高感度で安価なDNAアガロースゲル電気泳動撮影装置の開発(自作)
ラボを新しく立ち上げるときには多くの資金が必要です。必要な機器が多く、研究費は限られていて思うように機器整備が進まないと感じる研究者は多いと思います。私も同じでした。 そのようなときにDNAアガロースゲル撮影装置を自作で立ち上げたので、情報を掲載しておきます。これからラボを立ち上げる予定で、資金難の方はぜひ参考にしてください。安価で、良いゲル撮影システムが作成できます。詳細は、下記の文献(ref. 1)をご覧ください。 機器導入を考えたとき、市販のゲル撮影装置(>30万円))は既存のデジタルカメラを使っている割には高価で、なにか割り切れないものを感じました。ならば、自分でシステムを組んでみようと考えたのが始まりです。最終的に必要なものは以下のものでした。 ここで紹介している2つのDNAアガロースゲル用励起光システムは、市販のUVトランスイルミネーター(10万円以上)、青色LED励起システム(6-10万円)と比較すると、安価に構成できます(ブラックライト励起システム(1万円以下)、シアンLED励起システム(約3万円))。このゲル撮影用システムのなかで一番高価なのは、デジタルカメラでした。 ※ここで比較しているのは励起光システムのみです。撮影システム全体は、10万円程度で導入できました。 ※現在はデジタルカメラの代わりに、スマートフォンを使用することもできるので、システム全体ではさらに安価に導入できます。 ※ここで紹介している装置は、非エチジウムブロマイド染色試薬に対応しており、エチジウムブロマイド染色には対応していません。 |
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【A. 撮影システム】 ※撮影システムは、2つの励起光システムで共通です。 1.デジタルカメラ CANON PowerShot G12 \40,000 - \50,000 (2019.8.現在、中古品 \10,000 - \20,000程度) コンバージョンレンズアダプター LA-DC58K \3,575- ACアダプターキット ACK-DC50 \7,875 リモートスイッチ RS-60E3 \2,625- 2.フィルターアダプター ケンコー テクニカルホルダーII (小) \3,150- ステップアップリング 58-62mm \1,050- 3.フォトプリンター CANON CP800(WH) \10,000- 4.USB切替機 Arvel USB切替機 2系統、ACSUSB2 \3,400- 5.コピースタンド コピースタンドCS-A4 LPL Direct価格(税込)¥18,900 6.暗幕 暗幕(ポリエステル 100%, ~315 g/m2, 3 m) 【撮影条件】:ISO400, F4.5, 1-2秒, ストロボ発光禁止 CANON PowerShot G12の場合、カスタムモード(C1)に、条件を登録しておくと便利 【撮影システムの特徴】 ・部屋を暗くできない場合は、暗幕で覆っています(簡易的には、段ボールでも大丈夫です)。 ・写真(下)を見てわかるように、このシステムではゲルの切り出しも容易に行えます。ゲル切り出しの際には、色つきゴーグルが使用できます。 ※EZ-VISION, Safelook Load-Whiteでは、黄色ゴーグル(TRUSCO, TSG-814Y)が使用できます。 ※Mirodi Green Direct, Safelook Load-Green, SYBR safeでは、オレンジ色ゴーグル(UVP, UVC-310)が使用できます。 |
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![]() ![]() ![]() 図 DNAアガロースゲル検出システム(写真) |
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![]() 図 DNAアガロースゲル検出システムの概観 |
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【B. 励起光システム】 | |||||||||||||||||||||||||
B1. ブラックライトによるDNAアガロースゲル検出系 ※この検出系は、EZ-VISION (VWR), Safelook Load-White (富士フイルム和光純薬)を染色剤として使用できます(参考3参照)。 ※EZ-VISION(励起波長:364nm 蛍光波長:454nm) ※Safelook Load-White(励起波長:370nm 蛍光波長:470nm) 1.光源 ブラックライト 【三共電気】 コンパクト形ブラックライト 27W FPL27BLB (360nm付近に発光スペクトルのピーク) \4,200- 電気スタンド ツインバード タッチインバータ蛍光灯 LK-H451W \3,000 2.Emissionフィルター 富士フイルム フィルター SC-46 (75 x 75mm) 3.黄色ゴーグル(ゲル切り出し用) 黄色ゴーグル (TSG-814Y, TRUSCO) |
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【ブラックライト励起システムの特徴】 ・EZ-VISIONの励起波長の場合、市販のブラックライトと蛍光灯スタンドの組み合わせで落射照明ができ、UVトランスイルミネーター(10万円以上)を導入する場合と比較し、超安価にシステムが構成できます。 ※この励起システム(光源&Emフィルター)は、1万円以下で設置できました。 ・写真は、キレイに撮影できています(下の写真参照)。 ・EZ-VISION(VWR)はエチジウムブロマイドより感度は落ちますが (ref. 1)、エチジウムブロマイド処理の問題がないので、非常に快適です。 |
