第三者所有物没収違憲判決
控訴審判決

関税法違反未遂被告事件
福岡高等裁判所
昭和30年9月21日 第1刑事部 判決

被告人 中村数一 外1名

■ 主 文
■ 理 由


 本件各控訴を棄却する。


 本件各控訴の趣意は、被告人等両名の弁護人緒方英三郎及び同松永志逸各自提出の控訴趣意書記載のとおりであるから、ここにこれを引用する。
[1] 原判決は証拠能力なき証拠により事実認定をし延いて事実誤認の違法を冒していると主張し、被告人両名の司法警察員に対する供述調書は、被告人両名が原審法廷に於て詳細に亘つて調書作成当時の状況について述べているように取調官たる門司水上署司法警察員の暴行脅迫或は誘導により為された任意性なき供述調書であつて能力のないものであり、その後当初の供述をそのまま受けついで為した爾後の各供述調書も凡て信憑力のないものでこれを主たる証拠として認定した原判決は破棄を免れないと謂うのである。
[2] よつて記録を精査してみるのに、昭和29年10月16日午前5時50分頃門司水上警察署司法巡査城武人及び同田畑定信が門司市田之浦大久保農林倉庫沖合の海上警邏中、宇部沖方面より門司港方面に向け航行中の原判示大栄丸を発見し、停船させた上任意船内検索した処ハツチに約40梱包の菰包を積載しており、船長に対し職務質問すると共に梱包内容を任意調査したるに朝鮮服地及び化粧品等で発送地並びに荷主行先地等瞹昧であり、荷送り状も携帯せず朝鮮近海の海図及び羅針盤を所持していたので、同沖合約800米の海上に於て被告人両名を密輸出の嫌疑で逮捕するに至つたのであつて、被告人中村数一が司法警察員に対し同日から同年11月2日迄の間前後5回(昭和29年10月16日附、同月21日附、同月28日附、同月30日附、同年11月2日附で、前記10月21日附調書が巡査部長首藤忠男によつて作成されたものであるほか、他は宮崎正次郎警部補作成のもの)に亘つて供述した調書があり、又被告人中村俊弘が同じく司法警察員に対し同年10月16日及び同月29日の2回(前者は宮崎警部補作成のもので後者は首藤巡査部長作成のもの)に亘つて供述した調書があるので、これ等を右被告人等の検察官大蔵事務官に対する各供述調書(被告人中村数一については昭和29年10月26日附大蔵事務官同年10月26日附大蔵事務官同年11月6日及び9日附各検察官、被告人中村俊弘については同年10月26日附大蔵事務官、同年11月6日附検察官)と比較検討すると共に、原判決挙示の他の証拠のほか、原審第2回公判における証人首藤忠男、同宮崎正次郎、同松岡新一郎、同永坂綽洋の各供述調書に対照して調査してみるのに、前掲被告人等の司法警察員に対する各供述調書が所論のように取調べ係官の暴行脅迫或は誘導によつたもので任意性のない従つて証拠能力のない調書であると判断すべき形跡は何等発見することはできない。特に前掲司法警察員及び検察官に対する各供述調書中には被告人両名が本件犯行以前の昭和28年12月中旬頃以来前後2回に亘つて林秀次郎こと林智彦その妻李東珠及び中山と自称する韓国人の指示に従い朝鮮向密輸出品を運搬し、福岡県大島港及び山口県上の関港外でそれぞれ朝鮮向鮮魚運搬船に海上積み替えをしたことがある旨を供述しているのであつて、斯様な事実は被告人等の自発的供述がなければ捜査係官においてその詳細を知り得ないことであると思料され、その他前掲各調書には何等矛盾撞着なく所論のような瑕疵のあることは遂に発見できない。従つて原判決がその挙示している他の証拠と相俟つて被告人等に対し関税法第111条第2項の密輸出未遂の共同犯行を認定したのはまことに正当であつて、原判決には事実誤認の違法もない。論旨はすべてその理由なく採用できない。
[3] 原判決がその添附別表記載の貨物について
「税関職員の差押に係る主文記載の貨物は本件犯罪に係る貨物であつて犯人以外の者の所有にかかるけれども、前記挙示の各証拠によれば本件犯罪が行われることをあらかじめ知らないで、本件犯罪が行われた時から引続き所有しているものとは認められないから、関税法第118条第1項により夫々被告人両者に対し之を没収し」
と説示し、被告人両名からこれを没収していることは所論のとおりである。そして前示没収を科した原判決別表貨物は被告人両名が博多沖相の島海上に於て韓国向け漁船蛭子丸に積み替えて密輸出しようとしていた貨物で犯罪貨物であることは、原判示自体から明らかであり、原判決挙示の各証拠と対照すれば被告人等所有の貨物でなく、他人からその輸送を依頼せられたものであることは容易に看取せられるのであるが、右貨物が所論のように果して金進玉の所有に属するや否については原判決も認定していないのであつて、記録を精査してもこの点に関する確証はない。尤も原審証人金進玉の証言中生地類は李東珠から約370万円で買受けたものであり、その他の物は手持品であるとの供述記載があるけれども、原審においてはこれを措信しなかつたのであり、当裁判所も亦本件貨物が金進玉の所有に属するものと断定するに足る資料を発見し得ない。しかし仮に本件貨物が所論のように金進玉の所有に係るものとしても、記録に現われた証拠特に李東珠の司法警察員に対する供述調書及び金進玉の検察官に対する供述調書及び本件犯罪発覚当時の模様(特に貨物の発送地並びに荷主、行先地等の明示もなく、被告人等が荷送り状等も所持しなかつた点)に徴すれば、金進玉と李東珠とはいとこの親戚関係にあつて右金進玉も李東珠等と相談の上被告人の本件船舶に積込ましめたもので本件犯行のような危険のあることは予知していたものと認められるので、原判決が関税法第118条第1項第1号の適用を排除し、被告人等から本件貨物を没収したのはまことに正当で、原判決には所論のような右法律の解釈適用の誤りがあるということはできない。論旨は原審の採用しなかつた原審証人の証言を根拠として独自の見解を主張するのであつて到底採用できない。

[4] よつて本件控訴はいずれもその理由がないので、刑事訴訟法第396条に従い棄却することとし、主文のように判決する。

  (昭和30年9月21日 福岡高等裁判所第1刑事部)

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