神戸税関事件
控訴審判決

行政処分無効確認等請求控訴事件
大阪高等裁判所 昭和44年(行コ)第55号
昭和47年2月16日 第10民事部 判決

控訴人・附帯被控訴人(被告) 神戸税関長
           代理人 上野至 ほか15名

被控訴人・附帯控訴人(原告) 甲野一郎(仮名) ほか2名

■ 主 文
■ 事 実
■ 理 由


 本件控訴を棄却する。
 原判決主文第1項を取消す。
 附帯被控訴人(控訴人)が附帯控訴人(被控訴人)らに対してなした昭和36年12月15日の各懲戒免職処分の無効確認を求める訴を却下する。
 その余の本件附帯控訴を棄却する。
 訴訟費用は、附帯控訴費用を除き第一、二審とも控訴人(附帯被控訴人)の負担とし、附帯控訴費用は被控訴人(附帯控訴人)らの負担とする。


 控訴人(附帯被控訴人。以下単に控訴人という。)代理人は、
「原判決主文第2項及び第3項を取消す。被控訴人らの処分取消請求を棄却する。訴訟費用は第一、二審とも被控訴人らの負担とする。」
との判決ならびに附帯控訴棄却の判決を求め、被控訴人(附帯控訴人。以下単に被控訴人という。)ら代理人は、主文第1項同旨の判決ならびに附帯控訴につき、
「原判決主文第1項を取消す。控訴人が被控訴人に対してなした昭和36年12月15日付の各懲戒免職処分はいずれも無効であることを確認する。」
との判決を求めた。

[1] 当事者双方の事実上の陳述及び証拠の関係は、左記のほか原判決事実摘示(別紙を含む。)と同一であるからこれを引用する。

 控訴人代理人は、

一、8月19日の抗議活動について。
[2] 被控訴人丙田らの組合員が集団で官房主事室に乱入した目的は、処分の理由につき説明をきくことにはなかつた。このことは、組合幹部が大塚問題につき自ら調査し又大蔵省とも折衝した結果処分が長びいた理由及び関税法違反でなく国公法違反で処分せねばならなかつた理由を知つていた事実、ならびに組合員らの態度が最初から喧嘩腰であつた事実(このことは、官房主事が11時45分頃官房主事室において大塚に対し処分書等を交付しようとしたところ、大塚は処分書を一読しただけで「デッチ上げだ、こんなものは受取れぬ。」といつてこれを机の上に放り出し、処分説明書をも充分読まないで官房主事室の入口付近に行き、総務課の方に向つて「おい戒告だ。」と叫び、それに呼応して待機していた組合員2名がかけ込み、続いて多数の組合員が乱入した経緯からも窺われる。)に徴し明白である。ひつきようするに、本件抗議活動の真の目的は、実力を以て処分を撤回させることにあつたのであり、そうだとすると、処分を撤回しない限り本件騒動は避け得なかつたと考えられるから、税関長が直接処分書を交付しなかつたこと及び官房主事が処分理由を説明しなかつたことと本件騒動との間には因果関係がない。従つてこれらの事情により本件暴力的抗議活動が正当化されたり、その違法性が軽減されたりすることはあり得ない。

二、10月5日及び26日の職場集会について、
[3](一) 本件集会には監視部の職員数名(この者達は当日非番でなかつた。)が加わつている。監視部は、密輸の取締を行うところであるから、他の部署と異なり寸時の職場停廃をも許されない。この点からみても、本件集会は、国民生活に重大な支障をもたらしたものでその違法性は著大である。
[4](二) 本件集会が組合本部からの指令に基づくものだとしても、それだけで職場集会が開かれるものではなく、そこには必ず支部幹部の積極的な指導と発意とが存在する筈である。なぜなら、本部の指令と雖も違法な場合には実施を拒むことができ、現に拒んだ例があるからである。よつて、本部の指令を盾にとつて行為の違法性をおおうことはできない。
[5](三) 本件集会により神戸税関の始業が一斉に遅れ、その後の事務処理も順次遅延した。そして、その結果生じた損害は、関係業者にしわよせされた(その実情は後記三の(二)の(2)に述べるのと同様である。)のであつて、この事実に徴するならば、本件集会は、実害を生じなかつたから違法性が軽微だとはいえない。

