港湾施設使用不許可事件
第一審判決

港湾施設使用不許可処分取消請求事件
那覇地方裁判所 平成19年(行ウ)第14号
平成20年3月11日 民事第2部 判決

■ 主 文
■ 事 実 及び 理 由


1 A組合管理者が原告に対し平成19年3月8日付けでしたA組合港湾施設の使用不許可処分を取り消す。
2 訴訟費用は被告の負担とする。

 主文と同旨
[1] 原告は,行政財産(港湾施設)である別紙物件目録1の各土地(以下「本件土地」という。)について,昭和63年に目的外使用の許可を受け,以後,これを継続して使用してきたが,平成19年3月に使用許可の申請(以下「本件申請」という。)をしたところ,被告の管理者(以下「管理者」という。)は,同月8日付けでこれを不許可とする処分(以下「本件処分」という。)をした。
[2] 本件は,原告が本件処分は行政手続法5条に反し違法であるなどとしてその取消しを求める事案である。
(1) 地方自治法
ア(公有財産の範囲及び分類)
第238条 この法律において「公有財産」とは,普通地方公共団体の所有に属する財産のうち次に掲げるもの(略)をいう。
一 不動産
(中略)
3 公有財産は,これを行政財産と普通財産とに分類する。
4 行政財産とは,普通地方公共団体において公用又は公共用に供し,又は供することと決定した財産をいい,普通財産とは,行政財産以外の一切の公有財産をいう。
イ(行政財産の管理及び処分)
第238条の4 行政財産は,次項から第4項までに定めるものを除くほか,これを貸し付け,交換し,売り払い,譲与し,出資の目的とし,若しくは信託し,又はこれに私権を設定することができない。
(中略)
7 行政財産は,その用途又は目的を妨げない限度においてその使用を許可することができる。
(中略)
9 第7項の規定により行政財産の使用を許可した場合において,公用若しくは公共用に供するため必要を生じたとき,又は許可の条件に違反する行為があると認めるときは,普通地方公共団体の長又は委員会は,その許可を取り消すことができる。
ウ(組合の種類及び設置)
第284条 地方公共団体の組合は,一部事務組合,広域連合,全部事務組合及び役場事務組合とする。
2 普通地方公共団体及び特別区は,(中略)その事務の一部を共同処理するため,その協議により規約を定め,都道府県の加入するものにあつては総務大臣,その他のものにあつては都道府県知事の許可を得て,一部事務組合を設けることができる。(後略)
エ(普通地方公共団体に関する規定の準用)
第292条 地方公共団体の組合については,法律又はこれに基づく政令に特別の定めがあるものを除くほか,都道府県の加入するものにあつては都道府県に関する規定,市及び特別区の加入するもので都道府県の加入しないものにあつては市に関する規定,その他のものにあつては町村に関する規定を準用する。

(2) 港湾法
ア(定義)
第2条 この法律で「港湾管理者」とは,第2章第3節の規定により設立された港務局又は第33条の規定による地方公共団体をいう。
(中略)
5 この法律で「港湾施設」とは,港湾区域及び臨港地区内における第1号から第11号までに掲げる施設並びに港湾の利用又は管理に必要な第12号から第14号までに掲げる施設をいう。
(中略)
四 臨港交通施設 道路,駐車場,橋梁(りよう),鉄道,軌道,運河及びヘリポ―ト
(中略)
十一 港湾施設用地 前各号の施設の敷地
(後略)
イ(業務)
第12条 港務局は,次の業務を行う。
(中略)
5 港務局は,国土交通省令で定めるところにより,その管理する港湾施設の概要を公示しなければならない。
ウ(港湾管理者としての地方公共団体の決定等)
第33条 関係地方公共団体は,港務局を設立しない港湾について,単独で港湾管理者となり,又は港湾管理者として地方自治法第284条第2項若しくは第3項の地方公共団体を設立することができる。
(後略)
エ(業務)
第34条 港湾管理者としての地方公共団体の業務に関しては,第12条(中略)の規定を準用する。

(3) 那覇港管理組合港湾施設管理条例(以下「本件管理条例」という。)
ア(定義)
第2条 この条例において「港湾施設」とは,港湾法(略)第12条第5項の規定に基づき公示された施設をいう。
イ(使用許可)
第3条 港湾施設を使用しようとするものは、管理者の許可を受けなければならない。ただし,航路その他管理者が定める港湾施設については,この限りでない。
2 管理者は,前項の規定に基づいて許可をする場合には,条件を付することができる。
(後略)
ウ(目的外使用)
第16条 港湾施設は,その用途又は目的を妨げない限度において使用させることができる。
2 前項の使用期間は,1年以内とする。
(後略)

