一週間はいつ始まるか?

平塚 徹(京都産業大学)


 一週間の最初の日は何曜日でしょうか。 曜日の名前を数え上げるときには、日本人は、 「ニチ、ゲツ、カー、スイ、モク、キン、ドー」と唱えるので、 これに従うと、一週間の最初の日は日曜日だということになります。 ところが、欧米では必ずしもそうではないようです。 よく新聞広告で見かける英語教材で、 「家出のドリッピー」(シドニー・シェルダン作)という物語がありますが、 この中で、風がドリッピーに曜日の名前を教えるシーンがあります。 その時の風のセリフはこのようになっています。

"All right. We'll begin with Monday. After that comes Tuesday, Wednesday, Thursday, Friday, Saturday, and Sunday. Can you remember that?"
(Sidney Sheldon & Mary Sheldon, Drippy: The Runaway Raindrop, Academy Shuppan, Inc., Tokyo, Japan, p.18)

 なんと、月曜日から初めて、日曜日で終わっているのです。 実は、英語圏では、一週間は、必ずしも日曜日から始まるわけではないのです。 このことをはっきり書いてある辞書もあります。

A week is a period of seven days. Some people consider that a week starts on Monday and ends on Sunday.
(Collins Cobuild English Dictionary, p.1896)

 これは、フランス語でも同じです。ある辞書で、semaine(週)という単語を引くと、 次のように定義してありました。

 Période de sept jours décomptée du dimanche (ou du lundi) au samedi (ou au dimanche)
(Le Dictionnaire du français, Hachette, p.1494)

 やはり、一週間は、日曜日から土曜日までとは限らず、 月曜日から日曜日までの場合もあることが分かります。

 この点で、興味深いのは、「ウィークエンド(week-end)」という言葉です。 文字通りには、「週の終わり」なのですが、実際には、 週の最後の土曜日と週の最初の日曜日を指しています。 なぜ、このようなことになっているのでしょうか。

 本来は、一週間は日曜日に始まるものでした。 その証拠に、月曜日を「2番目の曜日」、 火曜日を「3番目の曜日」等々と表現する言語があります。 例えば、ポルトガル語では、月曜日は segunda-feira、 火曜日は terça-feira、等々と言いますが、 これは、「2番目の曜日」、「3番目の曜日」という意味です。 また、現代ギリシア語でも、月曜日はΔευτερα、 火曜日はΤριτηと言いますが、これも、「第2の日」、「第3の日」という意味です。 それ以外でも、例えば、ヘブライ語が月曜日を2番目として曜日を命名しており、 ちゃんと、ユダヤ教の伝統に従っています。 また、同じセム系のアラビア語も、ヘブライ語と同じように曜日の名前を付けています。 かなり系統が違うところでは、ベトナム語が、やはり、同じ命名法を採用しています。

 ところが、最初に言ったとおり、現在では、一週間は必ずしも、 日曜日から始まらなくなっています。 それどころか、文化圏によっては、 一週間の最初を月曜日に完全にずらしてしまったところもあります。 例えば、ロシア語圏においては、一週間は月曜日から始まります。 岩波「ロシア語辞典」で、понеделник(月曜日)を引くと、 「ロシアでは週の最初の日」とはっきりと書いてあります。 それに従って、火曜日は「2番目」に、木曜日は「4番目」に、 金曜日は「5番目」に基づく単語で表されます。 (水曜日は、「真ん中」という語に由来する単語を使います。) ロシア語以外のスラブ語も同じです。 また、中国語でも、月曜日から、「星期一、星期二、…」と数えていきます。

 面白いのはカレンダーで、日本では日曜日を最初にするのが普通ですが、 外国では、月曜日が最初のものもよくあります。 日本でも、手帳を見ると、日曜日が最後に来ているものがあります。

 さて、一週間は本来、日曜日から始まっていたはずですが、 以上のように、個人によって、あるいは文化圏によって、 月曜日から始まるように変わっていっています。 それでは、なぜ、このようなことが起こるのでしょうか。 そのことを考えるために、週という制度の歴史を見てみましょう。

 そもそも、現在の週という制度は、ユダヤ教にさかのぼります。 『旧約聖書』に、神が6日間かけて天地を創造し、7日目に休んだので、 7日目を安息日としたと説明されています。 ところが、この安息日は、なんと、現在の土曜日に当たっていました。 ヘブライ語では、安息日を「サバト」と呼んでいましたが、 フランス語やイタリア語やスペイン語では、土曜日を指すのに、 この「サバト」に由来する語を使っています。 いずれにしても、ユダヤ教では、一週間は日曜日に始まり土曜日に終わるものの、 休むのは日曜日ではなく土曜日でした。

 それでは、なぜ、日曜日が休みになっているのでしょうか。 これは、キリストの復活が日曜日だったので、キリスト教では、 安息日を土曜日から日曜日に変えてしまったからです。 この時、週の制度に矛盾が生じました。 そもそも、創世記の話に従えば、一週間の最後が休みのはずなのに、 一週間の最初が休みになってしまったのです。

 本来、日曜日は一週間の最初の日だったわけですが、 6日間働いて7日目に休んだという旧約聖書の話に従えば、 日曜日は、むしろ、一週間の最後にならなければならないことになってしまいます。 このことをよく表しているのが、「ウィークエンド」という言葉でしょう。 (「ウィークエンド」の「エンド」を「終わり」ではなく、「端」とする考え方については、 「「ウィークエンド」の「エンド」は「端」か?」を参照してください。) 仮に旧約聖書の話を意識しなかったとしても、 休んでから働くのよりも、働いてから最後に休む方が、自然に思えます。 神が人間を神に似せて作ったのか、人間が神を人間に似せて作ったのか、 いずれにしても、この点は、お互いに似ているわけです。 ですから、一週間の最初を月曜日だと思うようになっても不思議はないわけです。


 幾つかの言語の辞書で、「月曜日」、「日曜日」、「週」を意味する言葉の定義を調べてみました。 週の最初が、日曜日だったり、月曜日だったりして、一定していないことが分かります。

Nicola Zingarelli, Lo Zingarelli 1995(イタリア語)

Real academia española, Diccionario de la lengua española(スペイン語)

Gerhard Wahrig, Deutsches Wörterbuch(ドイツ語)

С. И. Ожегов, Словарь Русского Языка(ロシア語)