種徳寺事件
上告審判決

罷免無効確認、損害賠償、不動産等引渡請求事件
最高裁判所 昭和51年(オ)第958号
昭和55年1月11日 第3小法廷 判決

上告人(控訴人 原告・被告) 甲野春男
          代理人  広江武彦
被上告人(被控訴人 被告)  宗教法人曹洞宗 外3名
          代理人  吉田賢三
被上告人(被控訴人 原告)  宗教法人種徳寺
          代理人  吉田賢三

■ 主 文
■ 理 由

■ 上告代理人浅野繁、同広江武彦の上告理由


 上告人の被上告人宗教法人曹洞宗及び同宗教法人種徳寺に対する上告を棄却する。
 上告人のその余の被上告人らに対する上告を却下する。
 上告費用は上告人の負担とする。

[1] 上告人が原審において提起した新訴は、上告人と被上告人宗教法人曹洞宗(以下「被上告人曹洞宗」という。)との間において上告人が被上告人宗教法人種徳寺(以下「被上告人種徳寺」という。)の住職たる地位にあることの確認を求める、というにあるが、原審の適法に確定したところによれば、曹洞宗においては、寺院の住職は、寺院の葬儀、法要その他の仏事をつかさどり、かつ、教義を宣布するなどの宗教的活動における主宰者たる地位を占めるにとどまるというのであり、また、原判示によれば、種徳寺の住職が住職たる地位に基づいて宗教的活動の主宰者たる地位以外に独自に財産的活動をすることのできる権限を有するものであることは上告人の主張・立証しないところであるというのであつて、この認定判断は本件記録に徴し是認し得ないものではない。このような事実関係及び訴訟の経緯に照らせば、上告人の新訴は、ひつきよう、単に宗教上の地位についてその存否の確認を求めるにすぎないものであつて、具体的な権利又は法律関係の存否について確認を求めるものとはいえないから、かかる訴は確認の訴の対象となるべき適格を欠くものに対する訴として不適法であるというべきである(最高裁判所昭和41年(オ)第805号同44年7月10日第1小法廷判決・民集23巻8号1423頁参照)。もつとも、上告人は、被上告人曹洞宗においては、住職たる地位と代表役員たる地位とが不即不離の関係にあり、種徳寺の住職たる地位は宗教法人種徳寺の代表役員たりうる基本資格となるものであるということをもつて、住職の地位が確認の訴の対象となりうるもののように主張するが、両者の間にそのような関係があるからといつて右訴が適法となるものではない。
[2] したがつて、結局、右と同旨に出て上告人の新訴を不適法として却下した原判決は正当である。論旨は、原審において主張しない事実関係を前提とするか、又は独自の見解に基づいて原判決を論難するものにすぎず、採用することができない。
[3] 所論は、要するに、原審が上告人の新訴については住職たる地位が宗教上の地位であるにすぎないことを理由としてその訴を不適法として却下しながら、これと併合して審理された被上告人種徳寺の上告人に対する不動産等引渡請求事件については曹洞宗管長のした住職罷免の行為をもつて法律的紛争であるとして取り扱い、本案の判断を示したのは、理由齟齬の違法を犯すものである、というにある。
[4] しかしながら、論旨指摘の原審の各判断は、互いに当事者を異にし、訴訟物をも異にする別個の事件について示されたものであるから、その間に民訴法395条1項6号所定の理由齟齬の違法を生ずる余地はなく、したがつて、論旨はこの点において理由がない。のみならず、被上告人種徳寺の上告人に対する右不動産等引渡請求事件は、種徳寺の住職たる地位にあつた上告人がその包括団体である曹洞宗の管長によつて右住職たる地位を罷免されたことにより右事件第一審判決別紙物件目録記載の土地、建物及び動産に対する占有権原を喪失したことを理由として、所有権に基づき右各物件の引渡を求めるものであるから、上告人が住職たる地位を有するか否かは、右事件における被上告人種徳寺の請求の当否を判断するについてその前提問題となるものであるところ、住職たる地位それ自体は宗教上の地位にすぎないからその存否自体の確認を求めることが許されないことは前記のとおりであるが、他に具体的な権利又は法律関係をめぐる紛争があり、その当否を判定する前提問題として特定人につき住職たる地位の存否を判断する必要がある場合には、その判断の内容が宗教上の教義の解釈にわたるものであるような場合は格別、そうでない限り、その地位の存否、すなわち選任ないし罷免の適否について、裁判所が審判権を有するものと解すべきであり、このように解することと住職たる地位の存否それ自体について確認の訴を許さないこととの間にはなんらの矛盾もないのである。所論は、独自の見解に基づいて原判決を論難するものにすぎず、採用することができない。
[5] 原審の確定した事実関係のもとにおいて曹洞宗管長のした上告人の種徳寺住職たる地位を罷免する処分が有効であるとした原審の判断は、正当として是認するに足り、したがつて、右罷免処分が違法、無効であることを前提とする所論違憲の主張は、失当である。論旨は、採用することができない。
[6] 本件上告について提出された上告状及び上告理由書には右被上告人らに対する上告理由の記載がないから、右被上告人らについては適法な上告理由書提出期間内に上告理由書の提出がなかつたことに帰する。してみれば、右被上告人らに対する上告は、いずれも不適法であるから、これを却下すべきである。

