要指導医薬品対面販売事件
上告審判決

要指導医薬品指定差止請求事件
最高裁判所 令和元年(行ツ)第179号
令和3年3月18日 第一小法廷 判決

上告人 (控訴人  原告) Rakuten Direct株式会社
        訴訟承継人 楽天株式会社
          代理人 岩橋健定
被上告人(被控訴人 被告) 国
          代理人 佐藤拓夢

■ 主 文
■ 理 由


 本件上告を棄却する。
 上告費用は上告人の負担とする。

[1] 医薬品,医療機器等の品質,有効性及び安全性の確保等に関する法律(平成25年法律第84号による改正前の題名は薬事法。以下「法」という。)36条の6第1項及び3項(以下,これらの規定を併せて「本件各規定」という。)は,薬局開設者又は店舗販売業者(以下「店舗販売業者等」という。)において,要指導医薬品(法4条5項3号)の販売又は授与をする場合には,薬剤師に対面による情報の提供及び薬学的知見に基づく指導を行わせなければならず,これができないときは要指導医薬品の販売又は授与をしてはならない旨を定めている。
[2] 本件は,店舗以外の場所にいる者に対する郵便その他の方法による医薬品の販売をインターネットを通じて行う事業者であったRakuten Direct株式会社が,本件各規定は憲法22条1項に違反するなどと主張して,被上告人を相手に,要指導医薬品として指定された製剤の一部につき,上記方法による医薬品の販売をすることができる権利ないし地位を有することの確認等を求める事案である。上告人は,原判決言渡し後,上記会社を吸収合併し,その権利義務を承継した。
[3](1) 医薬品(専ら動物のために使用されることが目的とされているものを除く。以下同じ。)は,薬局医薬品(4条5項2号),要指導医薬品(同項3号)及び一般用医薬品(同項4号)に大別され,薬局医薬品は,要指導医薬品及び一般用医薬品以外の医薬品であるとされている。なお,薬局医薬品には,いわゆる医療用医薬品(医師若しくは歯科医師によって使用され又はこれらの者の処方箋若しくは指示によって使用されることを目的として供給されるもの。以下同じ。)が含まれる。
[4] 要指導医薬品及び一般用医薬品(以下「一般用医薬品等」という。)は,いずれも、その効能及び効果において人体に対する作用が著しくないものであって,薬剤師その他の医薬関係者から提供された情報に基づく需要者の選択により使用されることが目的とされているものをいうとされている。一般用医薬品等のうち要指導医薬品は,4条5項3号イからニまでに掲げる医薬品で,その適正な使用のために薬剤師の対面による情報の提供及び薬学的知見に基づく指導が行われることが必要なものとして,厚生労働大臣が薬事・食品衛生審議会の意見を聴いて指定するものとされ,一般用医薬品は,一般用医薬品等から要指導医薬品を除いたものとされている。
[5] 4条5項3号イからニまでは,その製造販売の承認の申請に際して既に製造販売の承認を与えられている医薬品と有効成分,分量,用法,用量,効能,効果等が明らかに異なるとされた医薬品であって,当該申請に係る承認を受けてから厚生労働省令で定める期間を経過しないもの(同号イ)及びその製造販売の承認の申請に際して同号イの医薬品と有効成分,分量,用法,用量,効能,効果等が同一性を有すると認められた医薬品であって,当該申請に係る承認を受けてから厚生労働省令で定める期間を経過しないもの(同号ロ)のほか,毒薬(同号ハ)及び劇薬(同号ニ)を掲げる。

[6](2) 店舗販売業者等は,要指導医薬品につき,薬剤師に販売させ,又は授与させなければならないとされている(36条の5第1項)。
[7] また,店舗販売業者等は,
① 要指導医薬品の適正な使用のため,要指導医薬品を販売し,又は授与する場合には,薬剤師に,対面により,所定の事項を記載した書面を用いて必要な情報を提供させ,及び必要な薬学的知見に基づく指導を行わせなければならず(36条の6第1項),
② 上記の情報の提供及び指導を行わせるに当たっては,当該薬剤師に,あらかじめ,要指導医薬品を使用しようとする者の年齢,他の薬剤又は医薬品の使用の状況等を確認させなければならず(同条2項),
③ 上記の情報の提供又は指導ができないとき,その他要指導医薬品の適正な使用を確保することができないと認められるときは,要指導医薬品を販売し,又は授与してはならない(同条3項)
などとされている。
[8] これに対し,店舗販売業者等が,一般用医薬品を販売し,又は授与する場合には,一般用医薬品中の区分に応じ,薬剤師に必要な情報を提供させなければならないときがある(36条の10)ものの,情報を提供するに当たり,対面によりしなければならないとはされていない。

