有形固定資産の取得原価(2015年7月16日)

第6期生の武内です。7月16日のゼミ内容を報告します。
 初めに北村さんから、先週に引き続き教科書第6章「有形固定資産の取得原価」ついて報告がありました。
有形固定資産の取得原価の決定方法は取得の形態によって異なります。①購入により取得した場合、②自家建設した場合、③株式を発行し、その対価として受け取った場合、④交換により受け入れた場合、⑤贈与などにより無償で取得した場合における決定方法について説明します。①購入により取得した場合は、購入代価に付随費用(引取運賃・買入手数料など)を加算して計算します。②自家建設した場合は、適正な原価計算基準に従って算定された製造原価をもって取得原価とします。建設に要する借入金の利子は、通常、期間費用として扱い算入しません。ただし、取得原価と借入金の対応関係が明確な場合に限り、借入金の利子を取得原価に算入することが認められています。③株式を発行し、その対価として受け取った場合は、出資者に対して交付された株式の発行価額をもって資産の取得原価とします。④交換で受け入れた場合、譲渡資産の簿価と受入資産の時価が一致した場合は問題ありません。しかし、通常は価格変動などにより異なります。その際、受け入れた資産の取得原価を⑴譲渡資産の簿価、⑵譲渡資産の時価、⑶受入資産の時価、で記録することが考えられます。資産の価格が上昇しているときに⑵,⑶を適用すれば交換差益(売却益)を計上することができます。しかし、有形固定資産への資金投下は継続したままなので、計上することは望ましくありません。よって多くの場合、⑴を適用します。法人税法では受入資産を⑶の金額で計上し、交換差益を認識することを求め、そのうえで圧縮記帳をすることを容認しています。
つまり、交換差益と同額だけを受入資産の価額を減額して、その減額分を圧縮損として損金計上します。圧縮記帳すれば、受入資産の貸借対照表価額は⑴の金額と一致します。⑤無償で有形固定資産を取得した場合、支出がないという事実を重視するのか、一定の価値をもつ資産を取得したという事実を重視するのかで金額決定が異なります。一定の価値をもつ資産を取得したという事実を重視する場合、受入資産の時価が取得原価になります。一方、支出がないという事実を重視する場合、その事実が示されず、有形固定資産の取得原価が0になってしまうため経営成績と財政状態が適切に表示されません。そこで、公正な評価額をもって取得原価とします。公正な評価額で記録するとき、貸方科目が問題になります。実務では、交付された国庫補助金を用いて固定資産を取得した場合、受贈益を計上し、圧縮記帳を行い、圧縮損を計上します。
資産除去義務について説明がありました。有形固定資産の除去に関して法令や契約で要求される法律上の義務のことを資産除去義務といいます。原子力発電設備の解体義務や、鉱山の土地、貸借建物の原状回復義務などが典型例です。こうした資産除去義務を伴う固定資産を取得・建設・開発した企業は予想される将来の除去に要する支出額を見積もって、現在割引価値を算定し、これを資産除去債務として固定負債に計上します。認識された資産除去債務の金額は、同時にその資産の取得原価に加算して資産計上します。このような資産の取得原価は、資産除去債務を含めた金額で耐用年数にわたって減価償却し資産除去費用を各期に配分されます。この一連の手続きは企業会計基準第18号「資産除去に関する会計基準」に準拠して、2010年4月以後開始する年度から実施されています。

次に東芝の不正会計について議論しました。
まず,6期生の小林さんから粉飾決算と監査法人」についてのレポートが提示されました。内容は東芝の不適切会計により監査法人の注意義務が疑問視されているというものでした。東芝の不適切会計を大きく工事進行基準に係る会計処理、経費の計上時期における会計処理、在庫評価に係る会計処理、グループ内の部品取引等に係る会計処理の4つに分け監査法人に過失がなかったかを監査基準に照らし合わせつつ考えました。
1つ目の工事進行基準に係る問題は、監査法人が十分かつ適切な監査証拠を入手しなければならないということでした。この問題に関して監査法人が監査証拠を入手できていなければ過失があると判断できるのではないかということでした。
2つ目は経費の計上時期についてです。「基本原則」では経営者が提示する項目に対して監査要点を設定し、監査証拠を入手しなければなりません。期間配分は基本的な監査要点であるため、この不正を見逃すのは監査証拠を入手できていないのではないかということでした。
3つ目は在庫評価に係る会計処理についてです。これは在庫の評価に関して、適切に評価損を計上していない恐れがあるとされています。この会計処理は二つ目の問題と同じように評価の妥当性の項目という基本的な監査要点とされています。
最後はグループ内の部品取引についてです。これは製造委託の際、利益を伴っ て業者に販売し、さらにそれを仕入れていたことが問題になっています。このような取引は循環取引と呼ばれ不正会計の常套手段です。これは「基本原則」項目内の職業的専門家としての懐疑心をもって監査を実施しなければならないという点に反するのではないかということでした。懐疑心を持ったからと言って発見できるものではないだろうが、全く疑うべき点がない財務諸表を提示いていたか疑問です。
以上の4つの点から「基本原則」に則り、懐疑心をもって取り組んだうえで、不正の兆候を判断できなかったとはいえないのではないだろうかということでした。
この事柄について監査法人の独立性が問題になっているのではないかということでした。監査法人にとって企業は大切な顧客である。東芝ほどの大きな顧客に不正を指摘できるだろうか。不正を指摘することで顧客を逃すことを監査法人は恐れているのではないだろうか、ということでした。この問題は監査法人の位置づけの変更が必要である。企業から完全に独立した位置づけであれば不正を指摘できる。具体的には国が監査を行う必要があるのではないかということでした。会計士の倫理観の向上だけではなく会計制度自体の変更が必要であるということでした。
以上が小林さんのレポートの内容です。
これについて先生は、監査人の独立性を指摘した点は的確である。これほど大掛かりな粉飾会計を見逃していたとすれば,監査人の注意義務に問題があるのではないか。また,適正な資料提供を受けていなかったために監査を適切に行うことができなかった、だから仕方ないというのであれば子供のような言い訳にしか映らず、少なくとも10億円を超える監査報酬をもらう能力はなかったと世間では受け取られるであろう。新日本監査法人はオリンパスに引き続き2回目の不祥事をどう考えておられるのだろうかと,問題提起をされた。
また、小林レポートでは国が直接監査を行う可能性に言及しているが、これに対して先生からは、資本主義国において民間企業に対して直接そのような行為を行うことは、自己否定ではないか。アメリカは自由な国と思われているが、信賞必罰の国でもある。むしろ会計に関しては規制は厳しいのではないか。むしろこちらを見習うべきかもしれない。
さらに、最近のトヨタの新型株式の発行についてはいろいろな問題(特にガバナンス面について)が指摘されてはいるが、新聞はじめ世間の見方は「トヨタほどの会社なら大丈夫だろうが」と大甘である。同じく日本を代表する会社と見られてきた東芝でこのような事件が起こっていることを考えれば、巨大な企業であれ零細企業であれ、製造業であれサービス業であれ、また歴史があろうがなかろうが、株式会社においては、経営者と利害関係者の関係は、つねに緊張感を持って臨まねばならないことは、すでにアダム・スミスが200年以上前に指摘していることである。マスコミも含めたわれわれにも、間接的ながらこれらの件に対して責任があるのではないかと指摘された。
 今回の報告は以上です。ありがとうございました。