ウクライナ語がロシア語よりポーランド語に似ているところ

平塚 徹京都産業大学 外国語学部

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 ウクライナ語は、ロシア語やベラルーシ語と同様に東スラブ語群に属する言語です。よって、これらの言語とよく似ています。しかし、ウクライナは歴史的に西隣のポーランドの影響を強く受けてきました。そのため、ウクライナ語はポーランド語からの借用語が多く、ロシア語よりもポーランド語の方が語彙の共通度が高いと言われています。ウクライナ語は、文法はロシア語に似ているが、語彙はポーランド語に似ているとも言われます。

 ウクライナ語とポーランド語の類似性は語彙のレベルにとどまりません。

 ロシア語の「はい」はda(да)です。スラブ語派の他の言語でもdaが使われています。しかし、ウクライナ語やベラルーシ語ではtak(так)です。実は、ポーランド語でもtakが使われています。これはもともと「そのように」という意味の語ですが、これらの言語では「はい」の意味で用いられるようになっています。この用法は、おそらく、ポーランド語から始まり、ウクライナ語とベラルーシ語に広まったものと思われます。

「はい」
ポーランド語ウクライナ語ロシア語
taktakda

 ウクライナ語では、文頭に čy(чи)を付けると疑問文になります。ベラルーシ語でも文頭にci(ці)を付けると疑問文になります。それに対して、ロシア語にも疑問文を作るli(ли)という語がありますが、疑問の焦点となる語句を文頭に置いてその後に付けるという使い方をします。実は、ポーランド語では、文頭にczyを付けると疑問文になります。おそらく、これがウクライナ語とベラルーシ語に広まったものと思われます。なお、これらの言語の北方に隣接するバルト語派のラトヴィア語のvaiやリトアニア語のarなども同様の用法を持っています。系統を超えて地域的な特徴が広がっています。

疑問文
ポーランド語ウクライナ語ロシア語
czy 〜čy 〜焦点語句+li 〜

 「何々を持っています」という場合、世界の言語を見ると、色々な言い方があります。日本語で「私は自動車を持っている」という場合は、所有者の「私」を主語、所有物の「自動車」を目的語にして、「持っている」という他動詞を用いて表しています。英語のI have a car.も同様の表現です。これを「他動詞型」と呼ぶことにします。それに対して、ロシア語では、「私には自動車がある」という言い方をします。ここでは、所有物である「自動車」が主語になり、それが所有者である「私」のところに存在しているという言い方になっています。これを「存在型」と呼ぶことにします。さて、ウクライナ語ですが、実は、他動詞型と存在型の両方の言い方があります。一方、ポーランド語では他動詞型を用います。ウクライナ語は、ロシア語とポーランド語の両方に対応する言い方があるのです。なお、ベラルーシ語においても同様です。

所有表現
ポーランド語ウクライナ語ロシア語
他動詞型他動詞型存在型存在型

 ウクライナ語はロシア語によく似ています。これは、系統的に近いためです。しかし、歴史的にはポーランド語の影響も強く受けました。そのため、ポーランド語と類似しているところも色々とあるのです。

 (ウクライナ語におけるポーランド語からの借用語については、「言語から見たウクライナ問題の背景」に具体例を挙げています。)



©平塚徹(京都産業大学 外国語学部)

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