受刑者選挙権制限事件 | ||||
控訴審判決 | ||||
選挙権剥奪違法確認等請求控訴事件 大阪高等裁判所 平成25年(行コ)第45号 平成25年9月27日 第1民事部 判決 口頭弁論終結日 平成25年6月5日 控訴人(原告) A 同訴訟代理人弁護士 熊野勝之 後藤貞人 在間秀和 武村二三夫 大川一夫 陳愛 中川拓 被控訴人(被告) 国 同代表者法務大臣 谷垣禎一 ■ 主 文 ■ 事 実 及び 理 由 1 本件控訴を棄却する。 2 控訴費用は控訴人の負担とする。 1 原判決を取り消す。 2 公職選挙法(昭和25年法律第100号)は,禁錮以上の刑に処せられその執行を終わるまでの者に選挙権及び被選挙権の行使を認めていない点において違憲であることを確認する。 3 控訴人が次回の衆議院議員の総選挙において投票することができる地位にあることを確認する。 4 被控訴人は,控訴人に対し,100万円及びこれに対する平成22年7月12日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 [1]1 本件は,控訴人が,公職選挙法11条1項2号が禁錮以上の刑に処せられその執行を終わるまでの者(以下「受刑者」という。)に選挙権及び被選挙権の行使を認めていない点において違憲であることの確認及び控訴人が次回の衆議院議員の総選挙において投票することができる地位にあることの確認を求めるとともに,控訴人は違憲の公職選挙法により平成22年7月11日に実施された参議院選挙において選挙権の行使を否定され,精神的損害を受けたとして,国家賠償法1条1項に基づき,慰謝料100万円及びこれに対する上記投票日の翌日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を請求する事案である。 [2] 原審は,公職選挙法の違憲確認及び選挙権の確認請求については訴えを却下し,国家賠償請求については請求を棄却した。 [3] 控訴人は,この判断を不服として控訴した。 [4](1) 控訴人は,大阪市α区の選挙人名簿に登録されている者である(甲1)。 [5](2) 公職選挙法11条1項2号は,受刑者は選挙権及び被選挙権を有しないと定めている。 [6](3) 控訴人は,平成22年7月11日当時,傷害事件,威力業務妨害事件,道路交通法違反・大阪府条例違反事件について懲役刑に処せられて刑務所で服役中であったことから,同日実施された参議院議員通常選挙において,公職選挙法11条1項2号に該当するとして選挙権を有しないものとされた(甲1,13)。 [7](4) 控訴人は,平成22年11月25日,仮釈放により刑務所を出所し,平成23年1月29日,上記(3)の懲役刑の執行を受け終わった(弁論の全趣旨)。 [8]3 争点及び争点に関する当事者の主張については,4のとおり補正し,5のとおり控訴人の当審主張を付加するほか,原判決「事実及び理由」中,第3及び第4のとおりであるから,これを引用する。 [9](1) 原判決4頁11~12行目を以下のとおり改める。 「3 争点③(公職選挙法11条1項2号が受刑者の選挙権を制限していることの合憲性並びに同号の立法行為及び廃止立法不作為の国家賠償法上の違法性)について」[10](2) 原判決4頁14行目「(1)」の後に以下のとおり加える。 「憲法は,前文において,日本国民は正当に選挙された国会における代表者を通じて行動すること,国政は国民の厳粛な信託によるものであって,その権威は国民に由来し,その権力は国民の代表者がこれを行使し,その福利は国民がこれを享受すると定めている。これは,統治の影響を受けるすべての被統治者は,統治者を選ぶ権利を持っていなければならないということを意味する。憲法前文にいう「正当に選挙された国会における代表者」とは,すべての国民により選挙された代表者でなければならず,一部の国民を除外して選挙された代表者は,正当に選挙された代表者とはいえない。[11](1) 国民の選挙権の制限に関する憲法適合性の判断については,平成17年最判の示した厳格な基準によるべきであるが,この基準によった場合,そのような制限をすることがやむを得ないと認められる事由がない限り,選挙権の制限は憲法に違反することとなる。そして,受刑者の選挙権を制限することについては,以下のとおり,やむを得ないと認められる事由がない。 