東京都外国人管理職選考受験拒否事件
第一審判決

管理職選考受験資格確認等請求事件
東京地方裁判所 平成6年(行ウ)303号
平成8年5月16日 民事第11部 判決

原告 鄭香均
右訴訟代理人弁護士 新美隆
        同 平湯真人
        同 虎頭昭夫
        同 金敬得
        同 梁文洙

被告 東京都
右代表者知事 青島幸男
右指定代理人 友澤秀孝 ほか2名

■ 主 文
■ 事 実 及び 理 由


一 原告の請求中、管理職選考受験資格の確認を求める訴えを却下する。
二 原告のその余の請求を棄却する。
三 訴訟費用は、原告の負担とする。

一 原告と被告との間において、原告が平成7年度及び同8年度の管理職選考試験中、選考種別Aの技術系医化学の受験資格を有することを確認する。
二 被告は原告に対して、金200万円及びうち金100万円に対する平成6年3月10日から、うち金100万円に対する平成7年5月28日から各完済まで年5分の割合による金員を支払え。
[1] 本件は、大韓民国籍の特別永住者で、被告(東京都)の保健婦である原告が、被告の管理職選考試験を受験しようとしたが、原告が日本国籍を有しないことを理由に被告が申込書の受取りを拒否したことなどから、右試験を受験することができなかったため、原告が右試験の受験資格の確認と慰謝料の支払を求めた事件である。
(以下の事実は、当事者間に争いがないか、各項末尾の証拠によって認められる事実である。)

1 原告の経歴等
[2](一) 原告は、昭和25年に岩手県で出生した大韓民国籍の外国人であり、「日本国との平和条約に基づき日本の国籍を離脱した者等の出入国管理に関する特例法」(平成3年法律第71号)に定める特別永住者である。
[3](二) 原告は、昭和45年に准看護婦資格、昭和61年に看護婦資格、昭和63年に保健婦資格をそれぞれ取得し、同年4月に被告に保健婦として採用された。被告は昭和61年に保健婦の採用の要件からいわゆる国籍条項を撤廃していたが、原告は、外国人としては初めて被告に保健婦として採用された者であった。(原告本人)
[4](三) 原告は、昭和63年4月に東京都日野保健所に保健婦として配属され、平成5年3月まで同所で勤務した。原告は、平成4年11月に主任試験に合格し、平成5年4月から主任として東京都八王子保健所西保健相談所に配属され、同所で保健婦として勤務していた。原告は、平成5年4月から現在まで4級職にある。

2 被告東京都における管理職選考
[5](一) 東京都人事委員会の「平成6年度管理職選考実施要綱」は、知事、公営企業管理者、議会議長、代表監査委員、教育委員会、選挙管理委員会、海区漁業調整委員会又は人事委員会が任命権を有する職員に対する課長級の職への第1次選考について規定するものであり、原告の受験しようとした選考の種別Aの受験資格については「別表1の職種の職務に従事する者で、平成7年3月末日現在、4級職にあり、かつ、その在職期間が2年以上5年未満の者。ただし、すでにAを3回受験できた者は除く。」、受験手続については「受験の申込みは、所属長から申込書の配付(2月中旬の予定)を受け、必要事項を記入のうえ、平成6年3月10日(木)までに所属長に提出する方法により行う。」とそれぞれ定められ、保健婦は、右別表1に記載されていた職種の1つであった。また、「平成7年度管理職選考実施要綱」においては、右と同様の規定が置かれているほか、受験資格に日本国籍を有することが加えられた。(乙4、5号証)
[6](二) 管理職選考の実施に関しては、東京都人事委員会が実施要綱を定め、知事、公営企業管理者等の任命権者に事務処理を依頼し、各任命権者がそれぞれの職場に伝達して人事記録の送付、受験申込みの取次等の事務が行われている(証人長沼友兄)。(以下において、被告東京都における右の管理職選考を単に「管理職選考」ということもある。)

3 管理職選考受験申込書の受取拒否
[7](一) 原告は、東京都人事委員会が実施する平成6年度管理職選考の種別Aの技術系医化学を受験することとし、平成6年3月10日、申込書を東京都八王子保健所副所長小川嘉一に提出しようとしたが、右小川副所長は、管理職となれば公権力の行使や公の意思の形成への参画する職に就くこととなるが、日本国籍を有しない職員はそのような職に就くことができないので、原告に受験資格はないとして,右申込書の受取りを拒否した。このため、原告は、同年5月22日に実施された筆記考査を受験することができなかった。
[8](二) 被告は、平成7年度において、同年度管理職選考実施要綱及び受験申込書用紙を原告に配付せず、このため、原告は同年5月28日に実施された筆記考査を受験することができなかった。