[9] 原審の適法に確定した事実関係等の概要は,次のとおりである。

[10](1) Rakuten Direct株式会社は,一般用医薬品等を店舗において販売し,又は授与する業務について法26条1項による許可を受けた店舗販売業者であって,薬事法に本件各規定を加えること等を定める薬事法及び薬剤師法の一部を改正する法律(平成25年法律第103号)1条が施行された平成26年6月12日より前からインターネットを通じて医薬品の販売をしていた事業者であった。

[11](2) 一般用医薬品等には,医療用医薬品として製造販売の承認を受けている医薬品につき,新たに薬剤師その他の医薬関係者から提供された情報に基づく需要者の選択により使用されることが目的とされているものとして製造販売の承認を受けた医薬品であるいわゆるスイッチOTCと,医療用医薬品として使用することを前提としても製造販売の承認を受けていない医薬品につき,新たに薬剤師その他の医薬関係者から提供された情報に基づく需要者の選択により使用されることが目的とされているものとして製造販売の承認を受けた医薬品であるいわゆるダイレクトOTCが含まれる。
[12] スイッチOTCについては,原則として,その製造販売の承認の際,法79条1項に基づき,承認の条件として当該承認を受けた者に対し製造販売後の安全性に関する調査(以下「製造販売後調査」という。)を実施する義務を課す取扱いがされており,その期間は原則として3年間である。
[13] ダイレクトOTCについては,原則として,法14条の4第1項1号に規定する新医薬品として再審査の対象とする取扱いがされており,その再審査のための調査期間として指定される期間は,既に製造販売の承認を与えられている医薬品との相違の程度に応じ,通常4~8年間である。
[14] 製造販売後調査を実施する義務を課されたスイッチOTCでその期間を経過しないもの及び再審査の対象とされたダイレクトOTCでそのための調査期間を経過しないものは,法4条5項3号イ,ロの厚生労働省令(医薬品,医療機器等の品質,有効性及び安全性の確保等に関する法律施行規則7条の2)で定める期間を経過しないものとして,同号イ,ロに該当することとなる。このうち要指導医薬品としての指定がされたスイッチOTCについては原則3年間,同ダイレクトOTCについては原則4~8年間で一般用医薬品として販売することの可否の評価を行い,問題がないことが確認されれば,要指導医薬品から一般用医薬品へ移行することとされている。

[15](3) 一般用医薬品に該当する医薬品の品目数は,平成28年5月30日時点で1万0374品目である。これに対し,要指導医薬品に該当する医薬品の販売開始後の品目数は,平成26年6月12日時点で劇薬である5品目を含めて20品目であり,その後,おおむね14~23品目の範囲内で推移している。そして,一般用医薬品等全体の市場規模は,平成26年度において約8944億円,同27年度において約9385億円であったところ,そのうち要指導医薬品の市場規模は,同26年度において約51億円,同27年度において約26億円であった。
[16] 所論は,要指導医薬品について薬剤師の対面による販売又は授与を義務付ける本件各規定を合憲とした原判決には,憲法22条1項の解釈の誤りがあるというものである。

[17]2(1) 憲法22条1項は,狭義における職業選択の自由のみならず,職業活動の自由も保障しているところ,職業の自由に対する規制措置は事情に応じて各種各様の形をとるため,その同項適合性を一律に論ずることはできず,その適合性は,具体的な規制措置について,規制の目的,必要性,内容,これによって制限される職業の自由の性質,内容及び制限の程度を検討し,これらを比較考量した上で慎重に決定されなければならない。この場合,上記のような検討と考量をするのは,第一次的には立法府の権限と責務であり,裁判所としては,規制の目的が公共の福祉に合致するものと認められる以上,そのための規制措置の具体的内容及び必要性と合理性については,立法府の判断がその合理的裁量の範囲にとどまる限り,立法政策上の問題としてこれを尊重すべきものであるところ,その合理的裁量の範囲については事の性質上おのずから広狭があり得る(最高裁昭和43年(行ツ)第120号同50年4月30日大法廷判決・民集29巻4号572頁参照)。