三、11月1日から12月2日までの争議行為について。
[6](一) 本件争議行為が輸出関係職員の増員要求を貫徹することを目的としてなされたものであることは、原審で主張したとおりであるが、当時神戸税関の輸出部門が特に増員を必要とする事情になかつたことは、次の事実(そのうち(1)及び(2)については原審でも述べたところである。)により明らかである。
[7](1) 神戸税関本庁の1人当り輸出申告処理件数は、昭和33年から36年にかけ漸減している。
[8](2) 神戸税関本庁と横浜税関とを比較すると、昭和36年10月現在において横浜税関の方が忙しい(同年1月から3月にかけては神戸の方が忙しいと被控訴人らは主張するけれども、問題は本件争議行為が行われた時点の状況であるから、右主張は意味がない。)
[9](3) 超勤は輸出部門より他の部門の方が多い。
[10](4) 輸出部門が月末月始に忙しいことは事実である。しかし、時期により事務に繁閑があることはいずれの職場においても免れ難く、税関内においても輸出部門に特有な現象ではない。そして、これに対処する方法としては、繁忙時の事務量を標準としてそれに見合う人員を常時配置することが不可能である以上、超過勤務制度を活用するほかないのである。勿論その場合でも超勤が過度にわたつてはならず、過度にわたらないで済むだけの人員を確保することは必要で、神戸税関当局がそのため真摯な努力を重ねて来たことは原判決の認めるところである。
[11] しかるに、組合は以上の客観的事実に目を塞ぎ、無理矢理に人員増加を実現する手段として、終には超勤そのものを拒否するに至つたのである。
[12](二) 本件団体行動は、国民生活に重大な支障をもたらすものである。その理由は次のとおりである。
[13](1) 関税法98条が税関につき臨時開庁という異例の制度を設けた立法趣旨に照らすならば、通関業務の阻害は、それ自体国民生活に重大な支障をもたらす事由として法定せられているというべきである。この立場からすれば、本件団体行動は、通関業務を阻害したものであるから、実害の有無を論ずるまでもなく国民生活に重大な支障をもたらしたものとして取扱うべきである。
[14](2) かりにそうでないとしても、本件団体行動は、国民生活に実害を与えた。すなわち、通関手続が遅れるときは税関貨物取扱人(いわゆる乙仲業者)、船舶荷役元請業者(いわゆるステベ業者)、倉庫業者、船会社、荷主等の関係業者のすべてに余分の出費を強いることになるのであつて、本件の場合もその例外ではあり得ない。
[15](3) 本件の場合幸いにして船積不能という最悪の事態を避けることはできたけれども、右は当局が措つた非常措置(重点審査)によるものであり、その結果として許可すべからざる輸出を許可し輸出秩序を乱した可能性があるのである。
[16](三) 右(一)、(二)の事実によれば、本件争議行為は、その目的、その手段、その結果において悉く強度の違法性を帯有するものであるから、これを共謀し、あおり、そそのかした被控訴人らの責任は重大である。

[17]四、なお、違法な争議行為については職員団体とその構成員とが併行して責任を負うべきである。従つて、争議行為には懲戒権が及ばないとの被控訴人らの主張は理由がない。

と陳述した。立証(省略)