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![]() 図 EZ-VISIONとブラックライトを用いたときのDNAアガロースゲル電気泳動 |
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B2. シアンLED光によるDNAアガロースゲル検出系【高感度化】 エチジウムブロマイド程度に検出感度を高感度化したい場合、490-495 nm LEDライト (シアンLED)とMidori Green Directの組み合わせが非常に有効です。このとき、励起光にはショートパスフィルターとしてSV0510(>510nm cut, 朝日分光)を使用します。 ※この検出系では、Midori Green Direct (日本ジェネティクス), Safelook Load-Green (富士フイルム和光純薬)、SYBR safe (Thermo Scientific) の染色剤が使用できます(参考3) 参照)。 ※Midori Green Direct (励起波長:490nm 蛍光波長:530nm) ※Safelook Load-Green (励起波長:490nm 蛍光波長:525nm) ※SYBR safe (励起波長:502nm 蛍光波長:530nm) ※Novel Juice (励起波長:495nm 蛍光波長:537nm) も使用できるが、感度は低い (ref. 1)。 1.光源 シアンLEDライト (490-495 nm) Cyan-LED (490-495 nm, hlk-12led-490-495nm,Holkin) 2.Excitationフィルター 朝日分光 ショートパスフィルター SV0510 (50 x 50mm) 3.Emissionフィルター 富士フイルム フィルター SC-54 (75 x 75mm) 3.オレンジ色ゴーグル(ゲル切り出し用) オレンジ色ゴーグル (UVC-310, UVP) |
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【シアンLED光励起システムの特徴】 ・Midori Green Direct, Safelook Load-Green, SYBR safeは、エチジウムブロマイドとほぼ同程度の感度がありました(ref. 1 Figure 1)。また、EZ-visionより10倍以上高感度です。ただし、Midori Green DirectのコストはEZ-VISIONより高くなります。そのため、研究室内では実験用途により使い分けています。 ・市販のLED励起システムは、青色LED(470 nm励起)を使用したものが大半です。しかし、シアンLEDを使用すると、Midori Green Direct, SYBR safeなどの緑色系DNA染色剤は、より効率高く励起できます(ref. 1)。 ・シアンLED光を使用した励起システム(光源、Emフィルター、Exフィルター)は、約3万円で設置できます。 ・写真(下)を見てわかるように、このシステムでもゲルの切り出しは容易に行えます。ゲル切り出しの際には、オレンジ色ゴーグルが使用できます。 |
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![]() 図 シアンLED励起光を用いたDNAアガロースゲル検出システム(写真) |
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【青色LED光励起システムでの代替】 ・この検出系は、青色LED光のみでもある程度の感度で検出できるので、簡易的にはこちらもお薦めです(約1万~2万円)(ref. 1)。 ・青色LED電球は、現在、非常に安価になっています。Banggood.comなどの通販サイトでは、わずか数百円で販売されていることもあります。もちろん、これらのLED電球でも十分に使用できます。 |
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【光源&フィルター条件】: 参考1)研究室で使用している光源&染色試薬の組み合わせ
参考2)他の染色試薬での光源と光学フィルターの組み合わせ
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参考3)DNA染色試薬と光源・光学フィルターの情報 |
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※各DNA染色試薬のランニングコストは、参考文献 (ref. 1, Table 2) を参照してください。 | ||||||||||||||||||||||||||||||||||||
参考4)励起光システムの比較 | ||||||||||||||||||||||||||||||||||||
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【参考文献】 詳細は、以下の文献を参照ください。 実験医学2021年1月号 (vol.39, No1)の「クローズアップ実験法」に、このDNAアガロース電気泳動検出システムの記事が掲載されました。 ここで紹介したシステムを使用して、論文作成する場合、下記論文の引用をぜひお願いいたします。
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Developement of highly sensitive and low-cost DNA agarose gel electrophoresis detection system (in English) |
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