ゼミ生が語る「私の好きな京都」(2020年)
子どもが地域と交流する意義
中田 圭祐
(2017年度入学 鈴木ゼミ一期生)

1 はじめに
 子どもの頃に地元地域と交流をすることは、大切だと考えている。なぜなら、自分が誰か・何かと関わった時の重要な“引き出し”になると思うからである。引き出しとは、頭の引き出しや会話の引き出しのことだ。人生のなかで初めに引き出しが必要になるのは、大学だと思う。大学では、アイスブレイクのときや授業のなかで地元地域について話す機会がある。例えば、地元の観光地を紹介するときだ。誰でもWebで検索すれば手に入るパンフレットを読んで話すか、地元の方に案内してもらって散策した経験を話すかでは、内容の深さや相手の聞く態度が大きく変わる。話の内容がより具体的で細かいほど、相手と共感し合ったり強い印象を与えたりすることができる。そして、話している自分に自信を感じる。
 本稿では、京都府南丹市の小学校での活動を事例として、子どもが地域交流をすることは将来、自分を語る糧になることを主張する。

 

2 京都府南丹市
 南丹市は、2006年1月1日に船井郡園部町・八木町・日吉町、北桑田郡美山町が合併して誕生した。南丹とは「丹波の南部」が語源で、市内における市役所以外の施設として京都府の機関である南丹保健所や南丹土木事務所がある。
 市域は東西に長く、京都府を南北に区切るような形をしている。日本海に注ぐ由良川と、太平洋に流れる桂川の分水界がある。三国岳(959m)山麓の由良川源流域には、京都大学芦生研究林の広大な自然林が広がる。

3 南丹市美山小学校の活動
 美山小学校では昨年(2019年)4月、美山漁業協同組合さんによる放流に5年生が参加した。美山川にはダムがあり鮎が遡上出来ない為、4月中旬から稚魚放流が始まり6月からの鮎釣り解禁に向け、様々な活動している。由良川漁業協同組合では毎年、体長10センチから18センチの稚鮎を福知山、綾部、舞鶴、美山などの由良川本流・支流で放流している。
 最初、由良川にどのくらいの鮎を放流しているのか、や今日はどれくらい放流するかなど、美山漁業協同組合さんの話を聞く。話によると、今年(2019年)の放流量は全部で3,800kg、匹数にして約30万匹を放流したそうだ。そしてこの日放流したのは120kg、約1万匹だと言う。通常の放流では敢えてバケツに入れて放流はしないが、子どもたちは自分たちの手で直接川へ放流した。子どもたちは、川の中で泳ぐ鮎を興味深く見たり触ったりした。バケツで放流した後は、残りの数千匹をまとめてトラックのタンクから川へと透明の管を通して放流する。
 漁師でない人がブリとハマチの元々は同じ魚だと知らないように、多くの人は魚の手触りや泳ぐ姿、香りを知らないと思う。鮎は、鰻ほどではないがぬめりがあり、石や岩場に沿って泳ぐ。香りは独特で餌として食べる珪藻類に似た香りがし、それゆえ鮎は香魚とも呼ばれる。この体験は、一級河川由良川を守り続けた美山町ならではの貴重な経験だと思う。

 また、今年(2020年)6月、美山農業委員会さんと2年生がサツマイモの苗植えを体験した。毎年、5月下旬から6月にかけてサツマイモ苗を植え、10月に収穫の体験をしている。まず、畑に黒いマルチシートかけ方や芋苗の植え方を実践して頂いき、あとは実際に子どもたちが挑戦する。大きなマルチシートを持って広げたり、トンボで押さえたり。単純そうに思えるが、多くの子どもたちは初めての作業に興味を持って取り組んだ。苗を植える穴はカッターナイフを使って、切込みを入れる。長細い穴に長細いつる状の苗を植える作業は、少し苦戦していた。定植後の水やりは普段より念入りに、何度もジョウロを運んで行った。
 最後の感想では、マルチシートをかける作業が初めてで楽しかった事や苗を植える穴が長細いとはじめて知った事、芋の苗は横に寝かして植える事に驚いたなどと発表した。

4 南丹市八木小学校の活動
八木小学校では、3年生の総合的な学習の時間で、学校区内の本郷地域にある八木春日神社と龍興寺の見学に行った。龍興寺では、釣鐘や本堂で住職さんのお話を聞いた。子どもたちは、200年以上前の八木の地域の絵に驚いていた。春日神社では境内に、豊川稲荷社(宇賀御魂命)と弁財天社(市杵島姫命)、金刀比羅宮(金山彦命)、愛宕神社(火産霊命)の5つの社があることを調べた。
 近場にあるが、訪れる機会は少ない場所の1つが寺社だと思う。訪れることが少ない所に行くのは、それだけで自分のなかに1つ貴重な引出しを作る事になる。寺社に訪れると、寺社のある地域の成り立ちや行事の歴史を学ぶことが出来る。他にも所以のある人物や寺社の物語が資料になって残っている。

5 おわりに
 私は、ここまでに挙げた事例のような経験は当たり前のことではないと思う。子ども時代には、生まれたときから見続けた誰にとっても当然にあるものだと思っていた。しかし地元地域の方から教わる経験は、他人とは違った自分だけの引き出しになっていることに気づいた。私は大学に入り様々な都道府県の学生と交流するうちに、子どものときに体験した地域交流を誰かに説明できるくらい考えて行えばよかったと後悔した。同じような苦い思い出のある人が、この論文を読んでくれた人のなかにいるのではないだろうか。現在(2020年7月)、コロナウイルスにより自宅にいる時間が以前より増えた。大学での学びを活かし、これまで当たり前だと思っていた地域に関心を向け、社会に出てからの貴重な引き出しにしたいと思う。

参考文献
南丹市 Wikipedia -  https://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%8D%97%E4%B8%B9%E5%B8%82
南丹市立美山小学校 - http://www.kyoto-be.ne.jp/miyama-es/cms/index.php?action=journal_view_main_init& block_id=47&cate_id=58&visible=5&now_page=3&nc_session=ssfaj3fdfrvfa6o2pr7o17orr1
南丹市立八木西小学校 - http://www.kyoto-be.ne.jp/yaginishi-es/cms/
春日神社(八木) - 大和の神社 - FC2 - http://yamatotk.web.fc2.com/kashihara/kasuga_yagi.html

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