同性婚訴訟(福岡)
控訴審判決

「結婚の自由をすべての人に」請求控訴事件
福岡高等裁判所 令和5年(ネ)第584号
令和5年12月13日 第5民事部 判決

口頭弁論終結日 令和6年9月2日

■ 主 文
■ 事 実 及び 理 由


1 本件各控訴をいずれも棄却する。
2 控訴費用は控訴人らの負担とする。

1 原判決を取り消す。
2 被控訴人は、控訴人1及び控訴人2に対し、各100万円及びこれに対する令和元年10月9日から各支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
3 被控訴人は、控訴人3、控訴人4、控訴人5及び控訴人6に対し、各100万円及びこれに対する令和3年3月8日から各支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
4 訴訟費用は、第1、2審とも、被控訴人の負担とする。
5 仮執行宣言
[1] 本件は、同性の者との婚姻届を提出したが受理されなかった控訴人らが、被控訴人に対し、婚姻に関する民法及び戸籍法の諸規定(本件諸規定)が、異性間の婚姻(以下「異性婚」という。)のみを認め、同性同士の婚姻(以下「同性婚」という。)を認めていないことは、憲法13条、14条及び24条に違反していることが明白であるにもかかわらず、国会は正当な理由なく長期にわたってその改廃等の立法措置を怠っており(以下「本件立法不作為」という。)、これにより精神的苦痛を被ったと主張して、国家賠償法1条1項に基づき、慰謝料各100万円及びこれに対する各訴状送達の日(控訴人1及び2につき令和元年10月9日、控訴人3ないし6につき令和3年3月8日)から各支払済みまで平成29年法律第44号による改正前の民法所定の年5分の割合による遅延損害金の各支払を求める事案である。
[2] 原審が控訴人らの請求をいずれも棄却したため、控訴人らがこれを不服として、本件各控訴を提起した。

[3] 前提事実、争点及び争点に対する当事者の主張の要旨は、原判決3頁6行目の「民法は」を「民法740条は」と、同行目の「民法731条~」を「民法731条、732条、734条~」と、52頁22、23行目の「本件諸規定を改廃しないことが、国家賠償法1条1項の適用上違法であるか。」を「本件立法不作為が国家賠償法1条1項の各要件を充足するか。」と改めるほかは、原判決の「事実及び理由」欄の「第2 事案の概要」の1、2に記載のとおりであるから、これを引用する。
[4] 当裁判所も、控訴人らの請求はいずれも理由がないものと判断する。
[5] その理由は、次のとおりである。
[6] 次のとおり補正するほかは、原判決の「事実及び理由」欄の「第3 当裁判所の判断」の1に記載のとおりであるから、これを引用する。

[7](1) 原判決3頁21、22行目の「本件諸規定を改廃しないことが、国家賠償法1条1項の適用上違法であるか。」を「本件立法不作為が国家賠償法1条1項の各要件を充足するか。」と改める。

[8](2) 原判決4頁16行目の「78」を「77」と改める。

[9](3) 原判決5頁12行目の「1992年(平成4年)」を「1990年(平成2年)」と改める。

[10](4) 原判決7頁11行目の「サクラメント」の後に「(神の恩寵の伝達行為)」を加え、8頁22行目の「、553」を削除する。

[11](5) 原判決11頁26行目の「559」の後に「、756~758、1013、1014、1025、1207の1・2」を加え、12頁22行目の「及びキューバ」を「、キューバ及びメキシコ」と改め、同行目末尾を改行し、次のとおり加える。
「2023年(令和 5年) アンドラ公国、ネパール及びエストニア(ただし、法施行日は令和6年1月)
2024年(令和 6年) ギリシヤ及びリヒテンシュタイン(ただし、法施行日は令和7年7月1日)」
[12](6) 原判決13頁4行目の「及び」の前に「、エクアドル(令和元年)」を加え、5行目から6行目の「11、12、14」を「10~13」と改める。