(4) 那覇港管理組合港湾施設管理条例施行規則
ア(使用許可の手続)
第2条 条例第3条第1項の規定により港湾施設の使用の許可を受けようとする者は,許可申請書を管理者に提出しなければならない。
(後略)
イ(継続使用)
第4条 港湾施設を(中略)目的外使用している者が,許可期間満了後も引き続き使用しようとする場合には,当該期間満了15日前までに許可申請書を管理者に提出しなければならない。
(1) 当事者
[3] 原告は,冷凍農畜水産物及び冷凍食品の保管業等を目的とする株式会社である。
[4] 被告は,地方自治法284条2項,港湾法33条に基づき,沖縄県,那覇市及び浦添市により港湾管理者として設けられた一部事務組合である。

(2) 事実経過
[5] 原告は,昭和27年に那覇市α×番37号(以下「旧本店所在地」という。)において,冷凍倉庫業等を営んでいたところ,施設の老朽化に伴い,新たな冷凍倉庫を建築することを計画していた。
[6] ところが,那覇市が同所付近において道路計画を策定していたため,原告は同所において新たな施設を建設することができなかった。
[7] 原告は,昭和61年,新たに冷凍倉庫を建築するための土地(以下「別件土地」という。)を選定し,同土地への移転の準備を進めた。
[8] 他方,那覇市は,同市β地区の区画整理事業に伴い,同地区内に社屋を有していたB株式会社(以下「B」という。)との間で,別件土地を同社の移転先とする移転交渉を行っていた。
[9] 原告と那覇市は,原告の移転先についても交渉を行ったが,結局,原告は,別件土地への移転を断念した(その理由については争いがある。)。
[10] その後,那覇市は,昭和63年,原告に対し,原告の現在の本店所在地(以下「現本店所在地」という。)の土地を賃貸し,原告は同所に移転した。
[11] また,原告は,昭和63年から平成18年3月31日までの間,現本店所在地に隣接する那覇市の所有する行政財産(港湾施設)である本件土地を目的外使用の許可を得て使用してきた。
[12] なお,本件土地の所在地は,当初別紙物件目録2のとおりであったが,その後,別紙物件目録1のとおり変更された。
[13] この間,那覇市は,沖縄県及び浦添市とともに,被告を設け,被告は,那覇市から本件土地の目的外使用の許可権限を承継した(弁論の全趣旨)。
[14] 原告は,平成18年2月15日ころ,管理者に対し,本件土地について,同年4月1日以降の目的外使用(継続使用)の許可申請をしたところ,管理者は,同年3月22日ころ,原告に対し,平成18年4月1日から本件土地を本来の使用目的である公共用道路として使用するので,同年3月31日までに原状回復して引き渡すよう通知した。さらに管理者は,同月27日ころ,書面で,原告に対し,上記申請を不許可とする処分(以下「18年処分」という。)をした。この書面には,原告の前記申請について,「不許可とする。」とするのみで,不許可とする理由についても,行政事件訴訟法46条所定の手続教示もまったく記載されていなかった。
[15]カ(ア) 原告は,那覇地方裁判所に対し,平成18年9月5日,18年処分の取消しを求める訴えを提起した(甲5)。
[16](イ) 那覇地方裁判所は,平成19年2月27日,18年処分は,行政事件訴訟法3条2項にいう「行政庁の処分その他公権力の行使に当たる行為」に該当するとした上で,沖縄県が加入した一部事務組合である被告にも地方自治法292条により都道府県に関する規定が準用され,18年処分についても行政手続法8条等の適用があるところ,18年処分においてはその理由がまったく提示されておらず,18年処分が行政手続法8条等に違反することは明らかであるとして,18年処分を取り消す旨の判決を言い渡した(甲6)。そして,同判決は平成19年3月14日に確定した(甲7)。
[17] 原告は,管理者に対し,平成19年3月5日ころ,本件土地につき港湾施設の使用許可申請(本件申請)を行った(甲1)。
[18] 管理者は,原告に対し,同月8日付けで本件申請を不許可とする処分(本件処分)を行った。
[19] そして,管理者は,同月9日,原告に対し,本件申請を不許可とする旨及び行政事件訴訟法46条所定の手続教示を記載した「A組合港湾施設使用許可申請について(通知)」と題する書面を送付し,同書面は同月12日に原告に到達したが,同書面中には,処分の理由として,「当管理組合が貴社に対して,地方自治法238条の4に基づき使用許可を与えてきた当該地(本件土地)は,本来道路用地を目的として確保した行政財産であるが,今般,当該地に隣接する(有)Cが新燻蒸施設を建設し稼働するのに伴い,当該地を工事車両及び燻蒸施設への40フィートトラックが進入する道路として,本来の行政目的に従って使用する必要があるため。」と記載されていた(甲1)。
[20] また,管理者は,同年3月8日ころ,原告に対し,同月31日までに本件土地を原状回復した上で被告に返還するよう求める旨の通知を再度行い,同通知は同月12日,原告に到達した(甲2)。
[21] 原告は,本件処分後,被告が本件土地の賃料(月額10万1709円)の受領を拒否することが明らかであるとして,平成19年4月分から平成19年7月分までの賃料を供託した(甲3の1ないし4)。
(原告の主張)
[22] 本件処分には行政手続法が適用されるところ,管理者は,本件処分当時,行政財産である港湾施設の使用許可又は不許可(以下「使用許可等」という。)について審査基準を設けておらず,その公表もしていなかったから,本件処分は行政手続法5条に違反する。このように,行政手続法の規定する重要な手続を履践しないで行われた行政処分は,当該申請が不適法なものであることが一見して明白であるなどの特段の事情ある場合を除き,行政手続法に違反する違法な処分として,当然に取り消されるべきである。

