2002/08/21 京都部落問題研究資料センター メールマガジン vol.009

□テレビ番組レビュー□
ドキュメント02'「片づけられない―ADHDと闘う女―」(制作:日本テレビ)
             (読売テレビ、8月18日深夜0時25分〜0時55分)
 
 ADHD(attention-deficit hyperactivity disorder)。日本語では、「注意欠陥・多動障害」という。聞きなれない言葉であるが、「基本的な特徴は、注意の障害と多動性で、気が散りやすくて1つの活動に集中できず、じっとしていなければならない状況でも動き回り、席に座っていても絶えず身体が動いたりする」(『知恵蔵』2000年度版)と聞くと、身近にそんな人があったなぁと思いあたる人があるかもしれない。ADHDは知恵遅れとはちがい、物事の理解力はあるので、なかなか本人も他人も気がつきにくい。エジソンもADHDだといわれている(だから、学校になじめず放校された)。
 ADHDは、従来子どもの障害であると認識されてきたが、最近は大人になってもその症状を引きずっている人のあることがあきらかになってきている。ADHDの大人は、整理ができず、時間が守れず、仕事の段取りがつかず、という感じで、大人としてはまったくダメ人間に見える。この番組では、金田陽子さん(44)が、大人のADHDを診断・治療できる数少ない病院である福島県立医科大学附属病院を訪ねて、少しずつ治療が進んでいく経過をたどる。自己嫌悪に陥っていた金田さんが、ADHDという病名をもらって、単なる怠け者ではなかったのだと確信でき、子どもたちと明るい生活を少しずつ取り戻す姿を見ていると、不幸の原因は解決できなくても、それと特定できるだけでも随分と役に立つものだと感じる。このADHDは、600万人もいるというのだから、自分で気づかず、あるいは孤立して苦しんでいる人がすごく多いはずだ。

※サリ・ソルデン『片づけられない女たち』
<http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/487290074X/>

※大人のADD/ADHDの会
<http://www.adhd.jp/>

※白井由佳『オロオロしなくていいんだね』(花風社)
<http://www.kafusha.com/adhd/2adhd.html>

※ADHD研究会
<http://www09.u-page.so-net.ne.jp/zg7/adhd/index.html>

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□テレビ番組レビュー□
FNSドキュメンタリー大賞ノミネート作品「役者をやろう―障害それは表現」
                     (制作:サガテレビ報道事業部)
             (読売テレビ、8月18日深夜1時45分〜2時50分)

 佐賀にある障害者と健常者による演劇集団「チャレンジステージ」を紹介した番組だ。主宰は佐賀大学附属養護学校の先生である小松原修(30)さん。メンバーは脳性麻痺の田中宏幸さん(48)、軽い知恵遅れの吉田玲美さん(25)、その他数人からなる。このチャレンジステージが、障害者のイベントにむけて練習し、公演を果たすまでを紹介する。
 障害者の番組に限らず、人権関係の番組は、「障害は個性です」とか「差別は犯罪です」みたいに明確な主張があり、つじつまがあっているのが普通である。障害者にはこんなに隠れた能力があります(乙武君の場合)というハッピーエンド型か、ハンセン病者はこんなに悲惨な生活を強いられてきました(前に紹介したハンセン病者=桜井哲夫さん)みたいな告発型か、割合旗印が鮮明である。ところが、この番組は、見終わったからといって、これに続けというような成功物語ではない。田中さんは、練習の途中で台本が変わったことに最後まで不満で、練習に来ない他のメンバーにも批判的である。しかし、吉田さんは演劇に触れるに従い、テレビを見て笑うようになるなど自己変革を遂げ、公演のできにも満足で、劇の終わったあと感激の涙を流す。小松原さんといえば、番組で見る限りは、成功とも思っていないが、失敗とも思っておらず、どこか淡々としている。
 そんなわけで、この番組のスタッフにも、どこか破れかぶれみたいなところがあり、決して「一件落着!」のような満足感は感じられない。しかし、それだけに真実味があって、ほろ苦い余韻のあるドキュメンタリーだった。五つ星の推薦番組かというとそうではないのだけれど、何か汲み取ることのできるそれなりの深みのある不思議な結末だ。

※「人権関係テレビ番組情報」は、以下をご覧ください。
<http://www.asahi-net.or.jp/~qm8m-ndmt/tv/contents.htm>