[13](7) 原判決13頁6行目末尾を改行し、、次のとおり加える。
「 なお、カナダでは、令和5年9月、我が国の女性同士のカップルにつき難民認定がされたところ、難民認定決定通知書の判断理由には、「法律上の家族と認識されず、異性婚夫婦と同じ利益を受けられない。」、「差別が日本全体にあり、別の地域に移っても逃れられない。」などと記載されている。(甲A1209)」
[14](8) 原判決13頁22行目の「ヨーロッパ人権裁判所は、」の後に「2015年(平成27年)、イタリア政府が」を加える。

[15](9) 原判決14頁5行目末尾に「なお、韓国の最高裁判所は、2024年(令和6年)7月18日、同性カップルのパートナーを国民健康保険の被扶養者として認めないのは性的指向を理由にした差別に当たる旨判示した。(甲A1208)」を加え、12行目の「人権」を削除する。

[16](10) 原判決15頁2行目末尾を改行し、次のとおり加える。
「 また、国際連合人権理事会は、令和5年6月、性的少数者の家庭を支持する声明を発表した。(甲A1026)」
[17](11) 原判決15頁18行目末尾を改行し、次のとおり加える。
 パートナーシップ制度の導入」
[18](12) 原判決16頁8行目の「である(」を「であったが、令和6年7月22日時点では、同累計数は459、同人ロカバー率は85.186%となった(甲A1215~1218、」と改める。

