資産除去債務・のれんの会計処理(2015年7月23日)

6期生の高井智章です。更新が遅くなり申し訳ございません。7月23日のゼミ活動の内容を報告いたします。

最初に、北村さんより前回発表(資産除去債務とのれんについて)の補足がありました。まず、資産除去債務(定義は前回の武内さんの投稿を参照)について、会計処理が発生するときの処理方法として、プロスペクティブ・アプローチとキャッチアップ・アプローチの2つを紹介してもらいました。プロスペクティブ・アプローチは資産除去債務の見積りの変更から生じる調整額を、資産除去債務の関わる負債及び関連する有形固定資産の帳簿価格に加減して、減価償却を通じて残存耐用年数にわたり費用配分を行う方法です。対してキャッチアップ・アプローチは、資産除去債務の見積りの変更から生じる調整額を、資産除去債務に関わる負債及び有形固定資産の残高に反映し、その調整額の効果を一時の損益とする方法で、適用初年度における期首残高を調整する方法として採用されています。難しく説明されていますが、端的に言い表すとすれば、償却を一気に行うか、分割して行うかの違いであると認識しています。
次に、のれんについて日本基準とIFRS基準の比較を行いました。そもそも同じのれんという言葉を使われていますが、各基準においてその定義は異なります。日本基準では「被買収企業の時価総額と買収価格の差額を”のれん”」として、貸借対照表(B/S)に資産計上されますが、IFRSでは「買収することによって得られる販売チャンネルやブランドなどを無形資産として評価し、それを”のれん”」としています。日本基準ではのれんは無形資産と見なされないのに対して、IFRSでは無形資産との類似を認めているといえます。こののれんについて、取得時の会計処理が2種類存在します。一方は購入のれん方式といって、取得日現在の支配株主持分の公正価値を評価し、これらと被取得企業の資産・負債の公正価値のうちの支配株主割合部分との差額を計上する方法です。他方全部のれん方式では、取得日現在の被取得企業の公正価値(支配株主持分及び被支配株主持分の公正価値)を評価し、これと被取得企業の資産・負債の公正価値との差額を計上します。簡単にまとめると、購入のれん方式は支配に必要最小限の株式を基準にのれんを設定する方式で、全部のれん方式はすべての株式を買収の対象にしてのれんを設定する方式であるといえます。IFRSでは両方の方式をその都度選択することが認められていますが、日本基準では購入のれん方式のみが認められています。実際に設定されたのれんを焼却する際にも両基準の違いが存在します。
のれんの償却に関して、日本基準では20年を目処に規則的に償却されますが、IFRSでは償却されないとされています。減損の兆候の有無を評価し、兆候がある場合に資産の帳簿価格と回収可能額とを比較し、減損損失を測定する、所謂減損テストの頻度については、日本基準では減損の兆候がある場合のみであるのに対して、IFRSは少なくとも年1回の実施を義務づけています。その減損テスト時にのれんの分割を行う場合、日本基準ではのれんを含むより大きな単位での判定が原則ですが、IFRSでは資金生成単位にのれんの帳簿価格を配分するとされています。
実務における影響として、①取得時における会計処理の選択がのれんの金額に影響を与えることになるため、減損が発生する可能性も含めた慎重な検討が必要になる②IFRSではのれんは償却しないが、少なくとも毎年一回は減損テストを実施することから、のれんの減損がある場合には企業買収後の損益に大きな影響を及ぼす③減損テストの目的上、のれんは企業結合シナジーから便益を得ることが期待される資産グループに配分する。④無形資産を可能な限りのれんとし区分して計上することが必要、の4つがあげられています。その存在こそ確信されているのれんですが、数字だけでその価値を計るのは非常に難しい印象を持ちました。だからこそしっかりと研究し、算出方式が確立されるべき分野であると私は考えます。