4 被告東京都における管理職
[9](一) 東京都事案決定規程には、知事の権限に属する事務に係る決定権限の合理的配分と決定手続を定める(1条)、事案の決定は、当該決定の結果の重大性に応じ、知事又は出納長若しくは局長、部長若しくは課長が行うものとする(3条)、右に基づき知事又は出納長若しくは局長、部長若しくは課長の決定すべき事案は、おおむね同規程の別表に定めるとおりとする(4条)、と定められており、右別表には、決定事項の種類に応じてそれぞれの職層に属する決定権限の内容・範囲が定められている。(乙3号証)
[10](二) 被告における管理職には、右のほかに次長、技監、理事(局長級)、参事(部長級)、副参事(課長級)等の職がある。こうした管理職は、基本的には、それぞれ決定権限をもっているが、そのほかにも、計画の企画や専門分野の研究を行うなど、スタッフとして職務を行う決定権限そのものを直接的に有しない管理職員も若干存するのが実情であった。ただし、被告においては当該管理職の職種による人事管理は行われておらず、例えば医化学の区分で選考に合格して管理職に任用されると、その後の昇任に伴って、そのまま従来の医化学系の分野にだけ従事するものとは限らず、その他の分野の仕事にも担当が及んでいくとともに、職員の人事管理事務、事業の進行管理をする事務等の管理的な事務に就くことがある。なお、被告においては管理職選考試験に合格すると、候補者名簿に登載され、その数年後、最終的な任用選考を経て管理職に任用される。(証人長沼友兄)
[11] 本件の主要な争点は、日本国籍を有しない原告が管理職選考試験を受験することを拒んだ被告の措置が違法であったか否かである。なお、管理職選考試験の受験資格を有することの確認を求める訴えの適否も問題となっている。 1 法治主義(法律による行政)違反
[12](一) 被告が、「公務員に関する当然の法理」として、「公権力の行使又は公の意思の形成への参画にたずさわる公務員となるためには日本国籍を必要とする。」という漠然とした曖昧な基準で外国人の公務員就任あるいは管理職への就任を制約することは法治主義(法律による行政)の原則に反する。
[13] 憲法22条1項の規定する職業選択の自由は、権利の性質上外国人にも保障される。もっとも、職業選択の自由はもとより絶対的なものではなく、公共の福祉の見地から各種の制限が認められることがあるが、その場合でも制限は法律に基づかなければならず、右自由が法律によらずに行政により恣意的に制約されれば、これは法治主義の原則に反し違法となる。
[14] ところで、現行国家公務員法や地方公務員法には、日本国籍のないことを欠格条項と定めた規定がなく、またその他の法律によっても一般に日本国籍を有していることが、公務員の就任に必要な要件であることを定めた明文規定は存しない。わずかに外務公務員法7条が、国家公務員法第38条(欠格条項)に該当する場合の外、国籍を有しない者は、外務公務員になることができない旨を規定するのみである。
[15] 現在行われている外国人の公務員就任に関する基準は、法律によってではなく行政機関相互に交わされた「照会」、「回答」(行政実例、行政事例、通達、法制意見等)によって形成されたものである。このような行政機関内部の「照会」と「回答」により、国会による論議と批判を経ることなく、「公の権力の行使を担当する官吏となる権利については国民のみの専有する権利としているのが各国の通例である」とか「公務員に関する当然の法理」といった空漠たる理屈で前述のような制約基準を形成し、外国人の公務員職への就任を大幅に制限することは、その制限が立法機関によってつくられた法律によってではなく、行政当局の一方的意思によりなされてきた点で、法律による行政という憲法の基本に抵触している。
[16](二) 被告は、公務就任権は憲法15条の参政権に含まれ、外国人には認められていないから、憲法22条にも違反しないと主張するが、現在では憲法15条によっても少なくとも地方公務員レベルにおいては公務就任権を原則として認めていると解すべきである。
[17](三) 最高裁判所第3小法廷平成7年2月28日判決(民集49巻2号641頁)は、外国人の地方参政権については、憲法は何ら禁じておらず、立法政策の問題であることを明確にしている。地方参政権については、現行の公職選挙法が選挙権・被選挙権を日本国民に限っているために、法改正が行われない限りは外国人には認められないことになるが、公務就任権については、外務公務員等を除けば、法は何ら制限していないのであって、法律上制限がない以上、外国人の地方自治体の公務就任権を否定することは、法に基づかずに外国人の人権を制約するものであり、法治主義に反して許されない。

