税効果会計と配当可能利益(2015年11月26日)

6期生の棚橋です。更新が遅くなりましたが、11月26日のゼミ内容について報告します。今回は教科書第9章「税金と配当金」について、前回の発表に加えて補足の説明を前半と後半で石崎くんと小林くんがしてくれました。

まず、前半の石崎くんは税効果会計について発表しました。企業に課せられる税金(法人税など)は、基本的に利益に対して一定の税率をかけて算出されます。税金をかける対象となる利益を「課税所得」といいますが、この税法上の課税所得(益金−損金)と会計上の利益(収益−費用)が一致しない場合があります。会計上は費用として処理されても、税法上はただちに損金として認められず、その分課税所得が多くなり税金を多く払わなければならないことがあります。例えば貸倒引当金の計上や貸出金の償却は、会計上は費用として処理されますが、税法上も損金として認められるためには一定の条件を満たす必要があります。このような会計上の取り扱いと税法上の取り扱いとの違いを調整するための仕組みを「税効果会計」といいます。税効果会計では会計処理をしたある時点では税法上損金として認められなかったために払いすぎた形になっている税金が、将来、税法上の損金としての条件を満たした時点で戻ってくる(将来支払う税金が払いすぎた税金の分だけ少なくなる)という前提で、払いすぎた税金相当額を貸借対照表の資産に計上します。そして、その資産を「繰延税金資産」といいます。ですから、一般的には貸倒引当金の計上や貸出金の償却を積極的にやればやるほど繰延税金資産が増えるという傾向になります。例として、不良債権に対して貸倒引当金300を計上(会計上は費用として処理されるが、税法上は損金として認められない)。(実効税率40%と仮定)とあると、今年度の課税所得に貸倒引当金として計上した金額(300)が含まれるため、貸倒引当金(300)にかかる法人税(120)を会計上は払いすぎと認識し、これと同額を繰延税金資産として資産に計上します。よって仕訳は、借方繰延税金資産、貸方法人税等調整額となります。

次に後半の小林くんの発表です。はじめに剰余金の算定について説明します。最終事業年度末の貸借対照表の剰余金は決算日後に増加した剰余金として、自己株式処分差額(差益の場合は減算)、資本金の減少額(資本準備金とした額を除く)、準備金の減少額(資本金とした額を除く)があり、決算日後に減少した剰余金は消却した自己株式の帳簿価格(消却に剰余金が充当)、剰余金の配当額、会社計算規則150条に規定する額(資本金・準備金への繰入額ほか)です。決算日から配当の効力発生日までの増減があります。また、配当の効力発生日は株主総会で決定します。最終事業年度末の貸借対照表の剰余金の算定式は、最終事業年度末の貸借対照表の剰余金=資産+自己株式)−(負債+資本金・準備金+評価換算差額・新株予約権)または、その他資本剰余金+その他利益剰余金となります。その他資本剰余金には、自己株式の処分差益や資本金の減少額が含まれています。自己株式処分差益とは、自己株式の処分対価から自己株式の帳簿価格を控除した額をいいます。また、自己株式処分差益はその他資本剰余金に計上します。よって貸借対照表上のその他資本剰余金として表示されます。
これの例題①として、平成x2年は5月13日に自己株式のうち1000円を1600円で処分した。とあると、
(借)現金 1600 (貸)自己株式 1000
自己株式処分差益 600
となります。
資本金及び資本準備金の額の減少によって生ずる剰余金は減少の法的効力が発生した時に、その他資本剰余金に計上します。また、利益準備金の額の減少によって生ずる剰余金は、減少の法的効力が発生した時に、その他利益剰余金(繰延利益剰余金)に計上します。
自己株式を消却した場合には、消却手続きが完了したときに、償却の対象となった自己株式の帳簿価格をその他資本剰余金から減額します。
自己株式を取得したとなった場合、自社の株式を取得したことを意味し、処分した場合、自社の株式を売却したことになります。消却とは、自社の株式を減少させる、つまり、錯交済株式数が減少することを意味します。
例題②は平成x2年6月15日自己株式のうち800円を消却した。とあると、
(借)その他資本剰余金 800 (貸)自己株式 800
となります。これにより、自己株式の消却は剰余金の減少になることがわかります。
例題③は剰余金の配当です。平成x2年6月25日の株主総会において、その他利益剰余金を財源とする剰余金の配当2000円が決議され、利益準備金200円を積み立てた。とあると、
(借)その他利益剰余金 2200 (貸)未払配当金 2000
利益準備金 200
となります。
2006年から施行された会社法は、従来の利益配当、中間配当、資本金と法定準備金の減少に伴う払戻し、および自己株式の取得をまとめて「株主に対して交付する金銭等」として扱い、それぞれについて「分配可能額」という統一的な財源規制をかけています。分配可能額を算定し、自己株式を調整する際、自己株式を取得したら分配可能額から控除しなければなりません。例題①〜③を用いて計算すると、
2500(最終事業年度末のB/S上の帳簿価格)+1300(取得価格)−1000(処分額)−800(消却額)=2000(配当効力発生日の帳簿価格)
2000+1600(自己株式の処分対価)=3600(2500+600+1300−800)(自己株式処分差額)
となります。
次に、会社計算規定第158条では追加的控除額としてのれん等調整額があり、計算方法は次のようになります。
分配時の剰余金−分配時の自己株式簿価−自己株式処分対価=①
⬇︎
(のれん×1/2+繰延資産)−(資本金+資本準備金+利益準備金)=《1》
繰延資産+その他資本剰余金=《2》
⬇︎《1》がプラスの場合
分配可能額:①−《1》か《2》いずれか小さい方←のれん等調整額
⬇︎《1》がマイナスの場合
分配可能額:①←のれん等調整額なし
という方法で求められます。
また、のれんが多額になる典型的な場合はM&Aであり、その場合に株式が発行されていれば、資本金、資本準備金、その他資本剰余金が計上されていることに注目します。
最後に剰余金の処分についてです。決算の結果、当期純利益ではなく当期純損失が計上されることもあります。もし繰越利益剰余金があれば、繰越利益剰余金から当期純損失を差し引きます。それでも当期純損失を補塡できない場合、利益剰余金を取り崩し、それでも損失があれば繰越損失にして時期以降の利益で補塡すべきです。それが「資本と利益の区別」を保証するからです。損失を繰り越す場合は株主総会の決議は不要ですが、剰余金の取り崩しには決議が必要となります。会社法では、株式会社が剰余金の処分として任意積立金を設定することを認めています。任意積立金とは、会社が自主的に設定した留保利益の項目です。特定目的がある場合、目的達成の時に繰越利益剰余金に自動算入され、ない場合は取り崩しは原則株主総会の承認を得なければなりません。剰余金の処分の仕訳は以下のようになります。
・損失の計上
繰越利益剰余金 xxx / 損益 xxx
・積立金の計上
繰越利益剰余金 xxx / 別途積立金 xxx

11月26日のゼミ報告は以上です。