[7] よつて、民訴法401条、399条ノ3、399条、95条、89条に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 高辻正己  裁判官 江里口清雄  裁判官 環昌一  裁判官 横井大三)

[1](一) 原判決は、種徳寺の住職たる地位は法律上の地位であり、種徳寺の住職たる地位の確認請求は、訴訟要件である法律上確認の利益を具備しており、訴訟の相手は住職任免の固有の権利者である被上告人(被控訴人)宗教法人曹洞宗である旨の上告人(控訴人)の主張を却下し、その理由として次のとおり判示した。
「曹洞宗寺院住職任免規程第7条の2には『寺院住職の任免は、申請により管長がこれを行う』と定められ、成立に争いなき乙第2号証によると、宗教法人種徳寺規則第7条第1項には『代表役員は曹洞宗の宗則により、この寺院の住職の職にある者をもつてあてる』と定めていることが認められる。
 そして、前記第1項と弁論の全趣旨によると、被控訴人曹洞宗においては、住職は曹洞宗の『教師』のうちから各寺院ごとに選任されるべきものであつて、住職は寺院の葬儀、法要その他の仏事をつかさどり、かつ、教義の宣布など宗教的な活動における主宰者の地位を占めているにとゞまることが認められる。
 そして、宗教法人法では、宗教団体の財産的活動の面のみを法律上の規律の対象としており、(宗教法人法8条6項、85条参照)宗教活動の面においては法律上の規律の対象としていないのであるが、これは、宗教的活動の分野においては、法律上の紛争として官憲の介入判断されることを避けているものであり、これは信仰の自由を実質的に確保しようという趣旨と解される。
 そして、現在の被控訴人種徳寺の規則によると、被控訴人種徳寺の住職たる地位にある者のみがその代表役員たり得るものとされることは、控訴人の主張するとおりであるが、住職たる地位にもとづいて宗教的活動の主宰者たる地位以外の独自に財産的活動をしていること、又これをすることができる権限のあることは、控訴人において主張、立証しないところである(住職の宗教的活動以外の事項、特に財産的活動について独自の権限を有することは宗教的地位にある信仰、規律、慣習などの宗教上の事項についても、かえつて法律的にその内容に干渉し得る余地を招くことになり、宗教法人法上からも好ましくない結果をもたらすことになる)。
 もつとも、住職は同時に代表役員たる地位を兼ねているから、代表役員たる地位にもとづいてした行為、特に財産的活動に関する行為も、一見住職がしたものとみられる余地もあるが、これは、あくまでも代表役員たる地位にもとづいてされたものであつて、決して住職としての地位それ自体にもとづくものでないことは前記のとおりである。以上のように、住職たる地位はあくまでも宗教的、信仰上の対象たるの地位にとゞまり、たとい住職たる地位は代表役員たる地位を兼ねることはあつても、両者は別個独立のものであり、住職たる地位は法律上の規律の対象たる地位でないと解すを相当とする」
と判示し、また、
「控訴人は種徳寺を相手方として代表役員たる地位の確認判決を得ても、住職たる地位を喪失すれば、その判決は無意味であるというが、控訴人が確認判決で勝訴すれば、種徳寺として財産的活動をするには代表役員たる者を代表者としてせざるを得ないのである。それ故、右判決は無意味であるということはできず、又、包括団体たる被控訴人としても、住職の任免の当否に拘らず、その代表役員たる地位を承認しないわけにはいかないのである。(猶、宗教的地位である住職の任免の当否については、法律上の紛争といえないことは前記のとおり宗教法人法の趣旨に従い法的に関与すべき事項ではない。)
 以上のように、住職たる地位は法律上の判断事項にあたらず従つて、その地位の確認を求める本訴は、他の判断を待つまでもなく、不適法として却下を免れない」
と判示した。