2 「公務員に関する当然の法理」の人権制約基準としての不合理性
[18](一) 職業選択の自由を制限するためには合理的な理由がなければならず、ある制限につき合理性があるというためには制限の理由が明示され、制限手段が目的達成との関連において妥当性がなければならない。ところが行政当局の制約基準は、その理由につき「公務員の当然の法理」とするのみで、その内容が何であるのか全く示されていない。このような内容のない理由では、その制限の合理性を判断することは到底なしえず、職業選択の自由の制限を正当化することはできない。
[19] また、「公権力の行使」、「公の意思の形成への参画」との概念は、職業選択の自由を制約する基準としてはあまりにも包括的かつ抽象的である。このような包括的・抽象的な基準が行政当局により形成、運用されることは、外国人の公務就任権が行政当局の全くの恣意により侵害される結果を招来することになり、その内容においても違法を免れない。
[20](二) 外国人を官吏に任用できるかという問題については、明治43、44年ころの文献を見る限り、当時の学者の間でも意見が分かれており、肯定説がむしろ有力であった。歴史的にみても、明治42年7月12日の日韓両国の間で交換された覚書2条で、日本政府は当時外国人であった韓国人につき、一定の資格を有する韓国人を日本の裁判所の官吏として任用することを約束しており、これらのことは「公務員に関する当然の法理」が必ずしも当然なものではなく、政治状況によって左右される極めて曖昧なものであることを物語っている。
[21](三) 「公務員に関する当然の法理」の根底には、天皇が主権者とされた旧憲法下の官吏観がある。「公務員に関する当然の法理」についての戦後初期の公的見解である昭和23年8月17日法務調査意見長官の意見は、公務員には国家に対し無定量の義務を負うということを前提としている。しかし、このことは、国家公務員法105条の「職員は、職員としては、法律、命令、規則又は指令による職務を担当する以外の義務を負わない。」との規定に反するものであり、また、近代的な公務員労働関係と相容れない。
[22](四) また、「公務員に関する当然の法理」についての昭和28年3月25日付け内閣総理大臣官房総務課長宛内閣法制局第1部長回答は、たとえ公権力の行使に当たる公務員であっても、都道府県や市町村の農地委員については外国人にその資格を認めることは憲法の趣旨に適合すると述べて、公権力の行使であるからといって、すべての場合について外国人は排除されなければならないとは解していない。なお、右回答は、憲法15条1項の「固有の権利」とは「奪うべからざる権利」の意味に解するのが正しく、一般に外国人に対して公務員を選定する権利が認められないのは、直接憲法15条から引き出される結論ではなく、わが国の主権を維持するとともに他国の主権をも尊重しようとする憲法の理念に由来する当然の結論であろうと述べている。このことは、外国人の公務就任権の制限が憲法15条から導き出されるという被告の立場を明確に否定している。
[23](五) 外国人の地方公務員への就任は戦後しばらくの間は何ら問題がないとされていた。外国人を県職員として採用することについて、昭和24年5月26日総理庁自治課長回答は、任命権者において判断すべきものと考えられるとし、昭和27年7月3日地方自治庁公務員課長回答は、原則として差し支えないものと解するとしていた。しかし、地方公務員法が施行され、採用試験の公告、選考は人事委員会で行うこととなり、このころから地方公務員採用試験の募集要綱に国籍条項が登場し、外国人を一律に排除するようになった。外国人は、「公務員に関する当然の法理」を理由に事実上長年の間、国家公務員のみならず地方公務員についてもほぼ全面的に排除されてきたのである。
[24] しかし、外国人を公務員から排除することは、憲法の国際協調主義に反するものであり、また、在日韓国・朝鮮人を中心とする国籍条項撤廃運動から次第に強い批判を浴びるようになった。このため、国や地方自治体は、外国人に対して就任できる公務の門戸を徐々に広げてきたのであるが、このように門戸が徐々に拡大されてきた事実は逆に「公務員に関する当然の法理」の基準としての曖昧さを物語るものである。
[25](六) 以上のとおり、「公務員に関する当然の法理」は人権制約基準としておよそ認められないものであり、「公務員に関する当然の法理」をもって原告の管理職選考の受験を拒否することは、憲法22条1項の規定する職業選択の自由を侵害し、また憲法13条が保障する人間としての幸福を追求する権利を侵害するものである。さらに、前記のとおり「公務員に関する当然の法理」といった空漠たる論理で国籍を唯一の理由に、外国人の公務員就任あるいは管理職への就任を否定することは不合理な差別であり、憲法14条に違反する。
[26] また、原告は、管理職に就任させることを求めているのではなく、管理職選考を受験させることを求めているに過ぎず、「公務員に関する当然の法理」により原告の管理職選考の受験資格までをも奪うことは、この点からも不当である。

