効率の高いPCRクローニング用ベクターとその利用法

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PCR 産物のTA-クローニングと平滑末端クローニングのために、効率の高い3種類の便利なベクターを開発しました (ref. 1)。
プラスミドは、Addgene (http://www.addgene.org/)より入手できます。
         pCRT      ID: 120274
         pCRZero    ID: 120275
         pCRZeroT  ID: 120276   
 
 
特徴
1. TA-クローニングに使用するT-vectorを、研究室で簡単に調製できます(pCRT and pCRZeroT)
              Type IIS制限酵素の切断で、T-vectorを簡単に調製できます。
     ※pCRT, pCRZeroTからのT-vector調製コストは、市販T-vector購入の1/100以下です。

       Type IIS制限酵素に加えて、指示された制限酵素を加えて処理すると、バックグラウンドの空ベク
       タークローンの出現を低下させることができます。
市販品のT-vectorより低バックグラウンドです
          (ref. 1, Table 1)。
2. 平滑末端クローニングでは、PCR産物が挿入されたクローンのみがコロニーを形成します(pCRZero and pCRZeroT)
              ※致死性遺伝子ccdBを用いるため、空ベクターはコロニーを形成しません。
3. ひとつのベクターでTA-クローニングと平滑末端クローニングの両方に対応します(pCRZeroT)
              ※ベクターの切断方法により、どちらの方法にも対応できるよう設計されています。

 クローニング効率の高いこれらのベクターを使用すると、以下のような応用が可能です。
応用例

1. プラスミドをあらかじめ切断処理することなく、環状ベクターとPCR産物を混合し、制限酵素反応とLigation反応を同時に行うことで、TA-クローニング、平滑末端クローニングの2種類のクローニングを行うことができます(pCRZero and pCRZeroT)
              致死性遺伝子ccdBを用いるため、空ベクターはコロニーを形成しません
2. 直鎖化プラスミドとLigationする場合、未精製PCR産物でもクローニングできます。
3.
Taq DNAポリメラーゼdA-tailed PCR物は簡単な処理で平滑化でき、平滑末端クローニング用ベクターシステムでクローニングできます(pCRZero and pCRZeroT)
              ※この場合、TA-クローニングで行う青白スクリーニングの必要はありません。
       ※PCR産物が挿入されたクローンのみコロニーを形成します。

 
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 1.TA-クローニング   
 Taq DNAポリメラーゼで増幅したdA-tailed PCR産物をクローニングするためには、T-overhangの直鎖化したT-vectorを購入することが一般的です。pCRT, pCRZeroTを用いると、Type IIS型制限酵素XcmIで切断することで、研究室で簡単にT-overhangのT-vectorを調製できます。また、XcmI切断時に、NheI (pCRT)、またはXmaI (pCRZeroT)を同時に加えると、空ベクターのバックグラウンドを抑制することができます。
 TA-クローニングのためのプロトコール
   1. pCRT or pCRZeroTをXcmIで切断する。
        Reaction (for pCRT):
          pCRT 5 µg
          XcmI 20 units
          NheI 15 units
          Buffer NEB 2.1 total 50 µL
          37°C, >120 min

        Reaction (for pCRZeroT):
          pCRZeroT 5 µg
          XcmI 20 units
          XmaI 10 units
          Buffer NEB 2.1 total 50 µL
          37°C, >120 min
        ※バックグラウンドを低下させるため、NheI (pCRT) or XmaI (pCRZeroT)をXcmIと同時に加える。

   2. Gel/PCR extraction kit(日本ジェネティクス)で精製する。
        Elution volume: 50µL
          ※アガロース電気泳動による切り出し精製の必要はありません。
          ※50~100 ng / µLに調製し、-20°Cで保存。