 被控訴人ら代理人は、

[18]一、控訴人の当審における主張をすべて否認する。

[19]二、控訴人は10月5日、26日の職場集会、11月1日、2日及び12月2日の団体行動が国公法98条5項の争議行為に当るとして本件懲戒処分をした。右職場集会及び団体行動が業務の正常なる運営を妨げるものでなく、従つて、争議行為に当らないことは被控訴人らが原審で主張したとおりであるが、かりに争議行為に当るとしても、次の理由にょり国公法98条5項の適用を受けるものではない。
[20](一) 国公法98条5項は憲法に違反する。
[21] 憲法28条は、すべての勤労者に対し争議権を保障しているのであつて、公務員と雖もその例外ではない。従つて、公務員の争議行為を禁止することは憲法に違反する。かりに、公務員の職務の公共性に鑑み、これに対し争議権を制限する必要があるとしても、一律に禁止することは許されない。しかるに国公法98条5項は、一律全面的に公務員の争議行為を禁止しているのであつて、それが憲法に違反することは明らかである。
[22](二) いわゆる限定解釈論は、争議行為には国公法98条5項によつて禁止されるものとされないものとがあるという。被控訴人らは、このような解釈は誤りであり、それ自体違憲であると考えるものであるが、がりにこの解釈に従うとしても、本件11月1日、2日及び12月2日の各団体行動は、被控訴人らが原審において、10月5日及び26日の職場集会につき主張したのと同様、右の禁止された争議行為に当らないのである。その理由は次のとおりである。
[23](1) 本件団体行動は、その目的及び方法において正当且つ相当であつたことは被控訴人らが原審において主張したとおりである。従つて、右行動は争議行為の正当な範囲を逸脱するものではない。
[24](2) 一般的にいつて税関の職務は、公共性が稀薄であり、その業務の停廃は国民生活に重大な障害を及ぼすものとはいい難い。このことは輸出は通常商社(通産省で輸出の割当許可をとる。)、通関業者(輸出申告をする。)、税関(輸出許可をする。)、沿岸荷役業者、船内荷役業者の5者を順次経由してなされるものであり、そのうち1部門に停廃があれば全体に遅れを来すという点において5者は同等の重要性を有するにかかわらず、税関以外の部門でしばしば行われる争議については、公共性の立場から規制を論議された事実がないのに徴して明らかである。しかのみならず、本件の場合団体行動は、いずれも短時間で終り、国民生活に何らの実害を生じていない。控訴人は、関係業者に被害を及ぼしたかの如く主張するけれども、現在の通関手続の実情(輸出申告から輸出許可まで、輸出許可から船積まで充分の時間的余裕をみている。)から見て、本件程度の業務の遅れで実害が生じることはあり得ない。従つて、控訴人の右主張は理由がない。

と陳述した。立証(省略)

[1] 被控訴人らは、第一次請求として、控訴人が昭和36年12月15日になした本件懲戒免職処分の無効確認を求めている。しかながら、右無効確認の訴は、昭和37年10月1日施行された行政事件訴訟法(以下行政訴訟法という。)3条4項に定める処分の効力の有無の確認を求める訴訟であることは被控訴人らの主張に徴し明らかであるところ、同法36条の規定によると、無効等確認の訴は、当該処分又は裁決に続く処分により損害を受けるおそれのある者その他当該処分又は裁決の無効等の確認を求めるにつき法律上の利益を有する者で、当該処分若しくは裁決の存否又はその効力の有無を前提とする現在の法律関係に関する訴によつて目的を達することができないものに限り提起することができるのであるが、被控訴人らの本件懲戒免職処分無効確認の訴は、被控訴人ら主張の右処分の無効を前提又は理由とする現在の法律関係である国家公務員としての地位確認の訴により目的を達することができるのであるから、被控訴人らは、同法36条により無効確認の訴を提起することができないものというべきである。仮に、被控訴人らの無効確認の訴の趣旨が被控訴人らの国家公務員としての地位確認を求める趣旨であると解せられるとしても、右訴は、行政訴訟法4条に定める当事者間の法律関係を確認する訴訟で、公法上の法律関係に関する訴訟であり、いわゆる当事者訴訟であると解すべきであるから、当該法律関係の帰属する権利主体のみが正当な当事者である。本件につきこれをみるに、被控訴人らの前記請求の趣旨が神戸税関の職員であることの確認を求める趣旨であるとするならば、右公法上の法律関係の帰属主体たる国を被告として訴えるべきであり、神戸税関長たる控訴人を被告として訴えることはできないものと解するを相当とする。そうすると、本件無効確認を求める訴は、いずれにしても不適法であるから却下を免れない。原審は、被控訴人らの本件無効確認の訴を地位確認訴訟であり、訴としては適法であるとし、請求につき審理し、その理由がないとしてその請求を棄却したが、右は前記説示に照し失当であるから、この点に関する原判決は取消を免れない。訴を却下する判決は、いわゆる既判力を生ぜず、訴訟要件を具備させると、再訴が許される意味において、請求を棄却した判決よりも有利であると解すべきである。従つて、被控訴人らの本件附帯控訴は、一部理由があるから、原判決中本件懲戒免職処分の無効確認の請求を棄却した部分を取消し、右訴を却下するが、その余の附帯控訴は、理由がないからこれを棄却することとする。
[2] 当裁判所は、右各処分の取消を求める被控訴人らの請求を理由ありとして認容すべきものと認めるが、その理由は、次のとおり訂正附加するほか、原判決理由第二項ないし第七項の記載と同一であるから、これを引用する。

