ゼミ生が語る「私の好きな京都」(2019年春学期)
明神川の価値はここにあり
中田圭祐
(2017年度入学 鈴木ゼミ一期生)

 身近な河川と聞いて最初に思い浮かんだのは、明神川だった。上賀茂神社から流れ出る小川である。毎月第四日曜日に神社内で催される手作り市に行く時や、上賀茂社家町を歩いた先にある洋食屋「キッチンぽっと」に行く時に必ず目にする。以前、授業の課題で写真を撮りに行ったこともある。

その水の音はいつ聴いても心地よくて、神社と社家町を流れゆく風景はいつも心を癒してくれる。ここでは、明神川周辺の風景を含めた明神川の魅力をみていきたい。
 明神川は、鴨川の志久呂橋下流の明神井堰等より取水している。小川は、柊野一帯の農業用水が合流し、少しずつ成長する。それから縫うように住宅街を進み、葵の森橋の下を流れていく。そして、ゴルフ場から南西へ流れて賀茂川に注ぐ支流と上賀茂神社本殿に向かう本流に分かれる。上賀茂神社境内ではいくつかの支流と合流し、水量が最大になる。そして上賀茂神社境内の出口となる内川橋を超え、賀茂の社家町に入っていく。
 上賀茂神社はその正式名称を賀茂別雷神社(かもわけいかづちじんじゃ)とするが、地元の方からは上賀茂神社と親しまれている。上賀茂神社は、京都で最も古い由緒ある神社の一つである。境内にある細殿前の二つの「立砂(たてずな)」は、神が降臨した上賀茂神社の北方の“神山(こうやま)”を模して作られており、頂上部分には細殿向かって右は2本、左は3本の松葉が立てられている。現在私たちが表鬼門や裏鬼門に「盛り塩」をするのは、この「立砂」が起源と言われている。上賀茂神社を流れる小川は、境内で幾度か名前を変える。まず、御生所(みあれどころ)付近で「御生川」、さらに「御手洗川」、「奈良の小川(ならの小川)」と禊の為の聖なる川である。御手洗川は2つに分かれ、一方は楼門前で一度「御物忌(おものい)川」となり、後にもう一方と合流して「楢の小川」、そして社を出た内川橋からは「明神川」と名前を変える。これらの小川は、葵祭の禊(みそぎ)の儀式を行う神聖な場所としてや、社で放生されたゲンジボタルが舞う様子が見られる事で知られている。
 また、ならの小川は百人一首に「風そよぐ ならの小川の夕暮れは 禊ぞ夏のしるしなりける」(従二位家隆(98番)『新勅撰集』夏・192)と詠まれていることでも有名だ。この句を現代語訳にすると、「風がそよそよと吹いて楢の木の葉を揺らしている。ならの小川の暮れは、すっかり秋の気配となったが6月祓の行事だけが奈津であることの証なのだ」となる。ならの小川とは奈良ではなく、ブナ科の落葉樹の楢の木のことで神社の社に生える楢の木の葉を意味している。次の禊は「六月祓(みなづきばらえ」。川の水で身を清め、穢れを払い落すことで、新道では毎年旧暦の6月30日に行われる行事を指す。まさに穢れを祓う川である。
 上賀茂社家町については、勝矢淳雄らが環境技術48巻6号で「京都の北に位置する上賀茂地域は、室町時代(1392〜1573)から上賀茂神社の神官の住宅である社家(しゃけ)が 建ち並び、今では全国的にも珍しい社家町となり、とくに明神川沿いの250m程の両側の地区(2.7ha)は昭和63年(1988)に 国の重要伝統的建造物群保存地区(伝 建地区)にも選定され、町並みの保存が図られている。さらに、伝建地区の周辺地域(22ha)は、平成9年(1997)に京都市の界わい景観整備地区の指定を受け景観の保全に力を入れている」と述べている。社家町の横を流れる明神川は、かつて社家町に住む人たちの生活と関わって来たと考えられる。なぜなら、川に面した壁の下に小さな穴が設けられ、川の水が屋敷の中に引かれ、川に戻ってきているからである。上賀茂神社 - 京都市ホームページによると、昭和10年頃までは明神川は生活用水として顔を洗ったり、口をすすいだり、茶碗や野菜を洗ったり、洗濯などがされていた。ところが昭和11年の赤痢の大流行や上下水道の整備で、井戸水の利用なども含めて生活とのつながりはなくなったという。現在は、各家庭に水道水が引かれ川の利用は必要ないのかもしれない。川を利用する姿を見られなくなるのは、寂しく感じる。
 社家町の明神川にはもう一つ伝えたい魅力がある。それは、藤木社(ふじきのやしろ)だ。藤木社は上賀茂本通り(通称 藤木通り)にあり、明神川の守護神として信仰され、樹齢500年と言われるクスノキの巨木の下に祀っている。その祭神は、瀬織津姫神(せおりつひめのかみ)である。瀬織津姫(せおりつひめ)は、大祓詞(神道の神様に奏上する祝詞の一つ)に登場する神で、祓戸四神の一柱で災厄抜除の女神である。
 小川の横にあるクスノキは、藤木通りを通る人にとってとても存在感がある。
 ただ景観が良いと思っていただけの明神川について調べた事で、他人に良さを伝える知識がついた。これから一緒に訪れた人やこれを読んで行った人に「身近なところにこんな景観の良い川があったのか、行ってみたい」と思ってもらえたなら嬉しく思う。

参考文献
「明神川」を源流から終わりまで辿るhttps://openmatome.net/matome/view.php?q=14754781679311
京都洛北「上賀茂神社」で。“せせらぎ”散歩を楽しもう? キナリノhttps://kinarino.jp/cat8
『環境技術48巻6号 P229 “バイオリージョナリズムに基礎をおく社家と明神川に関する環境学習” 』
百人一首講座 https://www.rakuten.ne.jp/gold/ogurasansou/hyakunin/098.html
上賀茂神社 - 京都市HP

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