2002/10/02 京都部落問題研究資料センター メールマガジン vol.012

□テレビ番組レビュー□
 ETV2002「わがパレスチナ〜長老シャフィ氏が語る民主化への道〜」
              (NHK教育テレビ、9月30日午後10〜10時45分)

 パレスチナの問題といえば、強者のイスラエルが、弱者のパレスチナを迫害しているという構図がまっさきに思い浮かぶ。確かに事実に違いないのだが、最近、パレスチナの内部に抱え込まれた問題点が浮かび上がってきている。それは、何もかもアラファト議長の指示でないとものごとが動かず、また逆にアラファト氏の指示であれば、無理が通って道理が引っ込むという民主主義の欠如である。
 番組は、そうしたパレスチナのかかえる内部の困難に焦点を当てる。メインの登場人物は、元和平交渉パレスチナ代表ハイデル・アブドル・シャフィ氏(83歳)である。彼はいう。「私たちがいま苦しんでいるのは無秩序のせいです。私たち自身の失敗であり、指導者は責任を問われるべきです。指導力を発揮して、混乱をおさめるべきです。」シャフィ氏は、パレスチナには民主主義の実現ときちんとした司法制度が必要であり、このままアラファト議長が亡くなったら、権力の空白ができて、とんでもないことになると心配する。
 パレスチナ自治政府は、建前上経済の自由競争を掲げながら、実際は政府関係者、政商が経済活動を独占しており、アラファト議長の経済顧問が代表をつとめる人たちが、セメント会社や、通信、石油などを独占し、利潤がアラファト議長のもとに集まる。そして、自治政府に不満を持つ人はいるが、人びとは自治政府の秘密警察を気にして自由な発言をはばかっている。これはかなり異常な状態である。シャフィ氏は、「民族統一指導部」というものを構想し、実現にむけてハマスや様々な政治勢力に結集を呼びかけ、民主主義的政治体制の確立をめざしているが、なかなか前途は多難そうにみうけられる。
 被抑圧者自身が、抑圧者になってしまうことがあるというのは、ユダヤ人の国家イスラエルを見ても明らかであるが、またそれに抑圧されるパレスチナの人々も、純真で無垢な存在ではありえない。常に、自分たちの姿を見つめて、自浄作用が働くような思想や仕組みを持たなくては、簡単に抑圧的存在になってしまう。これは、パレスチナの問題だけでなく、たとえばイギリスの支配に抵抗する北アイルランド共和国軍(IRA)の腐敗ぶりでもあきらかであるし、部落解放運動にとっても人ごとではない。


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