3 特別永住者であることの考慮
[27](一) 原告のような特別永住者は、その生活実態は日本国民と全く変わらないのであって、日本社会とのかかわりの程度を考慮することなく「公務員に関する当然の法理」により外国人を一律に公務員就任あるいは管理職への就任から排除することはその合理性を認めることはできない。
[28](二) 在日韓国・朝鮮人特別永住者数は、平成4年末で58万5170人であるが、彼らは日本の朝鮮に対する植民地支配の結果日本に居住するに至った人々及びその子孫である。彼らの約90パーセントは、日本出生の二、三世以下の世代である。彼らは日本で生まれ育ち、日本で学校を卒業し、日本で職を得て、日本で死んでいく人々であり、生活の本拠は完全に日本にある。彼らにとって日本での職業選択の自由の保障が切実であることは日本国民の場合と全く異ならない。彼らにとっては、日本国籍がないとの形式的理由で、ある分野の職業に就けないとされることは、日本の地にあって韓国・朝鮮人として生まれたというだけのことで、すべての人間にとって平等であるべき基本的権利がその分だけ否定されたに等しい。これは出生を理由に人がもって生まれた能力を発展させる可能性を奪うに等しく、職業選択の自由が否定されるばかりか、憲法13条が保障する人間としての幸福追求の権利が否定されることを意味する。また生活実態が日本国民と変わりないにもかかわらず、生まれながらの国籍の違いを理由に日本国民と差別待遇を受ける点で、憲法14条が規定する法の下の平等に違反する。

4 労働基準法3条違反
[29](一) 被告が原告の管理職選考の受験を拒否したことは、原告の在日韓国人というもって生まれた属性を理由にして他の職員に比して不利益な差別的取扱いをなしたものであり、労働基準法3条が禁止し犯罪として構成している国籍を理由とする差別的取扱いに該当する。すなわち、本件のように昇任の基準たる選考の受験資格が同条の規定する「労働条件」に該当することは異論がなく、その受験の機会を国籍を唯一の理由にして奪うことに合理性がないことは明白である。
[30](二) 外国人の公務就任権が憲法22条1項で保障されると解すべきことは前述したとおりであるが、仮に憲法上外国人には公務就任権が保障されていないとしても、そのことから直ちに労働基準法3条が犯罪として構成している国籍を理由とする差別的取扱いが正当化されるものではない。差別的取扱いが合理的なものというためには、原告に管理職選考の受験資格を認めることが憲法に違反し法によって保護すべき利益に当たらないといえなければならないが、定住外国人の参政権は憲法の禁止しているものというべきではないから、刑罰法規を一部無効とするような憲法違反を論ずることは不可能である。

5 地方公務員法違反
[31](一) 憲法14条は、「国民」という文言を使用しているが、同条は原則として外国人にも適用されることは異論がなく、憲法の右条項に由来する地方公務員法13条の「全ての国民」には、原告のように地方公務員として採用された外国人も含まれると解すべきであり、また原告のように日本生まれの在日韓国人にとっては、少なくとも日本国籍を有しない在日という地位が同条の「社会的」身分に含まれると解すべきである。したがって、被告が国籍を理由に管理職選考の受験を拒否することは地方公務員法13条に違反する。
[32](二) 地方公務員法15条は、「職員の任用は、この法律の定めるところにより、受験成績、勤務成績その他の能力の実証に基づいて行われなければならない。」と規定し、任用行為の一つである昇任の基準に「能力の実証」とは無縁の国籍を持ち出すのはこの任用の根本基準に明らかに反し、同条に違反する。
[33](三) 地方公務員法19条1項は、憲法14条、地方公務員法13条を具体化したものであり、外国人にも適用されると解すべきである。管理職選考実施要綱(平成6年度)は、国籍について全く触れておらず、受験資格の公開を規定した地方公務員法19条1項に違反するものである。また、右受験資格として職務遂行と無関係な国籍を要求することは、受験資格につき職務遂行上必要最小限のものであることを要求している同条2項にも違反する。

[34] 以上のとおり、原告は、管理職選考試験を受験する権利があり、かつ、管理職に昇任することができるとの期待を抱いて採用以来誠実に職務を遂行してきた。右権利の侵害及びこれにより原告が被った精神的苦痛は金200万円を下らない。
1 本案前の答弁(確認の利益の不存在)
[35] 本件確認の訴えは、公法上の法律関係に関する訴訟(行政事件訴訟法4条後段)、すなわち、いわゆる実質的当事者訴訟であり、行政事件訴訟法は、実質的当事者訴訟の確認の利益についての規定がないので、民事訴訟の確認の訴えについての例によることになる。確認の利益は、原告の権利又は法律的地位に不安が現に存在し、かつ、その不安を除去する方法として原告被告間でその訴訟物たる権利又は法律関係の存否の判決をすることが有効・適切である場合に認められる。
[36] 本件確認の訴えにおいて、原告は、管理職選考試験の選考種別Aの技術系医化学の受験資格を有することの確認を求めているが、前記選考は東京都人事委員会が実施するものであることに加え、そもそも原告が主張する前記受験資格の確認は、抽象的に前記選考の受験をなしうる地位の確認を求めるものであって、右の地位は単に事実上の利益に過ぎないものであるから、権利とは到底いえず、確認の訴えの対象とはなりえない。したがって、本件確認の訴えは却下されるべきである。