ア 情報入手の制限について [12] 刑事収容施設及び被収容者の処遇に関する法律(以下「刑事施設法」という。)は,被収容者の情報入手を手厚く保護している。 [13] すなわち,同法69条は,自弁の書籍の閲覧は原則として制限されないこととし,72条1項は,刑事施設の長に対し,日刊新聞紙の備付け,報道番組の放送その他の方法により,できる限り,被収容者に主要な時事の報道に接する機会を与えるよう努めなければならないとしている。また,39条2項は,刑事施設の長に対し,被収容者の知的・教育的活動に援助を与えることを定め,72条2項本文は,その援助の措置として刑事施設に書籍を備付けるものとする旨定めている。これらの規定によれば,受刑者に対し,選挙に関する情報を提供することは可能であり,公職選挙法167条による選挙公報及び政見放送を受刑者に送付,視聴させることが困難であるとは考え難い。そうすると,受刑者が選挙権行使のために必要とする情報を取得することが困難であるということはできず,このことを選挙権制限の根拠とすることはできない。 イ 短期受刑者の存在 [14] 控訴人の刑は懲役2か月で,執行猶予取消分と併せても収容期間はわずか8か月である。このように短期間受刑する者については,その期間社会から隔離されることが選挙権行使について必要な情報の不足をもたらすとは考え難い。この意味からも,受刑者の情報不足を選挙権制限の根拠とすることは相当ではない。 ウ 未決収容者との対比 [15] 未決収容者は,刑事施設に収容された場合,刑事施設法に基づき,受刑者と同様に被収容者としての処遇を受ける。未決収容者が留置場に収容された場合もほぼ同様である。未決収容者はこのように受刑者と同様の処遇を受ける一方,選挙については,公職選挙法49条1項,同法施行令50条に基づき,不在者投票を行うことが認められている。そうすると,刑事施設に収容中であるということをもって,選挙権制限の根拠とすることは困難である。 [16](2) 仮に,被控訴人が主張するように合理性の基準によって憲法適合性が判断されるべきであるとしても,公職選挙法による選挙権の制限には以下のとおり合理性がなく,違憲である。 [17] 公職選挙法252条は,選挙の公正を害する犯罪を犯した場合の選挙権の停止について,一定の犯罪については,裁判所は選挙権の停止をせず,又はその期間を短縮することができる旨を定めている。 [18] これに対し,公職選挙法11条1項2号は,犯罪の種類,刑期の長さ等に関わらず,受刑者の選挙権を一律に否定しており,刑を言い渡す裁判所が選挙権の剥奪の可否及び期間について一切考慮することができない構造となっている。このように,きわめて広汎かつ過酷で,裁判所の選択及び判断を許さず,機械的・画一的に選挙権を剥奪する内容の規定は,合理的制限の範囲を逸脱している。 [19] 当裁判所も,控訴人の訴えのうち,公職選挙法の違憲確認を求める部分と控訴人が次回衆議院議員の総選挙において投票することのできる地位にあることの確認を求める部分は不適法であり,却下すべきであると判断する。その理由は,原判決10頁12行目~11頁4行目のとおりであるから,これを引用する。 [20](1) 控訴人は,公職選挙法が受刑者に対して選挙権及び被選挙権の行使を認めていない点において違憲であることを確認する旨の判決を求めているが,被選挙権の行使を認めない点が違憲であることについてはこれを根拠付ける具体的な主張をしない。また,被選挙権は,公職に就任するための資格であるという性質それ自体においても,選挙活動を行う必要がある点においても,刑事施設に収容中の者が行使することは困難であるから,公職選挙法が受刑者に対して被選挙権の行使を制限していることについてはやむを得ない理由があるというべきであり,違憲であるとは認め難い。したがって,以下,公職選挙法が受刑者の選挙権を制限していることの合憲性について検討する。 [21](2) 国民の代表者である議員を選挙によって選定する国民の権利は,国民の国政への参加の機会を保障する基本的権利として,議会制民主主義の根幹を成すものであり,民主国家においては,一定の年齢に達した国民のすべてに平等に与えられるべきものである。 [22] 憲法は,前文及び1条において,主権が国民に存することを宣言し,国民は正当に選挙された国会における代表者を通じて行動すると定めるとともに,43条1項において,国会の両議院は全国民を代表する選挙された議員でこれを組織すると定め,15条1項において,公務員を選定し,及びこれを罷免することは,国民固有の権利であると定めて,国民に対し,主権者として,両議院の議員の選挙において投票をすることによって国の政治に参加することができる権利を保障している。