   3. T-overhangのpCRT or pCRZeroTとTaq DNAポリメラーゼで増幅したdA-tailed PCR産物をligationする。
        Ligation:
           Linearized pCRT (or pCRZeroT) 1 µL (50~100 ng)
           PCR products (purified) 1/20 vol. of PCR-products
              (or PCR products (unpurified) 1/20 vol. of PCR-products)
                 at 16°C for 30 min (or 4°C O/N)
          ※コンピテントセルの形質転換効率が高ければ(~107 CFUs/µg pUC19 DNA程度)、vectorは0.5 µLで
            十分な数のコロニーが得られる。

   4. その後、大腸菌を形質転換する。
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 2.平滑末端クローニング   
 最近は、Taq DNAポリメラーゼよりも正確性の高いPhusion DNAポリメラーゼ、KOD DNAポリメラーゼ、Prime STAR DNAポリメラーゼなどのPCR酵素を使用する機会が増えました。これらのPCR産物は平滑末端であるため、平滑末端クローニングを行う必要があります。
 平滑末端クローニングのためのプロトコール
   1. pCRZero, pCRZeroTの調製
        pCRZero, pCRZeroTは、大腸菌の致死性遺伝子ccdBを発現します。そのため、インサートの挿入されていな
        いプラスミドを調製する際には、ccdB耐性株に形質転換してプラスミドを調製することが必要です。例えば、
        F因子をもつJM109, XL10-Gold, NEB TurboなどがccdB耐性株として使用できます。
          ※もし、ccdB耐性株を使用しても菌の増殖が悪い場合に、以下の3つの対策があります。
               ①lacIq遺伝子をもつccdB耐性株を使用する。
               ②培地にグルコース(最終濃度1%)を加えて大腸菌を増殖させる。
               ③培養スケールを通常の4倍容量で大腸菌を増殖させる。

   2. Linearilization of pCRZero and pCRZeroT for blunt-end cloning
        2-1. pCRZeroをEcoRVで切断する。
             Reaction (for pCRZero):
                pCRZero 5 µg
                EcoRV 30 units
                Buffer H (Takara Bio) total 50 µL
                37°C, >120 min

           pCRZeroTをSmaIで切断する。
             Reaction (for pCRZeroT) :
                pCRZeroT 5 µg
                SmaI 20 units
                Buffer T + BSA (Takara Bio) total 50 µL
                30°C, >120 min

        2-2. Gel/PCR extraction kit(日本ジェネティクス)で精製する。
             Elution volume: 50 µL
                ※アガロース電気泳動による切り出し精製の必要はありません。
                ※50~100 ng / µLに調製し、-20°Cで保存。

   3. Positive selection for blunt-end cloning of PCR products
        3-1. 平滑端のpCRZero or pCRZeroTと平滑端PCR産物をligationする。
             Ligation:
                Linearized pCRZero (or pCRZeroT) 1 µL (50~100 ng)
                PCR products (purified) 1/20 vol. of PCR-products
                   (or PCR products (unpurified) 1/20 vol. of PCR-products)
                      at 16°C for 30 min (or 4°C O/N)
             ※コンピテントセルの形質転換効率が高ければ(~107 CFUs/µg pUC19 DNA程度)、vectorは
               0.5 µLで十分な数のコロニーが得られる。

        3-2. ccdB感受性株の大腸菌を形質転換する。
             ※インサートの挿入されたプラスミドのみを選択するpositive selectionを行うには、ccdB感受性株の
               大腸菌を用いる。ccdB感受性株には、DH5alpha, TOP10, Mach1-T1R, NEB 5-alpha, NEB
               10-betaなどがある。

        3-3. コロニー数個をコロニーPCRによりスクリーニングし、インサートが入っていることを確認する。



 【応用例1】環状ベクターを利用したGolden Gate ReactionによるPCR産物クローニング
 大腸菌致死性遺伝子ccdBをもつpCRZero, pCRZeroTでは、Golden Gate Reactionを利用することにより、直鎖化していない環状ベクターへPCR産物を直接クローニングできます。直鎖化ベクターへクローニングするときと比較しても、クローニング効率の大きな違いはありません。
 