2 管理職選考における国籍要件の適法性
(一) 外国人の公務就任権
[37](1) 公務員となる権利、すなわち公務就任権については、憲法上、参政権に含まれるとされ、公務員の選定罷免権(憲法15条1項)を根拠に国民に対して保障されるものである。参政権は、自国の主権の保持及び国家的利益の見地から、主権の保持者である国民に本来的に帰属するものであって、この参政権に含まれる公務就任権は、日本国籍を有しない者すなわち外国人には認められない。したがってまた、外国人の職業選択の自由には公務就任権は含まれないというべきである。
[38] 原告は、少なくとも地方公務員レベルにおいては公務就任権を原則として認めるべきと主張するが、地方公務員は、多くの国の機関委任事務を行っているから、外国人の公務就任権の保障に関して、ことさら国家公務員と地方公務員を区別する合理的な理由はない。
[39](2) しかしながら、憲法は一方で国際主義の見地に立っており、この立場から、一概に外国人の公務への就任をすべて否定するべきではないとも解され、立法政策又は行政の運用上、一定の制約基準すなわち公権力の行使や公の意思の形成への参画という基準により、これらを職務内容とする職務を除いて、外国人の公務への就任を裁量により認めることができるものである。
[40](3) 原告は、法律によらず行政機関相互に交わされた「照会」「回答」により形成された漠然たる基準により外国人の職業選択の自由を制限することは法律による行政の原則に違反すると主張するが、右のとおり、外国人の公務就任権は憲法上保障されておらず、職業選択の自由の保障も公務就任権には及ばないのであるから、原告の右主張は失当である。
[41] また、外国人の日本社会との関わりの程度の差異を考慮しなかったとしても、外国人の公務就任権が憲法上保障されない以上、何ら合理性を欠くものではない。
[42] さらに、憲法13条の幸福追求の権利は、外国人の公務就任権を含むものではなく、憲法上公務就任権は保障されていないのであるから、法の下の平等を規定した憲法14条に違反するものでない。
[43] また、原告の引用する平成7年2月28日の最高裁判所判決は、憲法15条1項の規定がわが国に在留する外国人に適用されないことを明らかにするとともに、定住外国人の地方参政権、すなわち地方公共団体の長、議会の議員等に対する選挙権についてのみ言及したもので、被選挙権や外国人の公務就任権について何ら述べていないのであるから、右判決から外国人の公務就任権を否定することが法治主義の原則に反するということはできない。
(二) 東京都における外国人の任用
[44](1) 東京都人事委員会は、前記の趣旨を踏まえ、採用試験・選考については、「公権力の行使」、「公の意思の形成への参画」にかかわる業務であるか否かを基準に個別的検討を行い、このような業務に従事する蓋然性の低い職種の採用試験・選考においては、日本国籍を有することを資格要件とはしないこととしてきた。
[45](2) これに対して、東京都人事委員会は、管理職選考については、東京都の管理職の職務は、すべて「公の意思の形成への参画」にかかわる業務であり、かつ、その中に「公権力の行使」に該当する職務も含まれているものであることから、管理職選考においては、日本国籍を有することを資格要件としている。ここで「公の意思」とは、被告東京都の意思を指すが、「公の意思の形成への参画」にたずさわる職について、被告は、都知事(他の任命権者についてもほぼ同様である。)の権限に属する事務にかかる決定権限を有する職、すなわち事案決定権限を有する職(東京都事案決定規程3条により、知事又は出納長若しくは局長、部長若しくは課長と規定されている。)及び決定に至る過程において相当程度意思形成に参画する者(事案決定権限は有しないが、事案決定過程において関与する管理職。具体的には、次長、技監、理事(理事級)、参事(部長級)、副参事(課長級)等の職)がこれに当たると解している。
[46] また、管理職選考を経て任用される東京都の管理職は、すべて「公の意思形成への参画」に携わり、しかも職種による任用管理を行っていないため、公権力の行使にかかわる蓋然性の高い職務に従事する場合が多い。具体的に原告の場合でいえば、仮に原告が管理職選考に合格した場合、保健婦としての管理的職務に従事するのではなく、職種にとらわれない管理的職務に従事するのであるから、公権力の行使や公の意思の形成への参画に携わることになるのである。
[47](3) なお、原告は、管理職に就任させることを求めているのではなく、管理職選考を受験させることを求めているに過ぎないから右選考の受験資格までをも奪うことはできないと主張するが、管理職選考の合格者は、当然に管理職に任用されるものであり、管理職選考が特定の者が管理職という職に就く適格性を有するかどうかを確認する方法として位置付けられるものであるから、その受験申込みは、本人が管理職への任用を希望していることを前提としており、任用を希望しない者が合格者になることを予定していないので、原告の右主張は失当である。
(三) 労働基準法3条について
[48] 労働基準法3条の「賃金、労働時間その他の労働条件」のうち、「その他の労働条件」とは、災害補償、安全衛生、寄宿舎等に関する条件等労働者の勤務に関する基本的な条件をいうと解されるから、管理職選考の受験資格は「その他の労働条件」に含まれない。
[49] 仮に、管理職選考の受験資格が「その他の労働条件」に該当するとしても、同条は憲法14条の平等原則の趣旨に基づくものであるところ、憲法の右規定は合理的理由による差別を許しているのであり、前記のとおり日本国籍を有しない職員に地方公務員の職のうち公権力の行使又は公の意思の形成に参画する職務を行う管理職の任用を前提とした管理職選考の受験資格が認められなかったとしても、憲法上外国人は公務員に就任し行政活動に影響を及ぼす行為をなすことは認められないという合理的な理由によるものであるから、何ら労働基準法3条に違反するものではない。
(四) 地方公務員法について
[50](1) 地方公務員法の適用について平等に取り扱うべきことを定めた同法13条は、「すべて国民は」と表現しており、同条にいう国民の中には外国人は含まれない。したがって、同条は、外国人の任用及び任用後の身分の取扱いについては、直接適用されないものである。
[51] 仮に右規定の趣旨が外国人にも適用されるべきであるとしても、右規定は憲法14条の平等原則に基づくものであるから、絶対的平等を意味するものではなく、合理的理由による差別は許されるものと解されるところ、以上に述べたとおり、日本国籍を有しない職員に管理職選考の受験資格を認めないことには合理的理由がある。
[52](2) 地方公務員法19条1項において,同条の定める公務への就任する機会付与の公平・公開の原則の適用を受ける対象者は、すべての国民であり、この原則は、国民の法の下の平等を定めた憲法14条及び地方公務員法13条を受けたものであって、日本国籍を有しない者は同条の適用を受けないものである。
[53] なお、地方公務員法19条1項にいう競争試験とは、特定の職に就けるために、不特定、多数のうちから競争によって選抜する方法であるが、東京都人事委員会が実施する管理職選考は、同条にいう競争試験ではなく、選考試験であって、選考とは、特定の個人が特定の職に就く適格性を有しているかどうかを確認する方法である。
1 確認請求の性質について
[54] 原告は、本件において、原被告間で原告が平成7年度及び同8年度の管理職選考試験中選考種別Aの技術系医化学の受験資格を有することの確認を求めているが、地方公共団体においては、人事委員会が職員の競争試験及び選考を行い、競争試験における受験資格も定めることとされている(地方公務員法8条、18条及び19条)のであるから、東京都を被告とする原告の本件訴えは、行政事件訴訟法4条後段にいう原被告間の公法上の法律関係に関する訴訟として請求しているものであると解される。