そして,憲法は,同条3項において,公務員の選挙については,成年者による普通選挙を保障すると定め,さらに,44条ただし書において,両議院の議員の選挙人の資格については,人種,信条,性別,社会的身分,門地,教育,財産又は収入によって差別してはならないと定めている。以上によれば,憲法は,国民主権の原理に基づき,両議院の議員の選挙において投票をすることによって国の政治に参加することができる権利を国民に対して固有の権利として保障しており,その趣旨を確たるものとするため,国民に対して投票をする機会を平等に保障しているものと解するのが相当である。 [23] 憲法の以上の趣旨にかんがみれば,自ら選挙の公正を害する行為をした者等の選挙権について一定の制限をすることは別として,国民の選挙権又はその行使を制限することは原則として許されず,国民の選挙権又はその行使を制限するためには,そのような制限をすることがやむを得ないと認められる事由がなければならないというべきである。そして,そのような制限をすることなしには選挙の公正を確保しつつ選挙権の行使を認めることが事実上不能ないし著しく困難であると認められる場合でない限り,上記のやむを得ない事由があるとはいえず,このような事由なしに国民の選挙権の行使を制限することは,憲法15条1項及び3項,43条1項並びに44条ただし書に違反するといわざるを得ない(平成17年最判)。 [24](3) 平成17年最判の内容は上記(2)のとおりであって,自ら選挙の公正を害する行為をした者,すなわち,選挙違反の罪を犯した者に限って一定の範囲で選挙権の制限を認めるほかは,①選挙権それ自体を制限する場合及び②選挙権の行使を制限する場合の双方について,いずれも「やむを得ない事由」の存在を要求する趣旨と解すべきである。 [25] 被控訴人は,平成17年最判は本件と事案を異にすると主張するが,平成17年最判が受刑者全てについてではなく,選挙違反の罪を犯した者に限って選挙権制限に関する例外としていること,選挙権の制限と選挙権行使の制限を同列に論じていることからすれば,本件においても,平成17年最判の基準に基づき選挙権制限の合憲性を判断すべきである。 [26](4) そこで,受刑者の選挙権を制限することについて,やむを得ない事由が存するといえるかについて判断する。 ア 受刑者は著しく遵法精神に欠け,公正な選挙権の行使を期待できないとの点について [27] 受刑者の中には,過失犯により受刑するに至った者も含まれ,その刑の根拠となった犯罪行為の内容もさまざまで,選挙権の行使とは無関係な犯罪が大多数であると考えられる。そうすると,単に受刑者であるということのみから,直ちにその者が著しく遵法精神に欠け,公正な選挙権の行使を期待できないとすることはできない。したがって,受刑者の資格・適性を根拠として選挙権を制限すべきとする被控訴人の主張は採用できない。 イ 受刑者を拘禁する必要性及びその性質に照らし選挙権の制限はやむを得ないとする点について (ア) 刑事施設収容中であることに伴う事務的支障について [28] 日本国憲法の改正手続に関する法律(平成19年5月18日法律第51号)は,憲法改正に関する国民投票について,3条で「日本国民で年齢満18年以上の者」に投票権を認めており,受刑者であることは欠格事由としていない。そうすると,受刑者は,憲法改正の国民投票の際には収容中の刑事施設内において投票権を行使できることとなる。 [29] また,公職選挙法48条の2第1項3号は,選挙の当日に刑事施設,労役場,留置場,少年院若しくは婦人補導院(以下「刑事施設等」という。)に収容されていると見込まれる投票人について期日前投票を行わせることができると定め,公職選挙法施行令50条は,上記不在者投票の方法に関する規定である同法49条1項の制度を利用して刑事施設等において投票をする場合の投票用紙及び投票用封筒の交付の請求方法等について具体的に定めている。これは,未決収容中の者については公職選挙法11条1項2号の適用がないことから,これらの被収容者の刑事施設等における選挙権行使の方法について規定したものであると解されるが,そうすると,現に刑事施設等に収容されている者であっても,不在者投票と同様の方法によって選挙権を行使することは可能であるということになる。 [30] 受刑者の収容期間には無期懲役から禁錮15日までさまざまなケースがあり得るのであり,さらに,未決勾留日数の算入状況によっては非常に短期となる場合もありうる。これに対し,未決収容中の者には1年以上収容される者もいることからすれば,未決収容者よりも受刑者の収容期間が長いとすることはできず,選挙権の行使をさせる上での技術的問題について未決収容者と受刑者の間に有意な差があるとは認め難い。 [31] 以上のとおり,未決収容者が現に不在者投票を行っており,また,憲法改正の国民投票については受刑者にも投票権があるとされていることからすれば,受刑者について不在者投票等の方法により選挙権を行使させることが技術的に困難であるということはできず,この点が選挙権を制限すべきやむを得ない事由に該当するということはできない。 (イ) 受刑者であることそれ自体が選挙権を制限すべき事由に該当するとの点について [32] 受刑者を刑事施設に収容するのは,犯した罪に対する応報として自由を剥奪するとの趣旨と,矯正処遇により改善更生を促し,再犯を防止するという目的に基づくものと考えられる。しかしながら,犯罪を犯して実刑に処せられたということにより,一律に公民権をも剥奪されなければならないとする合理的根拠はなく,平成17年最判が選挙権制限の例外を選挙犯罪の場合に限定した趣旨に照らしても,受刑者であることそれ自体により選挙権を制限することは許されないというべきである。 ウ 情報取得の困難性について [33](ア) 刑事施設法は,以下のとおり,受刑者が新聞,番組の視聴等の方法で候補者の情報を取得することを禁止していない。 [34] すなわち,同法69条は,自弁の書籍の閲覧は,刑事施設の規律・秩序を害するおそれがあるとき,強制処遇の適切な実施に支障を生ずるおそれがあるとき,罰則によるとき等以外は禁止し,制限してはならないと定め,72条1項は,刑事施設の長は,被収容者に対し,日刊新聞紙の備付け,報道番組の放送その他の方法により,できる限り,主要な時事の報道に接する機会を与えるよう努めなければならないと定めている。選挙公報及び政見放送は,上記規定にかんがみ,いずれもその閲覧や視聴を許されるべき対象に該当するし,72条1項の趣旨からすれば,刑事施設の長は,できる限り選挙に関する情報を受刑者に与えるよう努めるべきであると解される。そうすると,受刑者が選挙権行使に必要な情報を収集することが刑事施設法により一般的に制限されているということはできない。 [35](イ) 平成17年最判は,かつては在外国民に対して投票日前に選挙公報を届け,候補者個人に関する情報を適正に伝達するのが困難であるという状況が存したことを前提としつつ,通信手段が地球規模で目覚ましい発達を遂げていることなどによれば,在外国民に候補者個人に関する情報を適正に伝達することが著しく困難であるとはいえなくなったとして,在外国民に選挙権の行使を認めないことについてやむを得ない事由があるということはできないとしている。 [36] 受刑者に選挙公報を届けることは,在外国民に対する場合と比較して容易であるから,この点にかんがみても,受刑者が外部の情報取得について一定の制約を受けていることを選挙権制限の根拠とすることはできないというべきである。 [37](ウ) 仮釈放中の受刑者は,刑事施設に収容されておらず,情報取得については一般の国民と同様の立場にあるから,情報取得の困難性を理由として一律に受刑者の選挙権を制限することは,少なくとも仮釈放中の受刑者についてはその前提を欠き,根拠がない。 エ まとめ [38] 以上のとおり,公職選挙法11条1項2号が受刑者の選挙権を一律に制限していることについてやむを得ない事由があるということはできず,同号は,憲法15条1項及び3項,43条1項並びに44条ただし書に違反するものといわざるを得ない。 [39](1) 国家賠償法1条1項は,国又は公共団体の公権力の行使に当たる公務員が個別の国民に対して負担する職務上の法的義務に違背して当該国民に損害を加えたときに,国又は公共団体がこれを賠償する責任を負うことを規定するものである。