ゼミ生が語る「私の好きな京都」(2020年春学期)
鴨川デルタ
大倉 悠太郎
(2018年度入学 鈴木ゼミ2期生)

 『高野川と鴨川に挟まれた三角地帯に位置する下鴨神社。京都に由緒正しき神社は山ほどあれど、下鴨神社は平安以前から存在する屈指の大神社である。縁結びを始め様々なご神徳を得るべく年間多くの参拝客が訪れるが、その界隈に夜な夜なある屋台ラーメンが出没することはあまり知られていない』

 これは、アニメ「四畳半神話大系」の第一話冒頭に流れるセリフである。この作品は、同名の森見登美彦氏の小説が原作となっており、2010年にテレビアニメ化されている。私は高校二年生の時にこの作品に出会い、森見登美彦氏の古風でありながらも軽快で諧謔味ある文体、湯浅政明監督の斬新な映像表現、中村佑介氏のシンプルで且つ美しいキャラクターデザインに魅了された。それからというもの、私は原作の小説を読み込み、小説の舞台となっている京都に思いを馳せるようになった。今回、私が紹介する「下鴨神社」と「鴨川デルタ」も作中に度々登場する。どちらも京都へ引っ越した後、聖地巡礼へと赴いたお気に入りの場所である。今回は、その魅力をお伝えしたい。

下鴨神社は、京都市左京区に位置する神社である。正式名称は「賀茂御祖神社(かもみおやじんじゃ)」。平成6年には、「古都京都の文化財」のひとつとしてユネスコの世界遺産に登録された。賀茂別雷神社(上賀茂神社)とともに賀茂氏の氏神を祀る神社であり、両社は賀茂神社と総称される。両社で催す賀茂祭(葵祭)は京都三大祭りのひとつにもなっている。ご祭神は、賀茂建角身命と玉依媛命。賀茂建角身命は、農耕を広め民生の安定につとめられた神様として「世界平和」・「五穀豊穣」・「殖産興業」・「身体病難解除」のご神徳がある。対して、玉依姫命は婦道の守護神として「縁結び」・「安産」・「育児」等のご神徳がある。また、水を司る神でもある。

 京都には数多くの神社があるが、下鴨神社は、その中でも特に歴史のある神社である。社殿に関する最も古い記録は『鴨社造営記』にみられる。この社記には、崇神天皇7年(紀元前90年)に瑞籬の修造を行ったという記述がある。また、『続日本紀』には、文武天皇二年(698年)に「葵祭に見物人がたくさん集まるので警備するようにという命令が出された」と記されている。この記述から、下鴨神社は奈良時代以前から大きな神社であり、盛大なお祭りが行われていたことが分かる。平安時代には、国と首都である京都の守り神・皇室の氏神として特別の信仰を受け、『源氏物語』や『枕草子』などの王朝文学にもしばしば登場している。このことからも、この時代の文化や宗教の中心地の一つとして栄えていたことが窺える。

 私が上に述べたような歴史のある下鴨神社に訪れたのは2018年4月21日のことである。境内に入ると、重要文化材の楼門へと続く広い表参道があり、その両端には青々とした木々が生い茂っていた。楼門を彩る朱色は、新緑の中で美しく映え、境内の落ち着いた雰囲気は私の心を穏やかにした。下鴨神社には、楼門の他に光琳の梅、御手洗社やさざれ石といった数々の見所がある。それらの中で、特に私が特に魅了されたのは、「糺の森」だ。糺の森は、下鴨神社の境内にある社叢林のことを指す。これは、京都市内唯一の自然の森で、縄文時代から生き続ける広さ3万6千坪の森である。ケヤキ・エノキ・ムクノキなどの広葉樹を中心に、山背原野の樹林を構成していた樹種が自生しており、森林生態学・環境学などの学術分野からも大変貴重な森とされている。糺の森が醸し出す雰囲気には独特なものがあり、筆舌に尽くし難い。機会があれば、是非とも足を運び、生の空気感を味わっていただきたい。

 次に鴨川デルタの魅力について述べる。作中では、「北東からやってきた高野川と、北西からやってきた賀茂川が、一つになって鴨川となる。その合流地点、高野川と賀茂川に挟まれた逆三角形の領域を学生たちは鴨川デルタと呼ぶ」と説明されている。小難しく説明されているが、言ってしまえばただの三角州である。しかし、私はここを訪れた際に無性に興奮したのを覚えている。作中に何度も登場する場所にやっと足を運べたというのもある。しかし、一番の理由は多くの人々が鴨川デルタに集い、それぞれが自由に過ごしていたからである。ジョギングをする人、ただじっと川を眺めている人、ブルーシートの上に集まって談笑する学生、飛び石を渡って遊んでいる子ども。鴨川が人々の生活の一部に組み込まれているのをひしひしと感じた。現代社会においては、川と人の距離が近いというのは、なかなかに特殊なことではないだろうか。街の中心に憩いの場があるのは、素敵なことだと思う。鴨川デルタは、糺の森南部の先端部分に位置している。下鴨神社へ参拝した際には、鴨川デルタでのんびりするのも良いかもしれない。京都らしさを存分に味わえることだろう。

参考
(写真、マップ引用)
下鴨神社 楼門と境内マップ 公式HPサイトより

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