「帝銀事件」人質保護請求事件
特別抗告審決定

人身保護請求特別抗告事件
最高裁判所 昭和60年(ク)第256号
昭和60年7月19日 第一小法廷 決定

抗告人 被拘束者 平澤貞通
抗告人      遠藤誠

相手方      法務大臣 ほか2名
代理人      中島重幸

■ 主 文
■ 理 由


 抗告人らの相手方八王子医療刑務所長に対する本件抗告を棄却する。
 抗告人らのその余の相手方に対する本件抗告を却下する。
 抗告費用は抗告人らの負担とする。

 所論の点に関し、死刑の確定裁判を受けた者が刑法11条2項に基づき監獄に継続して拘置されている場合には死刑の時効は進行しないとした原審の判断は、正当として是認することができ、右判断に法令の解釈適用の誤りがあることを前提とする所論違憲の主張は、前提を欠く。論旨は採用することができない。
 刑法11条2項所定の拘置は、死刑の執行行為に必然的に付随する前置手続であつて、死刑の執行に至るまで継続すべきものとして法定されている。したがつて、所論のような拘置ののちに死刑の執行をすることは、当裁判所大法廷の判例(昭和22年(れ)第119号同23年3月12日大法廷判決・刑集2巻3号191頁、昭和26年(れ)第2518号同30年4月6日大法廷判決・刑集9巻4号663頁)の趣旨に徴すれば、憲法36条にいう残虐な刑罰に当たらないことが明らかであるというべきである。所論の点に関する原審の判断は相当であり、論旨は採用することができない。
 最高裁判所が抗告に関して裁判権を有するのは、訴訟法において特に最高裁判所に抗告を申し立てることを許容した場合に限られ、人身保護請求事件において請求を棄却した決定については、人身保護規則46条の規定により民訴法419条ノ2所定の原審の「裁判ニ憲法ノ解釈ノ誤アルコト其ノ他憲法ノ違背アルコト」を理由とする抗告のみが右の場合に当たるということができる。ところが、所論は、違憲をいうが、その実質は、刑の時効に関する刑法32条ないしその関係法令の解釈適用についての主張であつて、民訴法419条ノ2所定の場合に当たらないと認められるから、右は適法な抗告理由ということはできない。
 原決定は、抗告人らの相手方法務大臣及び同検事総長に対する各請求については、右相手方らが人身保護法及び人身保護規則に定める「拘束者」に当たらず、右各請求が不適法であるとして、これらを同法11条1項、同規則21条1項1号により棄却している。ところが、抗告人らは、右相手方らに対する抗告については、右決定に関する抗告の理由を記載した書面を提出していないから、右抗告は不適法であるといわなければならない。

 よつて、本件抗告のうち、相手方八王子医療刑務所長に対するものを棄却し、その余を却下し、抗告費用は抗告人らに負担させることとし、主文のとおり決定する。

(裁判官 和田誠一 谷口正孝 角田禮次郎 矢口洪一 高島益郎)

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