したがって,国会議員の立法行為又は立法不作為が同項の適用上違法となるかどうかは,国会議員の立法過程における行動が個別の国民に対して負う職務上の法的義務に違背したかどうかの問題であって,当該立法の内容又は立法不作為の違憲性の問題とは区別されるべきであり,仮に当該立法の内容又は立法不作為が憲法の規定に違反するものであるとしても,そのゆえに国会議員の立法行為又は立法不作為が直ちに違法の評価を受けるものではない。しかしながら,立法の内容又は立法不作為が国民に憲法上保障されている権利を違法に侵害するものであることが明白な場合や,国民に憲法上保障されている権利行使の機会を確保するために所要の立法措置を執ることが必要不可欠であり,それが明白であるにもかかわらず,国会が正当な理由なく長期にわたってこれを怠る場合などには,例外的に,国会議員の立法行為又は立法不作為は,国家賠償法1条1項の規定の適用上,違法の評価を受けるものというべきである(平成17年最判)。 [40](2) そこで,まず,立法行為の違法性について検討する。 [41] 証拠(乙2,4,6,7)によれば,昭和39年当時の代表的な憲法の基本書には,選挙権の行使が公務としての性質を有することを根拠として,公務執行能力のない受刑者を選挙人団から除外することは憲法の要請に応えたものであるとの論述がされており(乙2),その後の憲法に関する著名な基本書や解説書にも,同様に,選挙権の行使が公的行為であることから,受刑者の選挙権を制限することには合理性があり,憲法上の平等選挙の原則には違反しないとするもの(乙4,6,7)が存することが認められる。 [42] そうすると,公職選挙法11条1項2号が立法された昭和25年当時,受刑者であることを選挙権の欠格事由とすることが国民に憲法上保障されている権利を違法に侵害するものであることが明白であったとまでは認め難い。 [43](3) 次に,廃止立法不作為の違法性について検討する。 [44] 控訴人は,①監獄法改正(平成17年)による受刑者の位置付けの変化,②日本国憲法の改正手続に関する法律(平成19年)が受刑者であることを欠格事由としていないこと,③世界的に受刑者に選挙権を認める流れが生じてきたことを根拠として,公職選挙法11条1項2号による受刑者の選挙権制限規定を廃止しないことは国家賠償法上違法であると主張する。 [45] しかしながら,控訴人が選挙権の行使を制限された平成22年7月1日実施の選挙までの間に,受刑者の選挙権を制限することが違憲であるとの見解が我が国の憲法学説上の通説ないし多数説の位置を占めるに至っていたことを認めるに足りる証拠はなく,控訴人主張の上記①~③の事情は,これらを全て総合しても,廃止立法不作為の違法性を根拠づけるものとはいえない。 [46] また,立法不作為の違法性については,世論の状況,国会における議論の状況及び法案の提出状況等も重要な要素となるところ,証拠(乙1)によれば,受刑者の選挙権の制限の問題について,平成11年11月16日の参議院法務委員会において,民法改正に関連して成年後見制度に関する質疑がされた際,成年被後見人の選挙権の制限についての質問に付随して,野党議員1名から,受刑者の選挙権行使についても検討してほしいとの意見が述べられたことを認めうるものの,平成22年7月11日までの間に,その他に受刑者の欠格事由の廃止に関する法案が提出されたり,この問題が独立して国会等で議論されたり,受刑者に選挙権を与えるべきであるとの世論が活発になっていたことを認めるに足りる証拠はない。 [47] 以上の事実及び前記(2)の学説の状況にも照らせば,平成22年7月11日当時,公職選挙法11条1項2号による受刑者の選挙権制限規定を廃止すべきことが明白な状況であったとは認め難いし,同時点において,国会が正当な理由なく長期にわたってこれを怠っている状態にあったと評価することもできないから,国家賠償法上,その廃止立法不作為が違法であるということはできない。 [48] よって,控訴人の訴えのうち,公職選挙法の違憲確認を求める部分と控訴人が次回衆議院議員の総選挙において投票することのできる地位にあることの確認を求める部分はいずれも不適法であるからこれを却下し,国家賠償請求については理由がないからこれを棄却すべきところ,これと同旨の原判決は結論において相当であるから,本件控訴を棄却することとし,主文のとおり判決する。 裁判長裁判官 小島浩 裁判官 大西嘉彦 裁判官 橋本都月 |
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