ゼミ生が語る「私の好きな京都」(2020年春学期)
鴨 川
中尾 成実
(2018年度入学 鈴木ゼミ2期生)




 京都市の顔として、市街地を南北に流れる河川「鴨川」。京都市北西部の桟敷ヶ岳付近から湧き出る清らかな水は、上流、中流、下流と姿を変えながら、桂川の合流点までおよそ23㎞の旅をする。そんな鴨川の歴史は、平安遷都の時代までさかのぼる。千年の都・京都にふさわしく、滔々と流れる様は美しく、人々を1200年以上魅了し続けてきた。

 当時の平安京の街の中は、大路や小路に水路が設けられ、鴨川は生活用水、灌漑用水として人々の暮らしに密接に関わっていた。茶の湯に代表される京都の水文化、豆腐や湯葉といった食文化、織物などの伝統産業にも大きな影響を与えた。河原は都における数少ない開放的な空間であったことから、多くの人が集う、賑やかな場所となった。そのため、観阿弥・世阿弥父子による能楽や出雲阿国による歌舞伎、善阿弥による庭園芸術など多くの優れた文化が生まれるきっかけとなった。このように、鴨川に見守られながら文化を発展させ、今日まで時を紡いできた京都。

 しかし、鴨川は反乱を繰り返す「暴れ川」として恐れられた過去も持つ。命を育み、恵みもたらす鴨川も、時に多くの尊い命を奪う恐ろしい川に豹変する。そのたびに幾度となく、改修を繰り返し、形を変えてきた。そして現在の鴨川は、憩いの場として愛されるための工夫がいたるところに凝らされている。しだれ桜など、河川敷の花や木を見ながら散策できる「花の回廊」、護岸の傾斜を緩くし、川に近づきやすくした「水とのふれあいの回廊」、芝生植栽などの緑を楽しみながら散策できる「緑の回廊」。これらの回廊が、鴨川を身近なものにし、年間300万人もの人が訪れている。

 私は18歳の春、地元を離れ、京都にやって来た。これから始まる大学生活に、楽しみよりも不安や緊張が勝り、足は震えていた。そんな気持ちをグッとこらえ、駅から一歩踏み出すと、雄大な自然の中を流れる大きな鴨川と満開の桜並木が私を出迎えた。艶やかな桃色の花を、木の幹からこぼれちそうなほど咲かせた桜は、本当に美しく、一瞬で私を勇気づけた。柔らかな風に舞う花びら、水面には花筏。その場にいる人すべてを包み込むようなぬくもりがあった。

4年間京都で頑張ろう。不安を振り払い、そう思わせてくれた鴨川は私にとって、とても大切な場所になった。

 京都の夏は、溶けるように暑い。蝉時雨が降り注ぎ、照り付ける日差しの中、小さい子供のように全身びしょ濡れになって川遊びを楽しんだ。冷たい川は、火照った体と気怠さをさっぱりさせた。夜は、夜風に吹かれながら、お酒を片手に時間を忘れて話し込んだ。金木犀が香る頃、並木の木々は赤や黄色に染まる。落ち葉を踏むサクサクとした音が好きでよく散歩に出かけた。肌寒くなった秋、ベンチに座って、湯気の立つコンビニのおでんを食べながら、思い出話に花を咲かせた。朝、布団からなかなか出られず、遅刻ギリギリだった冬は、いつも全力で自転車をこいだ。並木道を走るとき、川の上をビュービューと吹く風の音が余計に寒さを感じさせた。雪が降れば、あたり一面銀世界。寒さを忘れるほど美しい。そして桜は、寒い冬を超え、春になれば美しい花を咲かせるのだ。四季によって表情を大きく変える鴨川。どの季節も美しく、魅力的だ。地元の人々だけでなく、観光客や外国人にも親しまれ、見る者の心を優しく、温かくする。

私の大学生活の思い出は、鴨川と共にある。桜が咲く季節になると、京都にやって来た頃の自分の夢や目標を思い出し、私に頑張る活力をくれる。残りの大学生活、美しい鴨川の景色をもっとこの目に焼き付けたい。

市街地にありながら、ゆったりと時が流れる鴨川。長い長い年月の中で、多くの人々の心を癒してきた。きっとこれからも、京都の顔として愛されていく。私の好きな鴨川を、美しいまま未来に残したい。

[引用]
www.pref.kyoto.jp 2020/6/30

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