(被告の主張)
[23] 否認又は争う。
[24] 被告が本件処分当時,港湾施設の使用許可等について審査基準を定めていなかったことは認める。
[25] しかし,当該許認可等の性質に照らし,法令の定めのみによって判断することができる場合には,別に審査基準を定めることを要しないところ,行政財産の目的外使用の許可のように行政庁に広範な裁量が認められており,その判断基準が,個々の事案に応じた適切な判断ができる程度に法令により定められているときには,別に審査基準を設定することを要しない。
[26] すなわち,当該行政財産(本件土地)についての目的外使用が本来の使用目的を害しないか否か,換言すれば,道路として将来使用する目的を妨げることになるか否かの判断は,被告の広い裁量に委ねられており,申請者にとっても,本件土地が将来道路として使用されることが妨げられるか否かを予見することは容易である。そうすると,本件土地に係る目的外使用の許可処分の性質上,地方自治法238条の4第7項の定めがあるのみであっても,判断基準としては十分であって,別に審査基準を設定する必要はない。したがって,地方自治法238条の4第7項の基準に基づいてされた本件処分は行政手続法5条1項及び2項に反しない。
[27] なお,地方自治法238条の4第7項は当然,一般国民に対して公開されているものである。
[28] 仮に,本件処分が行政手続法5条に定める審査基準が設けられていないことにより違法であるとしても,その瑕疵は軽微であり,これを理由に本件処分を取り消すことはできない。
(原告の主張)
[29] 次のイないしエの各事情にかんがみると,本件処分には裁量権の逸脱,濫用があり,違法であるので,取り消されるべきである。
[30] 原告は,旧本店所在地において使用していた施設の老朽化に伴い,同所に新たに冷凍倉庫を建築することを計画していたが,那覇市が昭和31年に道路計画を策定していたため,同所における新たな施設の建設を断念した。原告は,昭和61年,新たな冷凍倉庫を建築するために別件土地を確保し,設計料等に2000万円を支出して同所における新たな冷凍倉庫の設計を完了し,建築許可を得て,同所への移転の準備を進めた。
[31] しかし,那覇市は,争いのない事実等(2)イのとおり,Bとの間で,別件土地を区画整理事業における同社の移転先とする交渉を行っており,原告に対し,別件土地を譲渡するよう要請した。そこで,原告は,那覇市の指導に従い,同土地を上記会社に譲渡したので,原告が出捐した上記2000万円は,すべて無駄になった。
[32] 原告は,昭和63年,那覇市から,別件土地の代替地として,現本店所在地を提示された。これに対し,原告は,同土地が狭小であったことから難色を示したところ,那覇市は,現本店所在地に隣接する西側海面が埋立予定地であるが,埋立ては相当な期間完了せず,それまでは道路として使用できないので,埋立工事が完了するまでは本件土地の使用を認めると約束して,原告に対し,上記提示を受入れるよう要請した。原告は,那覇市に対し,埋立完了後直ちに明渡しを求められるのは困る旨述べたが,同市は,隣接する新たな埋立地を代替地として取得すれば良いと回答したので,原告は,那覇市との間で,埋立予定地の埋立てが完了するまでは那覇市が原告の本件土地の使用を認めることを条件として移転する合意をし,現本店所在地に移転した。そして,原告は,上記条件が履行されることを前提として,本件土地上に機材置場及び従業員用更衣室を建築し,地下に冷凍コンテナ電源チャージ用の電源設備を埋設し,本件土地上にアスファルトを敷いて本件土地を使用していた。那覇市は,このことを事実上黙認し,原告は,現在まで約18年間,本件土地を保税蔵置場として使用している。
[33] 那覇市から本件土地の目的外使用の許可権限を承継した被告の管理者は,現在も埋立予定地の埋立てはされていないにもかかわらず,本件土地の使用について不許可処分(18年処分及び本件処分)をしたが,これは原告と那覇市との上記合意に反するものである。被告は那覇市から本件土地の管理を移管されたのであるから,被告も当然この合意を遵守すべき立場にある。
[34] また,本件土地は,西側が海岸に面した行き止まりの土地である上,道路建設予定地にすぎず,埋立工事が完了し又は着工して初めて道路としての機能を有するものである。現在は埋立工事の着工すらされていないから,道路としての機能を有するものではなく,本件土地を道路として使用する必要性はない。
[35] さらに,原告は,現在,本件土地に冷凍コンテナ電源チャージ用の電源施設を埋設しているため,本件土地には,常時,保税の大型冷凍コンテナが出入りし,冷凍コンテナが不在のときは,荷役資材200ないし300台を保管し,その余のスペースがある場合は営業用の4トントラック,軽自動車等11台の自動車が頻繁に出入りしている。
[36] 仮に,原告が,今後,本件土地を使用することができず,本件土地を原状回復した上,返還しなければならないとすると,本件土地に埋設した物,建物及び資材の撤去費用に限っても多額の費用を必要とするのみならず,本件土地を保税蔵置場として使用できなくなるため,収入が極端に減少するなど,原告の存亡にかかわる重大な損害が生じる。