               Reaction1 (for dA-tailed PCR-products):
                  pCRZeroT (non-cut) 50 ng
                  dA-tailed PCR-products 5 : 1 (i : v molar ratio)
                  XcmI 10 units
                  XmaI 5 units
                  Quick Ligase 0.5 µL
                  Buffer CutSmart (2×, final)
                  ATP 1 mM (final) total 10 µL

              Reaction2 (for blunt-end PCR-products):
                  pCRZeroT (non-cut) 50 ng
                  blunt-end PCR-products 5 : 1 (i : v molar ratio)
                  SmaI 10 units
                  Quick Ligase 0.5 µL
                  Buffer CutSmart (2×, final)
                  ATP 1 mM (final) total 10 µL

              Reaction3 (for blunt-end PCR-products):
                  pCRZero (non-cut) 50 ng
                  blunt-end PCR-products 5 : 1 (i : v molar ratio)
                  SmaI 15 units
                  Quick Ligase 0.5 µL
                  Buffer CutSmart (2×, final)
                  ATP 1 mM (final) total 10 µL

              (37°C -1min + 16°C -1 min) × 30 times, and 80°C -5 min

              ※ただし、この反応では、反応に用いる制限酵素の切断部位がクローニングを行うPCR産物に存在
                しないことが条件です。
              ※insertとvectorの比を適切に反応させれば、直鎖化したベクターでクローニングを行う場合とほぼ
                同等の効率でクローニングできます。
        参考)ref. 1) Table 3 and Supplementary Figure S1
        試薬)Quick Ligation Kit (M2200S, NEB)
 【応用例2】未精製PCR産物のクローニング
 pCRZeroTでは致死性遺伝子ccdBを利用しているため、空ベクターはコロニーを形成しません。そのため、dA-tailed, blunt-endのいずれのPCR産物でも、精製サンプル、未精製サンプルを問わずに効率よくクローニングできます。
        参考)ref. 1) Table 4
 【応用例3】dA-tailed PCR産物の平滑化クローニング
 Taq DNAポリメラーゼにより増幅されたdA-tailed PCR産物は、3′末端にdAが付加されるため、TA-クローニングによりクローニングできます。TA-クローニングでは、一般的にIPTG/X-galによる青白スクリーニングが必要です。これに対して、dA-tailed PCR産物を平滑化すると、pCRZero, pCRZeroTの平滑末端用ベクターが使用できます。この2つのベクターは、致死性遺伝子ccdBを持つため、空ベクターはコロニーを形成しません。そのため、青白スクリーニングの必要がなくなります。dA-tailed PCR産物の平滑化は、非常に簡単な処理で行うことができます。
   ※「dA-tailed PCR産物の平滑化」*1は、*1〈補足〉のプロトコール参照。
        参考)ref. 1) Table 5

*1〈補足〉
   dA-tailed PCR産物の平滑化
     KOD DNAポリメラーゼは、3′-5′ exonuclease活性を持つため、Taq DNAポリメラーゼで増幅したdA-tailed
     PCR産物を簡単に平滑化できます。
        1. PCR後の反応溶液(20-50 µL)。
           ※PCR後の反応溶液は、精製する必要はない。
        2. KOD DNA polymeraseを1.25U添加。
           ※不足しているときには、dNTPs 添加(final 0.2 mM)。
        3. 72°C, 2-30 min (minimum 2 min)
        4. その後の操作へ(Ligation (or 精製))
           ※通常、1-5 µLの反応液を直接Ligationに用いる。
        参考)ref. 1) Table 5
        試薬)KOD DNA polymerase (250 units, KOD-101, TOYOBO)
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  詳細は、以下の文献を参照ください。
  このプラスミドを使用して実験され、論文作成する場合、下記論文の引用をぜひお願いいたします。
  実験医学2019年11月号 (vol.37, No18)の「クローズアップ実験法」に、このPCRクローニング用ベクターについての記事 が掲載されました。
 ref. 1 Ken Motohashi     
  "A novel series of high-efficiency vectors for TA cloning and blunt-end cloning of PCR products"
 Sci. Rep. 9, 6417 (2019)
  A series of high-efficiency PCR-cloning vectors and their useful application (in English)
         
 
 
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