[3] 原判決34丁裏末行に「原告丙田」とあるのを、「原審及び当審における被控訴人丙田」とあらためる。

[4] 同37丁裏10行目に「原告丙田」とあるのを、「原審及び当時における被控訴人丙田」とあらためる。

[5] 同38丁裏終りから2行目の「本人尋問の結果」の次に「及び当審における被控訴人丙田の本人尋問の結果」を加える。

[6] 同42丁表5行目の「同大屋広隆」の次に、「同栗山彦七郎」を加える。

[7] 同42丁裏3行目の「甲第9号証の2の3、」の次に、「弁論の全趣旨により成立を認める」を加え、同4行目の「同号証の2の5、」の次に、「成立に争のない」を加え、同8行目の「各本人尋問の結果」の次に、「当審における被控訴人乙山及び同丙田の各本人尋問の結果」を加える。

[8] 同45丁表10行目の「申請を受け」から同12行目の「準備が遅れ」までを、
「職員がカウンターに残件の書類を出し、業者が4時30分までにその中から臨時開庁により審査する分を選択して開庁を申請し、5時までには開庁承認の印を押し終り、5時から開庁するのであるが、この日は右の事情で書類を出すのが遅れ、」
とあらため、同終りから2行目の「職員は」の次に「これに先立ち5時半頃から」を加える。

[9] 同46丁表10行目の「9時30分頃」から同丁裏7行目の「行政処分ともなかつた)」までを、
「この指示は通常50程ある審査点を4点に減縮する大巾且つ画一的なものであり、他方神戸税関ではかつて梅干事件と称する事件(昭和36年に梅干に関して農林省の検査合格証がないのに輸出許可をしたことで担当職員及び係長が収賄の嫌疑を受けた事件)があり、それ以来職員の間に審査を省略することを恐れる空気があつたので、職員は容易に右指示に従わず、組合執行部に対し税関長と交渉して重点審査が原因で事故が起つた場合の責任の所在を明らかにするよう要請した。そこで、被控訴人ら3名を含む執行委員は、同日午前10時頃税関長と交渉してその見解をただしたが、明確な答弁を得られなかつた。交渉は同10時を少し過ぎた頃終り、被控訴人中田及び同田代は、直ちに輸出為替課におもむいて結果を報告するとともに、職員に向つて、このまましていたら責任問題が起きる、課長に一札入れてもらつてから仕事をしようなどと言つた。」
とあらためる。

[10] 同47丁表終りから3行目の「言つた。」の次に
「そのため職員の間にとまどいを生じ、仕事は依然停滞していた。さらに3、40分後には被控訴人乙山が再び輸出為替課に姿をあらわし、重点審査の責任は係員にあると税関長が言明したといつて仕事を中止させるに至つたのであるが、金田課長補佐が総務課まで確認した上、右乙山発言を打消し、責任は課長にあるといつたので、以後正常な状態にもどり、仕事はにわかにスピードアツプされた。」
を加える。

[11] 同47丁表終りから2行目の「同じ11月2日」から同丁裏9行目の「大声を出しており、」までを
「同じ11月2日午後5時頃鑑査第1部門においては、輸出為替課の確認事務が右述の経過でスピードアツプされた影響を受け、同課から大量の書類が一時に回付されたため、通常の方法では処理し切れない事態となつた。そこで、宮崎鑑査部長は、局面打開の方法として、輸出為替課におけると同様重点審査をすることを指示するとともに、30分休憩して5時半から臨時開庁することとし、職員に対し超過勤務命令を出した。ところで、右重点審査の指示は、現物検査を最少限にとどめ、書類審査(その内輸出検査証の審査を不可欠とし、他は適当に省略する。)と統計品目番号(コードナンバー)の記入に重点をおくことを内容とするものであつたが、その趣旨が必ずしも明瞭でなかつたため、職員の間に疑義を生じ、このことは組合執行部に報告された。そこで、被控訴人甲野、同乙山らを含む組合執行部約10人は、鑑査部吉井鑑査官の席に集り、適当に省略するとはどういうことか、その内容を示せと要求し、」
とあらためる。

