ゼミ生が語る「私の好きな京都」(2019年春学期)
鴨川と神と祇園祭
前田航輝
(2017年度入学 鈴木ゼミ一期生)

 私は山口県で生まれ、大阪府で育った。京都に来たのはこれまでの一回。高校一年生の 時の校外学習の時だ。そして、京都産業大学に通うことになり、これまで縁もゆかりもなかった私に京都とのつながりができた。しかし、大学に通っている今の今まで京都の観光 名所にはほとんど行ったことが無かった。大学に入り、行った場所といえば清水寺と嵐山だけで、この二カ所にも行きたくて行ったという訳ではない。友だちに誘われたため行った。受動的なものであった。正直なところ、「自分の好きな京都について書け」と言われても全くと言っていいほどピンとこなかった。しかし、自分が持つ数少ない京都での思い出を掘り起こし、好きな京都を挙げることにする。それは、私が好きだと感じた京都は鴨川である。 鴨川は毎日の登下校の際に必ず見る。バスの中から見る現在の鴨川は春夏秋冬、朝夜、いつ見ても美しい。これは鴨川に沿う木々も影響があるのではないだろうか。季節ごとに姿を変える木々が鴨川と相まって風情を感じ取れる。また、たくさんの生物も生息していることから自然を感じることもできる。しかし、鴨川はいつの時代も美しいままなのか。鴨川の歴史と今について書く。 鴨川

 大滝裕一が河川文化80号に「鴨川は、千二百年にわたる京都の歩みとともに歴史を重ねており、葵祭や納涼床など、今もなお山紫水明の京都の象徴として京都人はもとより京都を訪れる多くの人々に楽しまれている」とある。鴨川に千二百年もの歴史があることが驚きであった。途方もない時の長さで地元の人々とのくらしに密接していたことに対して感慨深いものがある。また、鴨川が京都の象徴という点に関心を持った。鴨川は京都の北西部から流れ、雲ヶ畑を経て、鞍馬川を加えて南流し、大原・八瀬から流れる高野川と出町柳で合流する。その後、京都の中心部を流れ下鳥羽付近で桂川に注ぐ。鴨川は京都を縦断していることがわかる。象徴というのは決して言い過ぎでは無い。

 出町三角州

 大学に通う際に何度か、鴨川と賀茂川の二つの表記を見ることがあった。なぜ二つの書き方があるのか、疑問に感じていた。前述の河川文化で、まず「神」が「カモ」へと転化したという説が書かれている。これは神々しい山々に神を感じそこから流れ出る川であることから、神山・神尾などの地名が生まれ、「神」が「カモ」へ転化したというもの。しかし、全国の三十を超える「カモ(鴨・賀茂・加茂など)川」全てをこの説で説明するのは難しいとも書かれていた。もう一つの説が、京都の上賀茂神社と下鴨神社に関連しているという説だ。前述の河川文化ではこの二つが書かれていた。そこで、他にも説があるのではないかと思い調べた。京都府のホームページには、「鴨川の名前の由来にはいくつかの説がありますが、平安京造営の前から、そのほとりに住んでいた「賀茂氏」に由来しているという考え方が一般的です」と書かれていた。氏族の名称から名付けたという説である。このように多くの説がある。鴨川と賀茂川の名前の由来には今も様々な説が残されていて、答えはないのかもしれない。  鴨川(賀茂川)の表示

 私が鴨川を見て美しいと感じるというのは上記の通りで、こんなにも美しいのなら過去に氾濫は無かったのではと考えた。しかし、過去に鴨川は氾濫していたことが分かった。京都府のホームページによると、鴨川の治水の歴史は古く、平安京造営の頃から築堤工事が 行われていたと言われ天長元年(824年)には鴨川治水を担当する「防鴨河使」と呼ばれる官 職がおかれ、より積極的に築堤工事が進められた。また、貞観13年(871年)には堤防を害することのないようその近辺での耕作を禁止する命令が出されるなど、朝廷では鴨川の治水を非常に重要視していたとあり、私が現在知っている穏やかで美しい鴨川の姿とは違うことがわかる。

 氾濫を調べていく際に京都の夏の風物詩である祇園祭も鴨川と深い関係があることも分かった。祇園祭は一ヵ月にわたって行われ、その中には「神輿洗」という行事がある。7 月10日と28日に、中御座と呼ばれる神輿が四条大橋の上で、鴨川から汲まれた水がかけられ清められるというものである。祇園祭に詳しい民俗学者の山路興造氏によると、神輿洗 の行事は、「鴨川の神を、神社に迎える行事ではないか」ということだ。神輿を単に洗って清める目的であれば、祇園祭の3基の神輿全部が鴨川に行かないといけないが、なぜか1 基しか行かない。祇園祭は、洪水の後に発生する疫病を鎮めることから始まった祭りである。このことから鴨川は祇園祭と関係している。

 神輿洗

 私の好きな京都というテーマで、鴨川を選んだことで、普段学校に通う際に必ず見る鴨 川の歴史を知ることができた。まだまだ鴨川について知らないことは多い。これからも調べていく必要がある。また、鴨川だけでなく他の京都の魅力を知り、京都を好きになりたいと思う。

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