2 確認の利益について
[55] そして、原告が求める右受験資格を有することの確認請求が、東京都人事委員会の定めた管理職選考実施要綱の手続に従い右要綱に定められた試験を受験させることを請求することのできる法的地位の確認を求めるものであるとしても、原告の右の訴えのうち、平成7年度の受験資格の確認を求める点については、既に当該年度の試験は実施ずみであることが明らかであり、右の確認が現在の原被告間の法律関係に何らの影響を及ぼすものではないから、その確認の利益がないというほかはない。
[56] また、平成8年度の受験資格については、本件口頭弁論終結時点で、東京都人事委員会において管理職選考の内容を定める同年度の管理職選考実施要綱が決定されていない。ところで、当該年度に管理職選考を実施するか否か、さらに、受験することのできる職種、級、在職期間等の受験資格をどのように設定するかは、前記の地方公務員法の規定によれば、地方公共団体にあって独立の合議機関である右委員会の判断にかかるものであるから、右委員会において実際に当該年度の選考の実施が決定され、受験資格に関する要件を定められない限り、受験することのできる者の範囲は定まらない性質のものである。そうしてみると、原告が同年度の受験資格の確認を求める点については、本件口頭弁論終結時点では、原被告間の具体的な権利義務関係をめぐる紛争が存するということはできないのであるから、確認の利益がないといわざるを得ない。

3 結論
[57] したがって、原告の請求中、管理職選考受験資格の確認を求める部分は、不適法な訴えとして却下すべきである。 [58] 原告は、前記「前提となる事実」2及び3のとおり、平成6年度管理職選考においては、日本国籍を有しないことを理由として被告が原告の受験申込書の受取りを拒否し、また、平成7年度管理職選考においては、東京都人事委員会においてその実施要綱中に受験資格に日本国籍を有することを受験資格の要件とすることを明示し、被告が原告に対して受験申込書用紙を配布しなかったため、右各年度の管理職選考を受験できなかったということができる。そこで、被告の右の各措置が違法かどうかについて判断する。