[19](13) 原判決16頁8行目末尾を改行し、次のとおり加える。
 住民票の続柄の記載
[20] 長崎県大村市は、男性同士のカップルの希望を受け、令和6年5月2日、同人ら世帯の住民票上、世帯主の男性と同居するパートナーの続柄欄に「夫(未届)」と記載した。(甲A1220)
[21] また、鳥取県倉吉市、岩手県大船渡市、栃木県鹿沼市、神奈川県横須賀市、香川県三豊市及び栃木市も、パートナーシップ制度を利用することにより、住民票同一世帯のパートナーは、希望すれば、住民票の続柄を「妻(未届)」又は「夫(未届)」とすることができるとしている。(甲A1221~1226、弁論の全趣旨)
[22] さらに、東京都杉並区、東京都世田谷区、京都府与謝野町、福岡県古賀市においても実施が検討されている。(甲A1227~1230)
 国に対する要請」
[23](14) 原判決17頁2行目の「上記」を「平成27年」と改め、4行目の「概要上記のものから変わっていない」を次のとおり改める。
[24]、令和4年10月5日頃まで上記答弁と概ね同様であったが、当時の内閣総理大臣は、令和5年2月1日、同性婚につき、『全ての国民にとっても、家族観や、価値観や、そして社会が変わってしまう、こうした課題であります。』と答弁し、同月8日、上記答弁に関し、『国民各層の意見、国会における議論、あるいは同性婚に関する訴訟の動向、また地方自治体におけるパートナーシップ制度の導入、こうした運用の状況を注視していく必要がある、こうした慎重な検討が必要である、議論が必要である、こういった意味で申し上げた』と答弁した。
[25] また、野党は、同年3月6日及び同月29日、同様の法律案を衆議院及び参議院に提出した。野党議員が、参議院予算委員会及び衆議院法務委員会においての議論を求めたが、当時の内閣総理大臣及び法務大臣は、国会で議論すべき課題であるなどと答弁し、上記各法案が上記各委員会で審査されることはなく、国会における審議はされていない。そして、当時の内閣総理大臣は、同年10月24日以降、同性婚制度の導入については、国民一人一人の家族観とも密接にかかわるものであり、国民各層の意見、国会における議論の状況、同性婚に関する訴訟の状況、そして地方自治体におけるパートナーシップ制度の導入状況等を注視していく必要があるなどと答弁している。」
[26](15) 原判決17頁6行目の「653」の後に「、771、773、780、781、784、785、1065、1066、1075、弁論の全趣旨」を加え、同行目末尾を改行し、次のとおり加える。
「 他方、令和5年6月16日、性的指向及びジェンダーアイデンティティの多様性に関する国民の理解の増進に関する施策は、全ての国民が、その性的指向又はジェンダーアイデンティティにかかわらず、等しく基本的人権を享有するかけがえのない個人として尊重されるものであるとの理念にのっとり、性的指向及びジェンダーアイデンティティを理由とする不当な差別はあってはならないものであるとの認識の下に、相互に人格と個性を尊重し合いながら共生する社会の実現に資することを旨として行われなければならないことを基本理念とする、性的指向及びジェンダーアイデンティティの多様性に関する国民の理解の増進に関する法律が制定され、同月23日、公布、施行された。」
[27](16) 原判決20頁9行目末尾を改行し、次のとおり加える。
[28] 国立社会保障・人口問題研究所が行った全国家庭動向調査(有効回収票8910票)では、同性婚を法律で認めるべきに賛成(「どちらかといえば賛成」を含む。)が75.6%であった。(甲A755)
(ク) 令和5年
[29] NHKが、全国の18歳以上の者に対して行った世論調査(回答者1229名)では、同性婚に賛成が54%、反対が29%であった。(甲A744)
[30] 共同通信社が行った全国世論調査では、同性婚を認める方がよいが64%、認めない方がよいが24.9%であった。(甲A743)
[31] 読売新聞が行った全国世論調査(回答者1044名)では、同性婚を法的に認めることにつき、賛成66%、反対24%であった。(甲A746)
[32] 毎日新聞が18歳以上の者に対して行った世論調査では、同性婚を法的に認めることに賛成54%、反対26%であった。(甲A745)
[33] 産経新聞社とFNN(フジニュースネットワーク)が行った世論調査では、同性婚を法律で認めることにつき、賛成71%、反対19.6%であり、18~29歳の91.4%が賛成であったが、年代が上がるごとに賛成の割合が下がり、70歳以上は47.0%であった。(甲A747、1061)
[34] 朝日新聞が行った全国世論調査では、同性婚を法律で認めるべきであるが72%、認めるべきではないが18%であった。(甲A748)
[35] 日本経済新聞社が行った世論調査では、同性婚を法的に認めることにつき賛成が65%、反対が24%であり、賛成の割合は年齢が若いほど高い傾向があり、18~39歳は83%、40~50歳代は75%、60歳以上は50%であった。(甲A749)
[36] 時事通信が、全国の18歳以上の者に対し行った世論調査(2000人のうち有効回収率59.9%)では、同性婚を法的に認めることにつき賛成が56.7%、反対が18.3%であった。(甲A750)
[37] 共同通信社が行った世論調査では、同性婚は認める方がよいが71%、認めない方がよいが26%であった。(甲A752)
[38] NHKが、全国の18歳以上の者に対し行った世論調査(1544人が回答)では、同性婚が法的に認められるべきだと思うが44%、法的に認められるべきではないと思うが15%であり、18~29歳が賛成68%、反対8%、30代が賛成58%、反対11%、40代が賛成62%、反対8%、50代が賛成50%、反対11%、60代が賛成44%、反対15%、70歳以上が賛成29%、反対23%であった。(甲A753)
[39] JNNが行った世論調査では、同性婚を法的に認めることについて、賛成が63%、反対が24%であり、18歳以上30歳未満の男性で賛成が75%、反対が20%、同女性で賛成が91%、反対が4%、60歳以上の男性で賛成が39%、反対が44%、同女性で賛成が49%、反対が29%であった。(甲A751)
[40] 法政大学グローバル教養学部の平森大規助教、国立社会保障・人口問題研究所の釜野さおり室長らの研究チームが18~69歳の1万8000人に対して行った全国無作為抽出調査「家族と性と多様性にかんする全国アンケート」では、同性同士が法的に結婚できる制度について賛成が53.4%、やや賛成が28.8%、やや反対が9.5%、反対が6.1%であった。(甲A1062の1・2)
(ケ) 令和6年
[41] 共同通信社が、全国の18歳以上の男女に対して行った世論調査(有効回答者1966名)では、同性婚を認める方がよいが73%、認めない方がよいが25%であった。(甲A1239の1・2)」
[42](17) 原判決21頁8行目の「毎年」から9行目の「90%」までを「7回にわたる調査の全てで80%」と、16行目の「者に対する」を「者の」と、23行目冒頭から24行目の「ついて、」までを「のうち」と改める。