[2](二) 然れども、原判決は宗教法人法の立法趣旨を誤解している違法がある。
[3] 宗教法人法第1条(この法律の目的)第1項には
「この法律は宗教団体が礼拝の施設その他の財産を所有し、これを維持運用し、その目的達成の為の業務及び事業を運営することに資するため宗教団体に法律上の能力を与えることを目的とする」
とあり、又、原判決の援用する同法第85条(解釈規定)には
「この法律のいかなる規定も、文部大臣、都道府県知事及び裁判所に対し、宗教団体における信仰、規律、慣習等宗教上の事項についていかなる形においても調停し、若しくは干渉する権限を与え又は宗教上の役職員の任免その他の進退を勧告し、誘導し、若しくはこれに干渉する権限を与えるものと解してはならない。」
とある。
[4] 右宗教法人法の規定を見るに、同法は専ら寺院所有財産の維持運営に関する規定である。云うまでもなく、寺院の存在目的は寺有財産の維持運営にあるのではない。当該寺院の住職がその宗教活動を立派に主宰し、立派な宗教活動をなすことにある。その主は住職の宗教活動であり、寺有財産はその為の従属的なものである。宗教法人法の立法の趣旨は、寺院存在目的からみて、従属的である寺院所有財産の維持運営を同法で規定したまでゞあつて、宗教上の事項については、外部からの干渉を一切排し、専ら、宗教団体の自治による決定に一任したものであり、宗教団体の自治により定めた規程、規則は、これをそのまゝ法的にも認容するという趣旨と解すべきである。従つて、被上告人曹洞宗の前記住職任免規程は法的効力があり、右規程に基いて、規程どおりに行われるかどうかは法的判断の対象となり得るものであり、従つて、住職の地位も宗教上の地位であると同時に法律上の地位でもあると解すべきである。

[5](三) 原判決は、住職の地位が宗教上のみの地位であるとの判断の理由として、前記のとおり
「現在の被控訴人種徳寺の住職の地位にある者のみが、その代表役員たり得るものとされていることは控訴人の主張するとおりであるが、住職の地位に基いて宗教活動の主宰者たる地位以外に独自に財産的活動をしていること、又、することができる権限のあることは控訴人の主張立証しないところである」
と判示している。
[6] 然れども、原判決は、住職は当該寺院の宗教活動の主宰者であると同時に、その宗教活動によつて、布施その他の名目による報酬を取得し、右報酬によつて自己の生活を維持している重大な点を看過している。このことは特に主張立証をまつまでもなく常理であつて、住職たる地位自体に内蔵されている生活権である。この意味においては、住職たる地位は原判決のいう財産的活動の一面を持つているともいえるであろう。又、住職は必然的に寺有財産である庫裡等に居住し、その宗教活動に必要な財産を占有使用し得る権利も有する。斯る財産的一面をも有する住職の地位を単なる宗教上の地位にすぎぬと解釈し、管長の不当なる住職罷免行為によつて不当に剥奪されるのを法律上救済する方法がないというが如き法律解釈は許されないと思料する。