[12]10 同48丁表終りから三行目に「原告」とあるのを、「当審ならびに原審における被控訴人」とあらためる。

[13]11 同49丁表5行目の「同横田忠良」の次に、「同宮崎健一郎」を加え、「原告」とあるのを「当審ならびに原審における被訴控人」とあらため、末行の「全員の」から同丁裏2行目の「主眼であつた。」までを「超過勤務の形を避けながらも、実質的にはそれと同じ効果を挙げることを目的とするものであつた。」とあらためる。

[14]12 同52丁表終りから3行目に「原告」とあるのを「当審ならびに原審における被控訴人」とあらためる。

[15]13 同52丁裏2行目の「昭和34年」から53丁表5行目の「該当する。」までを次のとおりあらためる。
(1) 前記認定の事実によれば、大塚に対する処分は、事件発生後1年10ケ月、監視部長の談話発表後1年2ケ月、大塚に対する最後の取調が行われた後1年1ケ月を経てなされており、処分の内容も右談話に現われたところと異つている。他方原審証人大塚宏圀、同服部正治、同横江威の各証言、当審における被控訴人丙田本人尋問の結果によれば、大塚はこの件につき刑事処分を受けていないこと、組合は、この件につき独自の調査を遂げた結果大塚の潔白を確信していたこと、大塚は、組合の事件発生当時の組織部長、右処分当時の副支部長で、いずれもその頃当局と対立していたことが認められ、これらの事実を総合すれば組合員らが右処分は組合に対する弾圧ではないかと疑い、当局に対する抗議に熱を帯びたのは当然である。もつとも、右丙田本人の尋問結果によれば、組合は、この件につき社会党の代議士を通じ当局と交渉したことが認められるから、組合幹部は、右処分が遅延し処分内容が変更せられたいきさつを或いは知つていたかとも思われる。しかし、そのいきさつの内容は不明であるし、一般組合員がこれを知つていた形跡はないから、右遅延及び変更の事実を抗議の理由にすることは必ずしも条理に反しない。
(2) 右抗議に対する当局の態度は、前認定のとおりであり、組合員を納得させるものでなかつた(もつとも、だからといつて当局の態度を非難することはできない。なぜならば真正な公文書と推定される乙第53号証、第57号証によれば、当局は、根拠なくして大塚の行動に疑を抱いたわけでないことがうかがわれるが、右の根拠を公表することは適当でないからである。)。
 以上の事情が認められるが、それにもかかわらず前認定の本件抗議活動の態様(官房主事らを取囲んだ上、侮辱的威圧的暴言をあびせ、同旨の貼り紙をし、退出を阻止した。)は、明らかに行過ぎであり、殊にその際の被控訴人丙田の言動(携帯マイクを使用し、官房主事の耳もとでバカヤロー、チンピラなどと叫んだ。)は乱暴きわまるもので、正当な組合活動の範囲を逸脱した行為であり、国公法82条3号に該当すること明白である。
[16]14 同54丁表5行目に「国民生活に相当程度の支障をもたらすおそれがある場合」とあるのを、「国民生活全体の利益を害し、国民生活に重大な支障をもたらすおそれがある場合」とあらため、同10行目の「要しないものと解する。」の次に、「即ち、刑事罰をもつてのぞむほどの違法性を欠く場合でも違反者に対し当該行為に相当の懲戒処分をし、また民事上の責任を追求することのできる場合もあるものと解する。」を加え、同11行目から12行目に「ような違法性の弱い」とあるのを削る。

