一週間はいつ始まるか?

平塚 徹京都産業大学 外国語学部

京都産業大学外国語学部では、英語ドイツ語フランス語スペイン語イタリア語ロシア語中国語韓国語インドネシア語を専門的に学ぶことができます。


一週間の最初は日曜日か、それとも月曜日か?

 一週間の最初の日は何曜日でしょうか。曜日を数え上げるときには、日本人は、「ニチ、ゲツ、カー、スイ、モク、キン、ドー」と唱えるので、これに従うと、一週間の最初の日は日曜日だということになります。

 ところが、外国では必ずしもそうではありません。英語教材に「家出のドリッピー」(シドニー・シェルダン作)という物語がありますが、この中で、風がドリッピーに曜日の名前を教えるシーンがあります。その時の風のセリフはこのようになっています。

"All right. We'll begin with Monday. After that comes Tuesday, Wednesday, Thursday, Friday, Saturday, and Sunday. Can you remember that?"
「いいよ。月曜日から始めよう。その後に、火曜日、水曜日、木曜日、金曜日、土曜日、そして日曜日が来るんだ。覚えた?」
(Sidney Sheldon & Mary Sheldon, Drippy: The Runaway Raindrop, Academy Shuppan, Inc., Tokyo, Japan, p.48)

 なんと、月曜日から始めて、日曜日で終わっているのです。実は、英語圏では、一週間は、必ずしも日曜日から始まるわけではないのです。このことをはっきり書いてある辞書もあります。

A week is a period of seven days. Some people consider that a week starts on Monday and ends on Sunday.
(一週間は七日の期間。月曜日から始まり、日曜日に終わると考える人もいる。)
(Collins Cobuild English Dictionary, p.1896)

 この点で、興味深いのは、「ウィークエンド(week-end)」という言葉です。文字通りには、「週の終わり」なのですが、実際には、週の最後の土曜日と週の最初の日曜日を指しています。なぜ、このようなことになっているのでしょうか。

週の最初が変わった

 本来は、一週間は日曜日に始まるものでした。その証拠に、月曜日を「2番目の曜日」、火曜日を「3番目の曜日」等々と表現する言語があります。例えば、ポルトガル語、現代ギリシア語、ベトナム語がそうです。

 ところが、現在では、一週間は必ずしも、日曜日から始まらなくなっています。それどころか、一週間の最初を月曜日に完全にずらしてしまったところもあります。

 例えば、ロシアにおいては、一週間は月曜日から始まります。岩波「ロシア語辞典」で、понеделник(月曜日)を引くと、「ロシアでは週の最初の日」とはっきりと書いてあります。 それに従って、火曜日は「2番目」に、木曜日は「4番目」に、金曜日は「5番目」に基づく単語で表されます。(水曜日は、「真ん中」という語に由来する単語を使います。)ロシア語以外のスラブ語も同じです。中国語でも、月曜日から、「星期一、星期二、…」と数えていきます。

 面白いのはカレンダーで、日本では日曜日を最初にするのが普通ですが、外国では、月曜日が最初のものもよくあります。日本でも、手帳を見ると、日曜日が最後に来ているものがあります。そして、実は、国際的な標準規格であるISO 8601では、週の始まりを月曜日としています。

なぜ変わった?

 一週間は本来、日曜日から始まっていたのですが、個人によって、あるいは文化圏によって、月曜日から始まるように変わっていっています。それでは、なぜ、このようなことが起こるのでしょうか。そのことを考えるために、週という制度の歴史を見てみましょう。

 そもそも、現在の週という制度は、ユダヤ教にさかのぼります。『旧約聖書』に、神が6日間かけて天地を創造し、7日目に休んだので、7日目を安息日としたと説明されています。ところが、この安息日は、なんと、現在の土曜日に当たっていました。よって、ユダヤ教では、一週間は日曜日に始まり土曜日に終わるのですが、休むのは日曜日ではなく土曜日でした。

 それでは、なぜ、日曜日が休みになっているのでしょうか。これは、キリストの復活が日曜日だったので、キリスト教では、安息日を土曜日から日曜日に変えてしまったからです。この時、週の制度に矛盾が生じました。そもそも、創世記の話に従えば、一週間の最後が休みのはずなのに、一週間の最初が休みになってしまったのです。

 本来、日曜日は一週間の最初の日だったわけですが、6日間働いて7日目に休んだという旧約聖書の話に従えば、日曜日は、むしろ、一週間の最後にならなければならないことになってしまいます。このことをよく表しているのが、「ウィークエンド」という言葉でしょう(「ウィークエンド」の「エンド」を「終わり」ではなく、「端」とする考え方については、 「「ウィークエンド」の「エンド」は「端」か?」を参照してください)。仮に旧約聖書の話を意識しなかったとしても、休んでから働くのよりも、働いてから最後に休む方が、自然に思えます。

 神が人間を神に似せて作ったのか、人間が神を人間に似せて作ったのか、いずれにしても、この点は、お互いに似ているわけです。ですから、一週間の最初を月曜日だと思うようになっても不思議はないわけです。


 幾つかの言語の辞書で、「月曜日」「日曜日」「週」を意味する言葉の定義を調べてみました。週の最初が、日曜日だったり、月曜日だったりして、一定していないことが分かります。

ドイツ語(Gerhard Wahrig, Deutsches Wörterbuch

フランス語(Hachette le dictionnaire du français

スペイン語(Real academia española, Diccionario de la lengua española

イタリア語(Nicola Zingarelli, Lo Zingarelli 1995

ロシア語(С. И. Ожегов, Словарь Русского Языка


©平塚徹(京都産業大学 外国語学部)

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