[7](四) 又、原判決は住職の地位が宗教上の地位のみであるとの理由として、
「控訴人は種徳寺を相手方として代表役員たる地位の確認を得ても、住職たる地位を喪失すれば、その判決は無意味であるというが、控訴人が確認判決で勝訴すれば、種徳寺としては、財産的活動をするのには代表役員たるものを代表者としてせざるを得ないのであるから、右確認判決を無意味であるということはできず、又、包括団体たる被控訴人としても、住職任免の当否に拘らず、その代表役員たる地位を承認しないわけにはいかないのである。」
と判示している。
[8] 然れども、前記宗教法人法第85条には、宗教上の事項については裁判所も干渉することができないことが規定されている。前記のとおり、被包括宗教法人の寺院の代表役員には包括宗教法人の任命の住職が就くことが宗教団体の規則として定められている。然るに、原判決が「包括団体たる被控訴人としても住職罷免の当否に拘らずその代表役員たる地位を承認しないわけにはいかない」と判示していることは、裁判所が宗教団体が定めた宗教上の事項に裁判所が干渉することになるのであつて、かゝる解釈は許されない。
[9] 原判決は、前記のとおり、住職の地位は宗教上の地位であつて、住職任免の当否は法律の規律対象でなく、法律判断してはならない事項であると判示しているが、一方、本件と併合された東京高等裁判所昭和49年(ネ)第964号不動産引渡控訴事件の判決においては、これに反し、住職の罷免行為を法律紛争として取扱い、これに法律上の判断を加え、罷免行為が有効なる旨判示している。即ち、右事件の判決は、第1審判決理由を支持するものであり、第1審判決によれば、第1審判決理由は
「以上認定判示の事実関係からすれば、曹洞宗が被告を原告等の住職の地位から罷免したのは、正に、被告が原告等の檀信徒の大多数の不信任をうけ、住職罷免の嘆願をうけたことにより、被告を原告等の住職におくのは相当でないと認定した結果、その処分を行つたものであつて、その住職罷免の処分には手続的にも実体的にもこれという瑕疵は認められないところであるから、本山の行つた住職罷免の処分は正に有効なものであるといわなければならない」
と判示して、曹洞宗管長の行つた本件住職罷免処分が、単なる宗教上のみの紛争としてゞはなく、法律上の紛争として法律上有効であると法律判断している。
[10] 右併合の両事件を総合してみるとき、原判決は理由齟齬の違法あるものである。
(一) 原判決は判決理由に齟齬があり、破棄せらるべきである。
[11] 原判決は、前記併合の別件罷免無効確認、損害賠償請求控訴事件判決の上告理由第一の二において記したように、本件においては、本山の行つた住職罷免処分を法律紛争として判断しており、前記別件においては法律紛争ではないと矛盾する判断をしている。本件併合両事件を総合してみるとき、原判決は何れの判断を正とするのか、いずれにしても理由齟齬の違法があつて、破棄さるべきである。

(二) 原判決は憲法違反の違法がある。
[12] 曹洞宗住職任免規程は宗教上のみならず、法的効力をも有するものであることは、前記第一の二において記したとおりであるが、本件における曹洞宗管長の上告人に対する住職罷免処分は曹洞宗の右規程の手続に従わざる違法処分である。住職たる地位は宗教上の地位のみならず、法律上の地位であることは前記のとおりであり、又、右地位における宗教的活動によつて住職はその生活を維持しているものであるので、罷免によるかかる地位の剥奪は憲法第31条に違反する重大なる不利益処分であるから、本件本山の住職罷免処分は無効である。従つて、上告人の住職たる地位、従つて上告人の種徳寺代表役員たる地位も喪失しているものでないから、原判決は破棄せらるべきである。

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