次に、毎回のゼミで行っている東芝の不正会計問題についての議論を今回も実施しました。橋本先生と交流がある、とある公認会計士さんのお話によると、不正会計が発生する要因は3つ存在するそうです。具体的には、企業側から提示された資料そのものが既に偽ってあるケース、グルになっているケース、そしてCPA(公認会計士)自身のミスによるケースの3種類です。報道によれば原因は最前者になります。しかし東芝級の超巨大企業の監査に対する報酬は巨額で、そのような一大クライアントを自ら貶めるようなことをするのか、もうしそうならCPAの正義感が著しく欠如しているのではないか、また仮にそうでなくても提出された資料を見て違和感を覚えないCPAは無能ではないかと、橋本先生は今回の問題を厳しく批判しておられました。制度による監査の統制が必要不可欠であると橋本先生は結論付けました。個人的な意見を申しますと、前回小林さんが提案した国家による企業の監査というのには賛成です。資本主義社会としてそれは理論が破綻していると橋本先生には一蹴されましたが、前回の武内さんの投稿のコメントにあった「日本は資本主義の皮をかぶった社会主義国家」というワードは核心をついているように思えました。確かに市場経済において熾烈な競争が存在する日本ですが、生活面においては平等さを求めています。それは政府の政策を見ても明らかでしょう。つまり、資本主義・社会主義の双方の考えを取り入れている状態であると思えます。そして国民生活の平等が叫ばれるように、法人格を有するあらゆる企業は平等であるべきではないでしょうか?これは何も利益を上げるな、というわけではなく、最低限のルールには従うべきであるということです。大きな儲けをあげられるからといって不正が許されてはなりません。監査が民間で行われるために、ルールが破られるなんてことがあってはなりません。公安や警察のような存在が、(あくまでその業務を監視するという意味で)法人格を持つ彼らにも必要ではないかと私は考えます。
さて、今回の東芝の不正会計は、上層部からの圧力が原因のひとつであると言われています。東芝は松下幸之助が発明した事業部制よりも各部門が強力な権力を持つ(まるで各事業部がひとつの会社であるような)カンパニー制を採用しています。社長から各カンパニーに「チャレンジ」といわれる、(所謂無謀な)目標値を告げられ、数字を出すために不正会計に走ったといった流れです。以前オリンパスが同様に不正会計に走った際には、社長命令が強力で戦犯は社長のみであるとされましたが、今回はカンパニー制により組織的な不正会計を行っていたことになります。委員会設置会社でもある東芝がこのような事態に陥ったことで、企業のガバナンス強化の在り方をもう一度考え直す必要がありそうです。
このような不正会計はキャッシュフローで見抜けるというのが一般的な考え方ですが、近年注目を集めている数字が存在します。会計発生高(アクルーアル)と呼ばれるもので、決算上の利益と現金収支(キャッシュフロー)との間のズレのことをいいます。粉飾決済を見向く方法として以外にも、株式投資への応用も模索されています。ところでこの粉飾という言葉ですが、今回の事件、日経新聞は一貫して不適切会計という言い方を貫いていました(最後には粉飾決済と表記しましたが)。橋本先生曰く、日経新聞の粉飾決済という言葉は、刑事告発にまで発展すれば使われると定義されているといいます。マスコミが叩く相手に気を使っているということでこちらについても熱く批判しておられました。

さて、6期生には夏季課題として会計に関する本を読んで感想を書くというものが出されました。先生がピックアップした本の中に、「ザ・ラストバンカー」という本があり、その中で紹介されている会計処理について先生より解説がありました。企業の合併にはプーリングとパーチェスという2種類の会計処理法があります。前者は両社が対等な関係で合併するのに対して、後者は一方が完全に他方を飲み込むという合併方法をとります。IFRSではパーチェスを採用しており、今回の主人公の住友銀行はIFRSを採用していました。両者の関係は圧倒的に住友が大手で、通常住友がわかしおを吸収するという処理になるのですがそれではわかしおを吸収する際に資産の再評価が入り、企業価値が下がった状態で回収することになります。しかしながら、逆転の発想で住友が消滅会社,わかしおが存続会社として会計処理をすれば、住友の資産の含み益が,再評価益として顕在化し,これによって不良債権のかなりの部分を処理することができます。あとは新銀行の商号を住友銀行にすれば体裁的には住友がわかしおを吸収したことになります。会計処理一つで全く状況が変わってくるということに面白さを感じました。

最後に、宮西さんに、教科書第6章「設備投資と研究開発」の後半の発表を途中まで行っていただきました。内容は減価償却の方法とその実務についてです。減価償却とは有形固定資産の取得原価を基礎にして、一定の方法により、用役の消費分を耐用年数に渡って費用化する手続きのことです。償却の方法は2種類あり①資産の耐用年数を基準にする定額法や定率法などの方法②資産の利用度を基準にする生産高比例法などの方法です。通常①が主に採用されますが、航空券などは②が採用されます。
次に①の定額法・定率法の詳細な説明がありました。定額法は資産の耐用年数にわたり毎期一定額を減価償却費として計上する方法で、減価償却費は取得原価を耐用年数で算出します。各期の減価償却費の合計が減価償却累計額となり、取得原価からこの減価償却累計額を引いた値が未償却残高となります。定率法は機首の未償却残高に毎期一定の償却率を掛け、その額を減価償却費として計上する方法で、減価償却費は取得原価と減価償却累計額の差に償却率を掛けたものとなります。償却率は一定倍率を耐用年数で割ったもので、この一定倍率は2011年4月以降、2.0とされています。
初期の年度では多額の減価償却費が算出される定率法を採用して課税所得を削減するが、建物については税法が定額法を損金としているので定率法と定額法を併用する企業が多く存在します。実務において注意すべきは、定額法を使うか定率法を使うかで減価償却費が変わってくるということで、減価償却費が経常利益に与える影響は甚大であるがために、財務諸表の作成者と利用者は十分な注意が必要です。これ以降の内容は次期に繰越となりました。

今回で演習1が終了しました。個人的には毎回のゼミで多くの情報が入ってくるのでメモするので精一杯ですが、少しずつでも自分のものにしていって役立てていきたいと思います。来期もよろしくお願いします。
これで今回の報告を終わります。