2004/3/10 ■■■■ 京都部落問題研究資料センターメールマガジン vol.047 ■■■■

□本の紹介□
　　　西研・藤野美奈子『不美人論』（径書房、2004.3、1500円＋税）

　人権業界には、「正解注入主義」が根深く存在する。「人間は平等である」という命題から演繹される「正解」で人びとを洗脳しようというわけだ。もちろん、私はこの「正解注入」の効用をすべて否定しようというわけではない。しかし、「正解｣が人びとの心を揺り動かす、あるいは納得させて物の考え方・感じ方が変化するような要素がなければ、かえって逆効果の場合もある。　女性にとって生きづらいことが、現在の社会にはさまざまにある。それを変えようとして、多くの人がいろいろな努力を積み重ねてきた。当然のことであり、また賞賛すべきことだろう。しかし、ミスコン（美人コンテスト）を批判するときに一部のフェミニストが唱えた「女はみんな美しい！」というスローガンは、ジョークとしては良くできているが、正解として飲み込むには余りに大きすぎて口に入らない種類のものであった。マクドナルドのダブルバーガーを二段重ねに飲み込むほどの難行である。さらに問題なのは「女はみんな美しい！」というスローガンの裏側には、「女の美醜を論じるのは女性差別である」という結論がくっついてきていることである。確かに私自身「女の美醜を論じるのは、時と場所によりけりだし、程度ものである」とは思う。しかし、それと「女はみんな美しい！」のあいだには千里の隔たりがある。
　そうした「正解に」真っ向から異議を唱え、「世間は美人に有利。ブスに不利」で力強く始まる本書は、「生きる力を与える哲学」で定評のある西研氏、容姿には辛い思いをしてきた有名漫画家の藤野美奈子氏、ブスには自信があるという女性編集者の３人で繰り広げられる渾身のブス談義である。私は、かくも大胆に、露骨に、容赦なく「ブス」が語られた例を知らない。そして、「ブス」という社会現象がどのように存在するのかを強烈に教えられた。読んでいるあいだに、「ブス差別」のあまりの理不尽さに人知れず涙をぬぐうと同時に、また、そのあまりの滑稽さに笑い泣きしてしまうことがたびたびであった。　今まで自分の容姿にコンプレックスをいだいて、生きていくのが苦しかった人は、この本を読んで、そのブス地獄から脱出する一縷の光明を見いだすかもしれない。また、他の人は、「それでもやっぱり美人が好きだ」という井上章一氏の名言の正しさを再確認すると同時に、その陰で泣く人のあまりの多さと悲惨さに愕然とするかもしれない。
　また、本書の指摘で重要だと思うのは、結婚の多くがお見合いでされている時代は容姿で人生が決定づけられている人は少数であっただろうに、現在は、非常に広い範囲の人が美醜で評価されるゲームに放り込まれているのではないかということである。男女雇用機会均等法で女性の社会進出が進む裏面で、このような皮肉な現象が起こっていることの意味は重い。
　本書を読んで、「正解」を振りまわしたり「正解」にすがりついたりするのではなく、被差別者自身が自分のことを冷静に、客観的に見るということがいかに重要なことかということを痛感する。この一歩が踏み出せれば、背中の重荷の半分は下ろすことができるのではないだろうか。自分を理想化したり合理化するのではなく、勇気をもって自己を見つめるという方法は、在日朝鮮人問題、部落問題、障害者問題など、およそ差別に関連した領域で、被差別者の主体性をとりもどす鍵を提供するものと思う。こういう問題に関心のある人は、ぜひ一読をお勧めする。ただし、あまりの強烈さに気分が悪くなる人もいるかもしれない。そこは、自己責任でのご利用を。
　なお蛇足ながら、２年前に発売された美人の大学教員＝陶智子氏の書かれた『不美人論』と読み比べてみるのも一興か。こちらは、「個性的でインパクトのある不美人のススメ」「美人というナンバーワンをめざすことではなく、不美人というオンリーワンになること」というりっぱな「正解」である。（灘本昌久）

※　藤野美奈子・西研『不美人論』（径書房）
　　　<http://www.komichi.co.jp/bd/4-7705-0185-4.html>
※　陶智子『不美人論』（平凡社）
　　　<http://www.mainichi.co.jp/life/dokusho/2002/0630/07.html>
※　灘本昌久「人権・差別問題を考える道筋―サヨウ心得よからの転換」
　　　<http://www.kyoto-su.ac.jp/~nadamoto/work/20010430.htm>

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