のこのような登録制度、鑑定基準を受け継ぐ趣旨で制定されたものであり、これら制度、基準を積極的に改める趣旨はなかったと認められるのであり、これを受けた登録規則も内容的には従来の鑑定基準を踏襲する形で制定されたものと認められ、それまで登録対象であった外国刀剣類がこの登録規則により登録対象から外されたと見る余地はない。」
と、それぞれ改める。

[7] 原判決23枚目裏2行目の「銃刀法14条1項の趣旨に合致し」を「立法の経緯、目的を踏まえて銃刀法14条1項の趣旨を明確にしたにすぎないというべきであり、しかも」と改める。

[8] 原判決23枚目裏4行目の次に行を改めて次のとおり加える。
「なお、控訴人は立法事実を尊重するとしても、それのみでは外国刀剣類の登録を認めない合理性の説明にはならないと主張するが、登録制度が日本刀の文化財的価値に着目して危険性のために所持が原則として禁止される刀剣類のうち日本刀のみを対象とした登録制度を設けその所持に道をひらいた趣旨はすでに判示したとおりであって、そのような理由に欠ける外国刀剣に登録を認めないことを不合理であるとはいえない。
 また、右判示のとおり、登録規則4条2項は銃刀法14条1項の「美術品として価値のある刀剣類」すべてについての鑑定基準を定めたものであるから、外国刀剣についての鑑定基準が未制定であることを前提とした控訴人の主張は理由がない。」
[9] 原判決24枚目表5行目の「したがって」から同6行目の「ものではない」までを
「このように、「美術品として価値がある」と認めるべきものが日本刀に限定される結果、銃刀法14条1項の「刀剣類」には「日本刀」以外は含まれないことになるだけであり、同法2条2項の「刀剣類」の定義規定と何ら矛盾するものではない」
と改める。

[10] 原判決24枚目表12行目冒頭に
「刀剣類は人の生命身体に危害を加える用具であるから、その所持が憲法13条に基づく国民の権利に含まれると解することには重大な疑義があるが、」
を加える。

[11]一〇 原判決24枚目裏四行目の「そして、」の次に「銃刀法14条1項、」を加え、同6行目の「ここにおいて」を
「危害防止という公共の福祉の観点から原則的な所持の禁止が容認される刀剣類について、文化財的価値のある日本刀の保護の観点から所持に道をひらいたものであって、外国刀剣について所持の道をひらかなかったからといって、財産権、幸福追求権の侵害として許されないとはいいがたい。そして、右登録制度において」
と改める。

[12] したがって、これと同旨の原判決は相当であり、本件控訴は理由がないからこれを棄却することとし、控訴費用の負担について行政事件訴訟法7条、民訴法95条、89条を適用して、主文のとおり判決する。

  (裁判官 森綱郎 友納治夫 小林克已)

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