2003/7/22 ■■■■ 京都部落問題研究資料センター
メールマガジン vol.032 ■■■■
□本の紹介□
小内透『再生産論を読む―バーンスティン、ブルデュー、
ボールズ=ギンティス、ウィリスの再生産論―』
(東信堂、1995年、3,200円)
「再生産理論」という言葉は、通常、経済学で生産と消費が循環していくプ
ロセスを分析する場合に使うが、もうひとつ、社会学・教育学では、社会階層
が固定化され、豊かな家庭が豊かに、貧しい家庭が貧しく繰り返されていく状
況が近代になっても続いていることを論じる理論でも使う。
部落問題の理論では、部落の貧困は部落差別によって再生産されるという説
明をしがちであるが、実際には、部落民に対する直接的な差別(たとえば就職
差別)が部落の貧困を再生産するという部分は小さく、他の様々な要因が単独
であるいは複合して作用した結果であることが多い。目に見える露骨な差別事
象が減ってきている現在では、部落のかかえる様々な低位性を直接的な部落差
別に求める論者はさすがに減ってきているが、この「再生産論」は、まだまだ
理論的には未開拓な領域である。
そして、日本固有、あるいは部落問題固有の再生産構造を研究していくこと
は重要であるが、そもそも近代社会が、不平等を強く再生産する傾向があるこ
とはさまざまに指摘されており、それらの先行研究をふまえることは重要であ
る。
本書は、社会学・教育学の領域で今までに論じられてきた、不平等の再生産
を説明する理論の代表的なものをコンパクトに紹介している。
一言でいえば、バーンスティンは労働者階級と中産階級の教育上の成功の度
合いの違いを言葉づかいの問題から、ブルデューは教育上の成功を経済的優位
性からではなく文化的優位性から、ボールズ=ギンティスは公教育が作り出す
序列的訓練・教育から、ウィリスは労働者階級が内部に形成する反学校教育文
化から、それぞれ、社会階層の不平等な再生産構造を論じている。これらは、
最近では必ずしも目新しいものではなくなったが、巻末につけられた丁寧な文
献紹介と共に使えば、これからの部落解放理論にも十分に益するところがある
と思う。(灘本昌久)
※ 小内透『再生産論を読む』
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