『進撃の巨人』の英語タイトル"Attack on Titan"の意味

平塚 徹京都産業大学 外国語学部

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 『進撃の巨人』の英語タイトルは"Attack on Titan"だが、極めて不思議なタイトルである。そもそも、英語として成り立っていない。Titanは「巨人」のことだろうが、これは可算名詞なので、冠詞がつくなり、複数形にするなりして、"Attack on the Titan"や"Attack on Titans"などならあり得る。しかし、無冠詞単数で"Attack on Titan"というのは文法的におかしい。Titanが固有名詞であれば無冠詞単数になるが、「タイタン」という固有名詞で指されるようなものはこの作品には見当たらない。木星の衛星のタイタンなら無冠詞単数のTitanになるが、木星の衛星は本作とは関係ない。つまり、"Attack on Titan"という英語タイトルは普通の英語として理解することが難しいのである。

 しかし、普通の英語として理解することが難しいとしても、そもそもこの英語タイトルはどのような意味を意図して付けられたのだろうか。"Attack on 〜"と来ると通常は「〜への攻撃」という意味になるので、普通に考えると全体として「巨人への攻撃」という意味を意図したのだろうということになる。しかし、これには違和感がある。確かに、作中において「巨人への攻撃」と呼びうるような出来事はあるが、これをこの作品のタイトルにするだろうか。原題の『進撃の巨人』がエレンの巨人の名前であることが分かって回収されたのと比べると、「巨人への攻撃」ではあまりにも納得がいかない。(なお、巨人の名前としての「進撃の巨人」は英語ではAttack Titanとなっており、英語タイトルの"Attack on Titan"とは異なる。)

 もっとも、エレンの巨人の「進撃の巨人」という名前も腑に落ちないところがある。他の「超大型巨人」「鎧の巨人」「女型の巨人」「獣の巨人」「車力の巨人」「顎の巨人」「戦鎚の巨人」という名前は、それぞれの巨人の特徴を端的に表した命名になっているのに対して、「進撃の巨人」はなぜその名前なのか一見はっきりしない。しかし、「進撃」というと、本作の終盤で描かれる「地ならし」においてエレンの巨人の最終形態がパラディ島以外の世界を滅ぼすべくまさしく「進撃」するのである。この最終形態は「終尾の巨人」とも呼ばれるが、「進撃の巨人」である。つまり、最後には世界を滅ぼすために進撃する巨人だから「進撃の巨人」という名前だと考えられる。そうすると、原題の『進撃の巨人』の意味はこの局面においてやっと明らかになるのであり、これがタイトルの真の回収だということになる。

 そう考えると、英語タイトルの"Attack on Titan"も、実は「地ならし」における最後の進撃のことを意図したものではないかということに思い至る。Attackは「攻撃」だが、「進撃」のことと考えることができる。先述の通り、"Attack on 〜"と来たら通常は「〜への攻撃」となるが、「巨人への攻撃」では最後の進撃のことにならない。しかし、onには「〜に乗って」という意味もある。最後の進撃においてエレンが巨人の口の中にいたことを考えると、エレンが巨人に「乗って」進撃してきたとも言える。そうすると、"Attack on Titan"は「巨人に乗って進撃」つまりエレンが巨人体の中で進撃してきたことを意図した命名と考えることもできる。そうであれば、この英語タイトルは終盤において回収されることになるのである。

 もっとも、"Attack on Titan"というタイトルを普通に読んでも意味は分からないし、ましてや最後の進撃を指しているという解釈も簡単には出てこない。しかも、この推測が合っているかどうかも分からない。いずれにしても、凝った仕掛けが施されて、海外でも人気の高い本作の英語タイトルとしてはとても残念なことである。

(「『進撃の巨人』のタイトルは外国語にどのように訳されているか?」もご覧ください。)



©平塚徹(京都産業大学 外国語学部)

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