新潟県公安条例事件
控訴審判決

昭和24年新潟県条例第4号違反被告事件
東京高等裁判所
昭和25年10月26日 第14刑事部 判決

被告人 甲野一郎(仮名) 外1名

■ 主 文
■ 理 由


 本件控訴を孰れも棄却する。


 本件控訴の趣旨は末尾添附の被告人甲野の弁護人牧野芳夫被告人乙の弁護人牧野芳夫同藤井英男同上村進の共同作成名義の控訴趣意書及び被告人乙の作成名義の控訴趣意書各記載のとおりである。
 按ずるに昭和24年新潟県条例第4号は憲法第94条地方自治法第2条第14条第16条に基き適式に制定告示せられたものであつて、これに罰則の附せられていることも何等憲法に違反するところはない。先づ条例に罰則を附することの合憲性についていえば条例は直接に憲法第94条によつて認められた地方公共団体の立法形式であつて同条によれば法律の範囲内において効力を有するものとされている外、別に憲法上条例を以て規定し得る事項について制限がなく、専ら法律の定めるところに委せられているのであるから法律を以て条例に罰則を附することは憲法上禁止された事項とは解せられない。而して政令に対する刑罰権の包括的授権を禁じ法律の個別的委任がある場合に限り罰則を設けることを認めている憲法第73条第6号但し書の規定は行政権による刑罰権の濫用を防止する趣旨に出ているのであつて地方公共団体の自治的法規の効力を担保するために法律を以て条例に刑罰権を包括的に授権するのとは自らその趣旨を異にするから、右の政令に対するかかる禁止規定を自治立法を援用するのは正当ではない。以上叙説の如く罰則を附した条例は合憲と解すべく次に論旨は本件新潟県条例は憲法第21条第28条により保障せられている国民の集会、結社の自由、勤労者の団結権、団体行動をする権利を侵害する内容を包含するものであるから憲法の条理に反し憲法第98条により無効であると主張するからこの点について考えるのに成程憲法は国民の集会結社の自由或いは勤労者の団結権を保障しているけれども同時に同法第12条は憲法が国民に保障する自由及び権利はこれを濫用してはならないのであつて、常に公共の福祉のためにこれを利用する責任を負う旨を規定しておるのであるから国民の集会結社の自由、勤労者の団結権と雖も公共の秩序を維持し或は国民の福祉を保持するがために必要なる限度において法律或るいは法律の適法なる委任に基く政令或るいは条例を以てこれに制限を附することは憲法に違反するところはないものと解すべきところ本件条例は新潟県において地方自治法第14条第1項に基き同法第2条第3項第1号に掲げられている「地方公共の秩序を維持し住民及び滞在者の安全健康及び福祉を保持する」ため公衆の自由に交通し得る場所における集団示威運動を市公安委員会の許可に係らしめておるのであつて、集団示威運動に対しこの種制限を附することは前記地方自治法第2条第3項第1号の目的を達成するがためにはまたやむを得ざる措置と認めざるを得ない。従つて本件条例はその規定の形式及び内容において毫も憲法に違反するところはないから論旨は理由がない。
 しかし原判決の挙示する標目の各証拠の内容を詳細に検討しこれを綜合して考えれば原判示の事実は優にこれを認めることができ事実誤認の疑は存さない。それゆえ論旨は理由がない。
 なる程被告人甲野に対する起訴状記載の公訴事実と原判示第一の事実との間には措辞に異同のあることは論旨指摘の如くであるけれども起訴状記載の如き意図の下に群衆に対し演説をなし赤旗の歌を合唱して気勢をあげる等の所為はとりもなおさず群衆に対する指導的行為であるから原判決が被告人甲野の判示日時場所における行動を結論的に「群衆を指導し」と判示していることは同一事実に対する単なる表現方法の異同に過ぎず固より公訴事実の範囲を逸脱したものとは認められない。それゆえ論旨は理由がない。
 所論に鑑み本件記録及び原判決において取調べた証拠に現われている一切の事実を精査すれば原審の量刑は相当であり重きに失するものとは認められない。況んや原審が憲法第14条第1項に謂うところの法の下における平等の大原則に違反して被告人等に対し差別的な量刑をなしたことを疑うべき点の如きは毫も存しない。それゆえ論旨は理由がない。

 よつて本件控訴は理由がないから刑事訴訟法第396条により孰れもこれを棄却すべきものとして主文のとおり判決する。

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