[17]15 同54丁裏1行目の「場合をいう)。」の次に、
「被控訴人らは、国公法98条5項の規定は、憲法28条の規定に違反すると主張するが、国公法98条5項により禁止される争議行為を前記のように制限的に解釈することができるのであり、右規定は、国家公務員の争議行為を一律全面的に禁止する趣旨でないと解すべきであるから、憲法28条に違反するものではない。被控訴人らの右主張は採用できない。」
を加え、2行目の「そこで、」から8行目の「強いといえる。」までを、
「そこで、税務職員の争議行為の制限について考えてみるに、税関は、輸出入の通関業務、密輸出入の取締などを主たる職務とし、関税法の定めるところにより関税の確定、納付、徴収及び還付ならびに貨物の輸出及び輸入についての税関手続を適正迅速に処理すべき職務権限を有するものであるから、その業務の正常な運営は、輸出入に関係する業者のみならず国民の経済生活や輸出入による我が国の経済の発展にも影響があり、ひいては国際信用の面からも是非必要である。関税法98条は、「(1)日曜日、休日又はこれらの日以外の日の税関の勤務時間外において、税関の政令で定める臨時の執務を求めようとする者は、税関長の承認を受けなければならない。(2)税関長は、税関の事務の執行上支障がないと認めるときは、前項の承認をしなければならない。」と規定し、他の官庁においては殆んどその例をみないいわゆる臨時開庁の制度が設けられており、右規定の趣旨から考えると、税関長は、臨時開庁の請求があつた場合には、執務上支障のない限り右請求を承認し、臨時開庁をする義務があるものと解すべきである。右のような制度は、税関における輸出入の通関業務が他の一般行政庁におけるより以上にその業務の運営の適正迅速が要求され、これに対応するために設けられているものと解すべきである。密輸出入の取締等を主たる職務とする監視部の職員はもとより、輸出又は輸入の税関業務を主たる職務とする業務部(輸出業務課、輸入業務課)、輸出輸入に関する鑑査をする鑑査部(右業務を取扱う部課については、原審証人滝野輝雄の証言により認める。)その他の業務を担当する税関職員の職務の公共性は、かなり強いものであつて、以上の諸点を併せ考えると、税関の職務の停廃は、仮りに短時間であつても、国民生活全体の利益を害し、国民生活に重大な支障をもたらすおそれがあるものと解するを相当とする。」
とあらため、その次に
「被控訴人らは、税関の職務は、一般的にいつて公共性が稀薄であり、その業務の停廃は、国民生活に重大な支障を及ぼすものではない。このことは輸出は通常商社、通関業者、税関、沿岸荷役業者、船内荷役業者の5者を順次経由してなされるものであり、そのうち1部門に停廃があれば全体に遅れを来す点で5者は同等の重要性を有するのに、税関以外の部門の争議は公共性の立場から規制されることはないことからも明らかであると主張するが、税関の職務の公共性が強く、その職務の停廃は、長時間にわたらぬ場合においても国民生活全体の利益を害し、国民生活に重大な支障をもたらすおそれがあることは、既に説明したとおりであり、被控訴人らの主張するように5者を順次経由して輸出がなされるとしても、税関以外の者はすべて私企業であり、私企業の従業員たる労働者には一般的に労働争議が許されており、その業務も代替性のあるものであるから、輸出入業務その他の税関業務を専属的に取扱う権限を有する行政庁たる税関と比較することはできないことが明らかである。税関以外の輸出関係者の労働者が一般的に争議行為が許されていることを以て、被控訴人ら主張のような結論を導き出すことはできない。右主張は採用できない。」
を加え、54丁裏9行目の「10月5日の集会」の次に「及びこれに続く庁内行進」を加え、同10行目に「僅か5分」とあるのを「13分」とあらため、同末行に「僅か5分」とあるのを「13分」とあらためる。

[18]16 同55丁表1行目から2行目に、「国民生活に相当程度の支障を及ぼすおそれがある」とあるのを「国民生活の全体の利益を害し、国民生活に重大な支障をもたらすおそれがある」とあらため、同3行目の「右集会」の次に「及びこれに続く庁内行進」を加え、同3行目の「従つて」から4行目の「違法である。」までを削り、同末行の「しかし前述のとおり」から55丁裏7行目の「いわなければならない。」までを削る。

[19]17 同56丁表4行目の「原告らが、」から11行目の「該当する。」までを、
「被控訴人らの10月5日及び26日の行為は、国公法98条5項前後段に違反し、同法82条1号に該当する。なお、控訴人は、被控訴人らの行為は右のほか国公法98条1項、101条1項、人事院規則14-1第3項前後段に違反し国公法82条3号に該当すると主張する。しかし、これらの法条は争議行為としてなされた行為には適用がない。けだし、これらの法条に違反する行為は、もともと争議行為に通常随伴する行為であつて、これに対する規制は、かりにその争議行為が違法な場合でも、専ら国公法98条5項によつてなされるものと解すべきだからである。従つて、右主張は採用できない。」
とあらためる。