[43](18) 原判決22頁2行目末尾を改行して、次のとおり加える。
(オ) 令和3年度内閣府委託調査である令和3年度人生100年時代における結婚・仕事・収入に関する調査によれば、子供がいない独身者の理想の子供数は0人(女性20代で24%、女性30代で43%、男性20代で31%、男性30代で38%)と2人(女性20代で40%、女性30代で24%、男性20代で32%、男性30代で27%)に分かれる傾向があった。また、「結婚相手に求めること」は、「一緒にいて落ち着ける・楽しい」、「近い価値観」が高く、「結婚した理由・したい理由」は、「好きな人と一緒に生活したいから」が高かった。(甲A907)」
[44](19) 原判決22頁4行目冒頭に「(ア) 」を加え、6行目「(ア)」を「」と、10行目「(イ)」を「」と改め、13行日から14行目までを次のとおり改める。
「 また、児童のいる世帯数及び全世帯に占める割合は、昭和61年の1736万4000世帯、46.2%から、令和元年の1122万1000世帯、21.7%にまで減少した。(甲A307・7頁)」
[45](20) 原判決22頁15行目末尾を改行し、次のとおり加える。
[46](イ) 内閣府男女共同参画局が作成した令和4年2月7日付け「結婚と家族をめぐる基礎データ」によれば、以下の事実が認められる。(甲A908)
[47] 昭和60年(1985年)と令和2年(2020年)を比べると、男女ともに未婚と離別の割合が増加しており、50歳時点の未婚率は、男性3.7%から25.9%へ、女性は4.3%から16.4%へそれぞれ増加した。
[48] 合計特殊出生率は、近年1.4程度で推移しているが、年間の出生数は、平成28年に100万人を割り込み、令和2年には84万人となった。
[49](ウ) 内閣府男女共同参画局の令和4年版男女共同参画白書によれば、コロナ下の令和2年以降は、婚姻件数は、同年52.6万件、令和3年51.4万件と戦後最も少なくなり、令和2年時点で、30歳時点の未婚割合は、女性40.5%、男性50.4%、50歳時点で配偶者のいない人の割合は男女ともに約3割であった。
[50] そして、同白書は、人生100年時代における男女共同参画の課題として、人生100年時代を迎え、我が国の家族と人々の人生の姿は多様化し、昭和の時代から一変しており、今後、男女共同参画を進めるに当たっては、このことを念頭において、誰一人取り残されない社会の実現を目指すとともに、幅広い分野で制度・政策を点検し、見直していく必要があるとしている。(甲A909)」
[51](21) 原判決23頁2行目の「する」を「すべきである」と改め、3行目末尾を改行して次のとおり加える。
「 また、国際連合人権理事会は、我が国の人権状況につき審査を行い、令和5年2月3日、同性婚を法制化することを求める勧告を含む報告書を採択した。(甲A759)」
[52](22) 原判決23頁10行目の「賛同している」の後に
「。令和6年7月23日時点で、上記意見書又はLGBTQ支援・当事者団体が同性婚の実現に賛同する企業を可視化するキャンペーン『Business for Marriage Equality』に賛同する企業・団体の数は、527である。また、公益社団法人経済同友会は、令和5年6月22日、あらゆるビジネスにおいて、多様な人材が、性的指向などによる不利益を被ることなく、活躍できる組織文化づくりが肝要であり、婚姻状況や相手の性別にかかわらず、全てのパートナーに公正な機会と福利厚生を提供し、あらゆる人が利用しやすい施設や制度への改善が急務であるとする「ビジネスリーダーによる多様性ある、公正で、包摂的な社会の実現への協働宣言」を発表し、企業の取締役社長等568名がこれに賛同している。そして。同性パートナーがいる従業員向けの休暇・休職制度、支給金の交付、赴任手当の支給、その他の福利厚生(社宅、家族割の利用等)、会社独自の遺族年金等の支給、同性パートナーの子を従業員の子として扱うなどの施策を実施する企業も増加している。」
を、同行目の「614」の後に「、714、715、1046、1233」を、14行目の「」。」の後に
「また、日本弁護士連合会は、令和4年11月9日、日本政府に対する要請等も含めて、国際人権(自由権)規約委員会の総括所見で示された同性婚を含む勧告等実現のために全力で努力していく旨の会長声明を発出した。」
を加え、15行目の「15」を「13」と、16行目の「発出されている」を「発出されていたところ、その後、令和6年7月17日までに、新たに1弁護士連合会、12弁護士会から、同様の会長声明等が発出されるなどした」と改め、17行目の「541、」の後に「620」を、18行日の「622」の後に「、717、718、721~739、1048~1058、1236~1238」を加える。
ア 本件諸規定が憲法13条に違反するかについて
[53] 婚姻の本質は、両当事者が、互いに相手を伴侶とし、相互に尊属・卑属の関係のない対等な立場で、生涯にわたって共同生活をするために結合し、新たな家族を創設することにあり、婚姻は、人にとって重要かつ根源的な営みである。したがって、両当事者において、婚姻し、これを維持することを希望する場合には、その希望は最大限に尊重されなければならない。