(被告の主張)
[37] 否認又は争う。
[38] 那覇市が原告を指導して原告が確保していた移転用地をBに譲渡させ,那覇市が原告に対し代替地を提示し,埋立予定地の埋立てが完了するまでは那覇市が原告の本件土地の使用を認めることを条件とする合意をしたとの原告の主張は否認する。
[39] 原告は,那覇市がBとの間で区画整理事業に伴う同社の移転先として交渉を進めていた那覇市所有の別件土地について,原告の傍系会社であるD株式会社(以下「D」という。)が同土地を借用している以上,同社から転借すればよいと誤解し,那覇市から土地の使用許可を得ることなく独自に移転準備を進めたものにすぎない。その後,原告,那覇市,D及びBとの間で話し合いを重ね,原告の移転用地については,Bの用地問題が解決した後に処理することとされた。そして,原告は,昭和63年8月,Bの用地問題が解決したので,那覇市に対し移転用地問題の解決を要請し,那覇市は,同年10月,原告に対し,現本店所在地を提供したものであり,那覇市が原告の移転用地を譲渡させた際に代替地として現本店所在地を提供したものではない。
[40] 那覇市は,原告に対し,本件土地を道路として使用する必要性が少なかったから使用許可をしたが,その後,地域に多数の会社が立地し,交通事情が変化し,本件土地の道路としての必要性が増大した。また,本件土地の本来の使用目的は道路であり,道路として使用する必要性が生じた以上,道路として使用するのは当然である。
[41](1) 被告は,沖縄県が加入した一部事務組合であるから,地方自治法292条により,都道府県に関する規定が準用され,被告にも行政手続法が適用される。また,被告が本件処分当時,港湾施設の使用許可等について,審査基準を設定していなかったことは当事者間に争いがない。

[42](2) 行政手続法5条1項は「,行政庁は,審査基準を定める。」として,行政庁に対し,審査基準,すなわち,「申請により求められた許認可等をするかどうかをその法令の定めに従って判断するために必要とされる基準」(行政手続法2条8号ロ)を設定することを義務づけており,同条2項は,「審査基準を定めるに当たっては,当該許認可等の性質に照らしてできる限り具体的なものとしなければならない。」としている。また,同条3項は,「行政庁は,行政上特別の支障があるときを除き,法令により申請の提出先とされている機関の事務所における備付けその他の適当な方法により審査基準を公にしておかなければならない。」として,審査基準の公表を義務づけている。
[43] 以上の行政手続法5条の各規定は,行政庁に対し,できる限り具体的な審査基準の設定とその公表を義務づけ,行政庁に上記審査基準に従った判断を行わせることにより,行政庁の判断の慎重・合理性を担保してその恣意を抑制するとともに,申請者の予測可能性を保障し,また不服の申立てに便宜を与えることにより,不公正な取扱いがされることを防止する趣旨のものであると解されるから,行政庁が判断の前提となる審査基準の設定とその公表を懈怠して,許認可等をすることは許されないと解するのが相当である。
[44] とりわけ,行政財産は,「普通地方公共団体において公用又は公共用に供し,又は供することと決定した財産」(地方自治法238条4項)であって,その例外となる目的外使用の許可等については,特定の者に不当な利益を与えたり,又は特定の者が不当な不利益を受けたりすることがないようにするため,行政庁の恣意を排し,不公正な取扱いがされることを防止する必要が高く,審査基準の設定とその公表の必要性は高いというべきである。
[45] しかるに,上記のとおり,被告は本件処分当時,行政財産(港湾施設)の使用許可等について審査基準を設定しておらず,このため,これを公表することもなかったものであるから,本件処分は行政手続法5条に反するものであり,その取消しを免れないというべきである。