1 地方公務員法違反の主張について
[59](一) 地方公務員法13条は、すべて国民は同法の適用について平等に取り扱われなければならず、人種、信条、性別、社会的身分もしくは門地によって差別されてはならないこと、同法19条1項は、競争試験は人事委員会の定める受験の資格を有するすべての国民に対して平等の条件で公開されなければならないこと、また、同条2項は、人事委員会は受験者に必要な資格として職務の遂行上必要な最少かつ適当の限度の客観的・画一的要件を定めることをそれぞれ規定し、右各条の規定は、国民すなわち我が国の国籍を有する者を対象とすることを明示している。
[60](二) しかしながら、憲法第3章に定める基本的人権の保障は、権利の性質上日本国民のみをその対象としていると解されるものを除き、我が国に在留する外国人に対しても等しく及ぶものであり、憲法22条1項の職業選択の自由については、権利の性質上日本国民のみをその対象としているものを除き、我が国に在留する外国人に対してもその保障が及ぶものというべきであり、また、憲法14条1項の法の下の平等の規定も、その保障の対象となる権利等の性質上、特段の事情が認められない限り、我が国に在留する外国人にも適用されるべきものである。
[61](三) 他方、国民主権の原理は、憲法前文及び1条において憲法の基本原理として採用されていることが明らかであり、その理念は、国家権力の正当性の究極の根拠が日本国民の意思に存し、日本国民が国の政治のありかたを最終的に決定することをいうものと理解することができるが、我が国は、国際社会の中で独立した国家であり、憲法及び法律によってつくられた枠組みの中で国民に対して広汎な支配を及ぼし、その担い手となる公務員の職務遂行を通じて右の統治作用が日々実現されているものであることに鑑みると、国民主権の原理は、単に公務員の選定罷免を決定する場面のみに日本国民が関与することで足りるものではなく、我が国の統治作用が主権者と同質的な存在である国民によって行われることをも要請していると考えられるから、憲法は、我が国の統治作用にかかわる職務に従事する公務員が日本国民すなわち我が国の国籍を有する者によって充足されることを予定しているものというべきである。
[62](四) このことを公務員の職務内容に即してみると、憲法は、統治のあり方として、憲法上国の統治作用の根本とされる立法、行政、司法の権限を行使し、主権者たる日本国民の意思が職務遂行の中に体現していると認められる重要な権限を直接的に行使する公務員、例えば国会の両議院の議員、内閣総理大臣その他の国務大臣、裁判官等については、日本国民であることを要するものとしているというべきであるから、法律をもって外国人がかかる地位に就くことを認めるのは、国民主権の原理に反して許されないものと考えられる。
[63] さらにまた、統治作用は国政全般の多岐にわたるものであり、その権限は、法規により、国政における重要性等に応じて一定の基準をもって各職層の公務員に配分されているものであるから、右の直接的に国の統治作用にかかわっているものと認められる場合だけでなく、公権力の行使あるいは公の意思の形成に参画することによって間接的に国の統治作用にかかわっていると認められる場合についても、憲法は、外国人が右の職責を有する公務員に就任することを保障しない趣旨であるというべきである。
[64] もっとも、右のように公権力の行使あるいは公の意思の形成に参画することによって間接的に国の統治作用にかかわる職務に従事するにすぎない公務員については、主権者たる日本国民の意思の発動として、法律をもって明示的に、日本国民でない者にもこうした権限を授与することは、何ら国民主権の原理に反するものではないから、憲法上禁止されているものでないと解するのが相当である。
[65] したがって、前記のとおり、外国人に対して憲法22条1項の職業選択の自由及び同法14条1項の法の下の平等の各規定の適用があるとしても、右の基本的人権は、その性質上、右に述べたところと抵触しない限りにおいてその保障が及ぶに過ぎないものと解するのが相当であり、これを禁止する法律がないからといって、外国人が右の職責を有する公務員に就任することが保障されているということはできないものというべきである。
[66](五) そこで、以上の検討を前提に地方公務員法13条及び19条の各規定を合理的に理解するならば、右各条は、国民すなわち我が国の国籍を有する者を対象とする旨を規定しているけれども、我が国に在留する外国人は、公権力の行使あるいは公の意思の形成に参画することによって直接的または間接的に我が国の統治作用にかかわる職務に従事する地方公務員に就任することはできないが、それ以外の職務、いうならば上司の命を受けて行う補佐的・補助的な事務、もっぱら専門分野の学術的・技術的な事務等に従事する地方公務員に就任することは許容されているものと解するのが相当である。
[67] なお、地方公務員は、地方自治体の住民の日常生活に密接な関連を有する公共的事務の処理に携わるものであり、また、我が国に在留する外国人のうちでも永住者等であってその居住する区域の地方公共団体と緊密な関係を持つに至ったと認められるものについては特段の考慮を払う余地があるとしても、地方公共団体が我が国の統治機構の不可欠の要素をなし、地方公共団体の権限も究極的には国家の統治権に由来するものであり、また、国の事務が機関委任事務として地方公共団体によって行われていることが少なくないことを考慮すると、我が国に在留する外国人が地方公務員に就任することについては右のとおり解すべきことに格別の妨げとなるものではない。
[68] また、公務員の職に就任する権利ないし資格についてはこれが憲法15条1項に規定する公務員の選定罷免権の保障の範囲に含まれるものと解することができるとしても、右規定が国民主権の原理に基づくものであることに鑑みると、右規定による権利の保障は、その性質上日本国民のみをその対象とし、我が国に在留する外国人には及ばないものと解するのが相当である。
[69](六) 以上に述べたところによれば、我が国に在留する外国人には、公権力の行使あるいは公の意思の形成に参画することによって我が国の統治作用にかかわる職務に従事する地方公務員に就任することにつき、憲法上の保障は及ばないのであるから、その限りでは、外国人であることを理由として平等の取扱いを受けられず、また、その旨があらかじめ人事委員会によって定められていなかったとしても、同法13条及び19条の各規定に違反したということはできないというべきである。
[70] 本件においては、前記「前提となる事実」2及び4のとおり、管理職選考は、東京都の課長級の職への選考を目的としており、課長級の者のうち課長職は、東京都事案決定規程によって知事の権限に属する事務に係る決定権限が配分され、その他の課長級に該当する副参事には一部に決定権限そのものを直接的に有しない者がいることが認められるが、東京都においては当該管理職の職種による人事管理は行われておらず、例えば医化学の区分で選考に合格して管理職に任用された場合、その後の昇任に伴って、医化学系の以外の分野をも担当し、また、一般的な職員の管理を含めた管理的な事務を行うことがあるというものである。
[71] そうしてみると、本件の管理職選考は、決定権限の行使を通じて公の意思の形成に参画することによって我が国の統治作用にかかわる職への任用を目的とするものであり、実際に合格後にそのような職に任用されているということができるから、外国人である原告は、管理職選考の結果任用されることとなる職に就任することが憲法上保障されていないというべきである。したがって、原告が管理職選考を被告の前記措置によって受験できなかったとしても、被告に地方公務員法13条、19条の規定に違反した違法があるとはいえない。
[72](七) なお、地方公務員法15条は、職員の任用は、受験成績、勤務成績その他の能力の実証に基づいて行われなければならないことを定めるものであるが、同法17条3項によれば、採用及び昇任の方法は競争試験または選考の方法によるべきことが定められており、右の任用における能力実証主義の原則は、競争試験ないしは選考の判定においては、その成績に基づいて任用されなければならないことをいうものと解するのが相当である。そして、以上にみたとおり、本件は、競争試験または選考の判定内容に関するものではなく、これらの実施前における受験者の適格性に関するものであるから、同法15条が適用される余地はないというべきである。