[54] そして、婚姻をするかどうか、誰を婚姻の相手として選ぶかについては、完全に両当事者の自由かう平等な意思決定に委ねられるべきものであり、このような意味での婚姻についての個人の尊厳が保障されていることは、今日では一般的に承認されている(最高裁平成27年12月16日大法廷判決・民集69巻8号2427号)。すなわち、婚姻については、憲法13条及び14条1項の趣旨が妥当し、これを前提に憲法24条1項は「婚姻は、両性の合意のみに基いて成立し、夫婦が同等の権利を有することを基本として、相互の協力により、維持されなければならない。」と具体的に定めているものと解される。このことを別の側面からいえば、両当事者は、他の者から一切干渉を受けることなく、婚姻することができるということであり、このような意味での婚姻の自由は、憲法24条1項だけではなく、憲法13条によっても保障されていると解される。
[55] しかし、婚姻の成立及び維持のためには、他者からの介入を受けない自由が認められるだけでは足りず、婚姻が社会から法的な地位を認められ、婚姻に対し法的な保護が与えられることが不可欠である。市民的及び政治的権利に関する国際規約23条1項は「家族は、社会の自然かつ基礎的な単位であり、社会及び国による保護を受ける権利を有する。」と定めているが、この条項もこのような考え方に立つものと解される。したがって、婚姻について、法制度を設け保護を与えることも憲法13条の要請するところと解され、その趣旨をより詳細に示すのが憲法24条2項であるといえる。そうすると、憲法13条は、婚姻をするかどうかについての個人の自由を保障するだけにとどまらず、婚姻の成立及び維持について法制度による保護を受ける権利をも認めていると解するべきであり、このような権利は同条が定める幸福追求権の内実の一つであるといえる。そして、上記のとおり、婚姻が人にとって重要かつ根源的な営みであり、尊重されるべきものであることに鑑みると、幸福追求権としての婚姻について法的な保護を受ける権利は、個人の人格的な生存に欠かすことのできない権利であり、裁判上の救済を受けることができる具体的な権利であるというべきである。現行の法制上、男女間の婚姻すなわち異性婚については、憲法24条2項に基づいて民法を始めとする関連法令において法制度が整えられていることから、婚姻について法的な保護を受ける権利が憲法上の権利であると明確に認識されることはほとんどないが、これは、全ての者が婚姻について法制度による保護を受けることがあまりにも当然のことであることの裏返しともいえる。
[56] そして、性的指向は、出生前又は人生の初期に決定されるものであって、個々人が選択できるものではなく、自己の意思や精神医学的な方法によって変更されることはないところ、互いに相手を伴侶とし、対等な立場で終生的に共同生活をするために結合し、新たな家族を創設したいという幸福追求の願望は、両当事者が男女である場合と同性である場合とで何ら変わりがないから、幸福追求権としての婚姻の成立及び維持について法的な保護を受ける権利は、男女のカップル、同性のカップルのいずれも等しく有しているものと解される。にもかかわらず、両当事者が同性である場合の婚姻について法制度を設けず、法的な保護を与えないことは、異性を婚姻の対象と認識せず、同性の者を伴侶として選択する者が幸福を追求する途を閉ざしてしまうことにほかならず、配偶者の相続権(民法890条)などの重要な法律上の効果も与えられないのであって、その制約の程度は重大である。他方、後記イにおいて説示するとおり、本件諸規定による制約の必要性や合理性は見出し難い。なお、同性婚を認める場合、実親子や養親子関係の成立等につき、現行と異なる法制度を要するとの見解もあるが、法律上の親子関係の成否や戸籍への記載方法等の問題は、法令の解釈、立法措置等により解決を図ることが可能なものであり、上記制約の必要性や合理性を基礎付けるものではない。したがって、本件諸規定のうち、異性婚のみを婚姻制度の対象とし、同性のカップルを婚姻制度の対象外としている部分は、異性を婚姻の対象とすることができず、同性の者を伴侶として選択する者の幸福追求権、すなわち婚姻の成立及び維持について法制度による保護を受ける権利に対する侵害であり、憲法13条に違反するものといわざるを得ない。
[57] なお、憲法24条2項は、婚姻及び家族に関する事項について、具体的な制度の構築を第一次的には国会の合理的な立法裁量に委ねるとともに、その立法に当たっては、個人の尊厳と両性の本質的平等に立脚すべきであるとする要請、指針を示すことによって、その裁量の限界を画したものといえるところ(前掲最高裁平成27年12月16日大法廷判決)、本件諸規定は、法制度の内容に係るものではなく、同性のカップルについてそもそも婚姻制度を設けないものであり、上記立法裁量により許される性質のものではないといえる。