[46](3) 被告は,行政財産の目的外使用の許可等については,地方自治法238条の4第7項の定めだけで判断することができ,別に審査基準を設定する必要はない旨主張する。
[47] しかしながら,上記のとおり,行政手続法5条にいう審査基準とは,「申請により求められた許認可等をするかどうかをその法令の定めに従って判断するために必要とされる基準」であって,しかも,当該審査基準は,「当該許認可等の性質に照らしてできる限り具体的なものとしなければならない」(行政手続法5条2項)ものである。そして,地方自治法238条の4第7項は,行政財産の目的外使用について,「行政財産は,その用途又は目的を妨げない限度においてその使用を許可することができる。」との抽象的な定めをしているにすぎないのであって,本件管理条例も,「港湾施設は,その用途又は目的を妨げない限度において使用させることができる。」としているにすぎない。
[48] したがって,行政庁である管理者は,いかなる審査基準により,港湾施設の使用許可等を決定しているのかを,行政財産の目的外使用の許可等の性質に照らして,できる限り具体的な基準を定めなければならないというべきである。もとより,行政庁が行政財産の目的外使用の許可又は不許可を決定するに当たっては,様々な要素を考慮する必要のある場合も当然想定されるのであって,その性質上,行政庁の裁量を相当程度認める抽象的な基準を設定することにならざるを得ないと考えられるが,このことは,審査基準の設定とその公表を懈怠することを何ら正当化するものではない。
[49] なお,弁論の全趣旨によれば,沖縄県も,行政財産の目的外使用の許可等について行政手続法5条に定める審査基準を設定していなかったことが認められ,被告が上記審査基準を設定していなかったのも,その影響を受けたためと考えられる。しかしながら,被告の調査結果(乙1)によれば,滋賀県,兵庫県,愛媛県,三重県,大阪市,仙台市及び千葉県のうち,千葉県以外の地方公共団体は,上記審査基準を設定しており,千葉県がこれを設定していないのは,「条例又は規則において判断基準が言い尽くされているので,審査基準の設定が不要であるため」というのであるから,沖縄県が上記審査基準を設定していなかったことをもって,被告がこれを設定しないことが正当化されるということはできない。
[50] よって,被告の上記主張は採用することができない。

[51](4) また,被告は,仮に本件処分が行政手続法5条に定める審査基準が設けられていないことにより違法であるとしても,その瑕疵は軽微であり,これを理由に本件処分を取り消すことはできないと主張する。
[52] しかしながら,行政手続法5条の趣旨は前記(2)のとおりであるところ,「行政庁は,申請により求められた許認可等を拒否する処分をする場合は,申請者に対し,同時に,当該処分の理由を示さなければならない。」(行政手続法8条)のであって,この理由の提示が同法5条の審査基準の存在を前提とするものであることは明らかである。そして,法令上,理由の提示が必要とされる場合において,理由の提示は,処分庁の判断の慎重・合理性を担保してその恣意を抑制するとともに,処分の理由を相手方に知らせて不服の申立てに便宜を与える趣旨に出たものであるから,理由の提示を欠く場合には,処分自体の取消しを免れないと解するのが相当である(最高裁判所昭和38年5月31日第二小法廷判決・民集17巻4号617頁参照)が、その前提となる審査基準の設定とその公表を欠いてされた処分もまた,同様の趣旨により審査基準の設定とその公表を義務付けた行政手続法5条の規定に反するものであり,処分自体の取消しを免れないというべきである。
[53] よって,被告の上記主張も採用することはできない。

[54] 以上のとおり,原告の請求は,争点2について判断するまでもなく,理由があるから認容し,主文のとおり判決する。

  那覇地方裁判所民事第2部
  裁判長裁判官 大野和明  裁判官 田邉実  裁判官 小西圭一

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