4期生石田君による東芝の粉飾決算に関するコラム(2015年7月8日)

コラム:東芝の粉飾決算の情報整理と考察

この事件は、当初「工事進行基準」の解釈における会計上の問題であるとされていましたが、7月4日付けの日本経済新聞で東芝の粉飾決算の額が1500億円を超えるという内容の報道がなされるなど、現在では全事業における会計処理の不正問題に発展しています。
そこで各事業において、どのような不正な会計処理が行われていたのかを整理すると同時に、どのような動機が不正な会計処理に繋がったのかを考察してみたいと思います。

現段階ではテレビ、パソコン、インフラ、半導体の4つの事業について、会計処理の不正が明らかにされているので、それについて見ていきたいと思います。
source:http://www.toshiba.co.jp/about/ir/jp/news/20150625_1.pdf

①テレビ事業
・販売促進費及び広告宣伝費の未計上
・ベンダー(売り手)に今期の仕入価格を値引きさせ、値引き金額を翌期の仕入価格に増加させる契約を行う

→テレビ事業では上記の2つの不正な会計処理が行われていたようで、今期に発生した費用を翌期以降の費用とする、「費用の先送り」で典型的な粉飾の手法が用いられたようです。

②パソコン事業
・製造委託先への部品販売による売上と利益の計上

→パソコン事業では製造委託先へ部品販売を行った際に売上と利益を計上していたようです。
これは二重売上の計上になるので、現在判明している中では最も悪質な会計処理であると考えられます。
というのも製造委託先への部品販売による売上を認めれば、当該事業の売上高は「パソコン販売による売上+部品販売による売上」の二重売上になり、経済実態を適切に表すことが出来ないためです。
そのため、架空の売上を計上する手法は「循環取引」と呼ばれ基本的に禁止されていますし、製造委託先への有償での部品販売は基本的に禁止されています。
また、利益についても部品の仕入値よりも高い値段で製造委託先へ売却を行っているため、期末にこれらの取引を行えば未実現利益の計上にもなります。

③インフラ事業
・工事原価総額の過小計上

→インフラ事業では、今回の事件が明るみに出た工事進行基準の悪用が行われていたようです。
工事進行基準では、着工前に工事収益総額と工事原価総額を信頼性をもって見積もり、着工後は状況に応じて工事原価総額を修正し、場合によって引当金を計上しなければなりません。
しかしながら、今回の事件では最終的な工事原価総額に実現可能性の低いコスト削減策が含まれており、不適切な工事原価総額であったとされています。
そのため、利益の過剰計上が行われています、当初はこの工事原価総額の問題のみが焦点であったため、会計上の解釈の問題であるとされていたわけです。

④半導体事業
・原価差異修正を行わずに売上原価、棚卸資産に配布
・棚卸資産の商品評価損の未計上

→半導体事業では、実際原価と標準原価の差異を修正せずに配布し、一部の棚卸資産について適切な商品評価損の計上を行っていなかったようで、棚卸資産の増加による利益計上という、これまた典型的な粉飾の手法を用いていたようです。


以上4つの事業における不正な会計処理を見てきましたが、共通しているのは単純かつ典型的な粉飾の手法を用いているという点です。
これらは単純な経理ミスなどではなく、組織的に「意図」して行われていたものであると考えるべきです。
また、これらの単純かつ典型的な粉飾決算を見抜けなかった監査法人の存在と責任にも大きな疑念が残ります。


次にこの粉飾決算を行うに至った動機ですが、予算達成の圧力があったと報道で伝えられています。
(東芝、経営陣が「予算達成」圧力 不適切会計の背景に:http://www.nikkei.com/article/DGXLZO88921900V00C15A7TJC000/

福島原発事故後に経営資源を集中させていた原発を中心としたインフラ事業が不振に陥り、予算達成の圧力が強まり、粉飾を行ったという流れのようです。
しかしながら、粉飾を行うほどの圧力の源泉がきちんと解明されていません、この点は第三者委員会の報告待ちですが、推測を行ってみたいと思います。

東芝が経営資源を集中させていたインフラ事業ですが、経営資源を集中させる過程でウェスティングハウスやランディス・ギアをM&Aしており、その際に多額の「のれん」が計上されています。
現在の東芝の連結貸借対照表には約1.1兆円の「のれん」が計上されています。(2014年度 第3四半期報告書:http://www.toshiba.co.jp/…/…/sr/ssr2014/q3/tssr2014q3_05.pdf
そして東芝の純資産は約1.9兆円なので、純資産の約57%が「のれん」で占められていることになります。
東芝は米国会計基準に基いて財務諸表を作成していますので、仮に減損テストを行った結果、「のれん」の一括減損などの事態になれば、純資産は半減することになります。
また「のれん」の減損を行えば、「繰延税金資産」の取り崩しなどの連鎖的な会計処理も発生することが考えられます。
東芝の現在の「繰延税金資産」は約2400億円ほどですので、「のれん」と合計すると約1.39兆円ほどになります。そして純資産の約73%が「のれん」と「繰延税金資産」で占められることになります。
このため、東芝の経営陣はインフラ事業の不振による「のれん」の減損を恐れて、予算達成の圧力を強めたのではないかと推測を行いました。
これは、原発専業の同業他社である仏アレバが4期連続で最終赤字に陥っているという事からも可能性が高いと考えられます。
(4期連続最終赤字のアレバ、仏政府が救済へ 原発専業岐路:http://www.nikkei.com/article/DGXLZO86436700V00C15A5FFB000/
また、他の事業に関しても純資産の大半が換金性の無い資産で構成されている事実から、業績不振による連鎖的な減損を避けたかったのではないかと考えられます。
仮に第三者委員会の調査の結果、この減損問題に触れるとなると、かなり大きな問題に発展していく可能性があります。

最後に、粉飾決算を見抜くにはキャッシュフローを見るのが定石だと言われていますが、今回の東芝にも、その兆候が見られます。
最終黒字が出ている割には過去5年間のキャッシュフローは悪化し続けており、現金同等物も減り続けています。
これはキャッシュにならない固定資産や棚卸資産がどこかで増え続けているということですので違和感を感じます。

追記(7/8):本日の日本経済新聞の報道で東芝の粉飾決算の額が2000億円に拡大している事と取引銀行に対し5000~6000億円規模の融資枠の設定を打診した事が明らかになりました。
キャッシュフローの悪さと現金同等物の少なさに違和感を感じていましたが、やはり現金が回っておらず、現金が不足しているようです。
( 東芝、主力行に融資枠打診 信用低下に備え 不適切会計で5000~6000億円:http://www.nikkei.com/article/DGXLASGC08H0E_Y5A700C1MM0000/

追記(7/9):本日の日本経済新聞の報道で損失計上の先送りを「意図的」に行った証拠を第三者委員会が把握した事が明らかにされました。
(東芝、損失計上を意図的に先送り 第三者委が把握:http://www.nikkei.com/article/DGXLASGD06H36_Y5A700C1MM8000/

加えて昨日の報道にあった融資枠の設定に向けて、子会社のウェスティングハウスの株式を一部売却するという内容の報道もなされました。
(東芝、米原発WH株の一部売却検討 過半は維持:http://www.nikkei.com/article/DGXLASDZ08IJ1_Y5A700C1MM8000/
子会社株式を売却するということは収益力の低下を意味しますので、買収の際に発生している、「のれん」に対し減損損失が発生する可能性が高いと考えられます。


次回は財務諸表監査の必要性とモラルハザードについて書こうと思います。

(4期生 石田裕明)