[58] なお、憲法13条は、幸福追求権が公共の福祉により制約され得る旨を定めているので、同性のカップルを法的な婚姻制度の対象とすることが公共の福祉に反するものであるか、念のため検討する。
[59] 公共の福祉とは、人権相互の矛盾・衝突を調整するための実質的公平の原理であると解される。しかし、同性のカップルによる婚姻が法的に認められることで、既存の異性婚カップルの権利や法的地位に何らかの侵害・制約が生じたり、異性のカップルの婚姻が妨げられたりするような事態はおよそ想定できないから、人権相互の調整という問題は生じないというべきである。
[60] もっとも、歴史的にみれば、我が国だけではなく、全世界的にみても、有史以来、婚姻は異性間でのみ認められてきたことは事実である。このことは、憲法24条1項では「婚姻は、両性の合意のみに基づいて成立し」とされ、市民的及び政治的権利に関する国際規約23条2項でも「男女が婚姻をし」とされているところにも表れている。異性を婚姻の対象と認識しない者は、有史以前から存在していたはずであり、にもかかわらず近年に至るまで、世界的にみても、同性のカップルによる婚姻は、一般的な制度としては認められていなかったものである。このような歴史的事実を根拠として、同性のカップルによる婚姻が公共の福祉に反し許されないとするような議論が、あるいはあり得るかもしれない。
[61] そこで、同性のカップルによる婚姻が制度として認められてこなかった理由を考察してみると、最大の理由は、同性を婚姻の対象として選択する者が圧倒的に少数であったことにあると思われるが、その他の主な理由としては、かつては社会が血縁的な共同体を基に成り立っており、共同体の維持・存続のため、婚姻することと子を産み育てることとが直結していたことから、婚姻は異性間でされるのが当然であるとされてきたこと、同性愛や同性間での婚姻を禁忌とする宗教が支配的であったこと、あるいは同性愛が疾患ないし障害であると認識されてきたことを挙げることができる。
[62] しかし、少数者の権利を尊重し保護すべきことは、憲法が強く要請するところである。また、婚姻は両当事者の自由な意思に完全に委ねられており、血縁集団の維持・存続といった目的からの介入は一切許されないことは、憲法24条から明らかである。同様に、婚姻ないし婚姻制度について宗教的な立場からの介入が許されないことも、同項から導かれるところであるほか、憲法20条の要請するところでもあると解される。そして、同性愛が疾患ないし障害であるとの考え方は、既に過去のものとして排斥されている。そうすると、同性のカップルによる婚姻を制度として認めない根拠となってきた様々な要因は、現在の我が国においては、憲法に反するものとして、あるいは不合理なものとして、ことごとく退けられているといえる。したがって、同性のカップルによる婚姻を法制度として認めない理由はもはや存在せず、むしろ同性婚について法制度を設けていないことの違憲性がクローズアップされているのが現状であるといえる。確かに、現在の我が国においても、同性のカップルによる婚姻を法制度として認めることに対して否定的ないし消極的な意見は少なくないが、これらは新たな法制度の登場に対する不安や違和感によるものとみられるところ、このような不安等は、同性のカップルによる婚姻について法制度が整えられ、法的な地位が明確にされることで払拭されると考えられる。
[63] 以上のとおりであるから、同性のカップルを法的な婚姻制度の対象とすることは、およそ公共の福祉に反するものではない。

