ラスタグラフィクスとベクタグラフィクス

コンピュータ上で図や画像を扱う際の考え方に大きくわけて次の二つがあります。

  1. 図をタテヨコに並んだ点の集まりとしてとらえ、処理をします。図の編集は、各 点ごとに色合いや明暗を変化させることで行います。このような考え方で 表現されたグラフィクスをラスタグラフィクスと呼びます。図を構成する 個々の点をピクセル(pixel, 由来は「picture element」)といいます。ま た、点の集まりとして構成された図をビットマップイメージ(または短く 「ビットマップ」)と呼びます。
  2. 図を円や長方形・三角形といった基本的な図形の集まりとしてとらえ、図形単位 で処理をします。図の編集は、その図に新たな図形を追加したり、含まれ ている図形を変形したり消去したりすることで行います。このような考え 方で表現されたグラフィクスをベクタグラフィクスと呼びます。

具体的な図でこの2つの違いを説明しましょう。下の図を見て下さい:

191x171(575bytes)

三角形と円が重なっているのが見えますが、ラスタグラフィクスでは、この図 を単なる多数の点の集まりとしか扱いません。点が全体として丸く並んでいるた めに人間には円があるように見えても、ラスタグラフィクスでは点の集まりを まとめて円のような一つの図形ととらえたりはしません。図形単位で編集をしな いので、この図の中の円だけが不要になったとしても、円だけをそっくり消去し て、三角形だけが残るようにするのは簡単にはいきません。今ある円の上にぴっ たり重ねて同じ大きさの黒い円を書けば、円が消えたように見えると思うかも知 れませんが、そうすると、三角形が残るのではなく、次の図のように丸い切り欠 きのできた三角形ができてしまいます:

191x171(365bytes)

一方、ベクタグラフィクスでは、このような図を三角形と円という基本的図形 を配置したものとして扱い、編集も図形ごとに行います。従って、円を消去して 下図のように三角形を残すことが可能です。また、三角形の上に円が重なってい るのではなく、重なりの順序を変えて三角形が上に来るように修正することもで きます:

191x171(368bytes) 191x171(584bytes)
円を消去して三角形を残す 重なりの順序を変更

円の半径だけを小さくしたり、中心を移動させるといった事も簡単です:

191x171(495bytes)
円を縮少・移動

ベクタグラフィクスでは、円を「点が丸い形に集まったもの」として扱うので はなく、半径や中心の座標といった数値データによって表しています。そのため に、半径や座標の値を取り替えるだけで簡単に縮小や移動ができるのです。

ベクタグラフィックスでは、図全体を縮小したり拡大したりするのも当然簡単 ですが、ラスタグラフィクスではただそれだけのことも簡単には行きません。

ラスタグラフィクスで円を拡大すると、下のように輪郭のギザギザが目立って 美しくありません:

151x140(545bytes)

元々コンピュータの画面は点の集まりなので、どんな円の輪郭も少しはギザギザ しているのですが、拡大するとギザギザの様子まで拡大されて目立ってしまうの です。多くのソフトウェアにはギザギザが目立たなくなるように自動的に輪郭を 修正する機能がありますが、思い通りに修正されるとは限らず、荒れた画像にな りがちです。

一方、ベクタグラフィクスであれば、中心座標や半径に拡大変換を施したあと きれいに円を描き直すので、ギザギザになりません。

さて、このように説明すると、ベクタグラフィクスのほうにばかり利点があるように聞こえそうですが、そうではありません。 ベクタグラフィクスで表現しづらい画像もあるからです。その代表が写真です。 例えば、人物写真を円や多角形の組合せで表現するのは面倒ですし、あまりそうしたいとも思わないでしょう。 それよりも写真の細かいキズや汚れを修正するために点単位で微妙な編集ができるほうが有難いので、写真はラスタグラフィクス向きなのです。

人間が紙に描くような絵についてはどうでしょうか。定規やコンパスで描く絵なら、ベクタグラフィクスでうまく再現できます。 しかし、油絵や水彩画ならラスタグラフィクス向きでしょう。

日常用語で、定規やコンパスで描くことは draw (ドロー)すると言い、筆で描くことは paint (ペイント)すると言いますので、ベクタグラフィクスを処理するソフトウェアをドロー系ソフトウェ ア、ラスタグラフィクスを処理するソフトウェアをペイント系ソフトウェアと呼ぶことがあります。

以上をまとめると次の表のようになります:

編集の単位 拡大・縮少の容易さ 用途 対応するソフト
ラスタグラフィクス 点(ピクセル) 写真, 絵画 ペイント系
ベクタグラフィクス 図形(円, 多角形, …) 線画, 図 ドロー系

この演習では、ドロー系ソフトウェアとして StarSuite Draw、ペイント系ソフ トウェアとして GIMP (Gnu Image Manipulation Program)をとりあげます。

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