[18](2)ア 法は,医薬品等の品質,有効性及び安全性の確保並びにその使用による保健衛生上の危害の発生及び拡大の防止のために必要な規制を行うこと等により,保健衛生の向上を図ることを目的とする(1条)。医薬品は,治療上の効能,効果と共に何らかの有害な副作用が生ずる危険性を有するところ,そのうち要指導医薬品は,製造販売後調査の期間又は再審査のための調査期間を経過しておらず,需要者の選択により使用されることが目的とされている医薬品としての安全性の評価が確定していない医薬品である。そのような要指導医薬品について,適正な使用のため,薬剤師が対面により販売又は授与をしなければならないとする本件各規定は,その不適正な使用による国民の生命,健康に対する侵害を防止し,もって保健衛生上の危害の発生及び拡大の防止を図ることを目的とするものであり,このような目的が公共の福祉に合致することは明らかである。
[19] そして,要指導医薬品は,医師又は歯科医師によって選択されるものではなく,需要者の選択により使用されることが目的とされているものであり,上記のとおり,このような医薬品としての安全性の評価が確定していないものであるところ,上記の本件各規定の目的を達成するため,その販売又は授与をする際に,薬剤師が,あらかじめ,要指導医薬品を使用しようとする者の年齢,他の薬剤又は医薬品の使用の状況等を確認しなければならないこととして使用者に関する最大限の情報を収集した上で,適切な指導を行うとともに指導内容の理解を確実に確認する必要があるとすることには,相応の合理性があるというべきである。
[20] また,本件各規定は,対面による情報提供及び指導においては,直接のやり取りや会話の中で,その反応,雰囲気,状況等を踏まえた柔軟な対応をすることにより,説明し又は強調すべき点について,理解を確実に確認することが可能となる一方で,電話やメールなど対面以外の方法による情報提供及び指導においては,音声や文面等によるやり取りにならざるを得ないなど,理解を確実に確認する点において直接の対面に劣るという評価を前提とするものと解されるところ,当該評価が不合理であるということはできない。
[21] 一般用医薬品等のうち薬剤師の対面による販売又は授与が義務付けられているのは,法4条5項3号所定の要指導医薬品のみであるところ,その市場規模は,要指導医薬品と一般用医薬品を合わせたもののうち,1%に満たない僅かな程度にとどまっており,毒薬及び劇薬以外のものは,一定の期間内に一般用医薬品として販売することの可否の評価を行い,問題がなければ一般用医薬品に移行することとされているのであって,本件各規定による規制の期間も限定されている。
[22] このような要指導医薬品の市場規模やその規制の期間に照らすと,要指導医薬品について薬剤師の対面による販売又は授与を義務付ける本件各規定は,職業選択の自由そのものに制限を加えるものであるとはいえず,職業活動の内容及び態様に対する規制にとどまるものであることはもとより,その制限の程度が大きいということもできない。
[23] 以上検討した本件各規定による規制の目的,必要性,内容,これによって制限される職業の自由の性質,内容及び制限の程度に照らすと,本件各規定による規制に必要性と合理性があるとした判断が,立法府の合理的裁量の範囲を超えるものであるということはできない。

[24](3) したがって,本件各規定が憲法22条1項に違反するものということはできない。
[25] 以上は,当裁判所大法廷判決(最高裁昭和45年(あ)第23号同47年11月22日判決・刑集26巻9号586頁)の趣旨に徴して明らかというべきである。論旨は採用することができない。
[26] 論旨は,違憲をいうが,その前提を欠くものであって,民訴法312条1項及び2項に規定する事由のいずれにも該当しない。

[27] よって,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 小池裕  裁判官 池上政幸  裁判官 木澤克之  裁判官 山口厚  裁判官 深山卓也)

■第一審判決 ■控訴審判決 ■上告審判決   ■判決一覧