ウ 本件諸規定が憲法14条1項に違反するかについて
[64] 上記のとおり、本件諸規定が同性のカップルを婚姻制度の対象外としていることは、異性を婚姻の対象と認識せず、同性の者を伴侶として選択する者の幸福追求権に対する侵害であり、憲法13条に違反するものである。このことを法の下の平等の観点からみると、本件諸規定は、男女のカップルのみを法的な婚姻制度の対象に限定し、同性のカップルについては法的な婚姻制度の利用を認めないものであり、男女のカップルによる婚姻には法的な地位や保護を与えるのに対し、同性のカップルについては、婚姻しこれに伴う法的な地位や保護を得ることを一切認めていないのであるから、本件諸規定のうち、同性のカップルを婚姻制度の対象外とする部分は、合理的な根拠なく、同性のカップルを差別的に取扱うものであって、法の下の平等を定めた憲法14条1項に違反するものである。付言すると、同項後段は「人種、信条、性別、社会的身分又は門地」による差別を禁止しているが、ここにいう「性別」の語は「男女の別」という意味で用いられるのが通常であり、「性的指向の別」の意味を読み込むのは必ずしも容易ではないから、同項が性的指向の別による差別を文言上明示的に禁止しているとまではいえないとしても、同項後段は、同項前段の平等原則を例示的に説明したものであり、不合理な差別的取扱いは同項前段の平等原則によって全て禁止されると解されるところ、憲法13条に違反する差別的取扱いが不合理なものであることは自明であるから、これが憲法14条1項にも違反することは明らかである。
[65] なお、近時、多くの地方自治体によりパートナーシップ制度が導入され、一定程度、同性のカップルが公的に認知されるに至っているが、既に述べたとおり、幸福追求権としての婚姻の成立及び維持について法制度による保護を受ける権利は、男女のカップル、同性のカップルのいずれも等しく有していると解されるから、同性のカップルについて法的な婚姻制度の利用を認めないことによる不平等は、パートナーシップ制度の拡充又はヨーロッパ諸国にみられる登録パートナーシップ制度の導入によって解消されるものではなく(現に、3組のカップルである控訴人らは、いずれもパートナーシップ制度を利用しているが、男女のカップルと異なり、配偶者控除、在留資格などの重要な法律効果を享受できていないほか、契約締結などにおいて事実上の不利益を被ったり、将来に種々の不安を抱えたりしている上、家族として認められないことに甚だしい苦痛を感じている。(控訴人ら本人))、同性のカップルに対し、端的に、異性婚と同じ法的な婚姻制度の利用を認めるのでなければ、憲法14条1項違反の状態は解消されるものではない。

