ゼミ生が語る「私の好きな京都」(2019年春学期)
由良川と鮎
中田圭祐
(2017年度入学 鈴木ゼミ一期生)
<由良川> 
 由良川は、丹波・若狭・近江の国境にある三国岳にその源を発し、上流では丹波山地の山々を削り、深い谷を刻んで西へと流れ、途中で福知山盆地を形成して中流域となる。盆地西部で土師川と合流して流れを北に変え、緩やかな流れとなって下流域の大江・舞鶴西部を経て日本海へと注いでいる。その延長は116キロ、流域面積は1,880平方キロ、近畿北部を代表する河川である。
由良川は、私の故郷である南丹市美山町にも流れている。この由良川は、地元民の生活の一部であり遊び場である。農作物を作る為に水を引き、夏には釣りに行く。私は、学生の頃から親戚や地域の人と網入れを行っている。地元では、引っ掛け漁という巻網と引っ掛け竿を使った鮎漁を網入れと呼んでいる。ここでは、由良川を通して「鮎」の魅力を見て行きたい。
 
<清流の女王>
古くから代表的な川魚であり重要な食用魚として知られてきた鮎は、「古事記」(712年)や「日本書紀」(720年)に年魚として登場している。特に、天然鮎を中心に出まわる時期が限られていることから6~8月頃の代表的な味覚とされている。また、初夏の鮎は「若鮎」、秋は「落ち鮎」、冬は「氷魚(ヒオ・ヒオウ)」と呼ばれ、季語としても用いられる。
アユの語源には、様々な説がある。例えば、「脆(あ)ゆる」は弱弱しいとか優しい魚の意や「あや」美しい姿とか愛すべき魚の意、「ア」は小、「ユ」は白、つまり小さく白い魚の意など。常用漢字は「鮎」と書くが、これには三つの伝承があり、いずれもツクリである「占」に関係している。一つは、神武天皇が九州より兵を進め大和国に入り、治国の大業が成るか否かを占って瓶を川に沈めた時、浮き上がってきたのが鮎だったからとされる。現在でも天皇の即位式において、階前に立てられる万歳旗の中の上方には亀と鮎が画かれている。二つ目に神功皇后が朝鮮半島に兵を出された折り、今の唐津市松浦川のほとりで勝ち戦か否かを祈って釣ったのが鮎だった為。そして三つ目は、約千年前の延喜年間に、秋の実りをその年の諸国における鮎の漁獲漁の多寡で占ったことからである。
 このように鮎についての記録が多く残っている事からも、鮎が昔から人々の生活と深く結びついている事が分かる。
 
<美山川の鮎>

由良川のアユ釣り(古絵葉書)

美山川にはダムがあり遡上出来ない為、4月中旬から稚魚放流が始まり6月からの鮎釣り解禁に向け、様々な活動している。由良川漁業協同組合では毎年、体長10センチから18センチの稚鮎を福知山、綾部、舞鶴、美山などの由良川本流・支流で放流している。今年(2019年)は、和歌山県日高川町産と滋賀県琵琶湖産の稚鮎を合計約3トンも放した。鮎は跳びはねるような勢いで水に入り、元気よく流れの中を泳いでいった。
鮎は水底の石に生える珪藻類を食べて育つ。その事から濁りが多い川の鮎は胃に泥を多く持ち、食味にも泥臭さが出る。この場合、はらわたを除去することで泥臭さを避けることもできる。しかし、泥が少ない川では胃にも泥が含まれず、食味も大幅に改善する。なかでも由良川上流の美山川には鮎の餌となる良質の珪藻類が生えるので美味しい鮎に育つ。地元民としては味だけでなく、天然鮎の胸ヒレ辺りには追い星(黄色い斑紋)が付き、背びれに沿って黄色く染まり、青白い体の養殖より見た目も良いように思う。
 
<地元の食べ方>
 魚の味をそのまま味わうと言えば、やはり塩焼きである。実家では鮎を踊り串した炭火焼きが定番で、その年の初めの鮎獲りの日に〆たばかりの鮎を塩焼きにする。踊り串とは、魚を焼く際に焼き上がりを美しくする為に串を打つ方法で、魚が踊っているように見えることからその名がある。登り串やうねり串とも言う.
 私が焼く時は、鮎の口から串を入れ、追い星から出し、1cmほど出した所でもう一度刺し入れ、尻ひれの手前に通す。この時意識する

鮎の塩焼きの写真です

のは、鮎が泳いでいる姿をイメージして串を刺す事である。それから、胸ひれ、腹ひれ、尻ひれ、尾ひれ、背びれに化粧塩をする。そうする事でひれが、焼いた時に崩れず盛りつけた際に立ち、見栄えが良い。最後に、追い星から1cmほど出ている串と鮎の間に、口から入れた串に対して垂直に串(写真の竹串部分)を入れる。これは、焼く時に裏返しやすくする為である。ここに串を入れていないと、鮎がくるくると回転してしまい、焼きたい面を焼くことが出来ない。

鮎ご飯にして食べるのも恒例だ。作るには鮎をご飯と炊く前に表面を焼いたり、炊いた鮎の頭・骨・ヒレなどを取り除いて身をほぐしたりと少し手間がかかるが、鮎の香ばしい匂いと時々感じる内臓の苦みがとても美味しい。鮎ご飯は冷えても美味しい事から実家の家族だけでなく、遠い親戚や知人からも人気があり、よくお裾分けをする。他には、私の実家ではしないが、鮎みそや一夜干し・鮎粥と言った食べ方もあるらしい。
私は、この川の傍で育ってきたものとして鮎などの由良川の良さを受け継いでいきたいと思う。また、昔も今も住民と深いかかわりを持って共存し、貴重な恵みをもたらす由良川がこの先も続くことを心より願う。

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