[20]18 同57丁表8行目の「違法である」の次に
「なお前記のように税関における臨時開庁は、税関における輸出入等の税関事務を適正迅速に処理するために行われ、他の行政官庁において殆んど例をみない業務の公共性の強い執行方法であり、その実効を期するために超過勤務命令を出すことは必然的なものであり、予定されたものであると解すべきである。従つて、かかる公共性の強い制度及びこれに必然的に伴うべき超過勤務命令を尊重せず税関中でも輸出入等の重要な業務を担当する職員が集団的に怠業又は拒否行為による争議行為をするに当り、これを企画し、その実行を指導し、実行せしめることは違法であると解するのを相当とする。」
を加える。

[21]19 同58丁表5行目の「原告乙山の」から11行目の「該当する。」までを,
「被控訴人乙山、同丙田の11月1日及び2日の輸出為替課における各行為及び被控訴人神田の11月1日の輸出為替課における行為は、国公法98条5項後段に、被控訴人甲野、同乙山の11月2日の鑑査第1部門における行為は同法98条5項前段に違反し、同法82条1号に該当する。なお控訴人は、右のほか、(イ)被控訴人乙山の10月31日の行為は国公法98条5項後段に違反し、(ロ)被控訴人乙山、同丙田の11月1日の行為は人事院規則14-1第3項後段に、被控訴人乙山、同丙田の11月2日の輸出為替課における行為は、国公法101条1項、人事院規則14-1第3項前段に、被控訴人甲野、同乙山の11月2日の鑑査第1部門における行為は、人事院規則14-1第3項後段に違反し、国公法82条3号に該当すると主張する。しかし、(イ)については、前認定にかかる被控訴人乙山の10月31日の行為は、いまだこれを以て怠業行為を企て又はその遂行を共謀しそそのかしあおつたものと認めるに足らず、(ロ)については、控訴人主張の法条を適用する余地のないこと10月5日及び26日の件につきさきに述べたと同様である。従つて、右主張は採用できない。」
とあらため、同末行「撤回願は」から同丁裏1行目「主眼であり」までを、「超過勤務命令の撤回願は、超過勤務拒否の形を避けながらも、実質的にはそれと同じ効果を挙げることを目的とするものであり」とあらためる。

[22]20 同58丁裏目8行の「行為である。」の次に、
「既に述べたように、税関における臨時開庁制度の必要性、重要性及びその制度に必然的に随伴する超過勤務命令の必要性を考えると、超過勤務命令を実質的に拒否することを目的とする行為の違法であることは明らかである。」
を加える。

[23]21 同59丁表1行目の「原告らが」から6行目の「該当する。」までを
「被控訴人の12月2日の行為は、国公法98条5項後段に違反し、同法82条1号に該当する。なお、控訴人は、被控訴人らの行為は、右のほか国公法101条1項、人事院規則14-1第3項前後段に違反し、国公法82条3号に該当すると主張する。しかし、これらの法条を適用する余地のないこと10月5日及び26日の件につきさきに述べたと同様である。従つて、右主張は採用できない。」
とあらためる。

[24]22 同60丁表5行目の「しかし、」の次に、「さきに判断したとおり、組合員らが大塚の処分に対し疑惑を抱くにつきもつともな理由があつたにかかわらず」を加え、同6行目から7行目の「税関側の態度が」の次に、「組合員を納得させるものでなかつたことが」を加える。

[25]23 同60丁裏終りから2行目の「かなり重いが」を、「10月5日及び26日の行為よりやや重いが」とあらためる。

[26]24 同61丁表9行目から10行目に、「原告らの行為については、右に検討したとおりかなり違法性の強いものもあるが、その行為を考慮しても」とあるのを、
「前記認定のとおり国公法98条が国家公務員の争議行為を一律全面的に禁じているものでないこと、禁止される争議行為と許される争議行為との限界の判断はむずかしいこと、特に時間内に喰い込んだ職場集会の許されるか否かの限界の判断はむずかしいこと、その他前記認定の諸般の事情、行為の態様、被控訴人らの組合における地位及び本件行為の当時の社会情勢等を考慮するならば、」
とあらため、その次に「また」とあるのを削る。

[27] 以上の理由により本件懲戒免職処分は取消すべきものであるから、右取消を求める被控訴人らの第二次請求は正当として認容すべく、これと同旨の原判決は相当であつて本件控訴は理由がない。よつてこれを棄却することとし、訴訟費用(附帯控訴費用を含む。)の負担につき、行政事件訴訟法7条、民訴法96条、89条、29条但書、93条を適用して、主文のとおり判決する。

  (裁判官 岡野幸之助 入江教夫 高橋欣一)

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