性別変更訴訟(非婚要件)
第一審審判

性別の取扱いの変更審判申立事件
京都家庭裁判所 平成31年(家)第219号
平成31年3月27日 審判

申立人 A

■ 主 文
■ 理 由


1 本件申立てを却下する。
2 本件手続費用は,申立人の負担とする。

[1] 本件は,申立人は戸籍上男性であるが,専門的知見のある医師から性同一性障害と診断されており,診断に基づきホルモン治療を受け,また,性別適合手術も受けているとして,性同一性障害者の性別の取扱いの特例に関する法律(以下「特例法」という。)に基づき戸籍の性別を男から女に変更することを求めた事案である。
[2] 本件記録及び関連事件記録(当庁平成28年(家)第2213号)によれば,以下の事実が認められる。

[3](1) 申立人(昭和41年*月*日生)は,身体は男性として生まれながら心は女性という性同一性障害者である。申立人は,幼少時から女性であるとの意識を有していた。
[4] 戸籍上,申立人と父及び母との続柄は「二男」である。

[5](2) 申立人は,平成7年6月16日に女性であるB(以下「妻」という。)と婚姻した。

[6](3) 申立人と妻との間には,平成8年*月*日に長女が生まれた。
[7] 申立人,妻及び長女は,現在に至るまで同居して生活している。

[8](4) 申立人は,平成24年2月23日からホルモン療法を受け始め,平成26年3月24日に性別適合手術を受け,現在は,乳房の女性化,全身の少毛化,体脂肪の増加,筋力の低下が認められ,また,生殖腺の機能は永続的に失われている。

[9](5) 申立人は,平成29年3月3日,名の変更許可の審判(当庁平成28年(家)第2213号)により,名を「C」から「D」に変更した。
[10](1) 前記1で認定した事実によれば,本件申立ては,特例法3条1項2号(以下「本件規定」という。)の要件を満たさない。

[11](2) 申立人は,本件規定が憲法13条,14条に違反する旨を主張する。
[12] 性別に関する認識は,自己の認識する性と異なる性での生き方を不当に強制されることはないという意味で個人の幸福追求権と密接にかかわるものであり,また,生涯を共にする伴侶を選択し,社会生活の基礎となる家族や家庭を構成することも,個人の幸福追求権の一環として認められるものである。
[13] しかし,憲法24条は「婚姻は両性の合意のみに基づき成立する。」と規定し,民法も婚姻は異性間であることを前提とし,日本の戸籍制度もこれを基礎としている。性同一性障害者について,特例法により家庭裁判所による性別の取扱いの変更が認められれば,民法等の法令の適用については,他の性別に変わったものとみなされ,戸籍上の性も変更され,戸籍上異性である配偶者と正式に婚姻をすることができるが,現に婚姻していないことを性別の取扱いの変更を認めるための要件とする本件規定は,長い間生物学的な性別に基づき男女が区別されてきた中で,同性婚という現行法秩序において解決困難な問題の発生を回避する必要があることに基づくものである(特例法3条1項各号の要件全般につき東京高等裁判所平成17年5月17日決定参照。)。そして,憲法13条は,立法その他の国政の上で最大の尊重を必要とすると規定しているが,性自認に従った性別の取扱いや日本国憲法制定時には想定されていなかった性的少数者による新しい家族の形をどのように法的評価していくかは基本的には立法政策に委ねられているというべきであり、それが合理性を有する限り,立法府の裁量の範囲に属するというべきであって,本件規定は,その趣旨や現在の社会的状況からすれば,不合理なものであるということはできない。
[14] また,本件規定に合理的根拠があることは前記説示のとおりであるから,本件規定により,性同一性障害という属性によりそうでない者との間に家庭生活において差異が生じるとしても,これをもって,本件規定が憲法14条1項に反するとはいえないし,本件規定を申立人に適用する限り憲法14条1項に反するということもできない。

[15](3) 以上のとおりであって,本件申立ては,本件規定の要件を満たさないから却下することとし,主文のとおり審判する。

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