エ 本件諸規定が憲法24条に違反するかについて
[66] 上記のとおり、婚姻を含む家族生活については、憲法13条及び14条1項の趣旨が妥当し、これを前提に憲法24条は家族生活における個人の尊厳及び両性の平等を定めているものと解される。
[67] ところで、同条は、「両性」、「夫婦」の文言を使用しており、一見すると異性婚のみを制度として認めているかのようでもあるが、同条の主眼は、旧法下において、家制度の下、戸主が家族の婚姻に対する同意権を始めとする戸主権を有していたことや、妻の地位が夫に劣後するものとされていたことを一掃することにあり、制定の経緯からみて、同条が殊更に同性婚を禁止する趣旨で「両性」、「夫婦」の文言を採用したものであったとは認められない。したがって、同条は、同性婚を禁止するものではないというべきである。
[68] そして、憲法24条の主眼は上記のとおりであるから、同性婚を認めないことが直ちに同条1項に違反するとまでは解し難いものの、同条が婚姻について定めている内容は、上記の憲法13条及び14条1項から導かれる結論と軌を一にしているものと解されるところであり、上記のとおり、本件諸規定のうち、同性のカップルを婚姻制度の対象外とする部分は、個人の尊重を定めた憲法13条に違反するものであるから、婚姻に関する法律は個人の尊厳に立脚して制定されるべき旨を定める憲法24条2項に違反することは明らかである。
[69] 上記(1)のとおり、幸福追求権としての婚姻の成立及び維持について法制度による保護を受ける権利は、憲法13条によって保障され、裁判上の救済を受けることができる具体的な権利であり、同性のカップルについて婚姻を認めていない本件諸規定は、同権利を侵害し、憲法13条、14条1項及び24条2項に違反するものであるから、本件立法不作為すなわち本件諸規定を改廃等しないことは、国家賠償法上の責任を生じさせ得るものである。
[70] しかし、本件諸規定を巡る下級審裁判所の判決をみると、札幌地方裁判所が、令和3年3月17日、憲法14条1項に違反する旨を(甲A215)、大阪地方裁判所が、令和4年6月20日、憲法に違反するものではない旨を(甲A542)、東京地方裁判所が、同年11月30日、憲法24条2項に違反する状態にあるものの、同項に違反するとはいえない旨を(甲A690)、名古屋地方裁判所が、令和5年5月30日、同項及び憲法14条に違反する旨を(甲A691)、本件の原審が同年6月8日に、東京地方裁判所が令和6年3月14日、それぞれ同裁判所の上記の判示と同旨を(甲A940)、札幌高等裁判所が、同日、憲法24条及び14条1項に違反する旨を(甲A939)それぞれ判示しており、その判断内容は区々であり、最高裁判所による統一的判断は未だ示されていない。この事情を踏まえると、本件立法不作為につき、国会議員に故意又は過失があると認めるのは困難である。したがって、本件立法不作為が国家賠償法1条1項の各要件を充足するとはいえない。
[71] よって、控訴人らの請求はいずれも理由がなく、これらを棄却した原判決は相当であり、本件各控訴はいずれも理由がないからいずれも棄却することとして、主文のとおり判決する。

  裁判長裁判官 岡田健  裁判官 岸本寬成  裁判官 武智舞子

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