2 労働基準法違反の主張について
[73] 労働基準法3条は、使用者は、労働者の国籍や社会的身分を理由として、賃金、労働時間その他の労働条件について、差別的取扱いをしてはならないことを定めるものであるが、同条は憲法14条の法の下の平等に基づくものであるところ、前記のとおり、外国人が公権力の行使あるいは公の意思の形成に参画する職務に従事する公務員に就任することは、憲法上許容されていないか、又は、その保障は及ばないのであるから、その限りで同条の適用はないというべきである。したがって、本件においては、被告の前記の措置に労働基準法3条違反があるということはできない。

3 憲法違反の主張について
[74] 原告は、本件において、被告の措置が憲法22条1項、14条、13条に違反すると主張するが、憲法22条1項の職業選択の自由、同法14条の法の下の平等は、前にみたとおり、原告が管理職選考の結果任用されることとなる職に就任することについて、その保障が及ばないというべきであるから、被告の措置に憲法の右条項に違反した違憲の点があるということはできない。そして、憲法13条違反をいう点は、実質的に憲法22条1項ないしは同法14条の違反をいうものであるから、採用することができない。

4 結論
[75] 以上によれば、原告が管理職選考を受験することができなかったことについて、被告の前記の措置に違憲・違法があるとはいえない。したがって、原告の請求のうち慰謝料を請求する部分は理由がないから、これを棄却する。

  東京地方裁判所民事第11部
  裁判長裁判官 遠藤賢治  裁判官 白石史子  裁判官 梅本圭一郎

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