Fittsの法則によれば,グラフィカルユーザインタフェース(GUI)上でのマウスによるオブジェクトの選択といった「ポインティング」に要する時間tは,
t = a + b * ID
ID = log2(D/W + 1)
によりモデル化される.ただし,Dはポインティング対象のターゲットまでの距離,Wはターゲットのサイズ,aとbは定数である.
定義に従えば,距離Dをn倍することとサイズWを1/n倍することはIDの変化に対して同じ効果をもたらすと期待される.
本研究ではこれまでに,IDの定義式が端末の画面サイズによらず妥当であり上述したD,W,IDの関係が成り立つかどうかをユーザ実験に基づいて検証した.この結果,同じ難易度となるようにサイズと距離が設計されたターゲットであっても,画面サイズが大きいPCにおいては「大きく遠い」ターゲットのほうがスループットが小さく,反対に,画面サイズが小さいPDAにおいては「小さく近い」ターゲットのほうがスループットが小さいことがわかった.つまり,IDの定義におけるD/Wの項が画面サイズによらず適切であるとは言えないことが示唆された.
そこで,他のポインティング時間予測モデルの適合性評価,および,Fittsの法則における難易度指標の改良を試みた.
ターゲットの距離DおよびサイズWからポインティング時間tを予測するモデルt=F(D,W)として重回帰モデルを用いることにより,ターゲットの難易度に与えるDとWの影響が端末の画面サイズに応じて変化することを適切にモデル化できた.また,Fittsモデルにおいて従来用いられてきた難易度指標の拡張を試み,実験データへの適合性評価により,その拡張の有効性を示唆する結果が得られた.