2002/09/04 京都部落問題研究資料センター メールマガジン vol.010

□テレビ番組レビュー□
「麦客(まいか)〜激突する鉄と鎌」 (制作:NHK衛星ハイビジョン局)
              (NHK総合 8月22日 21:15分〜21:58分)
 
 中国の経済発展には目を見張るものがある。都市部では、携帯電話(保有数世界一)、テレビ、洗濯機などの生活用品がゆきわたり、パソコン、自動車などの贅沢品に消費が向かいつつある。
 こうした華やかな経済発展の一方で、内陸部の経済後進地がとりのこされていることの問題性は、前々から指摘されているところだが、それがどれほど激烈なものであるかを、この番組は示している。
 麦を刈る労働者を「麦客」(まいか)というらしいが、麦客には2種類ある。ひとつは、「鉄麦客」で、コンバインを使う。彼らは、改革開放政策の中で、先に豊かになった農民たちで、自分たちの麦を刈る前に河北省から河南省へ800キロほどの道のりをコンバインでひた走って小麦の刈り取りを請負い、20日間で3万元(1元=15円)ほどの臨時収入を懐にする。もうひとつの麦客が、「老麦客」(ろうまいか)である。彼らは、内陸の寧夏回族自治区から、先祖伝来の鎌一本をさげて、やはり750キロの道のりを河南省に出稼ぎに降りてくる。鉄麦客が、「いっちょう稼ぐか!」とニコニコ顔で出発し、ホクホク顔で帰ってくるのにたいして、老麦客たちはたいへんだ。出稼ぎに行く交通費を切り詰めるため、警備の人の目を盗んで、貨物列車の石炭車両に無賃乗車をはかる。着いた頃には、煤で真っ黒だが、顔を洗うこともできず、小麦を刈り始める。
 コンバインは、小さな畑では動きにくいため、そうした畑は老麦客の働き場所であったのだが、最近はそこへも鉄麦客が押し寄せてきて、老麦客の仕事を容赦なく奪う。もっとも、鉄麦客たちも、本当の肉体労働で、不眠不休の厳しい労働だ。蹴散らされていく老麦客たちの悲しい表情など、鉄麦客たちの目には入っていない。番組に登場する鉄麦客の女性(36歳)は、いかにも「やり手のオバハン」みたいな人で、畑の広さを計って刈り賃を決めるときの交渉など、男の仲買人もたじたじである。家においてきた中学生の子どもたちに、暇をみつけては携帯電話で話し掛ける。この子どもたちを、大学や大学院に生かせるのがこのお母さんの夢だ。「いくら苦労しても辛くても大丈夫。一生懸命稼いで、勉強させます。人間には、教養が身についてはじめて生まれてきた価値があるでしょ。私みたいじゃだめだから…。」鉄麦客に麦を刈ってもらう農民も、以前10日間の厳しい肉体労働でこなした作業が、コンバインをたのめば2時間で終わり、「楽になった」と満面の笑みだ。
 いっぽう、老麦客の賃金は以前は日当50元ほどあったものが、今では鉄麦客の進出で30元ほどに下がってしまっている。老麦客の1人は、この厳しい労働で仕送りをして、子どもを高校までいかせたいと思っている。老麦客たちが昼食をもらいに雇い主の家に行くと、その家は、すごくりっぱな邸宅だ。老麦客たちは、羨望のため息をつく。そして「出稼ぎに来ると、いつも差別される。貧乏だの汚いだのと言われるんだ」と取材の人にはこっそりとこぼす。今回の稼ぎで、この老麦客たちの稼ぎは、1人700元だった。
 番組のラストシーンで、額に汗して麦を刈る老麦客たちのすぐそばまで、コンバインがエンジンの唸りをあげて走ってくる。近代化が、伝統的な労働を駆逐していく無慈悲さを強烈に描いた作品だ。


 「人権関係テレビ番組情報」は、以下をご覧ください。
<http://www.asahi-net.or.jp/~qm8m-ndmt/tv/contents.htm>